見出し画像

【中編戯曲】時間です。

時間です。

登場人物
男 ・中村くん
女1・しかばね・白い女
女2・高橋さん

男が現れる。
映像で文字。

そこは、闇だった。
私は急がなければならない。
焦れば焦るほど、自分がどこにいるのか分からなかった。
これは夢なのだろうか。
目が慣れてくると……。
私は、山の中にいた。

ど真ん中に、女1が倒れている。
まるで屍のように。
男が、しかばねに気付いた。

男 ……。

しかし、男は、そのまま通り過ぎようとする。
しかばね、それに気付いて、慌てる。

しかばね いやいやいやいや。
男 ……?

男、しかばねを見る。

しかばね うっそーん。
男 何?
しかばね 通り過ぎる? 普通。
男 ……。
しかばね ……。

男、さっさと去ろうとする。

しかばね こらこらこらこら!

と、男の足にしがみつく。

男 なんやねん! いそがしねん! こっちわ!
しかばね こちとら死んどるねん!
男 しるか! 離せ!
しかばね こら! こんな美人が死んでるねんで、ちょっと、うわ~とか、立ち止まるぐらいしいよ!
男 うっさいなあ! 死体やったら、おとなし、しんどれ!
しかばね ちょっ、ほんま、ちょっと、いっかい落ち着こう。な。ちょっと、
男 行かなあかんねん! オレは!
しかばね ま、落ち着きましょ。ね。はい、深呼吸~。
男 も~、殺すぞ。おまえ!
しかばね はい、無理~。私、もう死んでます~~。
男 うざっ。
しかばね な、一回止まってみようか。な。

男、渋々、止まる。
しかばね、再び、横たわる。

男 なんやねん。
しかばね いや~、すいません。こんな感じで、いや、死んでるんで。
男 せやったら、死んどったらええねん。
しかばね そんな殺生なコト、いうたらあきまへんで~。なんちって。
男 うざっ。ご愁傷様です。

と、再び去ろうとする。

しかばね あんさん、迷ってますな。
男 
しかばね ふふふ。やっぱり。
男 なんじゃあ。
しかばね しかも、自分がなんでこんなとこおるか分からん。
男 ……。
しかばね 図星ですね! はい、どーん。
男 だから、なんやっちゅうねん。死体が、なんかしてくれるいうんか。
しかばね いや~、お願いがあるんですよね~~。
男 しるかよ。
しかばね いや、それしだいで、何とかなるかも~? しれませんけど~。ね?
男 ……。ほんまか?
しかばね いやあ。ここは、山深いですからね~。一回迷い出すと、どうしょうもないですから。
男 ……。
しかばね ここら辺は、私の庭みたいなもんですから。あ、でしたから?
男 教えろや。急いでるねん。オレは!
しかばね へ~。そ~ですか~。
男 ……。
しかばね おっと、私、死んでるんだった!

しかばね、再び、コテンと死ぬ。

男 おい、こら! こらあ~~!!!

男、しかばねを叩いたり、つねったりしてみるが、全く反応がない。

男 くそっ。なんだよ。これ!

男、下手に走り去る。
すぐに、上手からやってくる。
そして、しかばねを見て、驚く。

男 

男、再び、下手に去り、上手から現れを、三度繰り返す。

男 なんだよ! これよ!

再び下手にさると、今度は女2が現れ、笑顔でにっこり。

しかばね 劇団フライングフィッシュソーセージクラブ第二回公演「時間です。」前セツ終わり。以上、作家が体験した不思議おもしろ話でした。これから、本編をお楽しみ下さい。シーン一「終わりの始まり」。場所は、オフィス。机と向かい合わせのイス。男と、高橋さんが座っている。

と、喋っている間に、もくもくと、男と、女2が準備をしている。
しかばねは去る。

1 終わりの始まり。

机と向かい合わせにイス。
中村くんと、高橋さんが座っている。
高橋さんは、ノートパソコンに何かを打ち込み。
中村くんは、頭を抱えながら書類に文字を埋めているようだ。

中村くん あの、ここはこれでいいんですか?
高橋さん あ、テキトーでいいですから。
中村くん あ、いいんですか?
高橋さん あ、はい。あ、職業の所、これ、サッカーっていうと、サッカー選手?
中村くん あ、はは。いやいや、作家です。劇作家? まあ、食えてないんですけど。
高橋さん あ、じゃあ、食えてる方のお仕事書いてもらっていいですか?
中村くん ……。あの、雇用保険で食ってる人ってなんてなりますか?
高橋さん ……無職!
中村くん ……休職中?
高橋さん 無職!
中村くん アルバ……。
高橋さん 無職!
中村くん 無職。
高橋さん (ナイス笑顔で)書けましたか~?
中村くん あ、はい。
高橋さん はい、どーもー。
中村くん 
高橋さん えーっと、中村さん?
中村くん ……? あ~……はい?
高橋さん はい、中村さん。
中村くん はい。
高橋さん で、申し込みの時の、資料をみせてもらったんですけども。
中村くん ああ、はい。
高橋さん ひっどいですね。
中村くん あ、はあ。
高橋さん 冗談じゃないですよね。
中村くん いや、ええ。
高橋さん はあ……。ここなんですけどね?
中村くん ……。
高橋さん で、何日? なの、ぶっちゃけ。
中村くん ん~、正確に言うと、そうでもないです……。
高橋さん え? そうなの?
中村くん ま、ねえ。そりゃ、駅にも行きますし、コンビニで弁当を買ったりもしますから。
高橋さん いやいやいや、そういうの数えちゃ駄目でしょう。
中村くん はぁ……。
高橋さん 純粋にどうなの?
中村くん 純粋に……。
高橋さん 異性と話したのいつ?
中村くん 純粋に……?
高橋さん ええ、いつから?
中村くん え~……。
高橋さん 覚えてないの?
中村くん はい……。
高橋さん 重傷ですね……。
中村くん すいません。
高橋さん じゃあ、いいですよ。覚えてるところからでいいですから。最後はいつですか?
中村くん こう……こ
高橋さん 高校!?
中村くん ちゅ、ちゅ~~~~。
高橋さん 中学?
中村くん 小学生です。
高橋さん ええええ~~~~!!!!
中村くん す……すいません。
高橋さん ふ~~~~。

と、なにやら、大仰そうなフリをして、やれやれと、そして、キュッと、営業スマイルで、

高橋さん ふむ……。ま、なんとかなると思います。ちょっと、お待ち下さいね~~。
中村くん はい……。

と、高橋さん、去る。
白い女、ゆっくりと舞台にたどり着いたら、ちゃぶ台の上に座った。
白い女、持っていた傘を差す。

白い女 ここは、いつも雨ね。
中村くん ……。
白い女 ……。
中村くん あ、ボクにですか?
白い女 (頷く)
中村くん あ、すいません。ボク、ここにきたばっかりで……。
白い女 そう。
中村くん そう。
白い女 ……。
中村くん ……。
白い女 本当、いやな雨。

間。

中村くん ……あ、あの……。

ピンポン。

NA 23番様。お待たせしました。部屋へお入り下さい。

間。

中村くん ……。
白い女 何か?
中村くん え? あ……。
白い女 なにか言いたいんじゃなかった?
中村くん いや……。

と、うつむいてしまう。

白い女 ……?

白い女、立ち上がり、去ろうとする。

中村くん あ、あの。
白い女 ん?
中村くん 雨。
白い女 雨。
中村くん 外、雨、ふってましたか?
白い女 ……。

にっこり笑った。

白い女 ううん。

と、去った。

中村くん ……。

中村くん、上を見て、手をかざした。
雨がふっているというのだろうか?
高橋さんが、こっそりと現れ、中村君を見ている。

高橋さん ええ~~~??
中村くん あ。
高橋さん ? なにしてるんですか?
中村くん あ、いえ、なんでも。

中村くん、あわてて居住まいを正す。
高橋さん、いまだ、影からじろじろと中村くんを見ている。

中村くん ……?
高橋さん ええ~~?
中村くん あの?
高橋さん ああ。

高橋さん、何事もなかったように、座る。

高橋さん ……。

しかし、何をしゃべるわけでもなく、まじまじと、中村くんの資料を読んでいる。

中村くん ……あの?
高橋さん ああ。あの、もうちょっと詳しく聞いていいですか?
中村くん え? ああ。はい。
高橋さん この、仕事をしてなかった2年間はなにを……。
中村くん ああ……。
高橋さん その、正直に…お願いします。
中村くん えっと、無職です。いわゆるひきこもりです。
高橋さん ヒッキー……。
中村くん はは。あの、いろいろありましてぇ。
高橋さん そ、そうですか。
中村くん はは。すいません。
高橋さん ……。
中村くん ……。
高橋さん で、今のっていうか、今までの仕事は…、派遣ですよね?
中村くん あ、はい。
高橋さん あの……やっぱりその。
中村くん いや、今探してますから。ちゃんと無職保険もありますし。探します。なんなら、きつい仕事もします。
高橋さん ……。
中村くん ……はい。

間。

高橋さん はあ。
中村くん ……。

中村くん、ざっと立ち上がる。

中村くん すいません。お邪魔しました。
高橋さん え?
中村くん そもそも、ボクみたいなのがくるのが間違いだったんですよ。
高橋さん あ、いやいやいや。
中村くん すいません。お手間とらせまして。キャンセル料は払いますから。

と、去ろうとする。

高橋さん ちょっと待って!!
中村くん え?
高橋さん 見つかりました!
中村くん え?
高橋さん ……。えっと。あの! みつかりました~~~!!
中村くん ほんとに?
高橋さん ……。んん! え! みつかりました! 相性100%もう、ばっつぐんに! もうこれ、運命ですよ! 運命! もう、これのがしたら、一生幸せになれない! あなたの為に存在するような女性が、ええもう、そりゃ見つかるわけないあなたに! みつかったんです!!
中村くん はぁ……。
高橋さん あれ? うれしくない?
中村くん あっ。えっと、ありがとうございます。
高橋さん ……。はぁ。ま。
中村くん で……。
高橋さん え~、こちら、資料になります。
中村くん はぁ。

と、資料を受け取り、読み始める。

高橋さん ど、どうですか?
中村くん 井上さん。
高橋さん ええ。
中村くん この人が、ボクの運命100%の人?
高橋さん え、ええ。
中村くん 井上さん。
高橋さん ええ。で……。
中村くん ん?
高橋さん あ。
中村くん あ、ここ……。
高橋さん ああ~。
中村くん これって……。

と、資料を示す。

高橋さん えっと~。その方なんですが、死んでます。
中村くん へ?
高橋さん いや~。なんと言っていいのか。
中村くん ……。
高橋さん ご愁傷様です。
中村くん あ、……はぁ……。
高橋さん ざ、残念ですぅ~。
中村くん ……。

ちらっと、高橋さんを見た。

高橋さん ……!

と急に怯え出す。

高橋さん はは。さ、次の仕事があるんで、では~~~。

と逃げるように去った。
中村くんは、じっと、資料を読んでいる。

中村くん ざ、残念ですって~!

と、追いかけて去る。

しばらくして、しかばねがやってきて、立つ。

しかばね 以上、作家が体験した、非常に残念な、彼女募集中ということを、間接的に言ってみたシーン終わり。以下、作家が、体験した不思議なシーンの続きで、場所は再び、どこか分からない山の中。しかばねがやってくる。それにしても、今の作家と、さっきの作家は同一人物? そして、あの途中で出てきた女は何者? それは後で。

高橋さんが、シーツを持ってきて、しかばねを包む。
後ろの背景と、しかばねに文字が重なる。

ワタシはもう、なにも考えない。
考えられない。考えない。
分からないことは、考えなければいい。

シーツの中のしかばねがだらりと垂れた。
大変そうに、しかばねをずりずりひっぱっていく。
男が再びやってくる。

男 あ。
高橋さん あ。
男 ……。

一瞬の間。

高橋さん こ、こんばんわ。
男 あ、こんばんわ。
高橋さん ……。

やたらどぎまぎしている高橋さん。
男は、ついシーツを見てしまう。

高橋さん あ、こ、これですか?
男 いや。
高橋さん これは、あれ、ほら、生ごみ。生ごみ。
男 生ごみ……。
高橋さん いや、肥料? あげないとね。ほら、木がせいちょ~しないものお! ね。
男 はあ。
高橋さん 生ごみ……。
男 あの。
高橋さん はい!
男 迷ってしもて。
高橋さん ああ! なるほど。
男 で、困ってしまってて。
高橋さん え~、そりゃ困りますね~。うん。
男 ええ。
高橋さん ええ~。

間。

男 いや、あの、山を下りられる道を教えてほしいんやけど。
高橋さん ああ、なるほど。それはそうですよね。
男 教えてや。
高橋さん え~? それは無理。
男 え? なんでや?
高橋さん いやいやいや。ムリムリムリ。
男 は? 急いでるんやって! こっちは!
高橋さん いや、そないいわれてもね。
男 なんで?
高橋さん 私も迷ってるから。
男 ……。

シーツから、しかばねの手がだらりとたれた。
それを見てしまった男。
そして、二人の目が合う。

高橋さん はは。ははははは。

と、ごまかし? しかばねを捨てて逃げる。
ごろんと、シーツから出てくるしかばね。

男 ……。
しかばね まだ、おったん、あんた。
男 なんじゃ、こりゃ?
しかばね ま、いろいろあるんよ。わたしもな。
男 ほんまか、大変やの、死体っちゅうんも。
しかばね ま、せちがらい世間ですわ。
男 なに? さっきの人? 犯人?
しかばね さ~、どうでしょう??
男 どうでしょうって?
しかばね 自分、ただの屍っすから。反応しない。ただの屍のようだっす。
男 ふ~ん。大変やの。
しかばね ま、しかばねには、試験も学校もないけど。
男 ほーほーほ。
しかばね 妖怪か! ってね。ね?
男 妖怪か!?
しかばね しかばねだと。
男 ほーほーほー。
しかばね ね、外に出たい?
男 そこだね。
しかばね そこだね~。
男 なんとかしてちょ。
しかばね じゃあ。
男 じゃあ?
しかばね ワタシヲサガシテ。
男 君を?

高橋さんが現れる。

高橋さん 以上、作家が体験した不思議な話の続き2終わり。以下、もう一人の作家。中村くんとするが、家の中で、ワタされた資料を見て、マスターベーションしている所のシーンをまったくエロくない感じでお送りします。

高橋さん、去る。
中村くんが現れる。
後ろから白い女がさっと現れて、中村くんに傘を差す。

白い女 ここはいつも雨ね。
中村くん (資料を見つめたまま)いつもきみは、四畳半の何もない部屋にいるんだ。部屋には、西日が強烈に差し込んで、窓の影にきみの体は寸断されてる。
白い女 ……。
中村くん きみはいつまでも高校の制服を着ている。顔は忘れた。でも、笑った顔は覚えてる。
白い女 (笑ってみる)
中村くん きみの体はやわらかかったんだろう。きみのくちびるはやわらかかったんだろう。きみは小さな体で、ちいさな声であえぐんだ。

ひどく興奮し始める中村くん。
白い女が、後ろから抱きつく。
何かが抜けたように、脱力する中村くん。
白い女、中村くんに傘をかぶせて、去ろうとする。
中村くんが、白い女に、手を伸ばすが、届かない。

白い女 ワタシをサガシテ。

そして、去る。
ちゃぶ台の上に立ち上がる中村くん(傘お化け)。

中村くん あああああああああああ!

と、咆哮する。
暗転するとみせかけて、

2 始まらない始まり。

暗転する前に出てきて、
高橋さんが、どしゃーっとやってきて、跳び蹴りを食らわす。
どしゃーっと、転がり落ちる中村くん。
高橋さんが、マイクパフォーマンスのようにマイクを持ち、

高橋さん 誰がエエ感じに暗転させるかっつうんだこのやろ! えー、以上シーン1の終わり。男が、なんか、幽霊かなんか分からないものに、ある意味とりつかれて、非常にエエ感じに咆哮するシーン終わり。以下、シーン2「始まらない始まり」。え~、場所はプロレスジム。例の結婚紹介所の高橋さんが、プロレスの練習をしていた所に、再び中村くんがやってきた所。

中村くん ええ!!?
高橋さん っしゃ! おらー!
中村くん いた。え? いたい。これ、痛い。
高橋さん 勝手に神聖なリングの上にはいってくるんじゃねえってんだよっ。しゃーこら!
中村くん あ、すんません。
高橋さん よしこいや、こら!

と、袖にあった、マイクを取り出し、マイクパフォーマンスを始める。

高橋さん なんだこら! このへなちょこうんこやろー。わざわざこんなとこまで来やがって。なんのようだってんだ! こら!

がっこんと、マイクを中村くんに投げつける。

中村くん いや、すいません。ちょっと。

高橋さん、モンゴリアンチョップ!
中村くんに、ナイスヒット!
倒れ込んだ中村くんに、こっそりと。

高橋さん マイク使って。マイク!
中村くん あ、はい。

と、マイクを拾う。

中村くん あ、なんかしっくりくる。
高橋さん よしこいよしこい!
中村くん なんか、こう、きた。
高橋さん よっしゃこいやあああああ!
中村くん この!

ピーーーーー!

高橋さん え……。

と、急にしおらしくなる。

中村くん おめーなんか!

ぴぴーーー!

中村くん で、

ぴぴーーーーーーーー!

中村くん この!

ぴーー!
急に暗転。
素敵な音楽が鳴る。
少しして、明転。

土下座している中村くん。
何故か紅潮している高橋さん。

中村くん す、すいませんでした。
高橋さん いいよぉん。あんた。すげー。
中村くん マイクを持ったら、別人格だとか、なんか、そういうコト言ってすいませんでした。
高橋さん くるよ。びんびん。はふん。
中村くん その上、マイクで、あんなことや、こんなこと。
高橋さん はふん!
中村くん そのうえ、

ぴーーーーー!
暗転。
明転。
袖に向かって、頭を地面にぴったりくっつけて謝っている中村くん。
高橋さんも、紅潮を隠しながら、きちんと座っている。

高橋さん で、何のよう?
中村くん あ、

と、高橋さんの前に座る。

中村くん いや、お昼の人のコトで。
高橋さん こ、困るのよね~。仕事と、プライベートは、別な人なの、ワタシ。
中村くん ええ。
高橋さん お昼は、OL。夜は女子プロレスラー。ね? 違うでしょ? ワタシ。
中村くん ええ。
高橋さん あなたのお昼は?
中村くん 寝てます。
高橋さん 夜は?
中村くん ……。

中村くん、どこかをちらっと見て、気を遣い。

中村くん 寝てます。
高橋さん ……。
中村くん すいません。
高橋さん いや、こっちこそ、……なんか、ごめんなさい。
中村くん ……。

きまずい間。

中村くん それで、この人のコトなんですけど。
高橋さん いや、だから、亡くなってるんですって。だから、申し訳ありませんって。
中村くん いや、そうなんですけど。
高橋さん ワタシ?
中村くん だれもこの人のこと、知らなくて。
高橋さん え?
中村くん いや、ここの資料の事件現場で、聞き込みして、知り合いを捜したんですけど。
高橋さん ええ~~。
中村くん え?
高橋さん ストーカーじゃん。
中村くん あっ。
高橋さん あっ、って。
中村くん そうか。ストーカーなのか?
高橋さん あの、どうしたいわけ? 聞いて。なに? 犯人でも探し出したいの?
中村くん ……?
高橋さん どういうこと? いったい何で、そんなことしてんのさ。
中村くん いや、会いたいんで。
高橋さん え?
中村くん 彼女に。
高橋さん いや……だから……死んでるんで……。
中村くん ええ。
高橋さん ……。
中村くん 生きてるときの彼女がどうだったのか……。
高橋さん 生きてるとき?
中村くん どんなことを考えて、どんなところにすんでて、どんな友達がいたのか? どんなしゃべり方をしてたのか? 好きなアイドルは? 好きな食べ物は? 嫌いなものは? 知りたい……。
高橋さん はぁ……。
中村くん ス、ストーカーでしょうか?
高橋さん バッチリ。
中村くん や、やっぱり……。
高橋さん なんで?
中村くん え?
高橋さん 資料じゃない。ただの。名前と、住所と、写真。それだけでしょ?
中村くん ええ。
高橋さん なんで?
中村くん ……ただ。
高橋さん ただ?
中村くん 彼女が呼んでる気がするから。
高橋さん ……はぁ……。
中村くん ……。
高橋さん ……。

白い女が後ろに立っている。

中村くん ……。

白い女が、高橋さんに笑いかける。
高橋さんには、白い女が見えているようだ。

中村くん ……?
高橋さん そんなわけないでしょ。
中村くん ……?

高橋さんは、中村くんに話しかけているのだが、白い女をずっと見ている。

高橋さん 彼女は完全に死んだのよ。
中村くん は、はあ。
高橋さん この世にはもう、存在しないの。

白い女が、高橋さんの所へしずしずとやってくる。

高橋さん それでも探したい?
中村くん ……。
高橋さん どうなの?
中村くん ……探したい。

白い女が、高橋さんの後ろに立った。
そして、ほくそえんだ。

高橋さん いいわ。手伝ってあげる。
中村くん え?
高橋さん 証明してあげる。彼女はもうどこにもいないって。
中村くん は、はあ。
高橋さん ひゃははははっはは!

と、大笑い。

中村くん あ……あの???
高橋さん よし、行くぞ!!
中村くん は、はあ……?

高橋さん、中村くんを引きずるように去る。

白い女 以上、妙にハイテンションな姿を見て、人間って多面性だよね。人殺しだって、いつも人を殺したいわけじゃなくて、赤い羽根募金をする時もあるよね。だから何?っていわれると困るよねのシーン終わり。以下、再び山の中、すっかり宴会モードのしかばねと、男です。さあ、どうぞ~~!!

男が大きく手を振ってやってくる。

男 いや~~~、ど~もど~も~!!
しかばね ひゅーひゅー!
男 16番、とある地方都市の、さびれた繁華街、B丁で、ライブハウスのオーナーをやってるYさんのものまねしま~~す。
しかばね いいぞ~~!!
男 
しかばね で?
男 ……。
しかばね 落ちは?
男 よっ! でました、関西人オチは? アアターック!
しかばね センキュッ!
男 さあ、じゃ、そのノリで、出口をおしえてみようか~~!
しかばね ……。

と、急にしらふな顔になる。

男 ええ~~。
しかばね いや、だからさ~。自分さ~。聞いてた? 人の話。
男 いや、まあ。
しかばね そういうところあるよね。なんか、ノリでごまかそうとするところ、ちょっとダメだと思うよ。ホント。大人でしょ?
男 いや。はい。
しかばね だいたいさ~。努力した? 探す努力。探そうという気持ち? まずそれがみえないよね。
男 はい、さーせん。
しかばね ほら、そうやってさあ。なんか、適当にあいずちうってればさあ。なんか、すむとおもってない?
男 いや、だってわかんないんすもん。
しかばね ああ!?
男 いや、なんか探せっていわれても。
しかばね ああ。
男 わかんないんすもん。
しかばね わかんねえじゃねよ。だから、ちっとは考えろってんだよ。
男 も~、ええ? おもんないわ。
しかばね おもんないとかちゃうって!
男 いや、もうええし。なにこれ?
しかばね いや、だからヒント。
男 いや、本気でわからへんから。
しかばね いや、だから今の中にかなりあるし。
男 なに? まず、意図がわからへん。
しかばね 自分、生きてるねんやろ?
男 ああ。ああ?
しかばね そもそもね。答えっていうのはね。すでに問いの中にあるものでしょ? つまり、問題というものには、常に答えが含まれているわけ。むしろ、一緒なの? 問題=答えっていうことよ。
男 ワタシをサガシテの中に答えが?
しかばね あると思います!
男 ん~~~~……。

男、一度去り、たわしを持ってきて渡す。

しかばね どうする? 次のシーンいっとく?
男 あ、はい。以上、特に意味はなさげだけど、深夜3時に矢吹春菜のセクシーショット映像を見ながら、変なテンションで書いたっぽいシーン終わり。
しかばね っていうわけで、引き続き山の中のシーンがこの感じで12日間続いた後。
男 12日間!?
しかばね その様子を……。
高橋さん その様子をじっと見ていた女。それは誰なのか? それはあまり重要ではなく、繰り返されるその言葉が重要だったりする。
しかばね え?

高橋さんが来ている。

高橋さん 彼女は、2度死んだ。
男 2度。
高橋さん テレビとインターネット。彼女の生活の中心。高校を卒業してから、布団の上が生活の全て。布団の上で生活をした。ゆっくりと彼女は死んでいった。
男 いけるしかばね……。

男と高橋さんが去る。

スポット。
しかばねが布団の上でごろごろしている。

しかばね ……。ふえ~~~。

中村くんと、高橋さんがやってくる。

しかばね これから、途中から出てきたっていうか、本当はさいしょっから、彼女以外の人間は全く出てきていないのだけど、え~、高橋さん、例の結婚相談所の女の人です。覚えてますか?と、中村くんが、彼女の部屋へやってきた所と、その彼女が、住んでいる部屋で、ごろごろしてた頃の感じを、めんどくさいのでいっしょにやります。

中村くん 暗い……。いたっ。

高橋さんが、電気をつけたようだ。

中村くん あ、そこか、電気。
高橋さん かびくさい……。
中村くん ここが、彼女の部屋。
高橋さん 布団もそのまんま。
中村くん テレビとパソコンしかない……。

しかばね 最後になったら分かるんだけど、っていうか、もうめんどくさいから、ここでネタ晴らしするんだけど、まあ、この話は、ワタシの頭の中で全部起きてることであって、山の中っていうのは、ワタシの頭の中の比喩であって。

中村くん あ、そうなの?
高橋さん なに?
中村くん いや。
高橋さん 気が済んだ? お墓も見たし、事件現場も見たし、これで充分でしょ?
中村くん これ……。

と、隅の段ボールから、ノートパソコンを見つけた。

高橋さん あ……。
中村くん パソコンや。
高橋さん ちょっ。なにしてんの?
中村くん いや、電源はいるかとおもて。
高橋さん ちょっ。
中村くん え? なんで止めるん?

しかばね 2001年9月11日。ワタシは誰に話しかけているのだろうか? ワタシはこのインターネット上に言葉を書いて、なにをしているのだろうか? ふとした瞬間、ここに自分が依存しているのではないかという瞬間がある。誰でもない、でも誰かに言葉を求めている。世界は、インターネットで広がった分、人の孤独も広がったんじゃないだろうか?

男 ちゅ~~~ん。
高橋さん どっか~~~ん。

と、二人が手で、飛行機と、崩れるビルを表現する。
しかばねは、それを見ている。

男 ちゅわ~~~ん。
高橋さん どっか~~~~~ん!!

しかばねは呆然とそれ眺めている。

しかばね 世界は終わった!!

と、しかばねは立ち上がって去る。

中村くん 9月11日以降は、ブログにアップせずに、パソコンに保存してるだけだ。
高橋さん 人のパソコン覗くって悪趣味じゃない?
中村くん けど、ここに、彼女の全てがある。
高橋さん ちがうでしょ。データでしょ。
中村くん 彼女が考えていることを書き続けた物でしょ?
高橋さん ……。
中村くん なんか、その後は、不満しかかいてない。結局、布団の上の生活が続いたみたいで。結局自分への自己嫌悪ばっかり。
高橋さん そんなもん、ただの愚痴でしょ? ほらな。なんもないねん。行こう。な? ほら、いくで。

高橋さんが去る。
白い女がやってくる。

男 どっちが君か? つまりワタシなのか?
白い女 どっちって?
男 この言葉達は君の分身。でも、君はもう、ここにはいない。なら、この言葉達はなんなのか? 君自身ではない。
白い女 これはワタシじゃない。
男 ブログに書きつづった言葉は、所詮、かまってほしい。わかってほしい。孤独の昇華。世界に向けての独り言。なにもいやされないマスターベーション。
白い女 布団の上のワタシもワタシじゃない。
男 君はどこにいるのか?
白い女 ワタシヲサガシテ。
男 キミハドコニモイナイ。
白い女 ワタシハドコニモイナイ。
男 君は君以外の物になりたかった。
白い女 ダカラ。
男 ダカラ。

高橋さんが戻ってくる。

高橋さん なにしてんの!? はよう、行こうって!
中村くん え~っと、彼女はどこにいるんでしょう?
高橋さん え?
中村くん 彼女に会いたいんです。
高橋さん いや、だからさ、知ってるわけないじゃん。ワタシが。
中村くん 知らないはずがないんですよ。
高橋さん え……?
中村くん あなたはこういいましたよね。ボクに向かって、ストーカーかって。
高橋さん そ、そうよ。だって、そうでしょ? 彼女のコト、こそこそかぎまわって。
中村くん 普通死んでる人に、ストーカーって使わないですよね。
高橋さん そ、それは、なんていうか、言葉のあやじゃない。
中村くん あなたは、彼女が生きているのを知ってるんじゃないか? そう思った訳ですよ。ま、もしかしてですけど。ボクとしては、大問題な訳ですよ。あなたがいうには、100%運命の人なんだから。
高橋さん はは。

間。

高橋さん ……。
中村くん あなたが、彼女なんでしょ?
高橋さん …なにいってんの? そんなわけないじゃん。
中村くん ……。

しかばねがやってきて、じっと座っている。

中村くん この部屋のスイッチどこにありました?
高橋さん え?
中村くん 真っ暗でよくわかりましたね。
高橋さん え? いや……。
中村くん ここ来るの初めてっていってましたよね。
高橋さん いや……。でも、それだけで。
中村くん そもそも、あなたのコトを調べたら、なにも出てこないんですよ。
高橋さん え?
中村くん あの事件の前、あなたの情報がまったく出てこない。
高橋さん ……。
中村くん 被害者の名前とあなたの名前が一緒だった。
高橋さん ……。
中村くん 簡単なことだった。まさか、別人とは思いませんからね。被害者が。
高橋さん ストーカーじゃん。なんでワタシのことなんか調べるのよ。
中村くん なんたって、運命100%の人なんでしょ? ボクとあなた。
高橋さん ……。
中村くん 見つけた。この中に、この紙の中に。ありのままの彼女を。
高橋さん そんなの嘘でしょ。
中村くん この紙に書いてあることは。普段のあなたが認めたくない事実ばかりでしょ? 普通、こういうのって、ちょっとよく書くもんですよ。でも、ひたすらここにかかれているのはネガティブなことばかり。
高橋さん だからなに?
中村くん まんまと、事件を利用して、自分が死んだことにして、まわりをだました。幸い、家族もいないあなたは簡単にそれができた。このブログの中には、ひたすら言葉が出てくる。

しかばね うまれてこなければよかった。

中村くん でも、あなたは、ここの中に、バーチャルな世界に、あなたは昔の自分を残した。ブログでの、みせかけじゃない、ほんとうの彼女を。
高橋さん だからなに? たいしたことないじゃない。
中村くん ボクはこの彼女に会いたい。
高橋さん だから言ったでしょ? 死んだの。死んだんだって!!
中村くん 彼女を殺したのは、殺人犯でも、社会でも、無責任な大人でも、テロリストでも、誰でもない。彼女自身だ。
高橋さん みんなそうでしょ? みんな偽ってるのよ。それが悪い? みんな自分を殺してるの。
中村くん ボクは彼女に会いたい。
高橋さん 残念。ご愁傷様!! もうワタシは昔のワタシじゃない。
中村くん それでいいの?
高橋さん 分かるでしょ? 生きてるから。ワタシ。
中村くん ……。生きられないなら、生きなければええやん。
高橋さん あほちゃう。
中村くん どうしても? だめ?
高橋さん 世間に認められない人間は生きてはいけないのよ。
中村くん そう。

中村くん、高橋さんに近寄った。

高橋さん 何?
男 さよなら。

と、高橋さんを殺した。

男 なんか、ぐちゃぐちゃになってもうた……。
しかばね あ~あ。
男 ……。
しかばね 殺しちゃったね。
男 ま、最初から死んでたんだから。
しかばね ね、なんで分かったの。なんか、よくわからなかったんだけど。
男 最初っから分かってたよ。
しかばね え? どういうこと?
男 ボクがあの事件の犯人だから。
しかばね あ~~。なるほど。
男 ははは。
しかばね で、ついでに殺しちゃったの? 新しいワタシも。
男 ん~~。ちゃうわ。あのときは、殺さないと、行けなかったから。世界を。
しかばね ああ?
男 なんでかな? 一緒でしょ。彼女もボクも。
しかばね どいうこと?
男 彼女は自分を殺した。ボクは自分以外を殺した。違いはないよ。
しかばね メーワクじゃん♪
男 誰が?
しかばね え~。
男 ボクは迷惑じゃないし。
しかばね げ~。
男 ははは。
しかばね ワタシ殺されたら迷惑じゃん。
男 ボクは迷惑じゃない。
しかばね なんで殺すのさ~~。
男 それは……。
しかばね 分かった!
男 なに?
しかばね 台本に書いてたからだ!!
男 はははは! ちがいない!!
しかばね で、どうする? ワタシも殺す?
男 ボクには、もう、君は殺せない。
しかばね なんで?
男 君はもう、ボクの一部だから。
しかばね なんだ~。残念。
男 大丈夫。社会がボクを殺す。でも、ボクももう、社会の一部だからね。
しかばね おおー。かっけーー。
男 永遠に死なないよ。ボクはもう。どこにでもいる。
しかばね ワタシも。
男 君も。少なくとも、今、僕らを見ている人たちの中ではね。
しかばね おおーーー。そうかな?
男 わかんね。つまんねっておもって。忘れちゃうかもね。
しかばね がび~~ん。
男 ま、終わろうか。そろそろ。
白い女 以上、ある女が、殺人事件を通して、自分を偽り、新しい自分になったけども、もう一人の自分に殺されたお話終わり。
男 結局、何が言いたかったかっていうと、秋葉原無差別殺人事件をモチーフにとって、いった、犯人の中で何が起きていたのかっていうことを、わかりやすくやってみましたっていうことでした。ま、ワタシはすでにシンデイル。この世はスデに、シンデいる。え~、公演終了後、ご歓談タイムになります。お急ぎでない方は、フロアを開放します。舞台上も開放いたします。どうぞ、ご自由に今見た芝居の話でもいいですし、関係ない話でもいいです。誰でも捕まえて話をしてもらってもかまいません。終わった後、ああだったこうだったっていう話ほど、楽しい物はナイですから。それを含めて、フライングフィッシュソーセージクラブ第二回公演「時間です。」以上、シーン5「始まりの終わり」終了。

ぺこんと、頭を下げて、3人去る。

〈了〉

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?