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【長編戯曲】夏の皮膚

夏の皮膚


◎登場人物
ともひろ あの母親の息子
ゆき   ともひろの姉
さつき  ともひろの幼なじみ
かんいち エス地区の現自治会長
ようこ  児童保護施設の職員。
かずみ  エス地区の元自治会長の妻
大仏次郎 大仏歌謡歌手

舞台
舞台は対面二面構造を想定して書いている。
台本の便宜上、舞台Aと、舞台Bと呼ぶこととする。
舞台Aは、周りを柵で区切られ、舞台Bとの境目近くにベンチが一つ置かれている。

◎ 佐田家・キッチンー庭(映像1・朝)
カメラがキッチンに入ってくる。ごく普通の一軒家のキッチン。
ゆきが食事をしている。
ゆき「どしたん、カメラ買うたん? わざわざ運動会の為に? 親馬鹿やん。嘘、撮ってるん? やめてよ。ともひろ? 知らんよ、また外で土掘ってるんちゃうん。庭見た? え、うちが見てくるん?」
ゆきが渋々庭に行く。
カメラもその後をついて行く。
庭に出ると、ヘリコプターの音やカメラのシャッター音、ざわざわとした群衆の声が絶え間なく聞こえてくる。
そして体操服のともひろが庭に何かを埋めていた。
ゆき「ともひろ、またなんか埋めてんの」
ともひろ、わずらわしそうに振り返る。
ゆき「ほれ、あんた体操服汚れるやろ。やめ」
ともひろ(子供)「うるさいなあ」
ゆき「あんた、運動会やる前からどろどろなってどないするんよ。はよご飯たべぇ」
ともひろ(子供)「分かったよ。これ埋めたら」
ゆき「はよしい」
ともひろ(子供)、渋々地面を埋め始まる。
ゆき「あんた、今日は何にでるんよ」
ともひろ(子供)「100メートル走と、綱引き」
ゆき「ほんま。ほな午後からやんね」
ともひろ(子供)「うん」
ゆき「ほしたら、お昼から行ったらええね」
ともひろ(子供)「はぁ。お姉ちゃん来るん」
ゆき「行くよ。弟の運動会やで」
ともひろ(子供)「来んでええよ」
ゆき「なに言うてるんよ」
ともひろ(子供)「恥ずかしわ」
ゆき「あんた、恥ずかしてどういう事よ」
ゆきがともひろ(子供)をぶった。
ともひろ(子供)「いたっ」
ゆき「生意気や」
ともひろ(子供)「なんや、うっせえブス」
ゆき「なんや、このクソガキィ」
ゆきと、ともひろ(子供)が、喧嘩を始める。
そして、二人が、庭からどたばたと去ってゆく。
誰も居なくなった庭。そのせいか、余計にヘリコプターの音や、周りの音が響く。
チャイムの音がする。どんどんどんとドアを叩く音。
男の声「佐田さん。南警察署のモノです」
チャイムの音、ヘリコプターの音、周りの騒音が続いている。
映像が消えた。

 1
舞台Aに、映像1が映し出されている。
ゆきが舞台Aの内側で、柵の間にアザミの花を置いている。

舞台Bに、大仏のマスクを被ってた男(大仏次郎)がじっとゆきの様子を眺めている。ベンチの横には大仏次郎の鞄。
舞台Bには、まだ映像1が流れている。
ゆきはアザミの花を一つ持って舞台Aへ、空気のドアを開けて、入ってくるマイムをする。

ゆき ただいま。

そこが見えない家であるように、部屋を覗いていく仕草をする。
映像1が終わる。
ゆきが最後のアザミの花を舞台の真ん中に置いた。

ゆき ママ。

大仏次郎 なにしてるんだ。さあ行こう。ここはもう君の場所じゃないんだ。

じりじりと近づいてくる大仏に、恐ろしくて、後ずさりするゆき、やがて逃げ去る。

大仏次郎 おいっ、

慌てて追いかける、大仏次郎。

少しして佐田ともひろと、少し遅れて伊能さつきがやってくる。
さつきは、サングラスをして杖をついており、目が見えないようである。

さつき ともひろ。ちょっと待って。
ともひろ ついてくるなって。

ともひろ、さつきを置いていこうとするが、さつきが困っている様子を見て仕方なく手を取って連れてくる。

さつき なあ、ええの。
ともひろ 何が。
さつき また施設抜け出したんやろ。
ともひろ んん。
さつき また殴られるで。
ともひろ そんなん恐ないわ。

ともひろ、舞台Aに入っていくが、さつきは立ち止まって入ってこない。

さつき ここは?
ともひろ 元オレん家。

ともひろ、さつきを置いて舞台Aに入っていく。

さつき ちょっと置いてかないで。
ともひろ もうほっといてえや。

さつきは柵をたよりに遠回りして舞台Bに移動する。

さつき あんたのこと心配していうてるんやんか。

ともひろはベンチの上に座禅を組んで、瞑想でもするように、集中し始める。

さつき ちょっと、何してんの。

ともひろは答えない。
さつきは、あたりを見渡し、

さつき ともくん、ともくん。
ともひろ なんな。
さつき なんでここなん。
ともひろ 待ち合わせ場所。
さつき 待ち合わせ? 誰か来るん。
ともひろ オレが。
さつき は。
ともひろ 20年経っても。ここは変われへんやろ。
さつき なに言うてんの。
ともひろ もうええわ。
さつき なんよ。

間。

さつき 一回だけな、中にはいったことあるんよ。あんたんち、結構おおきいておもちゃあったけどなぁ。ともくん、よう穴つくって怒られちゃあったな。あん人に。な、あれなんか埋めちゃあったんやろ。何埋めとったん。なあ、なあて。怒ったん。なあて。(声が震えだす)なあ、無視せんといてよぉ。

さつきが、後ろを向いて肩を震わせる。
ともひろが薄目をあけて、さつきの様子を見た。

ともひろ なんなよ。

さつき、ティッシュで鼻をかむ。

ともひろ なんやそれ。
さつき 夏風邪引いてん。体はええねんけど、鼻水がとまらんのよ。もしかして泣いてるとか思た。
ともひろ 別におもてへんわ。
さつき なんな、おもんな。
ともひろ あんなあ、オレは真剣なんよ。
さつき 真剣。
ともひろ 邪魔せんで。
さつき 邪魔て、ひど。
ともひろ わり。でもな忙しいんよオレ。
さつき どこがよ、全力でなんもしてへんやん。
ともひろ 集中しとんねん。横でごちゃごちゃいうから、全然集中でけへんやろが。
さつき ごちゃごちゃて。
ともひろ もう帰りいや。集中できん。
さつき 分かった。もうゆわんから。
ともひろ そう。

沈黙。
ともひろが、集中しようとするが、

さつき で、何してたん。
ともひろ もう、黙れって。
さつき それぐらい教えてくれてもええやんか。それ教えてくれたら黙るから。
ともひろ ほんまか。
さつき うん。
ともひろ 笑うなよ。
さつき うん。笑わへん。
ともひろ 絶対笑うわ。
さつき 絶対笑わへん。死んでも笑わへん。
ともひろ ほんまか。
さつき 神様に誓って笑わへん。
ともひろ 神様らおらんわ。
さつき じゃあ愛に誓って。
ともひろ 愛って。
さつき 乙女の愛は神様よりも貴重なんやで。
ともひろ まあええわ。絶対笑うなよ。
さつき はよ言うてよ。
ともひろ タイムマシーン待っててん。

間。

ともひろ だからな、タイムマシーン待っててんて。

間。

ともひろ もうええわ。
さつき なんよ。
ともひろ 馬鹿にしちゃあるわ。
さつき してないしてない。笑うのも我慢してる。
ともひろ 我慢してるやん。
さつき せやで。タイムマシンな。(少し笑う)
ともひろ もう、ほっといてや。
さつき ちゃんと教えてや、私ちゃんと笑ってへんやんか。(少し笑う)どういうことよ、タイムマシーンて。
ともひろ 今、笑ってるやんか。
さつき ちゃうて。夏風邪で鼻ムズムズするだけやから。
ともひろ ほんまかよ。
さつき ちゃんと教えてよ。(大爆笑)
ともひろ 笑ってるやんか。
さつき ごめんて。ちゃんと聞くから。
ともひろ あんな、ワイは今必死によ、将来な。タイムマシーンをな、発明するっちゅういうことをな、決心しちゃあったんよ。
さつき うん。
ともひろ つうか、もう作るんよ。
さつき 無理やん。あんたアホやん。
ともひろ アホいうな。
さつき タイムマシーンとか、めっちゃ頭ようないとあかんのちゃうん。
ともひろ アインシュタインかてな。学校やったら0点ばっかの落ちこぼれさんやってんぞ。
さつき うん。
ともひろ そのアインシュタインのな、相対性理論やとやぁ、タイムマシーンも理論的にはできんのよ。
さつき うん。
ともひろ そいでな、将来ワイはそのタイムマシーンに乗ってやぁ、過去を変えるということをもうそりゃもう、カチンコチンに思た。つうか思てた。
さつき うん。
ともひろ せやったら、今のオレでもよ、過去変えられるやろ。
さつき うん。
ともひろ わかったか。
さつき さっぱり。
ともひろ おい。
さつき 意味分からへん。
ともひろ 別に期待してへんわ。

舞台Bに神内ようこが現れる。

ようこ 理論的にはおうちゃあるんやけどね。
さつき ひやっ。

ようこの登場に、ともひろも、びくっとなり、それから先ほどとは違い、明らかに緊張している様子。

ようこ こんにちわ。暑なったね。
さつき はあ、どうも。
ようこ どしたん、珍しねぇ。
さつき ずっといたんですか。
ようこ うん。二人が抱き合って「君を離さないよ」「ええ、私も」ってとこからかな。
さつき そんなんしてへんよ。
ようこ ほしたら、何してたん。

ともひろは片目をあけてその様子を見ていたが、慌てて瞑想しているフリに戻る。

ようこ 佐田君、何しちゃあんの。

と、ともひろに話しかける。

ようこ 暑いねぇ。
ともひろ ……。
ようこ あら、無視。
さつき 連れ戻しに来たんですか。
ようこ 別に。
さつき 怒らへんの。
ようこ なんで怒るんよ。
さつき いや。
ようこ 勝手に外でたん? ええんちゃう。施設おもろないんやろ。なんやおもろい光景やおもて来てみたらな、おもろいこというてるし。
さつき おもろいて。
ようこ つまり、佐田君がいうちゃあるんは、過去を変えたいっちゅうことなんよ。
さつき はあ。
ようこ 青いよね。青春やよね。私もようおもったよ、あんときああしちゃあったらなあとか。
さつき そういうことなん。

間。
ともひろ、小さく頷く。

ようこ それを本気でやろうっちゅう、その馬鹿馬鹿しいまでの青さってキュンてなるよ。な、佐田君。なんで過去変えたいん。自分がなんか変えられるとおもてんの。もしかしてなんか知ってるからそうおもてんの。
さつき やめて。
ようこ 教えてよ。さつきちゃんの為に。あの母親のせえやもんなあ。
さつき なあ、ともひろ。もう行こう。

さつき、ともひろの体を掴む。

ともひろ 待って。
さつき なん。
ともひろ 音。
ようこ 音。

先程から、小さく太鼓の音が聞こえていた。

ともひろ 太鼓の音。夏祭りの音。
さつき ほんまや。

太鼓の音、テンテケテンテケテケテケテンッ。

ともひろ 来た。来たんか。
ようこ 何が。
ともひろ やった、やったか。

井出かんいちがきょろきょろと誰かを捜している様子で舞台Aにやってくる。

かんいち お。
ようこ あ。
かんいち なにやってんのな、おまん。
ようこ なんでもええでしょ。あんたこそ、何。こげなとこに。
かんいち 祭りの準備や。
ようこ この太鼓の音、やっぱそうなん。
かんいち せや、今、太鼓のリハーサルいうやっちゃな。もうすぐやさけな。
ともひろ あの、あれは、
かんいち ん、君は。
ともひろ 祭りは、
かんいち 10年ぶりにな、夏祭りをな、やることになってなぁ。
ともひろ 10年ぶり。
かんいち せや。

ともひろ、とぼとぼと去る。

さつき ちょっと待ってよ。

さつきも、慌ててともひろの後を追って去る。

ようこ ああ、行ってもた。
かんいち なあ。あれ、もしかして。
ようこ そ、あん女の息子よ。
かんいち なんでここらへんうろちょろさせちゃあるんや。おまん、施設の職員になったんやろ。
ようこ 別にええやんか。ここはあの子の家やったとこやからね。
かんいち 今はちゃうやろ。
ようこ やっぱここがええんちゃう。過去変えるんやと。
かんいち 過去変えるて。
ようこ タイムマシーンやって。
かんいち タイムマシーン。
ようこ そ。
かんいち 頭沸いとんか。
ようこ かもね。分からんよ。ほんまに出来るかもしれんよ。
かんいち あほぬかせ。
ようこ あんたは困るか、過去変えられたらな。唯一あの事件で得をした人間やもんな。
かんいち 何や。
ようこ なんで夏祭りなん。
かんいち ん。
ようこ なんでよ今更やん。
かんいち おまんは関係あらへんやろが。
ようこ なんよぉそれ、ひっどぉ。
かんいち 必要なんや祭りが。こん地区にはな、それだけや。
ようこ どういうことよ。必要て。
かんいち おまんはこんエス地区の人間とちゃうさけ、分からんねや。
ようこ つめたっ。ご近所さんやんかぁ。
かんいち おまん、何を探っちゃある。何がしたいんや。やめろや。ただでさえ、今、ごちゃごちゃしちゃあるんや。
ようこ ごちゃごちゃしちゃあるからやんか。
かんいち なんでや。
ようこ おもろてたまらんわ。
かんいち おまん。
ようこ くそなまいきなガキ相手の毎日はおもろないんよ。あんたもなんか考えとるんやろ。聞かせてや。やっぱ政治家か。次の市長選出るてな。どうせこれで話題作ろいう腹やろ。ちゃうか。
かんいち おまんこすいの。
ようこ はらぐろ自治会長にはまけるわ。
かんいち わりあわんで、これはよ。
ようこ ほうか。
かんいち やっぱ大奥様の影響はでかいで。ただ単に前の自治会長の奥さんやてだけちゃうからな。それを説得するんにどれだけわいが苦労したかよお。
ようこ せやな。あの大奥様がようのったな。どないな手つこたん。
かんいち おまん祭りのチラシみたろ。
ようこ ああ、あん人か。
かんいち 大変やったんやぞ。呼ぶのにえらい苦労したわ。
ようこ 前から見てみたかったんよ。えらい噂やさけ。
かんいち わいはよう知らんのやけどよ。あの大奥様が一言で落ちるて、そがいにすごいんかそのおっさんは。
ようこ 知らんの。世界中で大人気やで。大仏ダンスいうて、アメリカの大統領の子供も真似するぐらいよ。
かんいち ほんまけ、そらすごいな。
ようこ けど大丈夫なん?
かんいち なんがや。
ようこ 最近偽物出てるらしで。お金先払わせてけえへんっていう。ニュースでいうてたわ。
かんいち おいよ。ほんまかいや。

そこへマスクを被った大仏次郎が戻ってくる。

大仏次郎 ああ、あったあった。

と、鞄を拾い上げる。
二人は大仏次郎に釘付けになっている。

ようこ ほんもんやったら問題ないやろけど。
かんいち ほんまか。で、御利益仏造(ごりやくぶつぞう)いうんは、どんな奴な。
ようこ 私もあんまりようしらんのやけど。
かんいち なんやそれ。
ようこ なんや仏陀の生まれ変わりやいうて、変な歌うたうて。
かんいち ほうか。
大仏次郎 どうでもいいって、なんだよ。息しづれえんだよ。くそっ。

と地面に叩きつけ、頭に手をやり、男泣きしているようだ。

大仏次郎 訳わかんねよ。くそっ。くそっ。
かんいち どう思う。
ようこ 独り言でかって。
かんいち そら見たら分かるて。
ようこ 何。
かんいち これが、御利益仏造か。
ようこ まあ大仏感はあるなぁ。

大仏次郎と目が合う二人。
大仏次郎、慌てて鞄から新しいマスクを被り体裁を整える。

かんいち ちょっと聞いてみてくれや。
ようこ わたしが?
かんいち 頼むわ。
ようこ なんでよ。自分で行きいよ。
かんいち なんちゅうたらええんよ。
ようこ そんなんすいません言うたらええやんか。

大仏次郎と目が合う二人。

かんいち どうも。自治会長の井出いいます。

大仏次郎、顔はこっちを見ているが、しばらく何も言わない。

大仏次郎 ど、どうも。
かんいち あの、どうかしはったんですか。

大仏次郎、崩れ落ちるようにつっぷし泣き出したようだ。
かんいち、ようこの方を困って見るが、ようこはしらんぷり。
そこへ、さつきが入ってくる。

さつき あの。
大仏次郎 あああ。
さつき 何。
かんいち どげんした。
さつき ママが。
ようこ 大奥様が。
かんいち どないしたんや。
さつき あのどこにもに居ないんです。
ようこ そう。
かんいち おいおい。
さつき ちょっと心配で。
ようこ そう。
かんいち いやいや。困るで、もう祭りの挨拶してもらうねんから。
ようこ ああ。
さつき なんか最近変やったし。ちょっと。
かんいち いつからよ。
さつき 今さっきやと。まだそこらへんにいると思うんですけど。
かんいち とりあえず探さんと。ちょっとすんません。ここで待っとってください。
ようこ 行くん。

かんいちと、さつき、慌てて去る。
とりのこされるようこと大仏次郎。

ようこ あの、大丈夫ですか。なんか大変そうですけど。

大仏次郎、仰向けになる。

大仏次郎 そちらこそ。
ようこ ああ、なんかね。
大仏次郎 雲はゆっくり流れてるのにねぇ。
ようこ 中学生みたいなこと言うてへんと、ベンチでも座ったほうがええんちゃいます。
大仏次郎 そのとおりですね。

と、ベンチに座り込む。

大仏次郎 あなたも行かなくていいんですか。
ようこ うちは関係ないし。
大仏次郎 そうなんですか。
ようこ 頭の狂た70のばあさんが徘徊してもな、そないたいしたことないやろ。
大仏次郎 なるほど。
ようこ そっちは。
大仏次郎 はい。
ようこ みしてえよ。
大仏次郎 何をですか。
ようこ あれあれ。
大仏次郎 あれ。
ようこ ほら噂の。
大仏次郎 あれですか。
ようこ そうそう。
大仏次郎 よう知ってましたね。
ようこ 噂だけやよ。
大仏次郎 そうなんですか。
ようこ 私、意外とそういうん好きやから。
大仏次郎 結構前に一回ここにも来たことあるんですよ。うれしいなあ。
ようこ そうなん。
大仏次郎 ええ、
ようこ せやったらな。お願い。
大仏次郎 ここで。
ようこ あかん?
大仏次郎 できない事はないですけど。では。ん、んん。

と、発声練習をしだす。

ようこ なにしてるん。
大仏次郎 準備です。
ようこ そう。
大仏次郎 では、まいります。

と、鞄からマイクを取り出し歌い始める。

大仏次郎 よしなよしいなあーああーとおー♪ その声ひびいくうー♪ おふくろー声だけえー山超え、野超えーーー♪
ようこ ちょっとちょっと。
大仏次郎 はい。
ようこ なんそれ。
大仏次郎 私の十八番「錦慕情」ですけど。
ようこ なんかオーラとか予知とかは。
大仏次郎 なんですか。それ。
ようこ あんた伝説の占い師ちゃうん。
大仏次郎 違いますよ。
ようこ じゃあんたは。
大仏次郎 どうも、芸名、大仏次郎。さすらいの歌謡歌手です。どうも。記念にコレどうぞ。

とさきほどまでかぶっていたマスクをようこに渡す。

ようこ は、はぁ。
大仏次郎 御利益がありますよ。
ようこ 祭りのとちゃうの。
大仏次郎 祭り? なにですか。
ようこ そう。

ともひろが公園側から入ってくる。

ようこ やっぱり戻ってきた。
ともひろ まだおったんや。
ようこ さっきの娘、もう一緒ちゃうんかってんね。
ともひろ 別に関係ないし。
ようこ そう。さ、戻ろか

ようこ、去ろうとする。

大仏次郎 あの、女の人見ませんでした。
ようこ 女の人。ようけおるよ。
大仏次郎 ゆきって。あの。
ようこ ああ。あの人殺しの娘の。
大仏次郎 そう。
ともひろ おらんよ。おるわけないわ。
大仏次郎 はあ。

と、急に怒鳴ったともひろをみて、にやっと笑って、ようこは去る。
ともひろも去ろうとするが、

大仏次郎 あの。
ともひろ さあ。
大仏次郎 ここはどういうとこなんですか。
ともひろ 地獄。
大仏次郎 地獄?
ともひろ 鬼がうろうろしとる。
大仏次郎 鬼。
ともひろ きいつけな殺される。
大仏次郎 それはそれは。

ともひろも去る。
しばらく呆然としている大仏次郎。

大仏次郎 帰ろっかな。

と逃げ去ろうとすると空き地側に髪を振り乱して鬼のような形相の伊能かずみが現れる。

かずみ 助けてぇ。
大仏次郎 で、でたぁ。

と、慌てて逃げようとして足がもつれてこける。

かずみ 逃げるん。
大仏次郎 いや。その。
かずみ あんた神様なんでしょ。
大仏次郎 はい?
かずみ あんたは知っちゃある。
大仏次郎 な、なに。
かずみ 答え、答えを。
大仏次郎 答え、な、なに。
かずみ ごめんなさい。
大仏次郎 何を。

かずみ、隠していた角材で大仏次郎の頭を殴る。
失神する、大仏次郎。
そして、かずみ、大仏次郎をずりずりと引っ張って去る。
太鼓の音はいつの間にか、やんでいる。
そして誰もいなくなり、しばらくしてかんいちがやって来る。

かんいち あれ。

舞台A暗転。


音があふれてくる。街の音。
猫があくびでもして、誰かが、庭で体操でもしてて、玄関で大きな声で誰かを呼んでて、子供がはしゃいで。

薄暗い。
舞台Bに明かりが一つ差し込んでくる。
そこに、腕を縛られた大仏次郎がいる。
大仏次郎は、大仏のマスクを被っているのだが、頭が逆になっている。
誰かが奥にいるようだが、暗くてよく見えない。

大仏次郎 いたたた。は、参った。

大仏次郎、驚いて逃げようとするが、うまく動けない。

女の声 誰。
大仏次郎 は、はい。
女の声 なんで縛られてんの。
大仏次郎 それはボクもよく。

女が大仏次郎の近くに来る。
女はさつきである。

大仏次郎 あの、ここはどこなんでしょう。
さつき ここ。うちの蔵やけど。
大仏次郎 ボクはなぜ縛られてるのでしょうか。
さつき それ、さっき私が聞いたやん。
大仏次郎 なるほど。
さつき もしかして、監禁されてる?
大仏次郎 そうなんですか。
さつき 鍵のついてる蔵に閉じこめられてて、縛られてるのを覗けば、非常にくつろいでる感はあるけど。
大仏次郎 なんでしょうねえ、少し落ち着く感じはになめないですよ。
さつき 変態なん。
大仏次郎 いやいや、なんでしょう。遠い過去の記憶が呼び起こされるんでしょうか。昔、小さい頃もこういう事がよくありましたよ。
さつき 閉じこめられて縛られて。
大仏次郎 もっと狭かったですけどねえ、母親が知らないおじさんを連れてくる時は、よく、こうやって押し入れに閉じこめられていたもんですよ。あなた、押し入れ好きですか?
さつき ううん。
大仏次郎 押し入れは、夏はじめじめしてて、冬は恐ろしいほど寒くて、でもだんだん、世界が広がっていくんですよ。そこはボクの宇宙戦艦だったり、ヒーローの秘密基地だったり、秘密の恋人との空間だったり、甘美な空間でしたよ。
さつき ああそう。
大仏次郎 どう思います。
さつき ええんちゃう。
大仏次郎 よくないですよ。ほんとは嫌だったにきまってるじゃないですか。
さつき そう。
大仏次郎 というわけで助けてください。今すぐ。
さつき いや。そう言われても。なんか悪いことしたんでしょ。
大仏次郎 ボクが。
さつき なんもせんかったらこんなことならへんやん。
大仏次郎 本当に何も知りませんよ。何かキチガイみたいなおばさんが、いきなり頭殴られたと思ったら、気づけばこんな愉快な状況ですよ。
さつき ほんとに。
大仏次郎 そもそも、家出した女房捜しに来た、ただの売れない演歌歌手ですよ。ボクは。
さつき ああ。
大仏次郎 それをこんな目にあうなんて。なんてヒドイ場所なんだここは。
さつき そっか。そうなんだ
大仏次郎 勘弁してくださいよ。
さつき じゃあ。
大仏次郎 なんですか。
さつき お祭りのゲストの人やと思たけど。ちゃうんよね。
大仏次郎 ああ。なるほど。違いますよ。なんかさっきも間違えられたみたいですけど。
さつき そっか。
大仏次郎 たぶん来ないですよ。
さつき なんで。
大仏次郎 詐欺でしょ詐欺。最近は仕事が粗いですからねえ、偽物が来るならまだしも、誰も来ないなんてひどい話ですよ。
さつき じゃあお祭りは中止。
大仏次郎 そうじゃないですか。
さつき 助けてほしい?
大仏次郎 いやあ、そりゃ。
さつき ほんじゃあ、助けたらな、お願い聞いてくれる?
大仏次郎 ボクにできることなら、いいんですけど。
さつき 演歌歌手なんでしょ。
大仏次郎 歌謡歌手ですけどね。

足音がする。

さつき 誰か来た。また、来るから。
大仏次郎 そんな。

さつきが、奥に消える。
慌てる大仏次郎。
そこへ、かずみがやってくる。

かずみ どうかしましたか。
大仏次郎 いや。
かずみ ごめんなさいね。誰かに見られるとめんどうなんで。
大仏次郎 はあ。
かずみ あの、こっち見てもらえますか。
大仏次郎 はい。
かずみ どうしても、あんたの協力が必要なんです。
大仏次郎 はあ。またか。
かずみ また。
大仏次郎 いやいや。なんでもないです。
かずみ 祭りであんたには、重要な役目をおってほいんよ。
大仏次郎 はあ。
かずみ もちろん、これは、ええことよ。
大仏次郎 はあ。
かずみ 聞いてますか。
大仏次郎 はい。もう、すっごい。
かずみ じゃ、こっち向いてくださいよ。
大仏次郎 はい。たぶんめっちゃむいてます。
かずみ そう。まあ、ええけど。あなたには、この地区を救ってほしいんよ。
大仏次郎 すくう。
かずみ そう。あなたには知っててほしいんよ。
大仏次郎 何を。
かずみ これから、じっくり見てもらうから。

かずみが、数歩後ろに下がると、舞台Aに、映像が映り始める。

大仏次郎 あの。
かずみ 静かに。

映像はしばらくぼんやりしていたが、徐々に、祭りの会場であることが分かる。

大仏次郎 あの。
かずみ 何。
大仏次郎 全く見えません。

映像、一時停止。
かんいちが、夜店で暇そうにしている様子。

  3
舞台Aには、人が乗る台が一つ。
かんいちが、台に座って、暇そうにしている。
映像が消える。
かんいちが、台の上に立つ。

かんいち んん。本日は、え、お集まり頂き、頂けず。非常に、私は、感慨深くはなく。え、なんでしょう。うぉほん。、無事、この日を迎えられたのも、ひとえに、ここにいない、みなさまのおかげであると、思います。え、みなさんも、長く、苦しい日々を過ごしておられるとは思います。え、しかし、我々はこの苦難を乗り越え、より、結束を堅くし。ますます。

かんいち、大きなため息をついて、台に座る。

かんいち なんじゃこりゃ。あ、こりゃこりゃってかい。

アザミの花を持ったゆき、がやってくる。

ゆき あれ。
かんいち ん。

ゆき、かんいちと目が合い、軽く会釈をする。
かんいちも、誰か分からずにとりあず
会釈してから誰かに気付く。

かんいち ああ。君か。
ゆき これは。
かんいち ああ。祭り。
ゆき お祭り。
かんいち そうや。
ゆき お祭り。
かんいち せや、10年ぶりに復活。
ゆき そっか十年。
かんいち の、はずやったけどな。
ゆき はずやった。
かんいち ああ。見てみ。
ゆき はあ。
かんいち 祭りやってる感じある。
ゆき 全然。井出さん一人だけやし。
かんいち せや。一人でやる祭りを祭りっちゅうか。いんや。ただの馬鹿やろ。
ゆき はあ。
かんいち 誰もけえへんのやわ。
ゆき そうなんですか。
かんいち せや。
ゆき なんでなんですか。
かんいち そら、こっちが聞きたいわ。
ゆき ほいたら、中止。
かんいち それ以前の問題やろ。
ゆき はあ。確かに。
かんいち すまんの。せっかく来てくれたのに。
ゆき ほな。どうも。

ゆき、去ろうとする。

かんいち なんや、もう行くんかいな。
ゆき はあ。
かんいち 祭りに来たんやろ。
ゆき いや。
かんいち ちゃうんかいな。ま、ええやないか。なんや見てきぃや。
ゆき はあ。
かんいち 踊るか。踊ろか。なんやほんまはな、ビックゲストとか呼んどったんやけどな。
ゆき ビックゲスト。
かんいち おう。せや。なんや霊験あらたかな。すっごい霊能力もったなんたらいう人。
ゆき なんたら。
かんいち 田中やら、山田やら、名前なんべん聞いても覚えられへんのやわ。あれやな、ああいう人はもっと分かりやすい名前にせなあかんな。
ゆき 来てるんですか。
かんいち ん。それもどっか行ってけえへんのや。
ゆき だめだそりゃ。
かんいち ほんまやで、だめだそりゃやな。
ゆき はは。
かんいち やっぱ早すぎたか。祭り。
ゆき ああ。
かんいち 10年か、まだ早すぎたんやろか。10年前、君はいくつやった。
ゆき まだ高校生です。
かんいち ほうかなんや結婚したて。
ゆき はい。
かんいち あないかいらし(かわいらし)かったゆきちゃんが結婚か。
ゆき ええ、
かんいち ほうか、そら長いわなあ。
ゆき そうですね。
かんいち ここもな、子供増えたんやで。
ゆき みたいですね。私のしらん子とか新し家もできちゃある。
かんいち せや、新し人も結構はいってきてんよ。
ゆき そうですか。
かんいち けどな。やっぱここは変わってへんかってんで。やっぱまだ思い出すねんて。あの頃、ここに住んじゃあった人間はみな、な。この地区におるやつが犯人やいうて、テレビがこの地区におる人間をむりやりカメラにおさえよとして。いくらにげよとしても、至る所に待ち伏せ。プライベートらあったもんちゃう。誰が犯人か、24時間監視された生活で、こんエス地区はぼろぼろや。でも、10年経ったんや。10年。あの後生まれた子供も小学生になっちゃある。まあ、家族の絆は深なったちゅうことやろか。けど、なんかおかしいんや。人が、集まって喋ってても、なんやちゃうんや。
ゆき そうですか。
かんいち 祭りでおうた傷は祭りでなんとかなるおもたんやけどよ。

小さな沈黙。

ゆき 失敗、ですか。私が、言うんもあれですけど。ちょっと時間が早いだけちゃいますか。ほら、お祭りて夜なってからちゃいますか。
かんいち ちゃう。
ゆき えっ。
かんいち 君が来たからや。なんで帰ってくるんや。なんでや。君がゆっくり、ゆっくり時間が癒してくれてた傷を、いっきにひらいたんや。
ゆき 私が。
かんいち お姉ちゃんのほうまでやったらまだしも。弟の方までうろうろし始めやがる。ぐっちゃぐちゃや。
ゆき ここらへんにともひろ、おるんですか。
かんいち さっき公園に。前、君らの家のあったとこおったよ。なんやぼうっとしちゃあったわ。
ゆき ほうですか。

間。

かんいち わりよ。聞かんかったことにはならんか。わりよ。
ゆき 。一個だけ、ええですか。
かんいち なに。
ゆき こないなとこ、はよ、なくなったらええんよ。
かんいち 昔のまんまや。
ゆき すんません。じゃ。

ゆき、下手に去る。
しばらくがっくり肩を落としている
かんいち。
大仏を被った男が上手に現れる。
男は上半身裸、腕は縄で縛られている。

かんいち ああ来てくれたんか。
大仏 祭り。

かんいちの携帯がなる。

かんいち はい。んん。ん。それ、ほんとか。おう。分かった。

かんいち、携帯を切る。

かんいち はは。ははは。はははは。

太鼓の音が、鐘の音が、響く。
舞台A暗転。

  4
舞台B。布団がそこにある。
ともひろがベッドにうずくまっている。
ともひろは上半身裸である。
布団にもう一人布団に寝ている様子。

ともひろ 大仏が。
ようこ 大仏が。

布団から、ようこが顔を出す。

ともひろ 意味がわからんわ。
ようこ まあ、行ってみた分かるわ。祭り、おもろいことになるんちゃう。いっぺん会うたらええよ。
ともひろ 会う。
ようこ ま、あんたは行けんわな。
ともひろ ええわ。そんなんしょうもない。
ようこ ほんま。懐かしないの。
ともひろ そんなわけないやろ。
ようこ なにい。怒った。
ともひろ もう、ええやん。
ようこ せやせやせや。

ようこ、布団から跳ね起る。
ようこは、いそいそとズボンをはきつつ。

ようこ おもろいもんあったんやわ。
ともひろ なに。

ようこ、どたどたと、出て行き、大仏のマスクを持って、再びやってくる。

ともひろ 何それ。
ようこ ほれ、被ってみ。
ともひろ ああ。
ようこ ええさけ。

と、無理矢理、ともひろに大仏のマスクをかぶせる。

ともひろ くさぃ。

ともひろ、脱ごうとするが、ようこが、阻止する。

ようこ ええから、つけとき。
ともひろ 気持ちわりわ。

ともひろ、再び脱ごうとして、ようこが、かなり強引に阻止する。
ともひろ、抵抗をやめる。
ようこ、マスクをぎちぎちにかぶせつける。

ようこ よし。

ともひろ、うつむいている。
ようこ、くすくすくすくす笑っている。
黙って、ようこの方を見るともひろ。
爆笑するようこ。

ようこ よし、そいで祭り行けるわ。行きたいやろ?
ともひろ 行きたないわ。
ようこ なんで。あんたさっきあそこおったやんか。タイムマシーンて。ばかにしちゃあるんか。あんたが、あの地区に行くっちゅうのが、どないことか分かっちゃあんのか。おまんの顔を見ただけであそこに住んじゃある人らが、どない思うんか、わかっっちゃあんのか。

ようこ、ともひろを蹴り倒す。
されるがままの、ともひろ。

ようこ おまん、あの女と会うためか。
ともひろ ちゃうよ
ようこ ああ。母親の毒で死にかけた娘と、よう、まともに話もできるもんやで。おまんには良心っちゅうもんがないんか。

ようこ、再びう、ともひろを蹴る。

ようこ まあう、ないわな。おまんらには、良心なんかあらへんねん。

ようこ、がんがんと、ともひろを蹴る。

ともひろ ごめんなさい。
ようこ おまんは親戚にもみな拒否されてもうどこにも行かれへんのやで。そこんとこ、分かってるんか。
ともひろ ごめんなさい。
ようこ ごめんなさいで、すむかあ。

ようこ、ひどく興奮しながら、ともひろを蹴り続けるが、ともひろが抵抗しないので、やめる。
そして、ともひろを抱きしめる。

ようこ な、あんたには私しかおらへんのよ。な。あんたの事は私が守ったるさけな。分かった。

ともひろ、うなずいた。

ようこ ほな、着替えてくるさけな、待っといてな。

と、出て行く。
ともひろ、むっくり立ちあがり、顔のマスクをぎゅっと掴む。

ともひろ 母さん、ともひろです。こっちはね、夏休みに入りました。この前ね、家があった場所にね、行ってきましたよ。今はね、公園にね、なってるんですよ。知ってましたか。子供達がね、たくさんね、元気に遊んでいました。ボクが生まれ育った場所でね、子供達の元気な声を聞くのはね、少し不思議な感じでしたがね、全然いやな感じじゃなかったですよ。今日わはね、この地区で10年ぶりに夏祭りがね、あるらしいですよ。母さん、元気ですか。ボクは母さんが、無罪だと信じています。本当です。お手紙ください。ともひろ。

前のともひろのセリフの間に暗転し、舞台AB両方にに、映像が映り始める。

◎ 映像2
なにげない街の風景。
そして、夏祭りの風景。
その合間合間に挿入される、いやがっているが、執拗に撮影される住民の顔。
そこに現れる大仏次郎以外の登場人物。
子供のともひろが映る横に人影。
最後にゆきがが映る。
そして、映像がプツッと消えた。

  5
舞台A。
ぐったりしている、大仏次郎(マスクは未だつけたままである)と、さつきがやってくる。

大仏次郎 ちょっとちょっと。

と、座り込もうとするが、そのまま、さつきに引きずられる。
そのせいで、大仏次郎は服が首に食い込んで苦しい。

大仏次郎 ちょっとちょっと、苦しい苦しい。
さつき ちょっと。なんしちゃあるんよ。
大仏次郎 荒っぽい。荒っぽい。
さつき はよせな、またつかまんで。
大仏次郎 ちょっ、休憩。タイム頼みます。
さつき ええ。

大仏次郎、ぜぇぜぇと、座り込む。

さつき ちょっと、こない路に座り込まんでも。
大仏次郎 はあ。えぐいよ。あれ。
さつき 何されてたん。あん蔵ん中で。
大仏次郎 なにかビデオをずっと。
さつき ああ。
大仏次郎 吐き気する。
さつき ちょっとちょっと。

大仏次郎、えづく。

さつき 大丈夫。
大仏次郎 大丈夫なわけないでしょ。
さつき そう。

大仏次郎、ぐったりと地面に仰向けになる。

さつき ちょっとちょっと。こないなとこで。
大仏次郎 なんかすっごい静かですね
さつき ちょっとどないしたん。
大仏次郎 さっきまで子ども達の声や、猫の音、洗濯機や掃除機の音。してたのに。
さつき 大丈夫。
大仏次郎 大丈夫じゃないですよ。ボクの人生ぱっとせんかったなあ。こんな歌謡曲なんかうたって、人生棒にふっちゃったなあ。これでも、昔はちょっと売れた時期もあったんですよ。大仏王子なんて言われて。
さつき 大仏王子。
大仏次郎 その時にもねえ、一度この街にも来たんすよ。ま、そのときはあんまりお客さんこなかったですけど。
さつき へぇ。
大仏次郎 そこで、彼女に会ったんだな。
さつき 彼女って。
大仏次郎 家出した女房。みんな捨てて家を出た、愛しき妻ですよ。
さつき その人ってここの人なん。
大仏次郎 そうですよ。
さつき 名前は。
大仏次郎 ゆき。知ってるでしょ。
さつき あの。
大仏次郎 そう。あの。
さつき そうなんや。
大仏次郎 さっきここで会ったんですよ。
さつき 会ったん。
大仏次郎 でも、逃げられた。
さつき 嫌われてるんやん。

大仏次郎、ごろんと膝を抱えてまるまる。

さつき なんでもええから起きてくれへん。
大仏次郎 今、一ミリも動きたくない。
さつき はあ。ねえ、ゆきさん、なんでここ戻って来たん。
大仏次郎 逆に聞きたいですよ。まさかここはいないだろなと思って来たんですから。あれだけ、ここ嫌がってたのに。
さつき そっか。
大仏次郎 知りません。どっか心あたりとか。
さつき さあ。

間。
大仏次郎、大きな溜め息をつく。

さつき ずっと聞くのアホらしかったんやけど。
大仏次郎 はい。
さつき そのマスクはなんなん。
大仏次郎 キャラですよ。
さつき キャラ。
大仏次郎 ちょっとでもインパクトをと。あとちょっと、御利益も。
さつき 御利益て。
大仏次郎 ねえ、もう、色ものですよ。出落ち。みたいなねえ。
さつき はは。
大仏次郎 で、ボク、お祭りでなにしろっていうんですか。
さつき ああ。
大仏次郎 ボク、歌しか歌えませんよ。
さつき やっぱり。
大仏次郎 やっぱり。
さつき ちょっとした超能力的なものは。
大仏次郎 使えるわけないでしょ。
さつき 御利益と超能力って似てるやん。
大仏次郎 全然違うでしょ。
さつき そっか。ま、ええよ。適当なこと言うたらええんちゃうん。占いとか、そんなん。
大仏次郎 そんなんでいいんですか。
さつき ええよええよ。そんなもんやん。祭りでやる占いとか。
大仏次郎 つうか、普通祭りで占いしないでしょ。
さつき ま、やりいよ。
大仏次郎 なんでそんなに祭り中止させたくないんですか。いいじゃないですか。祭りの一個や二個。
さつき 。あんた、さんざんビデオみせられてたん、あの事件のことやろう。
大仏次郎 ああ、ここの事件ですよね。
さつき あの事件、犯人捕まったやろ。
大仏次郎 ゆきの母親。
さつき なあ、あれなあ。犯人かどうか微妙やろう。
大仏次郎 そうらしいですね。ゆきはあんま喋りたがらなかったけど。動機がわかんないらしいね。
さつき もしかしたらな、犯人ちゃうかもしれん。
大仏次郎 そうなの。
さつき ほいたらや、犯人はほぼ、あの夏祭りの関係者なわけやわ。
大仏次郎 ほうほう。どきどきする。
さつき ほいたら、ここでやめとこか。
大仏次郎 それはひどい。
さつき ちゅうことはやで、どっかに犯人おるんかもしれんやん。
大仏次郎 やばいっすね。それ。
さつき ほれ、あの人かな。あっちの人かもしれん。
大仏次郎 意外と普通な人が怪しいっすね。
さつき いやいや、やっぱりあの女が犯人なんかもしらん。
大仏次郎 一回まわって逆に。
さつき あんた、みたやろ。ビデオ。
大仏次郎 はい。
さつき 私は入院しちゃあったさけ、わからんけどな。事件起きた後も、そないな状態が続いたんよ。ここは。
大仏次郎 はあ。
さつき 今も、どっかではな。むしろ、今はってことかな。
大仏次郎 なるほろ。
さつき せやからや、占い師なんか呼ぶんよ。
大仏次郎 はあ。
さつき みんな欲しいんよ。
大仏次郎 な、何を。
さつき 答えを。
大仏次郎 答え、
さつき そう。
大仏次郎 何の。本当の犯人は誰か。ってことですか。
さつき ちゃうよ。
大仏次郎 じゃ、じゃあ。
さつき 分からんよ。
大仏次郎 はあ。
さつき なんであないな事がおきたんか、なんであないな目に私らがあわなあかなんだんか。なんで。なんで。もうなんでなんでで逆になんで。って訳わからんわ。
大仏次郎 はあ。
さつき な。もう、みな、期待しまくりやったんかもしれんよ。それが嘘やいわれてみいよ。もう、ぼっこぼこちゃう。ばれへんようにせな。
大仏次郎 そんなん。無理ですよ。
さつき 助けたの誰か分かってる?

さつき、仰向けの大仏次郎の首に杖を振り下ろす。

大仏次郎 す、すんません。
さつき 偽もんって知ってるんは誰。
大仏次郎 あっとなんか女の人。ちょっと恐い感じの。
さつき さっき公園おった。
大仏次郎 はい。◎◎色の服きてた。
さつき そっか、あいつか。あいつやったら、ま、ええやろ。

さつき、大仏次郎を見下ろしながら、

さつき ほれ、立ち、もうええやろ。

大仏次郎、のそのそと立ち上がる。

さつき ほな、行こか。
大仏次郎 ど、どこに。
さつき 決まってるやん。お祭りやよ。
大仏次郎 大丈夫なんですか。
さつき まかしときて。

さっさと行こうとするさつきの、後をついて行く大仏次郎。

大仏次郎 ところであなたは、どちらさまでしょうか。
さつき あんた、さらったババアの娘やよ。
大仏次郎 げっ。

暗転。

  6
映像2が舞台Aに映っている。
舞台Bで、映像の明かりの下で、うごめく影が一つ。
上半身裸の大仏マスク男(中身はともひろである。)が倒れ込んでいる。
手は、縄で縛られている様子。

ともひろ くっそ。なんやこれ。とれへんし。ああ。

明かりが差し込んで、影がもう一つ入ってくる。
その影はかずみ。

ともひろ なんや。おまえ、やりすぎやろ。
かずみ なして、逃げた。
ともひろ 祭りら行きたないんじゃ。はずせ。
かずみ なに、ほたえちゃある。
ともひろ 誰や。
かずみ マスクが、またずれたんか。
ともひろ は。
かずみ もうそないなんとったらええやろが。
ともひろ とれるんやったらとってるわ。
かずみ ん。とってもええんか。
ともひろ とれへんからこまってるんや。
かずみ ほいたら、私がとったるわ。
ともひろ なんや。

かずみ、ともひろのマスクを取ろうとするが、ともひろが首がしまるのか、苦しむだけ。

ともひろ やめえ、首がちぎれる。
かずみ あで。あかんわ。なんやがっちりはまっちゃあるよ。
ともひろ いだい。いだい。
かずみ あかなよ。
かずみ、マスクを取るのを諦める。
かずみ 前は見えるんか。
ともひろ 見えやん。

かずみ、ともひろのマスクを整えてやる。

かずみ これで見えるやろ。
ともひろ ここは。
かずみ そがいなことはどうでもええ、
ともひろ これは。

ともひろ、映像に気づく。

かずみ よう見ときよ。
ともひろ やめろや。
かずみ どないしたんよ。
ともひろ 止めて。お願いやから。お願いします。止めてください。お願いします。
かずみ 分かったわよ。

かずみ、リモコンを取り出して、ボタンを押す。
映像が消える。
ともひろは、地面で息荒く、うずくまっている。

かずみ という訳でね、だいたい分かったと思うけど。あんたに、夏祭りでやって欲しことあるんよ。聞いてるか。
ともひろ ……。
かずみ まええわ。あんな、あんたに夏祭りで、ここにはめちゃくちゃ悪いなんや、気。オーラ。みたいなんが流れてるいうて欲しんよ。な。
ともひろ なんでや。
かずみ ええんよ。あんたは、それいうたら。お金それなりに払うさけ。
ともひろ なしてそないなことするんや。
かずみ 今の自治会長はや、勘違いしとる。しかも、祭りをつこて、いらんこと考えちゃあるみたいや。わたしはな、そがいなもんで、このエス地区はかわらへん。それよりもや、もっとこのエス地区は、団結せにゃならん。忘れたらいかんのや。そこがまちごうちゃあるんよ。
ともひろ せやから祭りを利用して、みんなをもっと恐がらすんか。
かずみ いやちゃう。思い出させるんよ。
ともひろ 隣の住人を犯人や疑うように。
かずみ ちゃう。ちゃうて。犯人はあの女やないか。
ともひろ なんで事件が起きたんか。裁判でも、状況証拠だけ。無駄に恐怖をあおって、あんたは何を得するんや。
かずみ あんた誰や。
ともひろ 一番の犠牲者やったんはあんたんとこや。だから、もっと同情されたい。
かずみ やめろやめろやめろ。
ともひろ おまんらが、うちの家族を壊していったんや。
かずみ 何を言うとる。
ともひろ 被害者面しやがって。
かずみ おまえ誰や。

ともひろ、両手をしばられたまま、かずみを突き飛ばして、出て行こうとする。

かずみ 人殺しい。どうせ死刑じゃ。もうすぐ、もうすぐ答えがでるんじゃ。それまでもう少しじゃ。

暴れるかずみを放って、去るともひろ。
映像2の続きが舞台Aに映る。
かずみはその映像を見て、動きを止めた。

映像3が、舞台Aに映っているの間に、ゆっくり舞台B暗転。

◎ 映像3
かずみが一人で部屋に座っている。
かずみがインタビューに答えている。
かずみ「なんで私らがこないな目に遭うんか」
   ※   ※   ※
さめざめと泣くかずみ。
   ※   ※   ※
かずみ「なんで私らがこないな」
   ※   ※   ※
さめざめと泣くかずみ。
   ※   ※   ※
かずみ「なんで」
   ※   ※   ※
さめざめと泣くかずみ。

  7
舞台A。上手に柵がある。
上手の柵から、祭り会場の方を見ている、さつきと大仏次郎。

大仏次郎 ちょっ、どういうことっすか。
さつき 知らないわよ。
大仏次郎 なんかボクいるじゃないっすか。
さつき だからしらないって。あんた偽物の偽もんちゃうの。
大仏次郎 違いますよ。本当の偽物はボクですって。
さつき ああ、そう。
大仏次郎 だからあれは、偽物の偽物で、ボクは本当に偽物で。ええ、
さつき もうええよ。偽もんやろ。
大仏次郎 っていうか、偽物でもないですし。
さつき しっ。誰か来た。

ゆきが上手から、下手へ走り抜けて行く。

大仏次郎 あっ。

大仏次郎、ゆきを追いかけて下手へ走り去る。

さつき ちょっと。どこ行くんよ。おい。
ともひろ なにしてんの。
さつき ひえ、

柵の向こう側にともひろ(大仏マスクに上半身裸、腕に縄)が立っている。

さつき ええ、えっと。

と、下手に行った大仏次郎と、ともひろを見比べる。

  舞台B。
ようこが現れる。
そこへ通り過ぎようとして行く、ゆき。

ようこ ちょっと。

ゆきはそのまま通り過ぎようとする。

ようこ ちょっと。

と、ゆきを捕まえる。

ゆき (怒った調子で)なんですか。
ようこ な、なによ。
ゆき すんません。
ようこ 何。無視した上に、逆ギレ。あんた、戻ってたんか。
ゆき まあ。
ようこ なにしによ。
ゆき 別にええでしょ。
ようこ まええわ。あんたの弟みいひんかった。
ゆき 弟に、なんか用ですか。
ようこ まあ。で、見たん。
ゆき 私も探しちゃあるんです。
ようこ なんや、ほうかいな。
ゆき 弟に、ちょっかい出すんやめてもらえますか。
ようこ なん。

大仏次郎がゆきを追っかけてやってくる。

ようこ おった。あんた。なんで逃げた。
ゆき 弟から手紙きました。
大仏次郎 あの。
ゆき 虐待ですよ。
ようこ は。(大仏次郎に)おまえ、
大仏次郎 え、
ゆき あんたに虐待されてるて、レイプされちゃあるて。
ようこ はあ。おまえ、何いうてるんや。

ようこ、大仏次郎に詰め寄る。

大仏次郎 ちょっと待って。
ゆき なんなんですか。さっきから。
ようこ なに。
大仏次郎 あの。ああ。

大仏次郎、マスクを取り外す。

ようこ あ。
ゆき ああ。あんたか。
ようこ なんや、ほんもんのほうか。わりよ。
ゆき なにそれ。
大仏次郎 ちゃんと話しよう、な?
ゆき 何。
ようこ ちょっと。
大仏次郎 なあ。
ゆき 何。こないなとこまで追っかけてきたん。しつこいわ。
大仏次郎 いや。
ゆき わからへんの。後にして。私、警察にいうて、被害届、ださしますから。ともひろに。
ようこ はあ。
ゆき もう、弟に近づかんといてください。
ようこ あんた、何いうてんの。
ゆき 以上です。もう話すことありませんから。
ようこ ちょっと。
大仏次郎 あの。
ようこ うるさいな。
ゆき じゃ。私、ともひろ探してるんで。

ゆき、さっさと去ろうとする。

ようこ ちょ、待ち。

ゆき、無視して去ろうとする。

ようこ 弟の方から言うてきたんやぞ。

ゆき、立ち止まる。

ゆき 嘘つけえ、
大仏次郎 ちょっと。
ゆき 何。
ようこ(同時に) 何。
大仏次郎 戻って来てくれよ。訳わかんねえよ。なんで急に消えんだよ。理由だけでも聞かせろよ。
ゆき 聞きたいんか。理由。
大仏次郎 おう。
ゆき 利用しただけや。このエス地区から抜け出すのに。あんた利用して出て行っただけや。そんだけ。
大仏次郎 それ、マジか。
ゆき せや。とっとといね。
ようこ もうええか。あんたがなあ、あの子捨てていったんやろ。あん子が、あんな施設に一人残されてどないな気持ちやったか分かるか。あん子がな、私に甘えてきたんや。悪いガキやで。私は利用されたんや。さすがあん女の息子や。
大仏次郎 さよなら。

大仏次郎、マスクを被りながら、とぼとぼと去って行く。

ゆき そんなん、どっちゃでもええわ。どっちにしろ、あんた、未成年のあの子、ええように利用したんやろ。自分のええように。その報いや。

ゆき、去って行く。

舞台A。
さつきが前シークエンスの間にともひろと縄をとってくれというやりとりがあり、なかなか取れない、ともひろの腕の縄をほどいている。

さつき ともひろ。
ともひろ ん。
さつき ほんまにともひろなん。
ともひろ せやで。
さつき そっか。

舞台B
ようこの携帯電話がなる。

ようこ なに。うん。ほんまに。はは。はははは。はははは。

舞台B溶暗。

舞台A
縄がほどけて、

ともひろ あんがっとう。
ゆき うん。
ともひろ なあ。
さつき なに。
ともひろ 祭り、行くん。
さつき うん。
ともひろ なんや誰もおらんかったわ。
さつき ほんま。
ともひろ もう、祭り終わったって。
さつき もう。
ともひろ はは。
さつき なにそれ。
ともひろ 誰も来いひんかったんやろか。
さつき ほんま。
ともひろ 苦しいわ。
さつき そんなんとったらええやんか。
ともひろ とるって。
さつき そのきしょいマスクよ。なんでそないなんかぶっちゃあるんよ。
ともひろ とれへんのやわ。
さつき ほんまに。

さつきが、マスクをひっぱってみるが、びくともしない。

ともひろ いたい。やめてや。
さつき どうしたん。あほみたいやで。
ともひろ なんがよ。
さつき なんがよって。どっからみても。あほやよ。
ともひろ ははは。
さつき なんかあったん。
ともひろ ははは。
さつき 私には言われへん。
ともひろ ははは。あんなあ。
さつき 何。
ともひろ もう、三ヶ月、手紙がけえへんのよ。
さつき ほんま。
ともひろ 終わるよ。もう半年やよ。

さつき、マスクをひっぱるのをやめる。

ともひろ あと半年。答えが出る。
さつき 判決がでるん。
ともひろ 10年長かったよ。えらい。最初はよう分かってへんかったよ。
さつき そう。
ともひろ ああ。
さつき あの。なんて言うてええか分からんけどな、ともひろはともひろのままでええやんか。

小さな間。

ともひろ ははは。さつきはさつきのまんまなんかよ。

長い沈黙。

ともひろ ああ。わり。
さつき 何が。
ともひろ その。
さつき なに謝った。今。
ともひろ いや。
さつき なんで謝るん。なんであんたがよ。
ともひろ ごめん。

さつきが、去ろうとする。

さつき 祭り、行かんの。
ともひろ オレ。
さつき あんたは行くん? 見とき、あんたはこのエス地区の祭りを見といた方がええよ。
ともひろ でも、もう終わったって。誰もおらんて。
さつき 終わってへんよ。誰かが終わせな、祭りは。
ともひろ ほうか。
さつき あんたの為にも、この祭りはあるんやとおもうで。みんなでな、必死に知らんふりしようとしてんのよ。なんぼアホらしいてもな。でもな、そんなことできへんのはみんな知っちゃあるんよ。
ともひろ そんなん。意味ないやんか。
さつき うん。それな、あの変な大仏のおっさんにやらそうとおもたんよ。知らんふり、やめさすんを。
ともひろ ほう。(そう)
さつき あんた、祭りにきいよ。そのマスクかぶっててええから。
ともひろ 何するんな。
さつき ま。来てみな、な。じゃ、一回帰るわ。先、行っててよ。すぐ行くから。
ともひろ 分かった。

さつき、去る。
永い間。

ともひろ マミィ…。

間。
舞台Bに、ようこ・かずみ・ゆき・さつき・かんいちが現れる。

かずみ ともひろ君。元気ですか。お母さんは元気だよ。でも、ちょっとこの部屋には飽きてきましたよ。あの日、ともひろ君の運動会だったんだけど、行けなくなってしまってごめんね。裁判は長くなるみたいだよ。もしかしたら10年はかかるかもしれないみたいです。ともひろ君は分かってると思うけど、お母さんは、何もやってないのに、何故こんなことになったのか。とにかく、裁判がんばるからね。
さつき ともひろ君、元気ですか。お母さんは、元気だよ。テレビ見ちゃったのかな。裁判の様子もニュースとかでやってたかな。裁判官の人は、なんだか無理矢理お母さんを死刑にしたいみたいですが、聞いてて、おかしくなってきましたよ。ちゃんとした証拠もないのに、無理矢理死刑にしてたのが、おかしかったよ。弁護士さんも、あれはおかしいっていってましたよ。まだまだ長くなりそうですが、待っててね。外にでれたら、どこか行きたいね。たまには手紙、ちょうだいね。
ゆき ともひろ君、元気ですか。お母さんは、元気です。お姉ちゃん、いなくなっちゃたみたいですね。でも大丈夫、あのしっかりもののお姉ちゃんの事ですから、ちょっと気分転換に旅行にでもいったんでしょう。今、季節は春になったようだね。不思議ですが、この狭い場所にいると、季節をよく感じます。狭い窓から差し込む明かり、そして小さな景色から見える緑の移ろいが、季節を感じさせてくれます。外にいるときはそれほど気にしなかったのにね。ともひろ君も、たまには散歩でもしてみるといいかもしれませんね。たまには手紙、くださいね。では。
かんいち ともひろ君、元気ですか。お母さんは、元気だよ。でも、なんかだか、もう10年もたってしまったんですね。もう長いこと、面会に来てくれませんね。たまには、手紙をくれませんか。お母さん、寂しくて泣いてしまうときがありますよ。一言でいいから、手紙、くださいね。

さつき・かずみ・かんいち・ゆきが消える。
ともひろが、大仏のマスクを被る。

ともひろ 元気ですか。マミィ。ボクは元気です。
ようこ なんだよ。その強烈な甘えはさ。みんなおまえの責任なんだよ。いいかげん諦めな。でなきゃとっとと死んでしまえよ。お前が死んで悲しむ人間なんかいねえんだよ。。

ようこが消える。
舞台B暗転。

ともひろ 祭りが。また、祭りが、始まるみたいです。

舞台A暗転。

  8
舞台B溶明。
かずみが、ぜぇぜぇいいながら、横になっている。
さつきが入ってくる。

さつき ママ。どこおったん。
かずみ ちょっと。
さつき 大丈夫。
かずみ ちょっと。
さつき ほんまに。
かずみ ちょっと休まして。

さつきが奥に行こうとして、戻ってくる。

さつき ママ。タイムマシーンて、できると思う。
かずみ タイムマシーン。急になに言うん。
さつき ええなあ。あったらええなあて思う。
かずみ そげなもん。
さつき 昔に戻りたいなあ。
かずみ そら、そやで。
さつき そら、そやで。か。

さつき、さっと去る。

かずみ あんた、ちょっと、どこ行くん。
さつき お風呂。
かずみ お風呂。

かずみも風呂場に去る。

かずみ ちょっと、先に、手だけ洗わして。
さつき 祭りが、始まるみたいやよ。
かずみ なに。
さつき ママ。
かずみ 何。
さつき ママはいったい何がしたいん。
かずみ 何が。
さつき 祭り、むちゃくちゃにして、何がしたいん。
かずみ 何いうてるん。
さつき 一緒やんか。
かずみ 何が。
さつき あいつと。

かずみが逃げるよう出てくる。
携帯電話が鳴り、かずみが電話に出る。

かずみ はい。ほんとに。はは。あんがっとう。ほいたら。さつき。さつき。

かずみが、嬉々として、さつきのいる方に去る。

かずみ さつき。えらいこっちゃで。あんた。なにしてんの。あんた。

舞台B暗転。

  9
舞台Aに大仏次郎(大仏マスク)がいる。
舞台Aにゆきが現れる。

ゆき なんや、またあんたか。
大仏次郎 誰もいねえよ。祭りなのに。
ゆき はよ帰りいよ。
大仏次郎 歌わねえと。祭り。
ゆき なんや、ビッグゲストってあんたかいな。
大仏次郎 さあ。よくわかんねえけど。
ゆき はは。

ゆきがあざみの花を舞台Aの真ん中に置く。

大仏次郎 それは。
ゆき あざみ。独立、厳格、復讐、満足、触れないで、安心。花言葉。ふふふふ。なんか爆弾みたいやんか。ふっふっふっふっ。

舞台B、溶明。
舞台Bにともひろが現れる。

大仏次郎 偽物。
ゆき 二人。
ともひろ 姉ちゃん。
ゆき ともひろ。
ともひろ そっちに誰もおらんの。祭りは。
大仏次郎 さあ。
ゆき あんた、なんでそんなアホなお面かぶってんのよ。
ともひろ はは。(大仏次郎に)アホやて。
大仏次郎 はは。
ゆき はよ、外しよし。
ともひろ 姉ちゃん、なにしに来たん。お祭りに来たん。
ゆき あのくそ女にさっき言うといたから、もう近づくなて。
ともひろ ほうか。
ゆき 初めてやな。手紙。
ともひろ 届くねんなあ出したら。手紙。
ゆき なにわろてんの。
ともひろ 来てくれるとおもてなかたわ。
ゆき ごめんな。お姉ちゃん、自分のことでせえいっぱいやったんよ。
ともひろ 知ってるよ。
ゆき ほんま。
ともひろ ほんま。
ゆき まあ、あんまもう意味ないねんけどなあ。

舞台Bに髪の毛が真っ白になった、さつきが現れる。

ともひろ やっと来た。
さつき お待たせ。
ともひろ 大仏さん。
大仏次郎 ん。なに。
ともひろ 祭り、初めよ。
ゆき ともひろ。
ともひろ 始めな。誰かが。
大仏次郎 んん。

人の声がする。
過去の祭りの映像と思われるモノが、舞台A一面に映る。

ともひろ ほれ。
大仏次郎 はは。こりゃすげえ、

大仏次郎が、真ん中に立ち、

大仏次郎 さあ、祭りにゃ、踊りや。踊れ。
 もがけ。ぐちゃぐちゃになるが。結果なんかどうでもええ、

そして、歌い始める大仏次郎。

ツレモッテ コイコイ
ソリャ モッテ コイコイ
どんと乗り切る遠州灘は
ぶんだらぶって こい こい
おとこ花道 みかん船
ソリャ ヨイ ヨイ
ドント ブンダラブッテ
コッチャ ムイテ コイコイ
つれもって こい こい
どどんと こい こい
ヤレ イケ ソリャ イケ
ドント ドント ドント
シャンシャン シャン
おとこ花道 みかん船
どどんとこいこい
ドント ドドント
ドドント コイコイ
ヤレ イケ ソリャ イケ
ドント ドント ドント
シャン シャン シャン
ト シャン シャン シャン
(ぶんだら節 一番抜粋)

ゆきがまず踊り始める。
そして歌の間にともひろが踊り出し、そしてさつきも踊り出す。
そして最後にゆきも踊り出す。
映像が舞台と同じサイズで映しだされる。
そこにはエス地区の人間達が踊っている姿が映し出される。
しばらくして映像が消えた。

ともひろ おまん、その髪の毛どないした。
さつき 染めてたん、落としたんよ。
ともひろ 染めてた。
さつき 副作用でな。髪の毛、真っ白なってもててんよ。
ともひろ 毒で。
さつき うん。
ともひろ ほうか。

大仏次郎 あそこ、おまえの家、あった場所やろ。
ゆき せやで。あのなんもないあの公園。
大仏次郎 ほんと。何もない。
ゆき 誰かに燃やされてのうなくなった私の家。ええ思い出も、悪い思い出も。全部ぅ。
大仏次郎 そう。

ともひろ なあ、あんた、なにもんなん。
大仏次郎 ん。なんやろな。
ともひろ なんとか、してくれるんか。
大仏次郎 はは、ボクは歌うだけ。それしかできないよ。
ともひろ ああ、神様かなんかで、なんかしてくれるんかとおもたわ。
大仏次郎 ボクは神様じゃないし。もし、ボクが神様だったら、こんな世界は作らなかったよ。
ゆき でもね。今日、全部のうなってもうたみたいや。
大仏次郎 そう。
ゆき 家燃えた時ね。見に来たのよ。私だけ、施設抜け出して。友達から家燃えてるて電話来て。
大仏次郎 そう。
ゆき がらがらがらがしゃん。つぶれた。
大仏次郎 がらがらがしゃん。
ゆき でも、私の中のもんはつぶれへんかったのに。まさかな、つぶれるとおもわんかったけど。まあ、つぶれた。がらがらがらがしゃんて。
大仏次郎 ほんと。
ゆき あんなけ嫌いやったのにな。不思議やな。事件起こしたら嫌いになったらあかんような気がしてな。なんかしょっぼい正義感ちゅうんかな。あったんやろな。家族愛。はは。ともひろ、あんたも嫌いやったけど、好きやったで。弟やったし。
ともひろ 逃げたくせにようゆうで。
ゆき しんどいやろ。家族のうなるって。やっぱ芯やからなあ。家族ってなあ。芯なかったらあかんもんなあ。
ともひろ なにいうとんな。
ゆき 嫌やな。
ともひろ 訳わからんわ。あと半年やんか。姉ちゃんが大丈夫いうてたんやないか。
ゆき そうか。あんた知らんのか。
ともひろ なん。
ゆき ごめんなあ。

ともひろ 祭りはどないなったんや。
さつき 祭りは、祭りは終わったんやよ。
ともひろ なんでよ。

大仏次郎 なあ。なんでここ戻ってきた。おまえ、ここ、嫌ってたろ。

さつき・ゆき あんた知らんの?
大仏次郎・ともひろ ん。

ともひろ あっちいなあ。ここ。
大仏次郎 むんむん、蒸すな。
ともひろ ほんま、みんなどこ行ったんや。
大仏次郎 祭りは、終わりか。
ともひろ 誰もおらなな、祭りは始まりも、終わりもせんわ。
大仏次郎 始まりも、終わりもせん。ね。はは。

さつき あんたのお母さん、自殺したって。拘置所の中で、舌かみ切って。
ともひろ いつ。
さつき 昨日。いまさっきニュースで。
ともひろ ほんま。
さつき みんな、自治会長の家で、ニュースみて騒いでた。
ともひろ ほんまに。
さつき うん。
ともひろ そっか。

大仏次郎 オレとおまえは家族じゃないのか。
ゆき はは。ちゃうみたいやわ。
大仏次郎 がびーん。

舞台A暗転。
急に泣きそうな声でくっくっくと声を出すともひろ。

さつき なあ。

ともひろのその声が笑い声に変わる。

さつき なん。
ともひろ 分かった。
さつき なんよ。
ともひろ 分かったわ。
さつき なにぃ。
ともひろ 一個問題やってん。
さつき 問題。
ともひろ ええか。もしな、オレが過去に行ってやあ、そんで、過去を変えたとするやろ。
さつき まだそんなこというてんの。
ともひろ ええから聞け。

徐々に舞台Bが、ともひろとサツキを残して暗くなっていく。

ともひろ あんな、過去を変えたら、その後、その後のオレは、過去を変えんでええやろ。ほいたらや、そのオレは過去にいかんからや、また次の瞬間にはまた同じ事件が起きる訳や。ええか、そこが問題やった訳や。つまり、オレは永遠に過去を変え続ける必要があった訳や。でも、そんなんは無理や。でもな、分かってん。分かったんよ。
さつき なに。
ともひろ おまえ、言うたやん。
さつき なん。
ともひろ 元を絶てばええんよ。
さつき なにいうてん。
ともひろ 殺したらええんや。
さつき ちょっと。
ともひろ マミーを。
さつき もう死んだやんか。
ともひろ 殺したらええんや。マミーを。
さつき なに言うてんの。なあ。
ともひろ 殺したら。オレが生まれる前にマミーを殺す。そしたら、こんなこた、おきへん。さよならバイバイや。
さつき そんなんしたら、あんた生まれへんことになるやんか。
ともひろ ははは。そらそうや。えらいこっちゃ。産んだらオレに殺されるんやからな。
さつき あほらし。なに言うてんのよ。しっかりしいよ。
ともひろ あ。
さつき なん。

ともひろが、舞台Aの方を見る。

さつき 何。

舞台Aに、過去の町の姿、今の町の姿、日常の風景がごちゃまぜになって映し出される。
映像で、ともひろ(子供)が現れてけてけと舞台に現れる。
その間に舞台B暗転。
《その間に、ともひろ役と、大仏次郎役のともひろの偽物{以下ともひろ(偽)とする}が入れ替わる》
そしてともひろ(子供)は舞台Bに映像で移動し、そして去っていく。
そして、舞台Aにともひろ(素顔・20年後という設定)登場。
舞台B。ともひろ(偽)とさつきの周りだけ溶明。
さきほどと変わらず、さつきと、ともひろ(偽)がいる。

ともひろ ほな、行こか。分かってるで。何いいたいんか。
さつき なにこれ。あんたも、ともひろ。どういうこと。
ともひろ 答えほしねんやろ。残念やけどな。20年間考えたけどな。わからんかったわ。まあわからへん事は考えてもあかんちゅうこっちゃかな。がっかりか。ま、まだなんもおわったあらへんわ。まだまだ、終わらんわ。祭りはまだまだ終わらんで。

ともひろ(偽)は肩を震わせている。
泣いているのか、笑っているのか。
映像4が舞台Aに映り始めると、町の人々はいなくなり、三人が映像を眺めている。

◎ 佐田家・キッチン(映像4・朝)
前半は映像1と同じモノである。
カメラがキッチンに入ってくる。ごく普通の一軒家のキッチン。
ゆきが食事をしている。
ゆき「何。それ。カメラ買ったん。わざわざ運動会の為に。親馬鹿やなあ。撮ってるん。ちょ、やめてよ。ともひろ探してるん。知らんよ。また外おるんちゃう。庭見た。見てくるん。私が。」
ゆきが渋々庭に行く。
カメラもその後をついて行く。
庭に出ると、ヘリコプターの音や、カメラのシャッター音や、ざわざわとした群衆の声が絶え間なく聞こえてくる。
そして、体操服のともひろが、庭に何かを埋めていた。
ゆき「あんた、またなんか埋めてる」
ともひろ、わずらわしそうに振り返る。
ゆき「ほれ、あんた体操服汚れるやろ。やめ」
ともひろ(子供)「うるさいなあ」
ゆき「あんた、運動会やる前からどろどろなってどないするんよ。はよ、ご飯たべぇ」
ともひろ(子供)「わったよ。これ埋めたら」
ゆき「はよしい」
ともひろ(子供)、渋々地面を埋め始まる。
ゆき「あんた、今日は何にでるんよ」
ともひろ(子供)「100メートル走と、綱引き」
ゆき「ほんま、ほな、午後からやんね。」
ともひろ(子供)「うん」
ゆき「ほしたら、お昼から行ったらええね」
ともひろ(子供)「は。お姉ちゃん来るん。」
ゆき「行くよ。弟の運動会やで」
ともひろ(子供)「来んでええよ」
ゆき「なに言うてるんよ。ともひろ」
ともひろ(子供)「恥ずかしわ」
ゆき「あんた、恥ずかしてどういう事よ。ほんま」
ゆきがともひろ(子供)をぶった。
ともひろ(子供)「いたっ」
ゆき「生意気や」
ともひろ(子供)「なんや。うっせえブス」
ゆき「なんや、このクソガキィ」
ゆきと、ともひろ(子供)が、喧嘩を始める。
そして、二人が、庭からどたばたと去ってゆく。
誰も居なくなった庭。そのせいか、余計にヘリコプターの音や、周りの音が響く。

映像で、ともひろ(子供)と、ゆきが喧嘩している間に、舞台Aのともひろが立ち上がって、去る。
ともひろ(偽)と、さつきは映像を見続けている。

映像4の続き。
急に映像が、運動会の風景に変わる。
かけっこするともひろ(子供)や、一緒に弁当を食べる風景。幸せな家族の記録映像である。
そして、運動会終わりの家族写真が投影される。
ともひろ(子供)、ゆき、おそらく母親だと思われる女・父親だと思われる女。しかし、ともひろ(子供)と、母親の姿がフェードアウトし、ゆきと父親だけが残った。
映像が消えた。

さつき なんよ。これがタイムマシーン。

ともひろ(偽)がうなずく。

さつき あほちゃう。そんなん子供やんか。

ともひろ(偽)、舞台の間を通って舞台Aへ行き、

さつき ちょっと待ってよ。

ともひろ(偽)、振り返り「バイバイ」と手を振り、そして去る。
暗転。

10
街の音。
鳥の鳴く音。
車の音。
風の音。
人の生活の音。
遠くに祭りの音。
溶明。
太鼓の音がなり続けている。
舞台Aにベンチがあるだけ。
ゆきがぼうっと立っている。
サングラスを外した、さつきがやってくる。目が見えているようである。

さつき こんにちわ。
ゆき こんにちわ。
さつき あの。どうかしましたか。
ゆき ううん。太鼓の音。
さつき ええ、お祭りなんです。
ゆき そう。
さつき ほんま、なんもない。公園やのに。昔はここに家があって。狭いなあ。結構おおきいておもてたのに。

と、さつきの声が震えている。
ゆきが、サツキの様子を見た。
さつきが、後ろを向いて肩を震わせている。

ゆき なん。

と、さつきがティッシュで鼻をかんでいた。

ゆき なにそれ。
さつき いやあ、夏風邪引いてしまって……。

かずみがやってくる。

かずみ さつき、なにしちゃあるんよ。はよせな、お祭り終わるよ。

かずみがゆきに気付く。
ゆき、軽く会釈する。
かずみも会釈を返す。
さつき、地面を見つめている。

かずみ はよせな、お父さんのカレーのうなるで。
さつき お父さん。
かずみ 夏祭りのカレーだけはすぐ売り切れるやして。家族にちょっと置いといてくれちゃあってもええのに。そういうとこ真面目やして。ほんまに。
さつき そう。
かずみ ほら。

さつき、地面を掘り始める。

かずみ ちょっとさつき。どないしたん。ちょっと、やめ、ちょっとあんた。なにしてるんよ。

さつきが徐々に一心不乱に掘り始めた。
かずみは訳が分からず、必死にとめようとしている。
ゆきはその様子を静かに見ていた。

ゆき なんもナイよ。

暗転。

【終】

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)


1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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