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【短編戯曲】歌う達磨と沢蟹の素揚げ

歌う達磨と沢蟹の素揚げ

登場人物
コンちゃん
かすみ
小松

小松が、達磨を持ってやってくる。
そして、達磨を置いて、しゃべり始める。

小松 ここはとある地方都市のとある場所にある、河東(かわひがし)コミュニティーセンターでございます。本日は講座がたくさんございまして、ちょっと忙しいのです。おっと、私もね、ある講座のお手伝いがありましてね。講座にご興味がおありで? どんながあるかは、ほら、そこの休憩スペースに、張り紙がありますでしょう?
 そこをご覧下さい。ほら、そこに男の人が。コンちゃんっていうんですがね。ほら、そのコンちゃんの座っているところですよ。ちょっと、失敬。

   ゆったり座り、新聞を読んでいるコンちゃん。
   テーブルには何故か達磨が置いてある。
   そこへてけてけと沢蟹がやってくる。
   驚くコンちゃん。
   
コンちゃん なに! 蟹!?
   
   沢蟹の後を、鍋を持ったかすみがおそるおそる追っかけてくる。

かすみ あ、捕まえて!
コンちゃん え?
かすみ はやく!
コンちゃん あ、うん。(沢蟹を捕まえる)
かすみ こ、ここ! 入れて!
コンちゃん あ、うん……(蟹を鍋に入れる)
かすみ ありがとう。
コンちゃん 何? かすみ え?
コンちゃん それ、それそれ。
かすみ ああ、これ? 今日の材料。
コンちゃん 料理教室の?
かすみ そう。沢蟹の素揚げなの。
コンちゃん 大変だ。
かすみ 簡単よ。素揚げだもん。
コンちゃん いや、料理の先生が。
かすみ ああ、そうでもないよ?
コンちゃん 蟹捕まえる所からやってるから。
かすみ ハハハ。ちょっと頑張って生きてるの使いたくて。
コンちゃん へ~。
かすみ あれ? 小松さんは?
コンちゃん ああ、なんか探しに。
かすみ そう……。
かすみ、ソファーに座る。
コンちゃん いいの?
かすみ うん。下準備してただけだから。
コンちゃん そう。
かすみ おめでとう。
コンちゃん ああ、ども。
かすみ すごいね。
コンちゃん いや、まあ。
かすみ ちょっとした国際人だよね。
コンちゃん 意味ないよ。こんな片田舎じゃ。
かすみ でも、すごいな。
コンちゃん ハハ。
かすみ そだ、これから合格祝いのパーティーなんでしょ?
コンちゃん あ、うん。まだ、ダレも来てないんだけど。
かすみ これ、もってってあげるよ。
コンちゃん ああ、そう。
かすみ おいしいのよ。すごく。
コンちゃん そうなんだ……。
かすみ ……。
コンちゃん 蟹か……。
かすみ キライ?
コンちゃん ううん。スキ。……スキスキ。
かすみ ……。
コンちゃん あの、次も?
かすみ え? 何が?
コンちゃん あの……、次も先生するの?
かすみ うん。多分。
コンちゃん そうなんだ。
かすみ コンちゃんは? どうするの?
コンちゃん ……どうしよ。
かすみ いっそ料理教室来る?
コンちゃん いや……。ちょっとなあ。
かすみ だよね。おばさんばっかだもんね。
コンちゃん いや……。
かすみ そっか……。

   しばらくして、小松登場。

小松 ああ、ここに置いてたか~。
かすみ 何?
小松 いや、これこれ。達磨。
かすみ また?
小松 いいだろ、これ。すごいんだよ。ほれ。

   小松が達磨の頭を叩くとサンバのリズムが流れ出す。

かすみ なにこれ?
小松 歌うんだよ。いいだろ~? な? コンちゃん?
コンちゃん ええ……。
かすみ もう、辞めてよ。変な達磨ばっか持ってくるの。
小松 何言ってんだ。祝いだろ?
かすみ そんなわざわざ……。
小松 持ってくるよ。わざわざ。だってこいつの存在意義はそれだけなんだから。
かすみ まあ。そうだけど。
コンちゃん ……。サンバ?
小松 ああ。かわいいだろ?
コンちゃん まあ……。小松 いいよな~。これ。あ~、で、コンちゃんはどうするの? 次は?
かすみ 話し聞いてたの?
小松 ん? いや、なんとなくな。で、ナイよ。もううち、語学系。
コンちゃん ですよね。
小松 すごいよね。英語にフランス語イタリア語で、スペイン語。で~、ポルトガル語ギリシャ語ドイツ語ロシア語で、えっと、中国語にラテン語で、今度受かったのが?
コンちゃん サンスクリット語。
小松 なんに使うの? そんなの。
コンちゃん 使いませんよ。大体もうダレも使ってないし。サンスクリット語。
かすみ そうなの?
コンちゃん インドの昔の言葉だから。
小松 へ~、そうなんだ。
かすみ 知らないの? ここの職員なのに。
小松 しらないよ。
コンちゃん ハハ。
小松 天才だよね。語学の。
コンちゃん ちがいますよ。受かっちゃうんですよ……。
小松 それが天才なんじゃないの?
コンちゃん つい! つい夢中になっちゃって! はあ、ボクの才能がこんなところにあったなんて……。
小松 なんか沈んでるな。パーティーだぞ? パーティー。おっと、そうだった。準備の途中だった。コンちゃん、準備終わるまでもうちょっと待っててな。終わったら呼ぶから。
コンちゃん あ、はい。

   小松、去る。

コンちゃん あ、達磨……。

   間。急にコンちゃんが達磨の頭を叩く。
   すると達磨が軽快なサンバのリズムを奏でだす。
   しばらく間。

コンちゃん スキだよね。達磨。
かすみ そうね。
コンちゃん うん……。
かすみ ……。
コンちゃん かすみさん、sukka(スッカ)~
かすみ え?
コンちゃん サンスクリット語。
かすみ どういう意味?
コンちゃん さあ?
かすみ なに。
コンちゃん 日本語で聞けないから。
かすみ そう……。
コンちゃん ……。
かすみ でも、日本語へただよね。
コンちゃん え? そう?
小松 次、日本語習ったら?
コンちゃん あるの?
かすみ ないよ。
コンちゃん そっか……。
かすみ じゃ、私も戻るわ。
コンちゃん うん。
かすみ じゃ。
コンちゃん うん。

   かすみ、去る。
   コンちゃん、新聞を畳んで講座の内容を見る。

コンちゃん 気軽にパリっ子フランス語講座……楽しく歌おうカラオケ講座……心の教養写経講座。現役ホストが教える恋愛講座……、れ、恋愛講座……。ホストかあ……。

   コンちゃんが、椅子に座って達磨をつ
   つくと、コテンと倒れる。

コンちゃん だめだ、こいつ。

   そしてサンバを歌い出す達磨。
   

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使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)


1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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