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【中編戯曲】佐田ともはる

佐田ともはる

登場人物
佐田 知治 (さだ ともはる 男)
六角 誠一 (ろっかく せいいち 男)
馬場 亜実可(ばば あみか 女)
井上 リン (いのうえ りん 女)
六角 糺  (ろっかく ただす 女)

時と場所 とある町と、とある村

1 街
暗い。
女のなまめかしい声。

女 んん……。
男 ……。
女 ……?
男 わりぃ。
女 どうしたの?

女が電灯をつけた。
男が、服を着ている。
毛布にくるまった女。
男の名を六角とする。
女の名をリンとする。

六角 わりぃ。帰るよ。
リン え? なにいってんの。ここが家でしょ?
六角 いや、村に。
リン え?
六角 もう、飽いた。
リン え? 何言ってんの?
六角 こっぱるのも、ええも~じゃねえよ。
リン こっぱる? なにそれ?
六角 あ~がとよ。ほいたよ。
リン ちょっと!

六角、さっと帰ってしまう。

リン なんなの! もう!!!

六角、立ち止まり、たばこを吸う。

2 村

六角 ま、そがいな感じよ。

もう一人、非常にだっさい格好をした少年が現れる。
名を佐田とする。
非常に興奮している佐田。股間をぎゅっと握っている。
六角、死んだ目で、佐田と話している。

佐田 こっぱる! こっぱる!

六角、煙をぷわ~~~っと佐田に吐きかける。
煙にむせる佐田。

六角 (たばこを押しつぶす)
佐田 かっこええよ。せ~ちゃ。大人よ!
六角 こげなも~、なにがええかわから~よっ!
佐田 こっぱる!
六角 ま、落ち着けよ。
佐田 どないよ! 女ちゅうのはどないよ!
六角 そがいええも~と、ちゃうかったわ。やっぱよぉ。村が一番ええよ。
佐田 か、かっこええよ~。
六角 お前、明日からかよ?
佐田 そうよ~~。にいちゃ、こっぱるよ! わい、こっぱるよ!
六角 どこに行くつもりよ。
佐田 と、とりあえずよ、女よ~。女が抱きたいよ~~。
六角 なら、し~ち(新地)よ。あっこはよ、女のレベルが高いよ。
佐田 ほうかあ~~。亜実可よりか?
六角 だあぼぉ(バカ)。あ~なぶっちゃらけ、話になら~よ。
佐田 ほ、ほうけぇ!
六角 ほうよ。金はあるかよ?
佐田 村がよ、資金いうてよ、馬1頭分くれたよ。
六角 おま~(おまえ)、それだけで行くつもりやったかよ。
佐田 い、いか~かの?
六角 がいに(とても)少な~よ。わいの余りもやるよ。
佐田 ええのかよ!
六角 おう。祝儀よ。これで、一回は女こっぱれるよ。
佐田 大人よ~~。にいちゃ、大人よ~~。
六角 ふ。おまえもさぁ、大人になってさぁ、かえって来いって~~よっ。
佐田 ありがとうにいちゃ! こっぱるよ! わい、こっぱるよぉ!!
亜実可 こ~ちゃ~~。
佐田 あ。
六角 亜実可かよ?
佐田 な~よぉ~?
亜実可 こ~ちゃ~(コウジさん)。おるの~?
佐田 な、な~よ。
亜実可 あけてえよ~。
佐田 ちょっとまっちょれ。

亜実可が入ってくる。
亜実可は、顔のない人形を大事そうに抱えている。

亜実可 あ、にいちゃ。帰っちょった?
六角 おう。
佐田 今、にいちゃの、村の外での話きいちょったよ。
亜実可 そう……。
佐田 お前も、聞けよ~。す~げぇよ。
亜実可 の(うん)……。
六角 わい、行くわ。
佐田 ええ~~。にいちゃ、な~でよ~!
六角 ま、元気でやれよ。
佐田 もうちょっと話聞かせてよ~。
六角 の(じゃ)。
佐田 の~~。

六角、去る。

佐田 いっちゃったよ。
亜実可 わりょ。私来たからかよ?
佐田 の? そうかよ?
亜実可 明日、村出てく~よね。
佐田 ほうよ~~。待ちに待った日ぃよ~~。
亜実可 大丈夫?
佐田 の? なにがよ。
亜実可 怖くない?
佐田 怖い? な~でよ~~~。なにやってもええよ? 酒もタバコもよ! この村からよ、出てもええて、唯一許される1ヶ月な~よ? 楽しま~でかよ!
亜実可 ほう……。
佐田 な~よ~。おま~もよ、あと、半年で、でられるかしてよ? な~でもよ、やりほうだいよ~~。おま~に、おみやげこうてきちゃるよ。なにがええよ? チョコレートか? 甘いらしよ~。
亜実可 ええよ。別に。
佐田 甘い物好きやろがよ。水飴とくらべものになら~うまさよと、いうとったよ。
亜実可 え~よ。(いらないよ)
佐田 な~よ~。おま~、ま~たい顔しおってからに。
亜実可 帰ってくるよね。
佐田 ん? そらそうよ。
亜実可 ほ~ま?(ほんとう?)
佐田 そうよ。もし、帰らんと、もう一生、家族にも会え~し、この村にも絶対にもどってこれ~のよ? 当たり前よ。
亜実可 糺(ただす)ねぇちゃがよ……。
佐田 それ、いうたら、いか~て(だめ)。
亜実可 ほいてもよ……。
佐田 あれは、悪魔にたぶらかされた~よ。テレビの番組に出たらしよ。テレビは悪魔よ。蒲田のおいや~(おっちゃん)がいうとうたよ。
亜実可 の。
佐田 大丈夫よ。わいは帰ってくるてよ。
亜実可 わ~った。(わかった)
佐田 おう。帰ってくるしよ。チョコレイトもよ、買うてきやるよ。
亜実可 の……。
佐田 た~と、話しちゃるさけよ。
亜実可 なあ、うちと、こっぱる?
佐田 の!? なにいうと~よ! お前、それはいか~よ。
亜実可 でも……。
佐田 お前、結婚せ~とそがいな~はよ。
亜実可 ほいても……。うち、好きよ。
佐田 ほ、ほ~とかよ。
亜実可 ほ~とよ。
佐田 いや……ほ~でもよ。
亜実可 その代わり。外で、ほかのおなごと、こっぱら~といてくれる?
佐田 ……。
亜実可 おねがいよ。(泣く)
佐田 おおおお。
亜実可 (じっと佐田の顔を見る)
佐田 わあった。わあったよ。
亜実可 ありがとう……。
佐田 ……。

亜実可、そっと電気を消す。

間。

佐田 (大声で)ぽっきりなってもうた~~~~!!

3 街
明るくなると、リンが、布団にくるまっている。
佐田は半裸で、頭を抱えている。
リンはあきれている様子。

リン お兄さん。初めて?
佐田 いや~~、ちゃうけどよ~~。
リン へ~、そう?
佐田 亜実可とよ~。こっぱった時はうまくいったよ~。
リン こっぱる?
佐田 おかしいよ~~。ぽっきりなってもうたよ~。こっぱれ~のお~~。
リン あんた、あの村の人?
佐田 な~よ~?(なんだよ?)
リン あの村のやつかって聞いてんのよ!?
佐田 おこら~といてぇ。ぽっきりたから、怒っと~かの? 
リン ちげぇよ。馬鹿! 村のやつなのか聞いてるだろっ!!
佐田 お、おとろしのぉ!(怖いなあ!)
リン ごめんごめん。怒ってないよ。ほら、ね? だから、教えて、あなた、あの村から来たの?
佐田 そ、そうよ~~。そっからよ~。今日来た~よ~~。今日から、お許しの日な~よ~~。
リン じゃ、じゃあ、六角さん知ってる?
佐田 にいちゃのことかの?
リン (例)ちょっとすらっとして、ここにほくろがある!
佐田 にいちゃよ! せーにいちゃよ
リン あんた知り合いなの!(佐田に詰め寄る)
佐田 おほっ!?
リン そうなの!
佐田 こっぱった♪
リン (佐田の下腹部を見る)……。
佐田 こっぱろ、こっぱろ。
リン ね、村の場所教えてくれる?
佐田 の?
リン お願い、教えて?
佐田 無理よ。
リン なんで!
佐田 村の場所は教えられ~決まりな~よ。
リン どうして?
佐田 どうしてって、決まりは決まりよ。
リン 特別にサービスしてあげるわよ。
佐田 特別かの!?
リン あなたの知らない、あんなことや、こんな、すっごいこと♪
佐田 あ~な、こ~な! の~~~!?
リン の! の!
佐田 の~~~。

佐田、ズボンから財布を取り出し、そこから、地図を取り出す。

佐田 これ、地図よ。
リン ここなのね?
佐田 そうよ。絶対誰にもいうたらいか~よ? ほ~まの、ほ~まよ。
リン わかった、わかった、さ、こんぺろ、こんぺろ?
佐田 あ。
リン ん?
佐田 も~~~! 
リン な、なに?
佐田 ぽっきりいってもうた~~。
リン ははは。
佐田 な、な~でかよ~~~?
リン どうする?
佐田 ちょっちょっっとまっちょって! か~じるの~よ!
リン か~じる??

佐田、あわてて出て行く。
リン、それを見て、さっと、佐田の財布を拾い上げる。

リン ふふ。こんぺろこんぺろ~~♪

リンが歩いていく

4 村
亜実可が現れる。

リン ねえ、あなた。
亜実可 ! ……。
リン ねえ。村捜してるんだけど。知らない? この辺らしいんだけど。
亜実可 ……。
リン 聞いてる?
亜実可 知ら~人と喋ったらいか~のよ。
リン よ?
亜実可 そうよ。
リン あんた、村の娘?
亜実可 ……。
リン にんにくって言ってみて?
亜実可 な、な~で?
リン いいから! にんにく!
亜実可 に~にく~。
リン そう。ここがもう村なのね。
亜実可 なして、ばれた!
リン やっぱりね。
亜実可 や~よ~~。怒られるよ~~。
リン 本当、田舎ねぇ~~。

六角がやってくる。

リン あ。
六角 あ。
リン どうも~。
六角 な~な。おま。
亜実可 し、知り合い?
六角 いや。
リン お久しぶり。
六角 てーがー(おまえはっ!)、何しにきたよ。
リン え? 別に。来たら駄目?
六角 だめって。あくかい。立ち入り禁止よ。ここは。
リン なんかこういうところであうと、すっかり、村の青年って感じね。
六角 なんよ。
リン いいんじゃない? そういうの。今、はやってるし。森ボーイ?
六角 てーがー。
リン 捜したのよ。
六角 しるかい。帰れよ。
リン なんでよ。
六角 だーらー。立ち入り禁止いうとろうが!
リン 冷たいのね。
六角 おまえら、知ら~よ。帰れ!
リン 私、ここに住むから。
六角 はぁ!?
リン ここの村はあれでしょ? 宗教を信じるんだったら、外の人間でも、受け入れるんでしょ?
六角 お、おう。
リン じゃ、私の勝手でしょ?
六角 お、おう。おう? いやいや。
リン なに? 信仰の自由は憲法で守られてるんよ!!!
六角 け~ぽう~~!!
リン じゃ!!! これからよろしく!
六角 え? ま、マジか!?

リン、去る。

六角 なんやぁ……あれ。
亜実可 知りあいな?
六角 いや……まあ。
亜実可 怖かった……。
六角 いや……わりぃ。
亜実可 ……。
六角 お前、いつまでここおんな?
亜実可 ……。
六角 ともはるはもう、帰ってこんよ。
亜実可 ……。
六角 昨日で、期間すぎたろ? もう、帰ってきとうても、帰られーよ。
亜実可 でも……。
六角 あいつのことはもう、忘れろよ。
亜実可 ……。
六角 もう、帰ってこねよ。帰ってきとうても、かえれなよ。
亜実可 約束したよ。帰ってくるっていうてたよ。
六角 諦めよ……。あいつはあいつで、街で楽しぃやってるよ。
亜実可 ……。
六角 ほれ、帰れよ。
亜実可 ……。

亜実可、とぼとぼと帰る。
六角、亜実可が去ったのを見て、携帯を取り出す。

六角 よぉ。ひさしぶり。姉貴、元気かよ。おう。まあ、元気よ。おやじもおっかあも、まあ、ぼちぼちな。まあ、心配はしとるよ。表にはださな~けどよ。おう。ほんでよ。一個な? 頼みがあるよ。

5 街
離れた場所に、同じく携帯で話している女が現れる。
名は、糺。都会風のキャリアウーマンといった体である。
六角のほうは、糺が話している間に、暗くなっていく。

糺 亜実可ちゃ? ちゃうの? そう。あの子やったらねぇ……。で、誰? ああ。あの子か……。そう、もう、そんな歳やっけ。ま、考えてみるよ。じゃ。(携帯を切る)

ひどくぼろぼろの格好で、毛布を被った佐田が座っている。
前には、空き缶が置かれている。
糺が、その前を通る。

佐田 おねがいよ~~。たすけてよ~~。
糺 !?
佐田 おねがいよ~~。たすけてよ~~。
糺 ……。あなた……。
佐田 ?
糺 村の人?
佐田 だ、誰よ?
糺 ともはる君?
佐田 おお~。そうよ~~。誰よ~~?
糺 わいよ~。糺よ~。
佐田 お~~。糺ねちゃかよ! 懐かしよ~~。
糺 ど、どうしたの!? こんなところでそんなかっこして。あなたも、村出たの?
佐田 お金盗られてもうたよ~~。
糺 ええ~~。
佐田 助けてくれ~かよ~~。村に帰りたくてもかえれ~よ~~。
糺 た、大変なことなってるわね。
佐田 そうな~よ~~。どうしたらええかよ~~。
糺 あんた、いつ、ここに来たの?
佐田 わから~よ。確か、○月よ(公演日の三ヶ月前)。
糺 ○月ってあんた、もう、三ヶ月たっちゃってるじゃないの。
佐田 ほ~よ~。街の(季節による)夏は暑かったよ~~。
糺 そ、そんなこといってる場合じゃないでしょ。あんた、村に帰る期限過ぎてるじゃない。
佐田 そうな~よ~~。困ったよ~~。
糺 困ったって……。どうするの?
佐田 どうしたらええかよ?
糺 私に聞かれても……。
佐田 街の人は冷たいよ~~。誰も助けてくれ~よ~。わいは、村に帰りた~よ~。
糺 ま、まあ。事情を話したら、許してもらえるかもね。
佐田 ほ~よ~~。でも、お金がな~よ。ねえちゃ。貸してくれ~かよ~。絶対に返すからよ~。
糺 でも、村に帰ってお金ないでしょ。あそこ、お金全然使わないじゃない。
佐田 そうよ~。困ったよ~。
糺 そうだ。あんた、テレビに出てみたくない?
佐田 テレビ!
糺 そう。私ね、今、テレビ番組作るところで働いてるの。紹介したげるわ。
佐田 テレビはいけ~よ~。
糺 お金もらえるわよ。
佐田 お金はほしよ~~。
糺 ついてらっしゃい。
佐田 テレビはいか~よ~。
糺 いいの? このまま、冬は寒いわよ。
佐田 い、い~で(死んで)まうのっ!
糺 さ。
佐田 こ、困ったよ~~。

糺、佐田、去る。

6 村
リンが、毛布にくるまっている。
六角が上半身裸でタバコを吸っている。

リン ねぇ。
六角 の~?
リン なんで?
六角 の?
リン のってやめてよ。あんた普通にしゃべれるでしょ?
六角 だ~ぼ~。ここは村よ。
リン ふん。タバコも駄目なんでしょ? ここじゃ。(六角のタバコを奪って吸う)
六角 だ~ら~。(ばかやろう)
リン あんた、嫌いなの? この村。
六角 ……。嫌いなわけないよ。
リン うそつき。
六角 だ~ぼ~。
リン あんた、ハーフなんでしょ?
六角 のぉ?
リン 村の男と、街の女のハーフ。
六角 関係ねぇよ。親は。
リン 他の村のヒトはばかばっかりよ。ヒトのいいだけで。
六角 ふん。
リン 何がしたいの? あなたは。
六角 別に。
リン そうなの?
六角 街は嫌いよ。
リン 私、好きよ。あなたのこと。
六角 ふん。はよ出てけ。村。
亜実可 に~ちゃ?
六角 !
亜実可 に~ちゃ、おる?
六角 おめ! 出ろ!
リン な、なによ!
六角 ええからよ! でてけよ!
リン なに? 困るの?
六角 でろてよ!
亜実可 おる?

亜実可が入ってくる。
亜実可、この状況を見て固まり、人形を落とす。

六角 ああ……。
リン なによ。
亜実可 わ、わりよ!

亜実可、あわてて出て行く。

六角 ちょっ! 待て!

六角、あわててその後を追いかける。

リン ふん。鍵ぐらいかければいいのに。ばっか。

リン、布団から出て、人形を拾い上げる。

リン きもちわるっ。なんなのこれ?

亜実可が、おそるおそる入ってくる。

リン ……? なに?
亜実可 ……。
リン あの人は?
亜実可 ……。
リン せいいちさんは?
亜実可 しら~よ。
リン そう。……。
亜実可 ……。(もじもじしている)
リン これ? 返してほしいの?
亜実可 (頷く)
リン はい。(人形を差し出す)
亜実可 ……。(もじもじしている)
リン なに?
亜実可 (おずおずと人形を受け取る)
リン ふむ。

リン、タバコを再び吸う。
亜実可は、人形を抱えてもじもじしている。

リン ? なに?
亜実可 ききたいよ。
リン だからなによっ!
亜実可 うち、来月、街にでないか~のよ。
リン ああ、なんかそんなのあるんだっけ?
亜実可 うち、行きたくな~よ。
リン そうなの? じゃ、行かなかったらいいじゃん。
亜実可 絶対いかな、いか~のよ(いけないの)。
リン いかな、いかのよ??
亜実可 あの、行かないと、絶対。
リン ああ。そうなんだ。絶対?
亜実可 (うなずく)
リン そうl。じゃ、行かないとね。
亜実可 街、ってど~なよ。
リン え? ど~なつ?
亜実可 ど~なっ!
リン ドーナッツ?
亜実可 ど~な!
リン どなどな?
亜実可 ……街、って、ど、ど、どんなの?
リン あ、ああ。どんなのって? 街が?
亜実可 の。
リン ふ~ん。んって言えるのね。
亜実可 の~。他の人にいわんで!
リン なんで?
亜実可 悪魔の言葉よ。
リン あ、そうなんだ。そういうふうなの。
亜実可 (頷く)
リン ふ~ん。で、行ったことないの? 街。
亜実可 (頷く)
リン 一回も?
亜実可 (頷く)
リン ま、そうか。そりゃそうよね。
亜実可 ……。
リン ま、別になんてないわよ。ここより、楽だし。
亜実可 楽?
リン なにやってもいいし。なんでもあるし。
亜実可 なんでも?
リン おしゃれも、電気も、水洗トイレも。
亜実可 ほ、ほう。(そ、そう)
リン まあ、さ、適当に遊んで帰ってくればいいんじゃない? 3ヶ月だけなんでしょ?
亜実可 の~。
リン 遊ぶ場所なんて沢山よ。
亜実可 こ、怖いよ~。
リン 怖いねえ? あなた、この村すき?
亜実可 好き? 
リン うん。
亜実可 好き? の~~。わから~よ。
リン わからないの?
亜実可 わち、ずっと村しか、知ら~よ。
リン あなた、ここでどうするの? 将来。
亜実可 将来?
リン そう。これから、未来? 夢はないの?
亜実可 夢?
リン そう。ああなりたい、こうなりたいって、あるでしょ?
亜実可 うちは、幸せなけっこ~(結婚)して、おかあちゃなるよ。
リン え? それが夢?
亜実可 そうよ。
リン つまんな。
亜実可 つまらな?
リン 死んでるようなもんね。そんなの。 
亜実可 い~でる? 私が?
リン そう。もう先、見えちゃってるじゃない。そんなんでいいの?
亜実可 ……。

六角が駆け込んでくる。

六角 こ、ここかよ!
亜実可 に、にいちゃ。
六角 こ、これはちがっ。
亜実可 うち……。どうしてええかわから~よ。
六角 ともはるのことか?
亜実可 そいもよ。
六角 なして気にするよ。忘れよ。
亜実可 ……。
リン なに? 恋人かなにか?
亜実可 いいなづけよ。
リン いいなづけ! まじで!
六角 おめは、だ~ってろよ。(黙ってろ)
リン で、それがどうしたの?
亜実可 かえってこんのよ。3ヶ月たっても。
リン へ~~? ??
六角 もう、忘れろて。あいつはかえってこんのよ。捨てたんよ。この村を。
亜実可 ともちゃは、そんなことせんよ。
六角 ほな、なんで帰ってこんよ。
亜実可 の……。
リン あれかもね。お金盗まれちゃったりして、帰ってこれないのかもね!!
亜実可 の!
六角 お前は黙れって! いっとうが!
リン ふん。
亜実可 ほうよ。そうかもよ。
六角 ほいたら、どうするよ。どうしょもねえよ。
亜実可 ……。
リン じゃあさあ、探しに行けばいいんじゃない? あなたが。
六角 おい!
亜実可 わ、わちが? ま、街に?
リン そうそう。
六角 おい!
リン え? だってそうでしょ?
六角 やめろ。村から出たのばれたら、えらいことになるぞ。
リン あ、そうなんだ。
亜実可 ……。
六角 な? どうせ、3ヵ月後に、街に行くだろ?
亜実可 で、でも……。
リン これから冬(季節による)だからねえ。お金ないと外で行き倒れ……。
六角 おめ、ぶったおすぞ! わりゃ!
リン そんな感じよね~~。
亜実可 わち! 探しに行ってくる!!

亜実可、走り去っていく。

六角 おい! 待て!
リン もう、ほっときなよ。
六角 の!?
リン 青春よねぇ。
六角 おめ、ほ~まになんよ~!
リン あんた、あの娘、好きなの?
六角 なっ!
リン ふふ。振られたわね。
六角 だ~ぼ~~。
リン ほら、こっぱれよ?
六角 ん。

リンが、六角に抱きつこうとする。
六角、それを避ける。

リン ……。
六角 帰れよ。
リン ふん。ばーか。
六角 出てけ。村からよ。
リン ふん。
六角 おめがおってええ場所ちゃうんよ。ここは。
リン だ~れが好きでこんなとこいるってのよ! あんたが好きだっていってんじゃない!
六角 おめは、この村にはいらねよ。
リン はぁ?
六角 おめは、わかってな~よ。な~も。
リン なにがよ……。
六角 街のやつにはな~もわから~よ。
リン ……。

間。
リン、去る。

7 街
亜実可が、うろうろしている。

佐田が、きょどきょどしながら現れる。

佐田 ど、ども~。い、田舎アルアル。ずんずくずん♪ (ネタをする)

その様子を眺めていた亜実可が、佐田に近づこうとして、糺があわてて止める。

糺 ちょっと、本番中よ!
亜実可 の?
糺 の? あれ?
亜実可 ねちゃ?
糺 あ、亜実可ちゃん?
亜実可 ねちゃ~!
糺 あなたなんでこんな所にいるのよ。
亜実可 こ~ちゃ、探しにきたよ。
糺 え? あいつ?
亜実可 の。
糺 なんで~?
亜実可 ……。
糺 え? 好きなの? あいつ?
亜実可 ……そうよ。
糺 うっそ~~。
亜実可 嘘ちゃうよ。ねちゃこそ、なにしとうよ。
糺 今はテレビで働いてるの。
亜実可 の! 嘘よね。嘘よね。
糺 ホンとよ。それより、あなたも出てこない?
亜実可 え!? わち?
糺 そう。あなた、アイドルになれるわよ。
亜実可 アイド~?
糺 そうか、分からないか。とにかく、あなたには、可能性を感じるわ。
亜実可 わちはええ! テレビはいか~よ!
糺 あなたも、街に出てきたら分かるわ。私も最初はなにも分かってなかった。でも、感じたの。大学で勉強をして、私には可能性があるんだって、自分の才能を、なぜ自分が生きているのかをしる自由も! あなたは、その可能性が大きいのよ。ね?
亜実可 か、可能性?
糺 この街では、なんでもできるのよ!
亜実可 なんでも?
糺 そう。なんでも!

後ろで、グラサンに挨拶して、佐田がやってくる。

佐田 あ……。亜実可!?
亜実可 こ~ちゃ!
亜実可 探しにきたよ。
佐田 探しに? オレを?
亜実可 の。
佐田 な、なんで……?
亜実可 こ、こ~ちゃ、そ、その言葉……。
佐田 ああ……。
亜実可 けぇろよ?
佐田 お前、なんでこんな所にいるんだよ。
亜実可 会いに来たよ。こ~ちゃに!
佐田 オレはもう、帰らん。
亜実可 なんでよ!
佐田 オレは今、この町で必要とされてるんだよ。あの村になにがあるよ。規則規則規則。あんなの人間じゃない。家畜の生活だ。
亜実可 う、嘘よ? の? の?
佐田 お前も分かるよ。この町に住んだら。俺たちはだまされてたんだよ。ずっと、生まれてあの村に生活して。外の事、ずっと悪い悪いって言われてきた。見ろよ。今、おれ、テレビにひっぱりだこなんだぜ? スターだよ。スター。
亜実可 テレビはいか~よ!
佐田 お前、見たことあるのか? おもしろいぞ? テレビは、ためにもなるし、笑えるし、あんなすげえもんはねぇ。
亜実可 こ~ちゃ……。
佐田 お前も出てこい。街へ。
亜実可 わちが?
佐田 お前も、もうすぐ出てくる時期だろ? ちょうどいい。
亜実可 ほ~きかよ?
佐田 おう。出てこい。
亜実可 ……。

亜実可、抱えていた人形を佐田に投げつける。

佐田 おい!
亜実可 ぽっからよ。
佐田 なっ!
亜実可 ぽっからよ!(走り去ろうとする)
糺 ちょっとまって、あなた、街に来たら連絡して。(と、メモを渡す)
亜実可 ……。

亜実可、去る。
佐田、人形をひろいあげる。

糺 あ~あ。いいの?
佐田 ……。(人形を袖にぽんと、投げ捨てる)次の仕事。なんだよ。
糺 ふふ。次は、映画よ!
佐田 ……。

8 村
亜実可が、とぼとぼと歩いている。
六角がいる。

六角 亜実可!
亜実可 に~ちゃ……。
六角 だ~ぼ~~。
亜実可 わりょ。
六角 会えたかよ。
亜実可 (頷く)
六角 どやったよ?
亜実可 (首を振る)
六角 ほうか。
亜実可 ……。
六角 の、諦めっかよ?
亜実可 ……。
六角 なしてよ。あんな馬鹿のどこがええ?
亜実可 ……。
六角 もうどうしょうもなかよ。
亜実可 ……。
六角 このことは、誰にもいわねからよ。おめも、いうなよ。
亜実可 (うなづく)
六角 のう。
亜実可 ……?
六角 わしじゃ、いかんかよ?
亜実可 の?
六角 わしは、この村を変えようおもとる。
亜実可 の?
六角 もう、村にはじ~じ、ば~ばばっかよ。このままやと、いけ~のはみえとうよ。
亜実可 の~。
六角 二人で新しい村作ってこうやよ。
亜実可 でも、リーちゃは?
六角 しらねぇよ。あんなやつ。オレはこんまいころからおめが好きよ。あ~なだ~ぼ~より、絶対おめを大事にするし、幸せにするよ。
亜実可 にぃちゃ……。。
六角 の?
亜実可 ……。
六角 ……。

六角、亜実可を抱きしめようとする。
亜実可、それを避ける。

六角 なしてよ。
亜実可 わりょ。
六角 な~でよ!
亜実可 にいちゃ……。

六角、村の方へ、去る。
たたずむ亜実可。
リンが、やってくる。

リン もてもてね。あなた。
亜実可 り~ちゃ……。
リン 私も出るわ。村。
亜実可 ……。
リン ま、元々村で全然受けいられてなかったし。
亜実可 そ~なことな~よ。
リン あんた、小悪魔ねぇ~。泣かせるわ。
亜実可 の?
リン 知ってる? あんたが待ってる人がなんで帰ってこないのか。
亜実可 な、ともちゃのことかよ?
リン そう。私がはめたのよ。街で。
亜実可 な、どういうことよ。
リン あいつ、あのともちゃか? あいつ、私の店に来たのよ。分かる? 私、娼婦だったの。分かる? 娼婦。セックスするのよ。お金もらって。
亜実可 そ、そんな……。
リン で、私がお金盗んだの。
亜実可 な、なして……。それで、帰ってこられんの?
リン そう。
亜実可 りーちゃが!?
リン そう! なんでか分かる!? なんでか!
亜実可 なして、わから~よ!
リン あいつに会いたかったからよ。でもなに? あんたが、あいつの心鷲づかみじゃない。やってらんないわよ!
亜実可 わ、わち!?
リン そう、あいつはあんたのことが好きなのよ。知ってる? テレビ局にあのバカ売り込んだの! 誠一よ。
亜実可 にーちゃが?
リン そう。あんたが、好きだからよ。あいつはそういうやつなの! あんたの恋人をこの村に帰ってこれないようにして、あんたを物にしようとしたのよ!
亜実可 嘘よ。そんなの嘘よ!
リン 嘘じゃないわよ。本当!
亜実可 うそよ! うそよ!
リン ほら、これが証拠。分かる? これ。(佐田の財布を取り出す)
亜実可 そ、それは!
リン ほら、怒りなさいよ! ほら!
亜実可 ……。りーちゃ。ありがとう。
リン ありがとう?
亜実可 わちにいうてくれて。ありがとう。
リン なんでそうなるのよ!
亜実可 わち、リーちゃ、好きよ。
リン ……。
亜実可 どしたの? りーちゃ。
リン あんたなんか、嫌いよ。(泣き崩れる)
亜実可 りーちゃ、辛かったな~よ。

亜実可、リンを抱きしめる。
リン、亜実可を突き飛ばす。

リン なんで?
亜実可 の?
リン なんで、そんなに簡単に許せるの?
亜実可 それは、だって、リーちゃも辛かったでしょよ。
リン あんた、被害者なのよ。私が犯人なのよ?
亜実可 でも、謝ってくれたよ。充分よ。リーちゃ、嫌いちゃうよ。わち。
リン わかんない。
亜実可 リーちゃ?
リン わかんない。わかんない。
亜実可 落ち着いて。の?
リン なんで許せるの? おかしいよ、あんたら、意味わかんないよ。ここにいるやつ、全員。
亜実可 神様は、みんな許してくれるの。私たちの罪を。そして、十字架にかかって、死んでくださったのよ。私たち、み~なの、」罪を背負ってくれたのよ。だから、私たちは怒らないし、み~な許せるの。
リン 気持ちわるい。
亜実可 の?
リン 気持ち悪い。もう、やだ! こんな場所。
亜実可 リーちゃ! リーちゃ!
リン じゃね!! こんな村、消えちゃえばいいんだ!

リン、去る。

9 街
リンが歩いてくる。
こぎれいな格好をした佐田が、街頭に立って演説している。

佐田 この町は、腐敗しています!! 今、あなた方が帰るべきなのです! 私はあの村からやってきました! そして、もう帰れません! あなたたちは自由なのです。すべて自由。その自由をはき違えているのです! するべき事をしてこその自由なのではないでしょうか! 聞いてください!まって! そこのあなた! ボクの話をきいてください! ほんの少しでいいんです! ああ……。あ、そこの……(リンを見る)
リン あ、あなた。
佐田 あ、あの時の。
リン なにやってるの?
佐田 え? いや……。なんでもない。
リン あれ?
佐田 ?
リン 喋り方。
佐田 ああ、これ……。
リン 普通ね。
佐田 なに? なにか用?
リン いや、別に? 珍しいなと思って。選挙でもでるの?
佐田 ……もう、出たよ。
リン へ!? そうなの?
佐田 ぼろ負け。
リン そりゃそうよね。よそ者が出て受かるわけないでしょ。
佐田 ふん。

糺がやってくる。

糺 あ。
佐田 糺さん!
糺 な、なに?
佐田 仕事は?
糺 そんなものあるわけないでしょ!
佐田 え? なんで?
糺 あんた、本当になんにもわかってないの?
佐田 な、なにを?
糺 あんたはね、バカなのがよかったのよ。あんたみたいないなかっぺのバカが、テレビでバカさらしてるのをみて、街のみんなは、安心するの。それがあんた、政治とかかたっちゃって、バカでしょ。本当に。誰ももう、あんたなんか興味ないのよ。
佐田 そ、それじゃあ、ボクはただの見世物じゃないか。
糺 え? そうよ。え? 分かってなかったの?
佐田 な、なんだよ! それ!
糺 ま、あんたの役割は終わったのよ。じゃね。

糺、去る。
リンが笑っている。

リン あははは。
佐田 ……。
リン ばっかねえ。あんた。
佐田 うっせえよ!
リン 怒った? はは。もうあんたも村の人間じゃないのね。
佐田 街も村もかわんねえよ。なんもかわらねえ。
リン そう? 私はいやだけど。あんな死人の集まりみたいな場所。
佐田 この街だって、そうだろ? なんだかんだ、可能性やら、自由だのいうといて、結局は誰かに消費だれるだけよ。
リン そう?
佐田 あそこにはよぉ。おとうちゃも、かあちゃも、にいちゃも、ねえちゃもおったよ。亜実可もおったのによ。
リン ああ、そういえばさ、亜実可ちゃんだっけ?
佐田 あ、亜実可……。
リン 待ってたよ。あんたのこと。ずっと、まだ。待ってた。
佐田 嘘だろ?
リン な~んで、そんな嘘つかないといけないのよ。
佐田 そ、そんな……。
リン 馬鹿よね。
佐田 だ、誰がよ。
リン あんたも、あのこも。
佐田 わいはだ~ぼ~やよ。
リン だ~ぼ~。だ~ぼ。
佐田 かえりてよ。かえりてよ~~。
リン 帰ればいいじゃない。
リン あんたさぁ、結構稼いだんでしょ? 聞いてるよ~~。結構テレビ出てたらしいじゃん。
佐田 そんな金、もう、残っちゃねえよ。
リン はい。(お金を出す)
佐田 え?
リン あん時、あんたからくすねたお金よ。
佐田 の!! 犯人おめかよ!
リン ごめんね♪
佐田 のあ~。
リン お詫びに、こっぱる? 一回ぐらいいいよ♪
佐田 もう、こりごりよ。こっぱるんはよ!
リン そ、ま、ちょっと色つけといたからさ、許して。ね?
佐田 ……ま、え~よ。これで、村に帰れるよ。
リン え? 許しちゃうの?
佐田 ええよ。あんたもなんかあったんやろがよ。
リン あんたら、ほんとすごいわ。
佐田 の?
リン ほら、早くかえんな。待ってるよ。
佐田 そ、そうよ。あんがっとう!
リン ばーか。

佐田が去る。

10 村
佐田が、やってくる。
反対側から、亜実可がやってくる。

亜実可 こ~ちゃっ!!
佐田 亜実可よ~。
亜実可 か、かえってきた?
佐田 そうよ~。やっと帰ってこれたよ。
亜実可 な、なにしとったよ。
佐田 会いたかったよ~~。亜実可~!

亜実可に抱きつく佐田。

亜実可 嬉しいよ~。こ~ちゃっ。
佐田 こっぱろ。こっぱるんよ! 亜実可!
亜実可 あ……。
佐田 どした?
亜実可 わち……。
佐田 な~よ?
亜実可 わち、今から出ていくのよ。
佐田 出る! 街へか!
亜実可 の。
佐田 街は怖ええよ~~。おま~も、気をつけぇよ!
亜実可 そ、そうかの?
佐田 やめよ。村おれ。
亜実可 そうはいかんよ。掟よ。
佐田 わいわよ。好いと。亜実可よ。好いとよ。
亜実可 わちもよ。好いとよ。
佐田 わい、まっちょるよ。この村で、まっちょけよ。
亜実可 の。まっちょってよ。
佐田 おう。帰ってきたら、こっぱろな!
亜実可 ……うん。
佐田 たんと、たんと、こっぱるよ!
亜実可 うん。
佐田 絶対よ。絶対や~よ!
亜実可 うん。ほいたら、いってくるよ。な!

亜実可、去ろうとする。

佐田 こっぱるけな! たんとな! こっぱるけな!

亜実可、振り返らずに去る。

じっと、亜実可の去った方向を見ている佐田。

11 街
亜実可が歩いてくる。
糺がいる。

糺 待ってたわよ。
亜実可 ……。
糺 さ、行きましょう。不自由なほどの自由があなたを待ってるわよ。
亜実可 ……。

糺・亜実可、去る。

12 村
佐田が、11場の場所そのままにいる。
六角がやってくる。

六角 よう、生きとうか?
佐田 おう。せいちゃ。すま~よ。
六角 ほれよ。(おにぎりを渡す)
佐田 すま~よ~。(おにぎりにがっつく)
六角 おめ、いつまでこがいしとるつもりよ。
佐田 しかたな~よ。
六角 おま~、もう、村にも断絶されとうよ。
佐田 掟、厳しよ~。
六角 も~、どっか別の場所いねよ。
佐田 いやよ。亜実可を待っとうよ。
六角 亜実可? 
佐田 伊藤んとこの、亜実可よ。
六角 亜実可って、あの、亜実可かい。
佐田 の。
六角 おま~、あいつ出ていったのよ、もう、1年も前よ~~!?
佐田 そうかの? 
六角 おめ~。本当に、だ~ぼ~よ。
佐田 帰ってくるよ。あいつは、約束したんよ。
六角 帰ってくるって、お前……知ら~のか?
佐田 の?
六角 せや。(携帯を取り出す)
佐田 それ! お、怒られるよ。にいちゃ!
六角 おめがゆうな。
佐田 の~。
六角 ほしいか? やるぞ? この村おっても、オレ一人では、意味ないけ~の。
佐田 いかんよ。にいちゃ。
六角 ほれ、これ、テレビも見れ~よ。
佐田 て、テレビ!!
六角 ほれ、見てみろ。
佐田 こりごりよ! テレビはこりごりよ!
六角 ええからよ、見てみよ。ちょうど、亜実可がテレビでとるよ。
佐田 ほ、ほ~まかよ!!

食い入るようにテレビを見る佐田。

13 街・村

アイドルのような格好をした亜実可が現れる。

亜実可 カウントダウンティービーをごらんのみなさん、こんにちは! AMIです。私は、関西から東京に出てきて、このたび、ついにデビューすることになりました~~!! え? 恋人ですか~? はい、俳優の加藤さんとは、正式におつきあいしてます。てへりん♪

村で、テレビでその様子を見ている佐田と、六角。

佐田 の~~~~~~~~~~~~~!

佐田、急に走って、街のところまでいく。

佐田 亜実可!!
亜実可 の!!
佐田 おめ、どしたよ!
亜実可 誰か! 誰か!

糺が駆け込んでくる。

糺 ちょっとあんたいまさらなんのつもり!
佐田 うっせえ! このトンキプッタが!
糺 のお! だれがトンキプッタよ!
佐田 亜実可! 亜実可!
亜実可 誰か! このヒト追い出して! アミ怖~~い!

逃げ去る亜実可・糺。
六角も、あきれ顔で去る。
ぐっと前を見る、佐田。

佐田 オレ、これから、どうしたらいいの? どうなんの? ねえ? 

暗転。
《了》

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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