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【長編戯曲】紀州和歌山だっふんだ

紀州和歌山だっふんだ

登場人物
 本庄   男
 林さん  女
 なぎ   女
 ひな   女
 ゆみ   女
 春本   男
 その他(衛生社員・警備員・裁判官2)


床面に地図が投影されている。
春本・ひな・ゆみ・本庄・なぎ。
歌「紀州和歌山だっふんだ テーマソング 前半」
間奏などに、以下のセリフが挿入される。

春本 ボクはここで生まれました。
ひな 私の家はここにありました。
なぎ 幼稚園の先生はとても優しかったです。
本庄 ここの公園ですべり台から落ちて骨折しました。

春本 ここにボクの秘密基地がありました。
ひな ここで夏祭りをやっていました。おみくじはいつも小吉しか出ませんでした。
なぎ ここにかわいい犬がいました。でも小学校に入学する頃に死んじゃいました。
本庄 ここがボクの通う小学校です。

曲フェードアウト
林さん登場。

なぎ 起立。
春本 せんせい
林さん以外 おはようございます。
林さん はい、おはよう。
ひな みなさん
林さん以外 おはようございます。
ゆみ 今日も一日
林さん以外 よろしくお願いします。
なぎ 着席。
林さん はい、では社会の授業を始めます。この街の歴史を調べる宿題はやってきましたか。
なぎ・春本・ひな・ゆみ はーい。
林さん じゃあ、なぎちゃんから発表してください。
なぎ はい。私はこの街の経済の歴史について調べてきました。森林や海産物がよく取れる場所で、特に熊野の木は多くの神社やお寺に使われました。江戸時代には城下町として栄え、大阪からも近く非常に大きな街となり、高度経済成長の時には鉄工所を誘致するなどして、近畿でも有数の商業や工業を持つ都市となっていきました。
林さん よくできました。国際的超大企業のシーイーオーであるお父様によろしく。じゃあ次はゆみちゃん。
ゆみ わたしはこの街の政治の歴史を調べてきました。この街はお寺とか民衆の力が強くて、何個かの有力な人達が分かれて支配してました。戦国時代に豊臣秀吉がきて支配しました。そして江戸時代には御三家紀州徳川家の城下町として発展しました。陸奥宗光など多くの大臣を出したり日本の政治にとても関係のある街です。
林さん よくできました。代議士のお父様によろしく。じゃあ次は春本くん。
春本 ボクはこの街の文化について調べました。この町では、有名な弘法大師が高野山にお寺を建てたり熊野大社の参拝のために熊野古道を多くの人が行き交いました。工芸や芸術も江戸時代には盛んに行われていました。
林さん よくできました。人気作詞家のお父様によろしく。じゃあ次はひなちゃん。
ひな 私はこの街のもっともっと昔を調べました。とても昔には神様が住んでいた場所でした。加太にある友ヶ島で神様が生まれたという伝説があります。そして人間を作りこの国を作ったのです。
林さん よくできました。考古学の権威である学者のお祖父様によろしく。
本庄 先生。
林さん はい、本庄くん。
本庄 歴史はどこにあるんでしょうか。
林さん 歴史はどこにあるか。歴史とは過去の人々の生きた証です。その痕跡です。
本庄 本当にこの街に神様がいたのですか。
林さん そういう神話です。物語です。
本庄 高野山に空海さんはいたのでしょうか。
林さん そういう伝承です。言い伝えです。
本庄 徳川吉宗は暴れていたのでしょうか。
林さん きっとそういう資料が残っているでしょう。吉宗だって暴れたい日があったでしょう。
本庄 本当に空襲はあったのでしょうか。
林さん その痕跡がまだあるのです。この記憶がまだ強く人々の中に残っています。
本庄 ボクは見たことも聞いたことも記憶もありません。ボクはこの街中で歴史を探し回りました。
林さん 町の歴史全て?
本庄 まずボクは博物館に行きました。そこに古い本や絵や鉄器などがありました。しかしそこには歴史はありませんでした。それらはただのモノでした。
林さん そのモノが痕跡なのでしょう。
本庄 そしてボクは色んな人に話をききました。お父さん、お母さん、おじさん、おばさん、校長先生、博物館の人、知ってる人、知らない人。でもみんなそうだからそう教えられたからといいました。そこに歴史はありませんでした。
林さん それが伝承というものなのです。
本庄 それからボクは沢山本を読みました。けどそれは誰かがそう思った。そうだったという言葉だけで、そこに歴史はありませんでした。
林さん それが資料というものなのです。
本庄 ボクは街中を調べ回りましたがついに歴史をみつけることができなかったのです。
林さん つまり?
本庄 ボクは宿題ができませんでした。
林さん 立ってなさい。
なぎ 先生、本庄くんは宿題をやったんじゃないですか?
林さん でも本庄くんはできなかったと言いました。私はみなさんに約束しました。この宿題ができなければ立たなければならないということを。その約束は守られるべきだと先生は考えます。
なぎ けど先生。本庄くんは私達の誰よりも歴史について調べています。
林さん なぎさん。私は歴史を調べるということについて言っているのではないのです。宿題をやってきたかどうかなのです。算数のドリルをやっていても家に忘れてくればそれはやっていないのと同じでしょう。
なぎ はい。
林さん では本庄くんは歴史の宿題ができるまで立っているということになります。
本庄 はい。
林さん では授業は終りです。
なぎ 起立。
春本 せんせい
林さん以外 さようなら。
林さん はい、さようなら。
ひな みなさん
林さん以外 さようなら。
ゆみ 明日も一日
林さん以外 よろしくおねがいします。

林さん・春本・ひな・ゆみ、去る。

なぎ 本庄くん帰らないの?
本庄 帰れないから。
なぎ 宿題できるまで立ってるの?
本庄 立ってないといけないから。
なぎ 宿題できないの?
本庄 歴史がわからないから。
なぎ じゃあそのまま立ってるの?
本庄 立ってないといけないから。
なぎ じゃあそのまま家帰れないの?
本庄 帰れないから。
なぎ 立ち続けてたら死んじゃうよ。
本庄 でも立ってないといけないから。
なぎ 死んだらもう立てないよ。
本庄 それは困る。
なぎ 宿題したら立たなくていいんじゃない?
本庄 でもできないんだ。
なぎ なんで、できないの。
本庄 ボクはバカなのだろうか。
なぎ そんなことないと思うよ。
本庄 ありがたい。
なぎ だって誰も色んな人に聞いたり本読んだりしてないもん。一番偉いのは本庄くんだよ。
本庄 ありがたい。
なぎ あのね、お父さんが言ってたの。
本庄 国際的超大企業の。
なぎ そうシーイーオーの。これからの世の中はオンリーワンよりナンバーワンだって。
本庄 逆じゃないの?
なぎ ううん。オンリーワンなんか無駄だって。一番えらいやつが一番えらいって。
本庄 心に花が咲いた。
なぎ それはきっと世界に一つだけの花だね。
本庄 さすが国際的超大企業のシーイーオーの娘。
なぎ そうなの。私、才能あるの。
本庄 いいなあ。結婚してください。
なぎ いやです。
本庄 ダメでした。
なぎ なんで歴史がわからないの?
本庄 歴史が見つからなくて。
なぎ 歴史って見つけるものなの?
本庄 歴史があるから僕らはいるはずなのに今には歴史がないんだ。
なぎ だって歴史は過去だもの。
本庄 じゃあ過去はどこにあるんだろう。
なぎ だって今は今だけど今、今が過去になっていって今までの今はもう今じゃなくて過去の今で、今は今だけなの。
本庄 ごめんもう一回。
なぎ だから今は今だけど今、今が過去になっていって今までの今はもう今じゃなくて、過去の今で今は今だけなの。
本庄 もう一回。
なぎ 今は今だけど今、今が過去になっていって今までの今はもう今じゃなくて過去の今で今は今だけなの。
本庄 もういっちょ。
なぎ もういい。
本庄 ごめんなさい。
なぎ やっぱりバカなの?
本庄 かもしれない。
なぎ 調べてきたり聞いてきたことを書けばそれが歴史を調べてきたことになるんじゃないの。
本庄 でもそれが歴史なんだろうか。本当の歴史なんだろうか。
なぎ 歴史かどうか。
本庄 歴史ってなんだろう。
なぎ 歴史ってなんなんだろう。
本庄 歴史がわからないということしか、わからない。
なぎ そのわからないっていうのが、わからない。
本庄 そう、ボクは歴史を知らない。
なぎ 私も知らないよ。
本庄 なるほどそれは盲点だった。ボクだけが分かってないのかと思った。
なぎ わからないことを勉強するの。だって宿題なんだから。
本庄 そうか。わからないから勉強をする。なんでこんな簡単なことがわからなかったんだろう。勉強になりました。
なぎ よかった。
本庄 嬉しい。
なぎ ねえ、私も手伝おうか。
本庄 え、
なぎ 宿題。いや?
本庄 いや……あ、いまの「いや」は、嫌だっていう意味じゃなくて、いや~っていう、感嘆です。
なぎ ふふふ。変なの。
本庄 そうなんです。ボクが変な小学生です。だっふんだ。
なぎ だっふんだ! 私は今は小学生だからシムラケンが大好きなの。だっふんだ。ふふふ。
本庄 だっふんだ、だっふんだ。だっふんだ。
なぎ しつこいと笑えない。
本庄 くそう、シムラケンも時間には勝てないか。
なぎ ねえ、どうするの?
本庄 いやー。

ひな・ゆみ、登場。

ひな・ゆみ なぎちゃん。
本庄 すいません。自分でやります。
なぎ え、
本庄 女に手伝って貰うの、はずいし。
なぎ そう。
ゆみ・ひな ショッピング行こうよ。
なぎ うん。いいよ。

ひな・ゆみ、去る。

なぎ この後、彼はずっと廊下に立っていました。いつまでだったんだろう。私は小学校を卒業し中学高校そして一流大学に行き、親のコネで国際的超大企業へと無難に就職が決まりました。新入社員研修へレッツゴーです。

と喋りながらリクルートスーツに着替える。


林さん、登場。

林さん みなさん、国際的超大企業の新入社員研修会へようこそ。
なぎ 先生だ。
林さん あら、なぎさん。15年ぶりね。
なぎ お久しぶりです。先生は小学校の先生なのに、なぜいらっしゃるんでしょう。
林さん 大変恥ずかしい話なのですが教員を辞めることになりまして。
なぎ そうなんですか。
林さん 生徒をずっと廊下に立たせっぱなしにしたことが大変な問題になりまして。当然といえば当然です。
なぎ 納得しました。
林さん 教員を退職した後、私は教師時代のツテを辿り、あなたのお父様の愛人になりました。そして今ではこの国際的超大企業に就職させていただくことになったのです。
なぎ それは納得できかねます。
林さん もし、なぎちゃんが良ければ将来のお母さんって呼んでも良いんですよ。でも今は会社の先輩です。会社にいる間はパイセンって呼ぶこと。いいですね。
なぎ パイセン。
林さん いい子ですね。国際的超大企業への就職おめでとう。
なぎ ありがとうございます。
林さん これからあなた達は国際的超大企業の社員として選ばれた人間として、品格と知性と常識を身に着けねばなりません。今やこの国際的超巨大企業は国境を越えようとしている。人類が渇望し、願い、祈った、平和への一歩として我々は、ビックキャピタル(大資本)、そのエコノミックなパワーを一つの柱として、ワールドスタンダードなりえるビックパワーを得ようとしてるのです。しかしそのパワーは我々、いちビジネスマンによるもの。エンドユーザーへ商品を届けるデリバリーマン。そのニーズというサイレント・マジョリティー達の声なき声を拾い集めるリサーチャー。そしてモノづくりを推し進めるデベロッパー。そして新たな経済システムを構築し、より早く、より安く、より高品質を生み出す礎となるエンジニア。その全てが我々の力である。ワンフォアオール、オールフォアワン。一人ひとりが全であることを意識する。これこそ人類が成し遂げられなかった、地球的超大企業誕生へのレボリューションなのです。

ゆみ、登場。

ゆみ 遅れてすいません。
林さん 遅い。遅刻は社会人として死んだと思いなさい。
ゆみ 電車が遅れまして。遅延証明書です。
林さん 早合点して申し訳ありませんでした。
ゆみ いえいえ、お気になさらないで下さい。
なぎ ちょっとゆみちゃんがなぜここに。
ゆみ 愛人2号です。就職なんてコネよコネ。
なぎ 何も言えない。
ゆみ 娘でもなけりゃ、愛人になるしかないでしょ。
林さん そこ、お喋りしない。
ゆみ 申し訳ありませんでした。
林さん その謝り方はよいですね。
ゆみ 恐縮です。
林さん これからあなた達には研修を受けてもらいます。
なぎ 研修。
林さん 今や、この国際的超大企業は一つの国とイーブンに渡り合えるほどのカンパニーパワーを持ち、その中で今までのようにビジネスとしてだけではなく、トゥステイト(対国家)、つまりネイションピープル(国民)をもアワーサイド(味方)に引き込むポリティカル(政治)をも必要としているのです。そのファウンデーション(いしずえ)としてあなた達は選ばれたのです。
ゆみ なんかすごいとこ入っちゃった。
なぎ なに言ってるかわかるの。
林さん とういわけでワーワーいうとりますが、あなた達にはこれからWARをしてもらいます。
なぎ わー?
ゆみ 戦争?
なぎ どういうことですか。
林さん 質問は許しません。おまえらに許されるのはイエッサーのみだ。
ゆみ サーイエッサー。
なぎ 適応力がすごい。
林さん お前たち地獄へようこそ。
ゆみ サーイエッサー。

ドンドンドンと扉を叩く音。
ひな、登場。

林さん なんだ?
ひな なんで私が不合格なんだよ。納得行かねえよ。
なぎ ひなちゃん?
ひさ 久しぶりー。
林さん なんだ貴様は。
ひな こちとら社長の愛人だぞコラ。コネ入社させろ。
なぎ またか。
ひな ごめんねっ。おい、書類に名前かけば通るんだろ? どれだよ。名前書かせろコラ。
林さん 貴様ごとき愛人のうちにも入らんわ。
ひな なんでだよ。ちゃんと愛人だ。
林さん 貴様は、愛人何号だ。言ってみろ。
ひな ぐぅ。
林さん 愛人一号。
ゆみ 二号。
ひな ひ、ひ、ひゃくはち号……。
なぎ 越えたわ、想像。
林さん ははは。ヒャクハチだと。煩悩かよ、え?煩悩か、ほら、おまえらも笑え。
ゆみ ははははは。
林さん 笑いやめっ。
ゆみ イエッサー。
林さん さあ、コイツをつまみ出せ。
ゆみ イエッサー。

ゆみ、喚くひなを引きずって退場。

林さん おまえらには研修としてこの国を落として来てもらう。
ゆみ 落とすってどうやってですかサー?
林さん 簡単な事。まずこの国のインフラ、エネルギーを掌握する。そうすればその国は我々の会社に頼らざるを得なくなる。オイル、ガス、資源を掌握するの。
なぎ さすが国際的超大企業サー。
林さん これは戦争だ。比喩でも例えでもなんでもない。ワーワー言おうがこれは戦争そのもの。この国を我が企業のものとするために武力を行使するのだ。進め戦え企業戦士よ。
なぎ い、イエッサー。
林さん いくぞ、イチニ、イチニ。
なぎ 大変なことになりました。私はとんだブラック企業に就職したのでしょうか。そもそもブラックという次元ではない気もしますが。では研修へ行ってきます。

林さん・なぎ、退場。
薄暗くなる。


ひっそりと立ち続けていた本庄。

本庄 ボクのこと忘れてませんか。そう、ずっと廊下に立っていましたよ。けど15年ほど立ち続けたのも今日まで。この学校が合併によって閉鎖されることになったのです。子供の数が減っているようですね。今日で立つ場所もなくなるという時に大変なことに気づきました。宿題が終わっていない。

ジャージを着た、春本が現れる。

春本 おっ。
本庄 こんばんわ。
春本 なんだ本庄くんか。
本庄 春本くん、同級生です。彼はこの母校の小学校で先生をやっています。
春本 まだ立ってるの?
本庄 うん。ここも今日で最後だからね。春本くんは?
春本 最後の見回り。
本庄 そっか。
春本 最後だね、この校舎も。
本庄 ここから見える風景が青春の全てだった。
春本 オレも。ココに来て色々あった。
本庄 覚えてる。春本くん、新任教師として最初はとても苦労してたもんね。
春本 いつもココに立って見てたな。
本庄 ほら覚えてる? マキノくん。
春本 ガキ大将のマキノくん、覚えてるよ。散々苦労させられたけど。卒業する時涙が出たな。
本庄 最初の卒業生だったからね。
春本 だな。もうココに来て五年か。
本庄 ボクはココに立って15年だ。
春本 ほらここ床がへこんじゃってる。
本庄 ずっと立ってたからね。
春本 知ってる? 本庄くんはここらへんの名物キャラになってるんだよ。本庄くんに食べ物あげると恋愛がうまくいくって。
本庄 なにそれ。
春本 知らなかったんだ。
本庄 知らぬ間に名物に。
春本 今となっては全部いい思い出。
本庄 そう、全部いい、
春本 うん。
本庄 わけない。
春本 え。
本庄 十五年立たされてたんですけど。
春本 ああ。
本庄 もう27になっちゃった。
春本 だね、もうおじさんだよ。
本庄 どうしよう。まだ小学生だよ。
春本 小学生? 誰が?
本庄 ボクが。
春本 本庄くんまだ小学生なの?
本庄 まだ卒業してないし。在学中だよ。
春本 大変。ちょっと君、春本くん春本くんって。先生って呼びなさい。生徒が先生呼び捨てってアリえない。
本庄 ごめんなさい。
春本 っていうか、いつまで小学校いるつもりだよ。義務教育だろ。
本庄 だから宿題が終わってないんだって。
春本 宿題?
本庄 この街の歴史を調べましょうってやつ。
春本 なにそれ。
本庄 ほら、あったでしょ。それができなくて立たされてたんだ。
春本 ごめん、覚えてない。
本庄 そ、そんな。よく忘れられるね。
春本 毎年やってるから、街の歴史を調べましょうなんて。大体なんでそんな簡単な宿題ができないんだよ。
本庄 歴史ってのがよくわからなくて。
春本 歴史がわからない?
本庄 15年考え続けたけど。
春本 こんな所にずっと立っててもわからないだろ。
本庄 なるほど。
春本 なるほどって。
本庄 どうしたらいいんだろう。
春本 とりあえず歴史について調べたらいいんじゃないの。
本庄 どうやって。そもそも歴史そのものがよくわからないのに。
春本 そんなこといわれてもねぇ。
本庄 先生。答えを教えてください。
春本 先生そういう人任せの子は嫌いだね。
本庄 意外と厳しい教育方針。
春本 でも難問に立ち向かう生徒の背中をそっと押すのも先生の仕事。
本庄 よい教師。
春本 ひなちゃんって覚えてる?
本庄 同級生だったひなちゃん。
春本 そう、あの子のおじいさん考古学者だったから聞いてみたら?
本庄 そうか。歴史の専門家なら教えてくれそうだね。
春本 そうそう。ちょっと電話してみるわ。
本庄 ありがとう。

春本、スマホを取り出し電話をかける。
どこかで着信音が鳴る。

春本 あれ。
ひな ひなは只今死んでおりますので電話に出ることができません。
本庄 どうしたの。
春本 なんか変なんだけど。
ひな 変じゃないよ。

ひな、急に登場。頭に天冠(白い三角の布)を着けている。

春本 びっくりした。
本庄 ひさしぶり。
ひな ひさしぶり。
春本 なんでこんなところにいるの?
ひな 死んじゃって。
春本 死んだの?
ひな もう就職失敗しちゃうわ男には捨てられるわで人生詰んじゃった。
春本 それぐらいで死んじゃダメでしょ。
ひな だよね、死んでから気づいた。だめだね生きてると。こっちで死んだじいちゃんに大目玉くらっちゃった。
本庄 おじいさん死んじゃったの?
ひな そうよ。
本庄 そんなぁ。
ひな なになに。
春本 本庄くん、まだ町の歴史を調べましょうって宿題やってるんだって。
ひな うっそ。やばくない?
本庄 なんだよ。その言い方。
ひな なになに。
本庄 君ら同級生でしょ。冷たくないかな。ここは助けてあげようっていう気持ちはないの。
ひな ごめんね。私死んでるし。
春本 ボクは先生だからね。宿題の手伝いはちょっと。
本庄 どうしたらいいんだよ。これじゃ一生小学生だよ。
ひな 歴史調べりゃいいんでしょ?
春本 その歴史ってのがわからないんだって。
ひな なにそれ。
本庄 自分で見ても聞いてもない物を歴史だって言われてもねぇ。
ひな なんかそういうめんどくさい感じの人だったっけ。
本庄 めんどくさい?
春本 けどよくない? 本庄くん。
ひな そう?
春本 15年立ち続けてる時点でまさに歴史の一部感。
ひな ああ、なるほど。
本庄 なるほど?
ひな じゃあ行こうか。
本庄 どこへ?
春本 まあいいからいいから。
ひな 歴史調べたいんでしょ?
本庄 はい。
ひな 歴史がそこにある。
本庄 あるの?
ひな あるある。ね?
春本 うん。あるある。
本庄 どこに?
ひな この校舎に地下室があるのは知ってる?
本庄 地下室?
春本 秘密の開かずの謎の部屋。
本庄 知りませんでした。
ひな もう何十年も誰も入っていない部屋。そこに秘密があるのよ。うちのおじいちゃんこの学校の歴史クラブの顧問もやってたからね。
本庄 なにかすごいことになる予感。地下は怖いなぁ。
ひな 怖い?
本庄 幽霊とか出そうじゃない?
春本 そうだね。幽霊とかはちょっと。
ひな いや、ここにいるし。
春本 ほんとだ。
本庄 すいません。怖がったほうがいいですか。
ひな もういいよ。では二名様ごあんなぁい。
本庄 ということになりました。次回、ドキッ学校の怪談。振り返ればいつも幽霊、でお会いしましょう。

暗転。


銃声が響く。戦争の映像。
軍服を着て銃を構えた、なぎが走り込んでいる。
なぎ、スマホで通話する。

なぎ ヒトナナマルマル。コードサンパチに到着。現在、敵アジトには人影なし。このまま引き続き待機残業入ります。くそっ、これで残業何時間だよ。とんだブラック企業だよ。

再び銃声。なぎ、手にしていた銃で応戦する。
おしゃれな格好をした、ゆみがやってくる。

ゆみ おつかれちゃん。
なぎ 係長。お疲れ様でございます。
ゆみ もうそういうのいいから。なに、なぎちゃん今日も残業? 頑張るね。
なぎ 頑張るねって、その格好。
ゆみ 合コン。
なぎ 合コン。
ゆみ 今、慰安部の人たち来てるでしょ。誘われちゃって、
なぎ いや、今一番大事なところでしょ。これ戦争ですよ。
ゆみ 何いってんの。なぎちゃん。
なぎ え、
ゆみ 私達いくつ?
なぎ えっと今年で27ですが。
ゆみ そうだよ。もうあとちょっとで30。アラサーよ、アラサー。
なぎ で、ですね……。
ゆみ このまま、こんなわけの分からない国で、わけの分からない戦争して、無駄に年取って、それでいいの?
なぎ いや、そういうわけじゃ。
ゆみ 女の一番大事な時期。私達の戦場はこんな汚いない所じゃない、合コン会場だろうが。
なぎ ああー。
ゆみ いつまでもあんたのお父さんの愛人なんかやってらんないっつうの。ね、分かった?
なぎ すいません。
ゆみ よし。じゃ、なぎちゃんも準備。
なぎ 私も?
ゆみ そう。
なぎ 今監視中ですから。
ゆみ なによ。そんなのどうでもいいから。そもそもなんで私達、戦争してんのよ。
なぎ そういわれても。
ゆみ そんなのどうでもいいって。だいたい国と争ってどうすんの。仕事が戦争って私等軍人かって。
なぎ そう言われても。
ゆみ 私は戦争したいんじゃないのよ。仕事したいの。普通にOLしたいの。戦争とかどうでもいいんだよ。
なぎ でも、もうちょっとで勝てそうだと。
ゆみ で、勝ってどうするの。
なぎ え、
ゆみ 私達が、まあ仮にね、勝ちましたよ。この国に。じゃあ、どうするの。
なぎ どうなるんでしょう。
ゆみ 過去の歴史からみて、この戦争はなに?
なぎ すいません。歴史はちょっと、
ゆみ 侵略でしょ、戦争なんて利権を相手から奪い取る為にやるの。この国の利権を奪って、どうなるんだろうね。この国は。なんで考えないの? そういうこと。
なぎ 考えてるの?
ゆみ 当たり前でしょ。
なぎ そうなんだ。
ゆみ ちょっとおかしいと思わないの。
なぎ たしかに変かもなあとは。
ゆみ 社長令嬢だもんね。適当に現場こなして、後はさっさとエリート街道乗って。幹部様は会議室で、現場の使い捨て社員に偉そうに命令するだけだもんね。私達とは違うもんね。そもそも社長令嬢じゃ、私とちがって結婚相手も困らないか。すいませんね。私なんかと一緒にしちゃって。
なぎ そんなことは。
ゆみ ないの?
なぎ いやー。
ゆみ くやしい。眉毛を太くしてやる。いや、逆に細くしてやろうか。流行遅れにしてやる。
なぎ やめてください。

ゆみが拳銃を取り出してなぎを撃とうとする。
なぎ、気づいて逃げる。

ゆみ ちっ。
なぎ え?
ゆみ 冗談冗談。
なぎ 冗談って今、撃とうとしてたでしょ。
ゆみ だから冗談だから。そんな逃げないでこっち来てよ。ほら。
なぎ いやいやいや。銃持ってるじゃないですか。
ゆみ いいから、いいから。
なぎ だって。
ゆみ ちょっと死んでよ。お願い、ね?
なぎ いや、もう殺そうとしてるじゃないですか。
ゆみ シーイーオーの娘のなぎちゃん殺したらこの戦争終わるんだから。ね、人類のためと思って。
なぎ なに言ってるの。
ゆみ なぎちゃんも思うでしょ。こんなの馬鹿げてるって。こんなことしちゃダメでしょ。
なぎ それは、
ゆみ それは?
なぎ まあ。仕事だし。
ゆみ 仕事? 仕事だったらこんなことしていいの? 私達のオシャレや、どうでもいい趣味のお金稼ぐためにこの国の生活は脅かされているの? どう考えてもおかしいでしょ。利益のためにこの国を食い物にして、ヒラヒラした服を買うためにこの国の人間がどれほど苦しい生活を強いられていくの。なぜそこまでして金儲けするの? なぎちゃんは仕事だったら他人を不幸にしてもいいの?
なぎ あなたがそれを言う?

銃声。

なぎ え、
ゆみ やだもう。死ぬわこれ。

ゆみ、倒れる。

なぎ ゆみちゃん。しっかりして。

スーツ姿の林さんがやってくる。

林さん 残業お疲れ様。
なぎ あ、パイセン。助けてください。ゆみちゃんが。
林さん どうしたの。
なぎ 係長が撃たれたんです。
ゆみ うう。
林さん まだ生きてるの。

林さん、ハンドバックから銃を取り出してゆみを撃つ。

なぎ パイセン!
林さん これで終りね。衛生社員、衛生社員。

マスクをして、ヘルメットを被った衛生社員が現れ、ゆみを連れて行く。

なぎ なにするんですか。
林さん なにが?
なぎ だって同僚ですよ。
林さん 知らなかったの? 彼女スパイよ。
なぎ いや……。
林さん 今朝の朝礼で言ったでしょう。
なぎ いや、今日はちょっと寝坊して。
林さん そういえばいなかったっけ。
なぎ 係長がスパイ?
林さん そうよ。情報が敵にもれないように処分しなきゃ。
なぎ そんな、そこまでしなくても。
林さん しかたないでしょ。命令なんだから。私だって嫌よ。でも上の人がいうんだから。いやよね会社員って。
なぎ だからって、
林さん さあ、仕事も終わりね。
なぎ 終わり? どういうことですか。
林さん あなた終礼もでなかったもんね。ダメよ。そういうの社会人として。
なぎ すいません。
林さん さっき通達が来て、この国の利権は全部我が社のものになったのよ。
なぎ 戦闘が終わったんですか?
林さん そゆこと。
なぎ じゃあ係長はなぜ死んだんですか。これじゃあ無駄死にじゃないですか。
林さん だから社会人としてね、報告・連絡・相談を怠った彼女の責任。
なぎ そんな、
林さん 会社員のマナーを守らなければ死ぬだけ。そういうこと。さぁ、この国での私達の仕事は終わった。
なぎ これからどうなるんですか。
林さん この国を拠点としてこれから会社は次のステージへと進んでいくのよ。
なぎ この国はどうなるんですか。
林さん なぜ?
なぎ いや。
林さん そんなこと一社員が知らなくていいの。
なぎ そうですか。
林さん 人間は進歩するものよ。そして会社はより大きな利益を求めて大きな戦場を求めていくもの。私たちはその歯車としてただ目の前の仕事をこなしていく。それだけ。
なぎ そうなんでしょうか。
林さん 仕事が嫌になった? ニートでもする? あなたなら充分できるでしょうけど。
なぎ そういうわけじゃ。
林さん きっと少し疲れているだけよ。色々あったからね。
なぎ ……。
林さん 帰って少し休養すればいいんじゃない?
なぎ 帰る?
林さん 次の仕事場にもなるしね。
なぎ 次の仕事。
林さん 私達のあの街へ。
なぎ あの街。
林さん ええ、帰るの。
なぎ あの街が次の私達の仕事場なんですか。
林さん ええ。
なぎ なにを。
林さん それは帰ってから。とにかく今は帰社するのよ。いい? 準備して。
なぎ はい。
林さん じゃあ行くわよ。私達の戦場へと。
なぎ え。戦争は終わったんじゃ、
林さん 何言ってるの。合コンはこれからよ。
なぎ ええー。
林さん あんたたちと違ってこっちは背水の陣なんじゃい。
なぎ というわけで私はあの街、私の生まれた街へと返ってくることになりました。もちろん合コンは失敗でした。
林さん なんでやねん。
なぎ 帰れる。なつかしき我が故郷へ。

暗転。


にぶい鉄扉の音が響く。
足音が1つ。

本庄 暗い。ひなちゃん。どこ。春本くんいる? あれ? 暗くて全然見えない。

急に春本が顔の下から懐中電灯で照らして現れる。

本庄 うわっ、
春本 ふふふ。驚いた?
本庄 ここどこ?
春本 ほら、はじまるよ。これもって。

春本、本庄にサイリュウムを渡す。

本庄 なに?
春本 音楽に合わせて振るんだよ。
本庄 光った。
春本 キマしたよ―、キマましたよ!

BGM「オーバーチャー」
明るくなる。
春本は激しくサイリュウムを振りながら、興奮している。
ひなとゆみが妙なポーズで立っている。
ひな・ゆみ、踊り歌う。()内は春本のコール。

歌「歴キュアのテーマ」

 歴キュア歴キュア(ひなちゃん!) 歴キュア歴キュア(ゆみちゃん!)
 歴史は私で 私は歴史~!(あーよっしゃいくぞー)
 過去なくして、今はなし 未来はありえない
 街の誇りは めっちゃ歴史によるし
 過去のピンチを知り得るたび 今が強くなるね(超絶かわいいひなちゃーん!)
 ユア ヒストリー マイヒストリー
 生きてないから 私なんじゃない
 とおい歴史から来たる今。 どんな未来だって ブッ飛ぶぅ
 歴史の花 咲かせて 思いっきり もっとバリバリ(お前が一番ゆみちゃーん!)
 歴キュア歴キュア 歴キュア歴キュア (フワフワフワフワ)
 歴史は私で 私は歴史(ひなゆみひなゆみ最高!)

本庄 なにこれ。
春本 なにって歴キュアでしょ歴キュア。
本庄 歴キュア。
ゆみ みんな、ありがとう!
春本 ゆみちゃーん。
本庄 同級生のゆみちゃん?
ゆみ 本庄くんだ。ひさしぶり。
本庄 ひさしぶり。元気そうで。
ゆみ 死んだよ。
本庄 死んだの?
ゆみ 幽霊だよ。
本庄 幽霊なの?
ゆみ うん。戦死。
本庄 戦死?
ゆみ 企業戦士は大変だよ。
本庄 社会って怖いなぁ。
ひな 今日は私達から重大発表があります。
春本 ええー。
ひな 私達、歴キュアは、
春本 やめないで!
ゆみ やめないやめない。
春本 びっくりさせないで!
ひな・ゆみ 新メンバーが入ります。
春本 うおおおおお。キタ、これキタ。
ひな ほら、こっちきて。
本庄 ボク?
ゆみ いいから。
ひな 紹介します。新メンバーの本庄くんです。
春本 まさかの男かよ。ワロターワロター。
本庄 これ、なんなんですか。
ひな なにって歴キュアよ。歴キュア。
本庄 だからそれはなんなんですか。なんで歌って踊ってるの。
ゆみ そんなのそろそろ歌って踊らないと辛いからよ。
本庄 どういう意味ですか?
ゆみ それは聞かないの。
本庄 はい。
ひな 昼は現世にさまよう幽霊。歴キュアホワイト。
春本 呪わないでー。
ゆみ 夜は歴史を伝える歴史アイドル。歴キュアブラック。
春本 イイクニツクロウアイドル幕府。
ゆみ・ひな ふたりは歴キュア。
春本 キマしたよキマしたよ!
本庄 (サイリウムを振る)
ひな ようこそ。
ゆみ 歴キュアへ。
本庄 はあ。
ひな 15年小学校の廊下に立ち続けるというその歴史っぽさ。ちょっと都市伝説臭もするけど充分合格。
春本 逸材だ。
ゆみ 本当は女子がいいんだけど。
ひな けど女装もいけそうじゃない?
ゆみ この際しかたない。できる?
本庄 女装は出来ますけども。
ゆみ できるんだ。
ひな さっそく色を決めないとね、う~ん、グリーン?
ゆみ イエローじゃない?
本庄 レッドは?
春本 自分を知れ。
本庄 すいません。
ひな イエローとグリーンを合わせてキミドリね。両方入って贅沢。
本庄 歴史の秘密がある的な感じで来たんですけど。
ひな これがそうよ。
本庄 これが秘密なんですか。
ゆみ そう。ここで日夜歴史を広めるアイドル活動をしているの。
本庄 アイドル活動?
春本 ひなちゃんの偉大なる祖父、キュア博士がここを作ったんだよ。有名な歴史学者の博士はこう思った。歴史は伝えなくてはいけない。このままでは歴史は埋もれ無くなってしまう。
本庄 歴史が埋もれる。
春本 それで歴史を伝えるアイドル。略して歴ドルを作ったんだ。
本庄 春本君は?
春本 オレはそのプロデューサー。
本庄 意外とえらかった。
春本 歌詞はまかせろ。
本庄 がめつそうだなぁ。
ひな イイクニツクロウ鎌倉幕府。ナクヨウグイス平安京。これは歴史。じゃあそれを作ったのは誰なのか。全部過去の人間から伝わってきた情報。つまり歴史っていうのは過去の人間から脈々と受け継がれる命の絆。
ゆみ 今の子は歴史の勉強なんて興味ないでしょ。でもこうやってアイドルとしてかわいい私達が伝えればそれが次の世代、またその次の世代へと受け継がれていくの。
本庄 なんか凄い気がしてきた。
ひな 本庄くんはこの町の歴史のことを調べているんだよね。
本庄 はい。宿題なんです。
ゆみ そして15年間立ち続けた。
本庄 そうなんです。
春本 今やそれこそがこの街の歴史の一部。
ひな つまり、君が歴史そのもの。
本庄 ぼ、ぼくが?
ゆな そして今日あなたも歴ドルの一人に選ばれたの。
ひな おめでとう。
本庄 ありがとう。
ゆみ おめでとう。
本庄 ありがとう。
春本 これで君も仲間入りだ。
本庄 ボクも。
ひな じゃあ歴ドルとしてやっていくわよ。
ゆみ 歴史キャッチ歴キュアね 
本庄 アイドルはちょっと。
ゆみ ちょっとなに?
本庄 ださいなぁ。
春本 なんてこというんだ。
本庄 そんなことしても。
ゆみ 若者の歴史離れはなはだしい昨今。
ひな どんなに媚びても歴史を伝えるのが我々の使命。っていうかあなたの使命。
本庄 ボクが。
ゆみ 歴史はあなたが守るの。
ひな あなたが歴史になるの。
春本 歴史こそ君そのもの。
ゆみ 歌から始めるわよ。
ひな レッスン開始。
本庄 ちょっとまってもらっていいですか。
ひな レッスン中断。
ゆみ なに。
本庄 次のシーンへそろそろ行こうかなと。
ひな そうね、レッスンシーンはつまらない。ぼちぼち事件起こさんとだね。
本庄 というわけでこの後大事件が! な次のシーンへどうぞ。


映像:国際的超大企業のロゴ。
黒のロングTにジーパン、帽子にサングラス姿の人物(林さん)登場。

林さん 本日は我が社の企業説明会にお越し下さりありがとうございます。今日という日。長い間この日を待ちわびていた。

間。

林さん 長い歴史の中で時折社会の全てを変えてしまう革命が起きる。そう、それを一度でも成し遂げることができれば幸運だが我が社は幾度かの機会に恵まれた。エネルギー革命。我が社は枯渇しうる有限エネルギーに新しい革命をもたらした。そして情報革命。世界の距離へ革命をもたらした。そして本日。革命的なシステムを発表します。

拍手喝采の音。

林さん 画期的であり革命的であり先進的です。それは国を超え人間の生き方そのものを大きく変化させるのです。もうおわかりですね。本日、我が社が新たな革命を発表いたします。そう、私、選挙に立候補します。

笑い声。

林さん 冗談です。出馬なんかしません。それどころか選挙などもう必要ないのです! さあ発表しましょう。我が社はこの街を吸収合併します。

拍手喝采の音。

林さん 今まで沢山の革命がありました。人々は狩猟から始まり、そして農耕が始まった。その時から持つもの持たざるものが生まれそして競争が生まれた。強いものが弱いものから搾取したのです。そして王が生まれた。王と民衆。長い時間それが続いたが民衆が立ち上がり、そして自分たちの国を作り上げた。それからみなで一緒に働き資産を共有する大いなる実験が失敗したり、幾度かのおおきな戦争も経験しました。我々は失敗と反省を繰り返して今の社会を築きあげたのです。

林さん しかし今の社会にどれほどの人間が満足しているのでしょうか。再び世は持つもの持たざるものの差が広がりつつある。これでは過去の繰り返し。では皆で共有したとしてやる気がおきない。ただ人間の堕落性を証明するだけだ。そこで我々の会社なのです。

林さん 能力優先主義。今までの会社は無能な人間が早く会社に入ったと言うだけで有能な人間を押さえつけていました。コレではダメだ。優秀な人間のやる気を失わせては、なにより効率が悪い。それはこの街でも同じことです。われわれは気づいた。とっくに我が社は解決しているじゃないかと。能力を最優先で評価する。極めて高い精度でそれを評価するノウハウを我々は持っている。特許も取得済み。やる気に満ち溢れれ能力を評価し、そしてなにより福利厚生が充実している。我が社は国際的超大企業なのです。みなさんはこの街の住民でありながら、我が社の社員として迎えられるのです。

拍手喝采の音。

林さん 安定した収益性。税収に頼っていた過去のこの街の経済は非常に不安定だった。この街自体が不景気だとサービスが充実させられず、さらに不景気を招く悪循環。どれだけの街、さらには国がこの悪循環を抜けられずにいるか。しかし私たちはそんなことは気にしない。なぜなら世界を相手にする国際的超企業だからです。利益性を確保し不経済さを許さない。それが会社の存在意義です。この街は我が社の支社として再スタートすることで不景気という日常からさよならすることができるのです。更に言うと我が社のシステムを利用することにより非常に格安でさまざまなサービスを利用することができるのです。

拍手喝采の音。

林さん 街は物理的に決まった人間で構成されてしまっていた。そこで起きる軋轢などにより、文化はかたより非常に閉じた情報のみが行き交っていた。やがてそれが他者との対話を拒み、世界で通用しない人材を生み出していた。しかし我々は国際的に活動し、すでにさまざまな場所の街、さらには国も吸収合併しています。そこの人々の持つ斬新な文化、情報を即座にこの街にいながら享受することができるのです。より開かれた社会、より開かれた人材を育成することが出来るのです。

拍手喝采の音。

林さん その他、様々な利点が我が社にはあります。そして一番大事なのは我が社にはこの街を吸収合併する力があるということなのです。コレほどまでの力をもった企業が他にあったでしょうか。我々はそれを実現することが出来るのです。さあ我々への仲間入りすることになにを躊躇することがありますか。今すぐこの街を我が社へと仲間入りさせましょう。

拍手喝采の音。
そこへ、なぎが入ってくる。

なぎ 待って下さい。
林さん なぎさん、どうしましたか?
なぎ どうしても聞いてほしいことがあるんです。
林さん いいですよ。聞きましょう。
なぎ ありがとうございます。
ゆみ  どうぞ。
なぎ 私はこの街で育ちました。この街には大事な人、場所がたくさんあります。それをとても誇りに思います。
林さん ええ、大事なことです。
なぎ そして私はこの会社に入りました。実際に他の小さな国を吸収合併するプロジェクトにも参加しました。戦争のようなこともしました。血が流れるのを見たのも少なくありません。
林さん 不幸なことです。しかし新しい社会が生まれるプロセスにはえてしてそういうことも起きてしまうものです。
なぎ この会社はこの街を変えようとしています。いいえ、街ではなくそうとしている。会社の一部としようとしているのです。そのときに過去のこの街の歴史はこの会社には無用のものなんです。いいんでしょうか。伝統や文化が他の人には他の国の人には無用のものであっても、そこに住んでいる人たちにはかけがいのない物なのではないでしょうか。
林さん ……。
なぎ 答えて下さい。
林さん あなたが問題にしている歴史・伝統というのはなんなのでしょうか。
なぎ それは。
林さん 昔同じ質問を私にした人物がいました。質問を答えるのはその彼に任せましょう。
なぎ 彼。
林さん それでは本日のゲストをお招きいたします。この街の歴史アイドルのみなさんです。

音楽が鳴り響く中、女装をした本庄が現れる。
そして踊ろうとするが周りにだれもいないことに気づく、

本庄 あら一人? ゆみちゃん? ひなちゃん? うそ、あ、なんか変なイキフン。
なぎ 本庄くん。
本庄 ちがいます。歴キュアキミドリです。
なぎ 本庄くん。
本庄 女装してるんですけども。そこは汲み取ってもらえませんか。
なぎ 本庄くん。
本庄 もうごまかせないですか?
なぎ 本庄くん。
本庄 はい、本庄です。よくわかったね。
なぎ だって小学校の時そのままだもん。
本庄 まだ小学生だからね。
なぎ そうなの?
本庄 まだ歴史の宿題できなくて。
なぎ 歴史の宿題?
林さん その件は大変申し訳ありませんでした。
本庄 先生。お久しぶりです。
林さん はい、本庄くん。お久しぶりです。
本庄 お変わりないようでよかったです。
林さん そちらこそすっかりかわいくなっちゃって。
本庄 よく言われます。
林さん 懐かしの再会は後にして本日のゲストにお話を聞かせていただきましょう。紹介しましょう。彼は32歳ですがまだ小学生です。なぜなら小学校の町の歴史を調べるという宿題ができずにずっと立たされいたのです。なんとその年月15年。
本庄 それほどでも。
なぎ ほめてないよ。
本庄 そうなの?
林さん はい、本庄くん。
本庄 はい。
林さん 歴史を調べる宿題はできましたか?
本庄 あ、いや。
林さん 彼は私にこう聞きました。歴史とはなにか? しかしあなたはこういった。そこに歴史はなかった。
本庄 はい。
林さん あれからあなたは15年間、歴史をさがし続けた。歴史は見つかりましたか?
本庄 いえ、それが
林さん 見つからない?
本庄 はい。
林さん それは何故なのでしょう? 歴史とはなにかについてあなたは15年間考えたのです。聞きましょう。歴史とはなんですか。
本庄 幽霊です。
なぎ 幽霊。
本庄 ええ、あるかどうかわからない。でも存在はある。ボクは歴キュアとして5年間活動しながら色んな人にいろんなことを聞きました。歴史とはなにか。についてです。でも歴史なんてありませんでした。あったのは現在だけです。そして歴史は現在の中にあったんです。盲点でした。過去が現在の中にあったなんて思わなかった。歴史っていうのは現在から見た過去ってだけでした。つまり死んだ情報。まるで幽霊だ。
林さん 素晴らしい。みなさん、おわかりですか。歴史とは現在から観た、ただの過去だったのです。
なぎ だからなんなのよ。
本庄 ごめんなさい。
林さん ただの過去がなにになるというのでしょうか? 我々は未来を観ているのです。輝かしい未来そのものを。本庄さん、あなたの将来の夢はありますか?
本庄 将来の夢ですか?
林さん ええ。
本庄 あの、そのう。
林さん 恥ずかしがらずに。
本庄 いやぁ、卒業したいなぁって。
なぎ 卒業?
本庄 いつまでも小学生じゃ中学生になれません。中学生にならなきゃ思春期できません。夏休み終わりのあの娘のかわりようにドキドキしたり、新任英語教師のエロさにドギマギしたり、部活終りの後輩のほのかな汗の匂いにキュンキュンできないんです。
林さん 素晴らしい。なんと素晴らしいことでしょう。
本庄 そうですか?
林さん あなたはキュンキュンだってギュンギュンだってできる。自由。それを可能にするのが我が社なのです。我が社はあなたのような人材を求めている。
本庄 こんなボクでもいいんですか。
林さん いいんです!
本庄 小学生ですけど!
林さん 我が社は学歴不問。高卒・中卒・小卒、関係ない。能力こそが全て。
本庄 ああ、夢みたいだ。小学生からいきなり国際的超大企業の社員だなんて。島耕作でもありえない。
林さん 巨大資本万歳。
本庄 資本主義万歳。
なぎ 本庄くん、いいのそれで?
本庄 なんで?
なぎ それは、
林さん 歴史。そんなもので腹は膨れない。
なぎ でもお金だけでは人は幸せになれない。
林さん ええ、だから我々の仕事こそ、この町の人々を幸せにするのです。それこそが経済。それはあなたがよくご存知でしょう。
なぎ それは……。
林さん 本庄くん。今度は君がこの街の歴史を作るのです。
本庄 ぼ、ボクが歴史を作る!?
林さん そう。歴史は調べるものではない、あなたが作るものなのです。
本庄 だっふんだ。
林さん さあ、我々の新しい仲間に拍手を!

拍手喝采の音。本庄は、照れている。

本庄 なぎちゃん。
なぎ なに?
本庄 同じ会社だね。
なぎ ……。
本庄 ボク、いいたかったんだ。なぎちゃんに。
なぎ いいたかった?
本庄 あの時、嬉しかったんだ。
なぎ あの時、
林さん さあ、話は後。それでは、本日の発表会は以上です。ありがとうございました。
なぎ あの、これからどうなるんですか?
林さん これから?
なぎ この街はこれからどうなるんですか?
林さん それはあなた次第ですよ。
なぎ 私次第? どういう意味ですか?
林さん これをどうぞ。
なぎ 辞令?
林さん ええ。
なぎ 支社長を命ず。私が?
林さん ええ、この街の支社長です。
本庄 すごい大出世。
林さん あなたの能力ならば不思議ではありませんよ。
なぎ お父さんの命令ですか?
林さん 不服ですか?
なぎ だって、おかしいじゃないですか。
林さん おかしい? 利益が出るかどうかなんです。貴方は会社員です。上司の命令には従うのが仕事なのです。
なぎ 私、納得いきません。
林さん 業務を無視すると?
なぎ 街とか国とか会社とか本当に大事なのはヒトじゃないですか。
林さん ヒト。
なぎ この会社はヒトをみていない。ヒトを大事にしない会社はダメなのです。私、退社させていただきます。
本庄 そ、そんな。
林さん それは急に困ります。
なぎ この通り辞表を持っております。お受け取り下さい。
林さん これはこれは。
なぎ 一ヶ月の引き継ぎ後、有給休暇を消化して退職します。
林さん ちゃんとした退職手続き。では仕方がない。
なぎ 失礼します。
本庄 なぎちゃん。
なぎ ごめんね本庄くん、がんばってね。
本庄 うん。
林さん これからどうなさるのですか。
なぎ 関係のないことです。
林さん あなたの今後のご健勝をお祈りしております。
なぎ どうも。失礼致します。

なぎ、去る。
林さん、後ろを向いて遠くを眺めている。
林さんのスマートフォンが鳴る。

林さん もしもし。今、大丈夫でしょうか。寝ていらっしゃいましたか。申し訳ありません。はい。彼の件は非常にうまくいきました。ただもう一つ問題がありまして。ええ、またお力を。もしもし、もしもし。寝てます? もしもーし。

暗転。


ゆみが布団の上で寝転がってうとうとしている。急に目覚まし時計が鳴って慌てふためく。

ゆみ テロか! デモか! ああ、

目覚まし時計を止める。

ゆみ どうもみなさん、お久しぶりです。あまりに出番がなさすぎて暇で暇で。そろそろ次の展開にいかないといけないですよね。でもここ終わりっていうのもいいんじゃないかな。どうせあの国際的超打企業の天下はゆるぎないですよ。それが資本主義の流れなんです。人生勝ちたければ、勝ち馬に乗るのが一番。もうこの街は、とある国際的超大企業占領下。いや占領とも言えない。多くの市民は会社の吸収合併に賛成し、その他の人間はこの街を捨てて出ていってしまいました。そしてこの街を愛する数少ない人間が残り、このかつて小学校があった場所の地下でレジスタンス集団を作り、劣勢の中、抵抗活動を行っているのです。

長めのコートにサングラスをした、ゆみが大きめの紙袋を持ってやってくる。

ひな 同士ゆみ。どこだ。
ゆみ おはよう。
ひな なに寝てるのよ。
ゆみ 暇で暇で。
ひな 死んでるのに寝るな。
ゆみ こうやって資本主義に抵抗してるの。
ひな 寝てるのが抵抗になる?
ゆみ 経済ってのは消費してお金を回すんでしょ? なら経済活動の一番の敵はこうやってお金を稼がず使わぬダメ人間。
ひな なるほど。でも、もったいない。世界はすごいことになってるのに。
ゆみ そうなの
ひな もう世界はほとんど国際的超大企業のものよ。
ゆみ へー。
ひな これ見て。

ひながコートを脱ぐと、いかにもアメリカンな星条旗をあしらった服を来て、もっていた紙袋から滑稽なサングラスとアメリカ的な帽子を被る。

ゆみ アメリカがすぎる。
ひな そう。もう本場は最高。なんかね、でっかい、もう超でっかいショッピングモールとかできてて。
ゆみ ショッピングモール?
ひな そう。エイチアイヴイ・ウイーゴー・ロウリーズファームそして、私が変われば世界は一瞬で変わるのだから、
ゆみ 欲望は女の子の生きるエンジン。
ひな 明日、なに着てく?
ひな・ゆみ アース・ミュージックアンドエコロジー。
ゆみ いやー、おしゃれしたい。おしゃれしたい。
ひな でたなオシャレゾンビめ。
ゆみ オシャレをさせろ、オシャレをさせろ。
ひな まあ待ちたまえ、オシャレゾンビ君。これがなんだか分かるかな?
ゆみ なにそれ。

ひな、カードを取り出す。

ゆみ それは、まさか。
ひな 社員証。
ゆみ そんな。どうやってそんなもの。
ひな なぎちゃんに借りたの。
ゆみ なぎちゃん仕事やめたんじゃなかったっけ。
ひな なにいってんのよ。社員じゃなくてもそれぐらいの福利厚生うけられるでしょう。
ゆみ なんで?
ひな 国際的超大企業のシーイーオーの娘でしょ。
ゆみ そうでした。
ひな そしてコレがあればどうなるか。
ゆみ どうなるの?
ひな タダだよ。
ゆみ タダ!
ひな タダ、タダ、タダ、タダ!
ゆみ だめだ。成仏しちゃう。
ひな そう。服もグルメもジムも映画も全てタダ。
ゆみ うそ。冗談は生きてるときにしてよ。
ひな それが嘘じゃないんだって。
ゆみ ああ、死ぬんじゃなかった。
ひな これさえあれば全部タダ。ショッピングモール中の全てがタダ。
ゆみ すごい。世界的超大企業最高。
ひな つまり、ショッピングモールそのものが福利厚生施設の一つなんだよ。はいお土産。
ゆみ マカダミアンナッツ。
ひな やっぱり本場のは違うよね。
ゆみ ニューヨークの地下に潜む同士の所へ行ったんだよね。
ひな ん?
ゆみ これ絶対ハワイ行ったよね。
ひな フラダンス、すごかったよ。もうね、スタイルが違うから。ボンキュッボーンっ。
ゆみ 絶対ハワイじゃん。
ひな ボンキュッボーン
ゆみ なんでハワイだよ。
ひな どうせアメリカ行くならハワイでしょ。
ゆみ 遊ぶ気マンマンだろこれ。なにしてんの。
ひな だって行きたかったんだもん。
ゆみ 最悪。
ひな ゆみちゃんだって先月フランス行ったでしょ。
ゆみ それはレジスタンス活動の本場だから。
ひな じゃあ、これなに。

ひな、無理やり、ゆみの上着を剥ぎ取る。
ゆみは下にボーダーのシャツに、クビにネッカチーフ。

ひな それにこれ!

ひな、ゆみの後ろに隠していた赤いベレー帽と丸メガネをむりやり、ゆみに着ける。そして、隠してあった無駄にアーティスティックなゆみの満面の笑顔な似顔絵を取り出す。

ひな 絶対オシャレンぜしてるよね。オシャレンゼ通りでオシャレンゼ決め込んでるよね。
ゆみ うい。
ひな 超楽しんでるじゃん。めっちゃ笑顔で似顔絵かいてもらってるじゃん。
ゆみ いや、そうでもなかったけど。意外とパリ楽しくなかった。
ひな そうなの?
ゆみ なんか全然キラキラしてなかったわ。浮浪者とかめっちゃいたし。街、びっくりするぐらいゴミだらけだし。行かなきゃよかった。
ひな そうなんだ。パリ症候群ってやつ?
ゆみ そうそう。パリにがっかり。やっぱ世界的超巨大企業に反抗してるから経済ボロボロみたい。
ひな だよねぇ。世界中やばいよね。
ゆみ フランスなんか行くんじゃなかった。
ひな じゃあさぁ、今度一緒にブラジルとか。
ゆみ いやいや、ここはインドじゃない?
ひな やだ、そんな寂しいOLみたいなの。
ゆみ 楽しいってインド。
ひな もうこうなったら南極行っちゃう?
ゆみ ペンギンペンギン。
ひな ペンギン。
ゆみ ペンギン。
なぎ ちょっとあんたら。

なぎ、登場。

なぎ なにしとんじゃい。
ひな あ、リーダー。
なぎ ペンギンて、
ひな だって可愛くない?
なぎ カワイイけど
ひな だよねー。
なぎ そうじゃなくて、
ゆみ やっぱり暖かいほうがいいよね、
ひな あ、オーストラリアとか。
ゆみ それがあったか、すごいよエアーズロック。
ひな コアラ、
ゆみ カンガルー、
ひな・ゆみ アボリジニー。
なぎ 遊びでやってるんじゃないの。なんなのその格好。
ゆみ そんな怒らなくても、
なぎ 危機感なさすぎでしょ。
ひな 危機感って言われてもねぇ。
ゆみ そうそう、私達幽霊だし。
ひな 現世関係ねぇーっていう。
なぎ それを言われたら、どうしようもない。
ひな だいたいさぁ、レジスタンスっていっても私達三人だけじゃん。正確には一人と2幽霊。
ゆみ ピンとこないっていうか。そもそも町の人達、国際的超大企業への吸収合併ですごい盛り上がっちゃって。なんか反対するムードじゃないっていうか。
なぎ そんなの、いいことだけ言われて流されてるだけ。みんな会社の本当の姿をしらないの。
ゆみ たしかにブラックだけど。
ひな でもワタシ的には、やっぱり一流企業に就職できるっていいなぁって。私ダメだったし。
なぎ 私達がこの街の歴史を守らないと、もう終わっちゃうのよ?
ゆみ 仕方ないんじゃない? ほら昔だって、政権が変わる度に歴史なんて都合よく書き換えられてきてるんだから。
なぎ あなた達もそういう考えなの?
ひな もう死んでるから、存在自体が過去というか、現世に巻き込まないでよっていう。
なぎ だからよ。歴史が消えるという事は、あなた達が生きていた過去も消されるということなのよ。
ゆみ どういうこと?
なぎ あなた達が存在ごと消えるってこと。
ひな それは困る。
なぎ だからなんとかしなくちゃ。もう嫌なの。ただ黙って見ているだけじゃなにも良くならない。歴史は作るものなの。私達が行動した証が歴史なるの。
春本 その通り。
ゆみ 誰?
ひな なになに?
なぎ その声は……。

三人、下手を見る。
上手から、黒スーツに黒縁をかけて、腕組みをした春本登場。

なぎ ほら、同級生の春本くん。
ゆみ 知らないなぁ。
なぎ 知らないって。どうしたの。ひさしぶりでしょ?
ひな 知らない、こんな金の亡者。
春本 ひどいなあ。
なぎ どうしたの?
ゆみ あのね、ひなちゃんと私は歴史アイドル歴キュアとして活動を金儲けの道具として利用して人気無くなったらさっさと切り捨てたの。
なぎ そうなの?
春本 はい。歴キュアは黒歴史として封印。
なぎ それはヒドイね。
春本 そんなものでしょ。君達は死んでるからいいんだけど。生きてる人間にはシガラミがあるんだよ。
ゆみ だからって、
春本 だいたい30代でアイドルオタクっていうのはきついんだよ。成り上がっていかないとね。
なぎ ぐっ。いつの間にそんなに時間たったの。
ゆみ 時間経過が分かりにくいよね。
春本 すっかりあの世界的超大企業がこの街を吸収合併してからはや数年。オレも学校の先生の職を終われ、いろいろ大変でした。
ゆみ 時間経過がわかりやすくなった。
なぎ そんなことより
春本 そんなこと!?
なぎ 春本くんは今、私達歴史レジスタンスにとっても超重要人物なのです。
ひな そうなの。
春本 そうかな。
ゆみ 違うの?
なぎ 重要です。
ひな 重要だって。
春本 そうなんだ。
ゆみ どういうこと。
なぎ 彼には先生にしておくにはもったいない才能があったのです。それは文才です。
ゆみ そういえばお母さん有名な作詞家だったっけ。
春本 そうでした。最初にちょろっと出てきただけなのによく覚えてるね。
ゆみ 何十回って稽古したからね。
なぎ そうなのです。あの有名な「歴史の流れのように」や「ヒストリークッキー」は知ってる?
ゆみ 知ってる知ってる。
ひな めっちゃ流行ってた。
なぎ さてその歌詞を書いたのは。
ひな まさか。
なぎ それだけじゃなく、いろんな流行を作り出した陰のフィクサーは誰か?
ゆみ まさかのまさか。
なぎ そう、本職は作詞家でもえっと結局仕事はなに?
春本 ハイパーヒストリカルクリエーター。
なぎ でした。
ひな うさんくせぇ。
春本 よく言われます。
なぎ そんな春本くんに協力してもらおうと思っているのです。
ゆみ こんなのにまかせて大丈夫なの? 
春本 失敬な。今、この街に目をつけているのです。
ひな そうなの?
なぎ というわけで春本くん全面プロデュースによる新しい歴史坂グループの発足です。
春本 金の匂いがプンプンする。
ゆみ なんか嫌いだわ。
春本 よく言われます。
なぎ 春本くんプロデュースの元、この街の歴史は新しい風を起こすの。
ひな 無理だよ。今じゃ歴史なんて誰も必要としてないもの。
ゆみ 新しい未来、日進月歩の最先端技術。
ひな 明るい明日、今日よりもっとよりよい希望を。
なぎ みんな騙されてる。
ゆみ まあでも仕方ないかもね。だってすごい便利になったもんね。世界的超大企業がこの街吸収合併してから。
ひな 便利には勝てないよね。人間。
なぎ でもでも。
春本 歴史はなぜ必要か。
ひな なに?
春本 はい、ゆみちゃん。なぜ人は歴史を勉強しなければならないのか?
ひな 急に先生感出した。
春本 元先生ですから。
ゆみ 私たちは現在という時間に生きています。どんどん時間は流れ今は過去になっていきます。私達が日々生活していることが積み重なって歴史になってゆくのです。そして今を生きる私達は沢山の人々の生活が積重なった歴史があるから存在しているのです。そんな過去の人達が生きていた跡を知ることによって今に続く、そして未来へと続く私達の道を知ることが出来るのです。
ひな 急にかしこさ出した。
春本 あってるっちゃ、あってる。あってないっちゃ、あってない。
ゆみ なんで?
春本 歴史をなぜ勉強するのか? ひなちゃん。
ひな 私?
春本 歴史はお好き?
ひな まあ。おじいちゃんが詳しかったから私もなんかしらぬまに色々と。
春本 なぜ?
ひな なんでって。うーん。面白いから。
ゆみ 面白い? 歴史が?
ひな 面白いよ色々。幕末とかやばいって。新撰組とか超萌える。
春本 ひなちゃん。正解。
ひな やった。
ゆみ どういうこと?
春本 歴史は面白いんです。
なぎ 面白い? 考えたこともなかった。
春本 ではなぜ面白いのか。ひなちゃん。
ひな 人めっちゃ死ぬから。
ゆみ ぐろいよ。
ひな わかんないもん。
春本 答えは「答え」だからです。
なぎ 答え?
春本 そう。歴史は答えなのです。例えばクイズ。答えが分かったら楽しい。そうでしょう?
ゆみ クイズ大好き。
ひな テレビとかでも人気よね。
春本 そう。歴史は私たちのいろんな疑問に答えをくれる。なぜこれはこうなっているのか? そう、例えば現在では、日本人が捕鯨をすると欧米人の反感をかうが、日本を開国させたペリー提督率いる黒船の一団が日本に来た大きな目的は捕鯨をするため。
ひな へーへーへー。
ゆみ へーへーへーへーへー。
なぎ へーへーへー。
春本 「昭和」という元号は、新元号を決める際は第二候補で、第一候補は「光文」というものだった。
ひな へーへーへーへー。
ゆみ へーへーへーへー。
なぎ へーへーへー。
春本 織田信長が秀吉のことを「猿」と呼んでいたというのは後世に作られた話で、実際は秀吉の事を「禿鼠(はげねずみ)」と呼んでいた。
ひな それはイマイチかな。
ゆみ そうだね。
春本 まあ、今のはなかったとしておもしろいでしょ。
ひな おもしろいっちゃおもしろい。
春本 なんか微妙なリアクションだけど、歴史っていうのは答えだから面白いの。
ゆみ はい先生。質問。
春本 はいゆみちゃん。
ゆみ その歴史が本当かどうかっていうのは調べるんですか?
春本 本当か、本当じゃないか? それ、なんの意味があるの。
ゆみ でも歴史って過去にあった本当の事でしょ。
春本 まあ少しは調べるよね。あまりにも嘘だとダメだから。
ゆみ 少しだけ?
春本 歴史はボク達のためにあるのです。歴史があるからボク達がいるんじゃない。分かるかな? 例えば伊藤博文が下痢気味だったとか必要かな?
ゆみ そうなんですか。
春本 仮にだよ仮に。徳川家康がすごい水虫でしたっていう仮に事実があったとして、それはどうでもいい。ボク達に本当に大事なのは江戸時代やもっと昔からあるたくさんの風習から、取捨選択して現在の風習があるんだっていうことになる。私達は歴史を選んでいる。伝統だって同じ。イイものだけ残って不必要なものは淘汰されていく。現在の為に過去があって、今は未来の為にある。
ゆみ なんかよくわからないです。
ひな それがレジスタンス活動とどう関係あるの?
なぎ わからない?
春本 歴史や伝記に残るような人はどういう人?
ひな そりゃ有名人でしょ。
ゆみ 凄いことした人とか。
春本 そう。今、一番有名なのは誰?
ゆみ そりゃ国際的超大企業のシーイーオー。
なぎ そう。みんな大好きゴシップよ。
ゆみ ゴシップ好きだわ。
ひな 超国際的超大企業は、フリーメイソンだ。
なぎ 嘘くさいけどいいよいいよ!
春本 超国際的大企業は、実は裏に大物人物がいて、シーイーオーはその超大物が操作している。その人物は暇すぎて世界をもてあそんでるだけだった!
なぎ もっともっとゴシップちょうだい!
ひな えっとシーイーオーは犬が好き。
なぎ 弱いよ。もっとエグいのエグいの頂戴。
春本 しかたないなぁ。これ、私が言ったって言わないでくださいよ。
なぎ いいねいいね。なになに?
春本 とある国際的な超大企業のシーイーオーには愛人が108人いる!
なぎ それは本当だっ! 悲しい。
春本 なんかごめん。
なぎ いいの。歴史も嘘も全部情報。ほんとかどうかは関係ない! クイズだって最後まで結末がわからないのが楽しいの。最後の最後にはどんでん返し。最終問題は一兆点。面白けりゃなんでもいい。面白かったらええじゃないか。

ゆみ以外歌う。ゆみは眠たそうにそれに手拍子を合わせている。

歌「ええじゃないか」

ええじゃないか ええじゃないか おもしろきゃ
ええじゃないか ええじゃないか おもしろきゃ

(ひな)
嘘もデマも 沢山だ
いいねを 押してもええじゃないか
面白い情報 拡散だ。

ええじゃないか ええじゃないか おもしろきゃ

(春本)
情報ともだち できたなら
世界じゅうが ええじゃないか
顔の知らない 友達だ

ええじゃないか ええじゃないか おもしろきゃ

(なぎ)
ネットの世界では 嘘だらけ 
嘘かホントか ええじゃないか
見抜けないほうが悪いんだ

ええじゃないか ええじゃないか おもしろきゃ
ええじゃないか ええじゃないか 踊ろうや

ひな いえー。なんか楽しいね。
なぎ で、具体的にどうしたらいいのかしらん?
春本 そりゃやっぱりまずはSNSでしょ。
なぎ よし、広げるよ。
ひな はーい。

ゆみ以外、踊りながら、携帯をポチポチと操作する。

ゆみ なんで踊ってるの?
なぎ いや、踊ってないと。

ゆみ以外、地味に携帯をポチポチしだす。

なぎ 地味だね。
ひな ヤバイでしょ。
春本 芝居なんてとりあえず歌って踊りゃいいんだよ。
ゆみ なんかごめん。どうぞ。

ゆみ以外、踊りながら携帯をポチポチと操作する。

ひな ちょっとゆみちゃん。手伝ってよ。
ゆみ 私いい。ゴシップとか興味ないし。
ひな まじで?
ゆみ もうちょっと寝る。
春本 あ、電波が。
ひな ここ地下だから。
なぎ 電波、電波。
春本 電波、電波。

ゆみ以外、電波を探しながら去る。
ゆみが大きなあくびをして寝転がる。

ゆみ 人はなぜ寝るのか? 眠くてしかたがないからか。暇で暇でしかたがないからか。起きたら朝がやってきて、気づけば明日がやってくる。昨日はどこへいったのか。明日はどこからやってくる。今日という言葉の間に過去になる今の私は眠っている。おやすみおはよう。ああ、眠くて仕方がない。全て夢かもしれません。芝居は夢。夢の芝居になりましょう。さあ、エンディングへ向かいましょう。おやすみはおはようからさようならへ。

ゆみ、布団をかぶる。(その後ずっと舞台の端にそれはある)


薄暗い部屋。
そこでノートパソコンに向かってひたすらタイピングする本庄。
時々ストローで栄養ドリンクを飲んだりする。

声(なぎ) この企業、裏で核兵器の取引やってるって。裏の顔は死の商人だ。その実態はフリーメイソンでしょ。
本庄 当社は核兵器の取扱い、開発などを行っている事実はございません。核兵器に関しては縮小協力の活動に援助をしております。今後共、我が社をよろしくおねがいします。後、フリーメイソンとは関係ございません。
声(ひな) この企業、キャッシュフリーでカードだしてるけどあの情報はコンピューター管理されてて色んな所に送信されてるんだ。もちろん送信先はフリーメイソン。
本庄 当社のキャッシュフリーシステムはお客様の情報を一括管理し、様々な状況で便利に情報を相互に利用しています。しかし、それらの情報は厳重な管理システムでセキュリティーにかけられており、適正な利用以外で情報が漏洩することはございません。もちろんフリーメイソンであろうが総理大臣であろうが情報を提供することはございませんのでご了承下さい。
声(春本) ここの企業さぁ、色んな所に支社があるけど変なアンテナあるんだよねぇ。アレぜってえ変な電波出てるよ。電波攻撃してるんだよ。その怪電波で人間を操って操られた人間はフリーメイソンになるんだよ。ぜってえこの会社フリーメイソンだよ。
本庄 当社のビルにはアンテナがございますが、それは受信用のアンテナとなっております。こちらから電波を送信することはありませんし、そのメリットもございませんのでご了承下さい。後、フリーメイソンうるさいわ。
声(ひな) この企業のシーイーオーは、愛人が108人いる。仕事せずになにしてんだか。後多分フリーメイソンだ。
本庄 それは本当です。すいません。
声(なぎ) それは認めるんかい。
本庄 フリーメイソンではないですけど。
声(春本) いやいやフリーメイソンでしょ?
本庄 ちがいます。
声(なぎ) 違うの?
本庄 違います。
声(ひな) 信じるも信じないも?
本庄 貴方次第です。
声(春本) やっぱそうじゃん。
本庄 信じるかどうかは貴方様次第ですが、事実は違います。
声(ひな) そこまで頑なに否定するのが怪しい。
本庄 だから違いますって。
声(春本) ほんとに?
本庄 ほんとにです。
声(なぎ) そうかな?
本庄 っていうか、なんで会話してるの?
声(なぎ) え、この声は本庄君?
本庄 え? この声、なぎちゃん?
声(なぎ) あ、はい。え、違います違います。ナギじゃない人です。
本庄 なぎちゃん? なぎちゃんなぎちゃん!

本庄が立ち上がりウロウロしているところへ、林さんがやってくる。

林さん え?
本庄 あ、パイセン。
林さん なにしてるの?
本庄 なぎちゃんが。
林さん なぎさん?
本庄 声が。
林さん 大丈夫?
本庄 すいません。ちょっと仕事しすぎかもしれません。
林さん ちょっと一息つきなさい。
本庄 すいません。
林さん で、どうよ。
本庄 炎上が収まりません。
林さん そうなんだ。
本庄 冷たい。
林さん 炎上したところでっていうこともあるし。
本庄 炎上したら大変でしょ。
林さん そんなの声の大きい一部の人間。ノイジーマイノリティー。そんなのいちいち相手にしても意味がない。大多数の物言わぬ声、サイレントマジョリティーは賛成している。
本庄 声を出してないだけで賛成かどうかはわからないのでは?
林さん ばかねえ。反対してないってことは賛成ってことでしょ。
本庄 なるほど。
林さん そんなことより歴史の宿題はできたの。
本庄 自分もう社会人ですよ。
林さん 社会人だっておじいさんだって宿題はちゃんとやらないとダメでしょ。あなたは社会人兼小学生なんだから。
本庄 そんなあ、すっかりもう小学校は卒業できたものかと。
林さん ほら、国際的超大企業の社史の編纂をまかせたでしょ? あれが歴史の宿題ということでいいから。
本庄 あ、あれでいいんですか?
林さん できてるの?
本庄 一応は。でも一つ問題が。
林さん なに?
本庄 嘘だらけなんです。
林さん 嘘だらけ?
本庄 シーイーオーが馬小屋で産まれたとか、洞窟で神と話したとか。嘘でしょ。
林さん 嘘というな。伝説といいなさい。
本庄 いやぁ。
林さん この会社はやがて世界の創生、やがて世界そのものにまでなろうというもの。そこで語られるのは伝説。シーイーオーはやがて神のように語られるべき存在なの。
本庄 うーん。パクリでしょ?
林さん パクリいうな。オマージュいいなさい。
本庄 こんなの歴史じゃないですよ。
林さん いいの。歴史なんて嘘でもいいの。言ったでしょ? あなたが歴史を作るんだって。歴史なんて言ったもんがち。信じるか信じないかは?
本庄 あなた次第?
林さん そういうこと。そこは貴方のほうがわかってると思ったけど。
本庄 やっぱり歴史は真実かどうかが重要だと思うんです。
林さん なに、急に真面目に。
本庄 こうやってクレームばっかり対応してると、嘘ばっかり。嘘を誰かが広めてその嘘に対してまた嘘が産まれて嘘になる。嘘が嘘を産んで大きな嘘になる。そのうち何が本当か分からなくなってくる。
林さん その通り。だからよ。
本庄 はあ。
林さん 嘘が真実を産んでやがて嘘は真実になる。真実になった嘘はもう嘘じゃない。
本庄 すいません。小学生には難しくて。
林さん 都合のいいときだけ小学生ね。
本庄 そのこずるさがかわいいでしょ?
林さん 小憎らしいわ。いいからさっさと提出しなさい。時間がないの。
本庄 時間がない?
林さん 早くしないと……。

鐘が鳴り響く。

本庄 なんですか? これ。
林さん 間に合わなかった。
本庄 え、なにがですか?
林さん 弔いの鐘よ。
本庄 弔い?
林さん シーイーオーが亡くなったの。
本庄 はぁ。

声 本日◯時◯分(実時間)。シーイーオーが老衰によりお亡くなりになりました。ただいまより、三分間の黙祷を行います。

林さん ああ、あの人に完成した歴史を見せたかった。あの人はとても楽しみにしていたのに。
本庄 すいません。立ってます。
林さん 立っててもいいから黙祷しなさい。

二人、黙祷する。
しばらくして爆発音がする。
そして銃声。
林さんが倒れる。
本庄くんは気付かずに黙祷している。

林さん 助けて。いつまで黙祷してるの!
本庄 ……。
林さん ちょっと助けなさいよ! 始まったのよ。
本庄 どうしたんですか? 寝転がって。
林さん 撃たれたのよ。
本庄 誰に?
林さん 営業部の奴らよ。
本庄 営業部?
林さん たった今、社内は内戦状態に突入してるの。
本庄 な、内戦?
林さん シーイーオーがなくなればどうなるか。
本庄 悲しい。
林さん それはどうかな。ちゃくちゃくと次のシーイーオーの座を狙う輩がでてくる。
本庄 なるほど。
林さん 世は風雲急を告げる戦部門時代。営業部、経理部、総務部、人事部、シーイーオー室、反シーイーオー室、旧シーイーオー室、民族管理部、宗教監査室一神教派、多神教派。さまざまなところが入り混じってシーイーオーの証である番号一番の社員証を巡って戦いになっている。
本庄 そ、それは大変だ。
林さん あんたもその戦いに参入するのよ。
本庄 ぼ、ボクがですか?
林さん そう。
本庄 いや、ボクそんな武器とかないですし。
林さん 武器はある。
本庄 武器なんてそんな持ってないですよ。
林さん いいえ、あなたの中に。
本庄 えっ……知らぬ間にボクは改造されていた!?
林さん 違う!
本庄 なーんだ。
林さん もう戦争は武器に頼る時代ではないの。
本庄 ではなにで戦うのでしょうか。
林さん 情報よ。
本庄 情報。
林さん 情報こそ武器。そのためにあなたをこの部署に配属したの。
本庄 そうなんですね。ちなみにぼくって何部署でしたっけ。
林さん あなたねえ、そんなことも知らずに働いてたの?
本庄 すいません。
林さん シスコン部よ。
本庄 シスターコンプレックス?
林さん 違う! 情報システムとコンプライアンスを統括する部署。あなたはこれから法と情報を武器にこの戦いを生き残らなければならないの。うっ。
本庄 パイセン? パイセン!

林さん、力尽きる。

本庄 よしゆこう。戦いの場所へ。法を盾に、情報を剣として戦いの場所へ。今までボクに関わってくれたみんなのためにもボクは負けるわけにはいきません。なぜならこれがボクの仕事だから。企業戦士は戦いましょう。9時から5時まで働きましょう。24時間は働けません。だってしんどいから。しんどいのは嫌だからボクは偉くなる。ボクは、ボクは、出世したいっ。歴史っていうのは、僕らの生きた足跡。未来はきっと僕らの自由。いきてりゃ失敗することもある。笑って歴史を覚えよう。ニコニコ失敗日本政府。サムイナ温暖化地球崩壊。ニイサン驚く会社倒産!歴史はボクのためにある。ボクこそが歴史になるんだ。いざ

本庄の電話が鳴る。

本庄 もういいところなのに。もしもし? はい? シーイーオーになる方法を教えてくれるんですか? はい。なりたいんですけど。どうしたらいいですか? まずエーティーエムに行って50万振り込む。なんか詐欺っぽいなあ。詐欺じゃない。そうか、じゃあ安心。はい。わかりました。すぐ振り込みます。

本庄、去る。
暗転。

 
赤い照明の中。
「マイムマイム」の音楽に合わせて踊っている三人の影(なぎ・ひな・春本)

ミサイル 落ちてこの街の
大事なお城が まっかに燃えた

マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン 
ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ!
マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン

あの場所この場所 燃えて消えていく
炎のオアシス 夢かとばかり

マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン 
ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ!
マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン

悲しい思いも 時間がたてば
そのうち消えるさ 魔法の言葉だ

マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン 
ヘイ ヘイ ヘイ ヘイ!
マイム マイム マイム マイム
マイム ベッサッソン

春本 街が燃えています。どこかからミサイル飛んできました。
ひな 国際的超大企業が某国をけしかけたという噂がとんでいます。
なぎ ああ、私達の街が炎上しています。
春本 この街に残っていた人たちは、焼け残った国際的超大企業のビルへ集まってきました。
ひな そこにいけば、助かるという噂がとんでいたからです。

なぎがドアをノックする。

なぎ 開けて、みんな避難する場所を探してるんです。
春本 けど、誰もビルの中にはいれてもられなかった。
ひな このビルに集まった人たちはみな流言飛語に操られた。ありとあらゆる情報網が嘘とホントが混じり合って何がホントか分からない。
なぎ 開けて。

本庄がやってくる。

本庄 すいません。なんですか?
なぎ え? 本庄くん?
本庄 あ、なぎちゃんだ。久しぶり。
なぎ ここを開けて。
本庄 ちょっとできません。
なぎ こんなに人が助けを求めてるのよ。
本庄 でもダメなんです。
なぎ なんでよ。
本庄 部外者を入れるわけにはいけないんで。
なぎ なにいってるのよ。緊急事態なのよ。
本庄 そうはいわれても。ルールなんで。
なぎ シーイーオーに会わせて。私の父なんです。直接話しをさせて。
本庄 一応今はボクですけど。
なぎ え?
本庄 まあ、シーイーオー代理って形ですけど。
なぎ どういうこと?
本庄 前のシーイーオーが亡くなって、なんだかんだでボクが今代理になりました。
なぎ 亡くなった?
本庄 ええ、お亡くなりになりました。
なぎ お父さんが死んだ?
本庄 そっか、お父さんだもんね。ご愁傷様です。
なぎ 丁寧にありがとうございます。
本庄 所で今日は何用で?
なぎ 街が大変なことになってるの。
本庄 ああ、燃えてるね。
なぎ 避難する場所がいるの。
本庄 いや、無理ですよ。
なぎ なんで?
本庄 いや、社内は機密情報がたくさんあるんで、社員証がない人を入れるわけには。
なぎ 非常事態なのよ。
本庄 いやぁ、それはわかってるんですけど。

春本と、ひなが駆け寄ってくる。

春本 ダメ、すごい数の人が押し寄せてきてる。
ひな このままじゃみんな死んじゃう。
本庄 みんな久しぶりー。
なぎ ちょっと入れてよ。
本庄 だから社員証がないとダメですって!

と言い合いがつづき、騒がしくなる中、ずっと端で寝ていたゆみが起き出してくる。

ゆみ うるさいなぁ。
なぎ ゆみちゃん。いたの?
ゆみ いたのじゃないよ。ウルサイなぁ。なにしてんの。
春本 大変なの。もうとにかく大変なの。
ゆみ 大変じゃわからない。
ひな 本庄くんが中に入れてくれないの。
ゆみ 本庄くんだ。
本庄 久しぶりー。
ゆみ 今なにやってるの。
本庄 シーイーオー代理。
ゆみ すごい出世だね。
本庄 結構がんばりました。
なぎ そんなのどうでもいいから。
本庄 でも社員証がないひと入れるわけにはいけないんです。
春本 そんな場合じゃないって。
ゆみ 社員証があればいいの?
本庄 はい。
ゆみ 社員証もってなかったっけ、ひなちゃん。
ひな 私?
ゆみ そう。
ひな あ、持ってた。
なぎ そういえば貸したっけ。
ひな うん。
春本 早く言ってよ。
ひな てへぺろ。はいこれ。
なぎ これでいいんでしょ? 入れてよ。
本庄 え? これ。
なぎ 本物だよ。私のもってた社員証だけど。
本庄 一番だ! 一番の社員証だ!
なぎ そりゃそうよ。お父さんの社員証だもん。
本庄 なんで持ってるの?
なぎ お父さんが困ったらこれを使いなさいってくれたの。
本庄 じゃあ実質的に国際的超大企業のシーイーオーはなぎちゃんということに?
なぎ なんで?
本庄 その社員証を巡って今この会社は内紛を起こしてるんだよ。
なぎ なんでなんで?
本庄 その社員証がシーイーオーの証なんだよ。
なぎ 私がシーイーオーになるの。
本庄 まあ、そうなります。
なぎ じゃあ今すぐこのフロアを開けなさい。
本庄 サーイエッサー。
ひな みなさんこっちです! こっちに来て下さい。
春本 走ると危ないですよ!

ひな・春本、人を誘導して去る。
春本が起き上がってくる。

ゆみ いやあ、燃えてるね。
本庄 そうだねえ。
ゆみ やりすぎでしょ。
本庄 ここまでするとは。
なぎ ちょっと待って、これ、本庄くんがやったの?
本庄 サーイエッサー。
なぎ どういうこと?
本庄 サーイエッサー。
なぎ それはいいから。説明してよ。
本庄 サー。色々情報戦略で、もう武力行使にでてこられたんで、なら外から攻撃しちゃえっていうんで。某国に情報流して攻撃してもらいました。
なぎ なんでこんなこと。
本庄 サー。出世するためです。
なぎ 出世? 
本庄 サー。この戦いに勝つとシーイーオーになれるはずでした。
なぎ そんなもののためにこんなことを?
本庄 だって出世しなきゃ偉くなれない。嬉しいでしょ? 出世したら。ほめられるし。お金だって沢山もらえる。生きてるからには出世したい。だって生きてるもの。
なぎ 意味がわからない。
本庄 だってなぎちゃんが、あの時いってくれたでしょ。一番偉いのは本庄くんだよ。これからの世の中はオンリーワンよりナンバーワンだって。
なぎ 言ったっけ?
本庄 サーイエッサー。
なぎ もうそれやめて。
本庄 サー。はい。
なぎ だからってこんなことしなくても。
本庄 だって、ボクはまだ小学生なんだよ。もう来年50歳なのに。
なぎ げ、そんなに時間経過が。
本庄 もう無理があるだろってところまで時間経過してます。
なぎ 本庄くん、ばかなの?
本庄 だっふんだ。
なぎ 笑えないよ。
本庄 そうか、シムラケンも時間には勝てないんだね。
なぎ そんなにシーイーオーになりたかったら、あげるよ。私は別にやりたくないし。
本庄 いいの?
なぎ うん。はい。
本庄 やったー。ついにシーイーオーになりました。
なぎ おめでとう。
本庄 ありがとう。
ゆみ おめでとう。
本庄 ありがとう。
なぎ じゃあ、私行くね。
本庄 あの、なぎちゃん。
なぎ なに?
本庄 あの……。
なぎ 後でいい? 困ってる人助けなきゃ。
本庄 あの、
なぎ じゃあ。

なぎ、去る。

本庄 ああ。まあいいか。急がなくても。
ゆみ 急いだほうがいいんじゃない?
本庄 なんで?
ゆみ 捕まるよ。
本庄 捕まる? なんで?
ゆみ だって戦争引き起こしたんだよ。君。
本庄 ああ、そうなるのか。
ゆみ 外患誘致罪。
本庄 なにそれ。
ゆみ 外国の軍隊に攻めさせた罪。ちなみに死刑確定です。
本庄 嘘。
ゆみ 本当。外患誘致罪には死刑しかないのです。
本庄 やばいなぁ。でもまあ大丈夫。今は国際的超大企業のシーイーオーだから。
ゆみ ちなみにもう会社あるけどないよ。
本庄 ない? どういうこと?
ゆみ 会社大きくなりすぎて消えちゃった。
本庄 消えた?
ゆみ でっかくでっかくでっかくなりすぎて国際的超大企業がただの超大企業的国際社会になったって言う意味。
本庄 もうちょっと小学生に分かるように説明してください。
ゆみ つまり、大きく大きくなりすぎてね、見えなくなったの。ほら、地球だって丸いけど大きすぎて丸く見えないじゃない。
本庄 はい。
ゆみ もう企業っていう枠組みが大きくなりすぎて誰もわかんなくなって、会社の中で全てまかなっちゃって、消費も会社の中で済んじゃうでしょ。じゃあもう会社ってただの枠。会社の中で企業できちゃうわ。最近なんて宗教やら民族で派閥つくるわ。結局元通り。
本庄 そんなぁ。それじゃあボクが今世界で一番偉いってことにならないの?
ゆみ 違うね。全然。
本庄 なんでなんで?
ゆみ 一番えらいのは君じゃない。
本庄 じゃ、じゃあ誰。
ゆみ 会社で一番偉いのは。
本庄 シーイーオー?
ゆみ 違う。
本庄 会長?
ゆみ 違う。
本庄 オーなんだろう。
ゆみ 正解。
本庄 なんだろう?
ゆみ 違う。オーナー。株主です。
本庄 なるほど株主様か。
ゆみ そう。今じゃ世界中がオーナー。つまり世界中の普通の人々が一番えらい。ということはどういうことか?
本庄 どういうこと?
ゆみ 本庄くんだけが一番えらくない。
本庄 なんでぇ、せっかく出世したのに。なんでそうなるの?
ゆみ 歴史では最後には民衆が勝つんだよ。
本庄 ボクだって民衆じゃんないの?
ゆみ 違うよ。今はかつて世界的だった超大企業だったシーイーオーなんだから。公人として責任をとらなきゃ。
本庄 責任とってシーイーオー辞めますから。助けて。
ゆみ ダメだよ。誰かが責任をとらなきゃ。貧乏くじ引くのはいつだって一番偉くない人なんだよ。
本庄 社会って怖いなあ。
ゆみ じゃあ私はもうちょっとやることあるんで。頑張ってね。じゃ最後に一言。
本庄 だめだこりゃ。

本庄の上に大きなタライが落ちてくる。

10
周りが暗くなり、本庄のスポットになる。
警備員が本庄をタライの中に入れて、タライの縁に鉄棒をはめてゆき牢獄のようになる。
しばらくして警備員が手紙を本庄に渡す。
少し離れた場所になぎが現れる。

なぎ 本庄くん、お手紙ありがとう。本庄くんはお元気ですか? 私はぼちぼち元気にやってます。裁判が長く続いているようですが、体調はいかがでしょうか。返事が遅くなってしまってごめんなさい。返事をどう書いていいのかわからずに、時間がかかってしまいました。本庄くんがなぜあんなことをしたのか。まったく私には理解できませんでした。でも本庄くんが、ただ歴史の宿題をするために、そして私に一言いいたいことがあった。それだけだとしって驚きました。
本庄 なぎちゃん。ボクは君にいいたかったんだ。
なぎ あの時本庄くんを助けてあげられなかったんだろうか?と今でも考えます。考えてみればあの時一緒に小学校に通っていたみんなが、本庄くんを助けてあげられたのに。助けなかった。その結果、本庄くんがあんなことをしてしまった。私の何気ない一言がここまで事を大きくしてしまったのだと知ってとても悲しい気持ちです。でもそこに書かれていた本庄くんの言葉はとても意外でした。
本庄 ありがとう。あの時、宿題を手伝うって言ってくれて、ありがとう。
なぎ 本庄くんがしたことは理解できません。ですけど、本庄くんが見つけようとしたこの街の歴史はまだ終わりじゃありません。元通りじゃないんだけど、人が戻ってきて、新しい街として少しづつ生活が始まっています。おじいちゃんが公園で将棋してたり、スーパーで安売りの大売り出しやってたり、恋人たちが行く場所を求めてさまよってたり。そうそう、この前、学校の後に行ったら、本庄くんが立っていた跡の廊下が新しい校舎に再利用されて新しい学校になっていました。きっと誰もそこがなぜへこんでいるのか知らないんでしょうね。そんな些細な事はみんな忘れてしまって、なかったことになるんでしょうし、歴史に残らないと思います。でも、そんな些細な事が積み重なって私が居るし、この街があるんだと思います。
本庄 なぎちゃん。好きでした。それがいいたかったんです。
なぎ 後、最後になりましたが私、結婚することになりました。
本庄 えっ、
なぎ 春本くんと。

春本がなぎの横に現れる。

本庄 そ、そんなぁ。
なぎ では、よい判決がでることを願っています。

なぎ、去る。

本庄 殺せぇもう殺せぇ。

本庄、バタバタと暴れて倒れ込む。
ぼんやりと真っ黒な服を着た裁判官(林さん)が現れる。

林さん 起立。

警備員がやってきて本庄を立たせ、タライを回収していく。

林さん それでは判決を朗読します。理由、罪となるべき事実。第1。被告人は、当時務めていた国際的超大企業のシーイーオー代理待遇であり、その時起きていた大規模内紛を鎮圧する方法を決定する権限を有していた。被告人は国際的超大企業のシーイーオー代理である立場を利用し、某国に接触し、我が国で起きている内紛を鎮圧するために協力を仰ごうとした。しかしその中に含まれる侵略的行為があるという事実を知っていたのにもかかわらず、黙殺した事実があり、当時それを知り得たのは被告だけである。被告人は事件当日、某国の軍隊を斡旋し、超国際的企業の圧力を使い極秘に入国させ、デモを鎮圧させるために攻撃を開始する便宜を量った。
  法令の適用。被告人の所為のうち刑法81条に対する外患誘致罪の刑で処断することする。
  量刑の理由。被告人は安易な方法として外患を誘致し、その理由は極めて合理性にもとり常識を逸している。前例のない重大かつ卑劣な事件であることは明らかである。よって、被告人に対しては外患誘致罪をもって臨むのが相当である。よって主文のとおり判決する。
本庄 ありがとうございました。
林さん 主文。被告人をしけ、

慌てて裁判官2がやってきて、林さんに耳打ちする。
ゆみがやってくる。

本庄 あ、ひさしぶり。
ゆみ ほら、これ。
本庄 なに?
ゆみ あけてみて。

ゆみ、巻物状のものを本庄に渡す。
本庄、巻物を広げるとそこには「免訴」と書かれている。

林さん 本件は法律の変更による免訴とする。
本庄 免訴?
林さん 以上。閉廷。

林さん、裁判官2、去る。

本庄 なにこれ? どういうこと?
本庄 変わった? なんで?
ゆみ 法律が変わったんだよ。そもそも外患誘致罪なんていままで一回も採用されたことない意味のない法律だったし。
本庄 助かった?
ゆみ そういうこと。
本庄 だっふんだ。
ゆみ はははは。
本庄 だっふんだ。だっふんだ。
ゆみ もういい。
本庄 本当にすぐ飽きるな。
ゆみ 大体、本庄くんが戦争を引き起こせるわけないんだよ。
本庄 え?
ゆみ あの時電話で話したでしょ?
本庄 電話? あっ、
ゆみ もしもし、わたしわたしー。
本庄 あ、あのときの電話の人。
ゆみ そう。
本庄 そっかゆみちゃんだったんだ。
ゆみ 本庄くんの裏でいろんなところを操ってる人がいたんだよ。
本庄 そっか。ちょっと偉くなりすぎておごってたな。
ゆみ おごってた本庄くん。滑稽だったよ。
本庄 お恥ずかしい。でもゆみちゃんがなぜ?
ゆみ 私がこのゲームを作った人だから。
本庄 ゲーム?
ゆみ そう。マネーゲーム。暇だったから。
本庄 ということは一番えらい人?
ゆみ そういうのとは違うよ。
本庄 そうなの?
ゆみ 世の中ね、一番偉いのはなーんだ。
本庄 民衆。
ゆみ ちがーう。
本庄 シーイーオー。
ゆみ ちがーう。
本庄 情報!
ゆみ ちがーう。
本庄 真実!
ゆみ ちがーう。
本庄 愛。
ゆみ うーん。
本庄 え?
ゆみ 全然違う。
本庄 お金。
ゆみ 大事だけど違う。
本庄 友情。
ゆみ ちがうちがう。
本庄 神様。
ゆみ いるの?
本庄 わかんない。
ゆみ じゃちがう。
本庄 ごめんなさい。わかりません。
ゆみ じゃあヒント。
本庄 なんかクイズみたい。
ゆみ クイズ嫌い?
本庄 好きです。
ゆみ じゃあヒント。ゲームで必ず勝つにはどうしたらいいか?
本庄 勉強したり、経験つんだり。
ゆみ 違います。
本庄 違うの?
ゆみ ゲームを作る側に回ればいいんです。
本庄 なるほど。
ゆみ 結局、ゲームはルールを作る側が一番強い。世界で一番偉いのは、法律。そして一番強いのは、その法律を作る人。
本庄 ははーん。なるほど。ねえ、一つ聞いていい?
ゆみ なに?
本庄 なんでゆみちゃんはそんなに知ってるの?
ゆみ 悪いから私。
本庄 そうなの?
ゆみ 私がルールを作ったの。父親が政治家だったからそこらへん詳しいの。
本庄 そいういえばそうだったね。
ゆみ ルールを作った人がね、ゲームに一喜一憂する人々を観るのは楽しかったよ。ただの暇つぶしだったんだけど。もう飽きちゃった。一人勝ちのゲームなんて、まわりも本人もオモシロくないもんだよ。
本庄 なるほど。
ゆみ ああ、悪すぎて眠い。
本庄 そうなの?
ゆみ 悪すぎると暇で暇で眠るしか無いから。悪いやつほどよく眠る。じゃおやすみ。
本庄 おやすみ。

ゆみ、あくびをしながら去る。
本庄、ゆっくりと歩き始める。
暗転。

11
本庄、杖をついてやってくる。
足元もおぼつかず、すでに60を超えているようである。

本庄 ちょっと街を見て歩きました。
本庄 ここはボクが産まれた病院だ。建物も新しくなって沢山人がいます。
本庄 ここにボクの家があったんだ。新しいマンションができてる。
本庄 ここの幼稚園、先生が優しかった。少子化でなくなっちゃったんだ。
本庄 ここの公園ですべり台から落ちて骨折したっけ。今は駐車場だ。
本庄 ここに秘密基地つくったんだ。きっとどこかでまた子供達が作ってるでしょうね。
本庄 ここで夏祭りやってたなぁ。くじはいっつもハズレだったけど。もうお祭りはやらなくなったようです。
本庄 ここが小学校だった場所。建物は変わったけど、またここに小学校作ったんだ。子供がいます。

なぎが現れる。

本庄 なぎちゃん?
なぎ 違うよ。なぎちゃんはお母さんだよ。
本庄 そうか、ごめんごめん。
なぎ おじいちゃんだれ?
本庄 君はいくつ?
なぎ 10歳。
本庄 そうか。お母さんは元気?
なぎ うん。
本庄 そうか。よかった。
なぎ おかあさんのお友達ですか?
本庄 うん。昔ね。
なぎ そっか。
本庄 この街は好きかい?
なぎ うん。

ひなが現れる。

ひな しずちゃん。
なぎ すうちゃん。
ひな ショッピング行こうよ。
なぎ うん。いいよ。おじいちゃんバイバイ。
本庄 うん。バイバイ。

ひな・なぎ、「紀州和歌山だっふんだテーマソング 前半」を歌いながらあるいている。

本庄 先生、これがボクの街の歴史です。
本庄 もう座っていいですか?
本庄 どっこいせ。

本庄、初めて座り込む。
ひな・なぎに、春本と林さんも加わり、「紀州和歌山だっふんだテーマソング」の後半を歌う。
                    

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使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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