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【長編戯曲】新世界の入り口、そこにいる。

新世界の入り口、そこにいる。

登場人物
春夏冬 円 (あきない まどか)
小鳥遊 糺 (たかなし ただす)
蝦氏  卓也(えみし  たくや)・男2
先生


ベンチがある。
若い女が一人、その上に座っている。
その横には、男が一人立っている。
彼は「先生」と呼ばれている。

先生 「No」はこの質問に対する正しい答えか? YesかNoで答えてください。
女 え? 今のが問題ですか?
先生 ええ、「No」、は、この質問にとっては、正しい答えか? YesかNoで。です。
女 あの~、わかりませんはナシですか?
先生 それでもいいのですが、一応、答えてみてください。YESか、NOか。
女 えっと……イエス。
先生 では、「NO」がこの質問の答えではなくなっているので間違いですね。
女 ああ、じゃあ、「NO」?
先生 じゃあ、この問題の「NO」は、答えじゃないということですか?
女 え? いや? ……? ?
先生 ……。
女 あれ? じゃあ、答えはなんですか?
先生 答えはありません。
女 ええ~~。
先生 いわゆる、これがジレンマというやつです。答えがないということです。世の中には、答えの出ない問題というものが、たくさんあります。たとえば、神様はいるのか? とか、幽霊がいるのか? とか。神様なんかは、いるかもしれないし、いないかもしれない。日本人の多くはいないとおもっているでしょうが、世界的には、本当にいる思ってるという人はかなり多いんです。そして、実際に神様がいないという証拠をあげるのは困難なことです。
女 なるほど。
先生 しかしながら、ここにもジレンマが生じています。
女 え?
先生 答えがないというのが、答えだからです。
女 ああ、なるほど。答えがないのが、答え……。確かに変です。
先生 つまりですね。答えのない問題はないということです。わからないということすら、答えの一種だということです。つまり、それをどういう風に解釈するか、それが問題だということなのです。
女 はあ。ちょっと私、頭が悪いんじゃないかという気持ちになってきました。
先生 気にすることはありません。そういうもんです。
女 はあ。
先生 逆に問題のない答えというものはありません。
女 はあ。
先生 答えだけがあるのに、問題がないというものはありえないのです。
女 なるほど。そうですね。
先生 あなたの経験している事は、問題であると同時に、答えでもあるのです。
女 はあ。
先生 いいですか? 簡単なことです。どんな不思議な現象も、問題さえ分かれば、簡単なことだったりするのです。答えというものは、解決とも同意義だったりするから、答えが分からないということもありますが、一応の解決をもって、理解をするということです。
女 はあ。
先生 まあ、理解はしてもらわなくても結構なのですが、あなたには、ある問題が起きているそれを解決するのは、ワタシの問題です。しかしながら、あなたに起きていることは、なにかの問題に対する結果。つまり答えなのです。
女 なるほど。
先生 つまり、その問題を見つけることが、ワタシの答えとなるのです。
女 なるほどなるほど。
先生 わかりましたか?
女 半分ぐらい。
先生 半分?
女 ……三分の一ぐらいかも。
先生 上出来です。それぐらい理解してもらえれば、これで、まず、あなたの問題をどう解決しなければならないかを理解してもらわないといけないという問題は解決しました。
女 はあ。

短い間。

先生 治療は進んでいるということです。
女 あ、ありがとうございます。
男 後は、あなたの問題をみつけないといけないということです。
女 ええ。
先生 まず、あなたは、ビルの屋上から、飛び降りたということですね。
女 ええ。
先生 死にました?
女 ええ。
先生 なるほど。不思議ですね。あなたは今、私の前にいる。私には生きているように見える。
女 そうなんです。だから困ってるんです。
先生 つまり、死ななかったというわけではないんですね?
女 そこらへんはよく分からないんですが、自分が死んだという実感はあるんですけど~~。
先生 なるほど。実感はある。死んだか、死んでないかは分からないが、実感はある。これは重要なことです。
女 気づいたら、懐かしい場所にいて、で、いろんなところにいって、最後には、ここにいるんです。そして、先生とこうやって話をしている。
先生 なるほど。確かに、今、私はあなたと話をしている。
女 そして、先生はこう言うんです。『「No」はこの質問に対する正しい答えか? YesかNoで答えてください。』って。
先生 ええ、言いました。私はあなたに言いました。これは事実です。これは重要なことです。
女 そうなんです。そういうんです。重要なことですって。そして、先生はこういうんです。「なるほど。ループをしていると。ある期間。これも重要なことです。」って。
先生 なるほど。ループをしていると。ある期間。これも重要なことです。
女 「これ、困ったことですよね?」って。私が言うと、先生は、「それはワタシには分かりません。困るか。困らないかっていうことはあくまで主観的なことなのです。それはあなたの問題なのですから。」って言って。これ、困ったことですよね?
先生 それはワタシには分かりません。困るか。困らないかっていうことはあくまで主観的なことなのです。それはあなたの問題なのですから。
女 はあ。私の問題。
先生 そうです。
女 けど……どうしたらいいんでしょう?
先生 わかりません。
女 そ、そんな~~。
男 ただ……。
女 ただ?
先生 あなたの問題はあなたの中に含まれるはずです。
女 私の中に。
先生 つまり、あなた自身が問題を内包しているのだということです。
女 まあ、そうですね。
先生 そうです。つまり、あなた自身が問題ということとも言える。
女 やっぱり、ワタシが問題なんですね。
先生 ははは。いやいや、そういう意味ではありません。単純に、問題イコールあなただということです。
女 ああ……やっぱりワタシは頭が悪いんだ。
先生 そう卑下するのはやめてください。これ以上問題が増えるとさすがにワタシでも手が終えなくなる可能性があります。
女 すいません……。
先生 単純なことなんです。今、あなたはこの環境、まあ、社会や、セカイと言ってもいいものの中に居る。その中での自分を見ているから、問題がとても複雑に見えているだけなんです。
女 はあ……。で、ワタシはどうしたらいいんでしょう?
先生 単純な事です。環境から孤立すればいいのです。
女 孤立? 無人島にでもいくんでしょうか!?
先生 いえいえいえ。そんなことはしなくてもいいんです。簡単です。ただ、目を閉じればいい。セカイから目をつぶって、暗闇の中に、自分の世界に旅たつのです。
女 自分の世界に旅立つ……。
先生 失礼。ちょっとかっこつけすぎましたかね? 自分を見つめるということですよ。まあ、簡単な瞑想みたいなもんです。
女 はあ。
先生 さ、目を瞑ってみてください。
女 え? 今ですか?
先生 ええ。さあ、ゆったりと、体をリラックスさせて。目を閉じて、なにも考えなくてもいいんです。ただ、暗闇の中に浮かぶような気持ちで。
女 ええ。
先生 最初はただ、暗い世界があなたを覆うでしょう。ですが、なにかがそのうち、見えてくるはずです。あなたにしか見えないなにかが。
女 ええ。見えてきました。
先生 何が見えてきましたか?
女 商店街。
先生 商店街?
女 懐かしい。
先生 そこは、あなたの出身地にある商店街ということでしょうか。
女 ええ。新世界商店街。ふふ。今じゃ、すっかりさびれてしまって。新世界という名前なのに。昔はあのあたりじゃとても有名で人もたくさんあって、新しくて、きらきらした世界で、本当に新世界だったのに。その商店街の入り口にあるビルの二階に……。
先生 商店街の入り口。
女 ええ。新世界の入り口に。
先生 そこになにがあるんですか?
女 彼がいる。
先生 新世界の入り口、そこに
女 彼はいる。


ベンチに女が倒れ込んでいる。
男が入ってくる。
彼を円と呼ぶことにしよう。

円 !? ……。(あたりを見渡す。誰もいない)あの、大丈夫ですか?
女 ……。あれ?
円 気分でも悪いですか?
女 あ、おはようございます。
円 あ、おはようございます。
女 あれ? 寝てた……。もう、昼?
円 ああ、そうですけど。
女 あ~~。お腹すいた。
円 え?
女 ……。コンビニいってきていいですか?
円 あ、いや、どうぞ。
女 ……。
円 ……?
女 あの、どこにあります? コンビニ。
円 えっと、出て、すぐ左言ったらセブンイレブンがあるけど。
女 そう。

と、あくびをしながら、出て行く。

円 ……? なんやあれ? ふ~~む。誰もいいひんのか~。暇やの~~~。

と、ズテンと、ベンチに横になり、うつらうつら寝始める。
蝦氏がやってくる。

蝦氏 あ、探偵さん、なにしてんの!?
円 ああ、帰ってきた。いや、暇でよ~~。
蝦氏 もう、探しててんで。上の事務所開けっ放しでだれもいいひんしよ。
円 あ、そうなん? 入れ違いやな。
蝦氏 うわっ。のんき丸出し。
円 なんか用? こんな時間に映画館空っぽにして。ま、お客さん誰もいいひんから、ええやろけど。
蝦氏 うっさいわ! ちゃうねん。事件やねんて。事件。
円 事件? また映画館が潰れそうとか?
蝦氏 そうそうそう。うちの映画館ひどくてねえ~~。収益もあがらんし、もうそろそろやばいかな~~って違う!
円 あ、そう?
蝦氏 いや、まあ、つぶれそうなんは、つぶれそうやからって、大体あんたのせいやろ!
円 ええ~~~?
蝦氏 しってるか? うちの映画館、なんてよばれてるか。
円 おばけ映画館。
蝦氏 そう! それ! もう、幽霊でまくり。うちの映画館、もう、幽霊で満員御礼ですよ。なんやろ? もう、すでに立ち見状態ですよ。足ないけどね! 足ないから立ち見って言うても、浮いてるから、浮き見ってかっっても~~~。探偵えも~~~ん。
円 あはははは。
蝦氏 わらってんと、なんとかしてよ。
円 え~~~。無理。
蝦氏 無理! なんでやんねん。探偵やん!
円 いや、だから、探偵やから、オレ。そういうのは、神社とかにお願いしたらええんちゃうの。
蝦氏 なんでやねん! 霊界探偵「たかなし」いうたら、有名やんか。
円 そんなこというたってさあ~~。幽霊が相談にくるからよ~~。こっちも一緒やよ? 解決しても幽霊やから金ないしよ~~。
蝦氏 だ~から、まともに仕事すりゃええやん。マジで。
円 しゃあね~じゃん。幽霊しかこねえんだもん。オレの仕事。怖がって一般のお客さん全然けえへんようになるしよお~~。
蝦氏 そんな幽霊ばっか相手にしてるから? なんか集まってきて、家の映画館まで幽霊だらけになってるんでしょ? え? 寅さんすごい人気ですよ。家の映画館。昭和? なんか幽霊内で、幽霊チャート一位はやっぱり寅さんですよ。おい、さくらぁ~~~。
円 ええやんけ~。トラさん。寅さんええよ~。もてない男哀愁やよね。これが、日本の喜劇やよね。
蝦氏 見飽きたよ! 寅さん、もうええよ! なんかい同じ事すんだよ。もういい加減懲りろよ。ちゃんと就職しろよ。いい加減。つうか、もてないっていうの気づけ!ってもう、20個目ぐらいから、だるいよ。マジで。!
円 偉大なるマンネリズムやろがよ。それがプログラムピクチャーのすごさやの!
蝦氏 だ~~~ら~~~。違うよね? だれのせいですか? こうなってるの~は!?
円 さ~~~ね~~~。
蝦氏 さあ~~~んえええええんちゃうしぃ!
円 で、なに? 本当の用事は?
蝦氏 え? ああ、いや~。まあ、その~~。

と、くねくねしだした。
くねくねくねくね。
も~~。そりゃ、くねくね!!

円 息止めるぞこら!
糺 あの~~~。すいません。
蝦氏 あ、ごめんごめん。
糺 いましたか? 探偵さん。
円 あれ?
蝦氏 最近きはってん。
糺 どうも。
円 あ、どうも。
蝦氏 いや~~。今、ほら、さすがに寅さんあきたんで、今、この街出身の映画監督の映画やってるやん。
円 ああ。
糺 どうも~~。はじめまして。
円 あれ? さっき……。
蝦氏 え? 知り合い?
糺 いや……初めてだと……。多分?
円 さっき、ここおらんかった?
糺 いや……。映画館の中にはいましたけど……。
蝦氏 なに? もう、ナンパかい!? 探偵さんよ~~。
円 ちゃうわ。勘違いかな。わりぃわりぃ。
蝦氏 まあ、その映画の、幽霊さん。
糺 いや~~~。自分では、幽霊って感じないんですけど。
円 うわ~~~。うわ~~~。
糺 ?
蝦氏 なんよ。
円 もう、めんどくさい匂いしてきた。自分で幽霊いいはった。
蝦氏 で、まあ、その映画が困ったことになってて。
糺 はい、困ってます。
円 そりゃそうだ。私は探偵です。困った人のこまった事件を解決するのが仕事です。でも、精神科医ではありませんので、変なことは言わないで。
蝦氏 まあ、そういわずに。
糺 私の映画のエンディングが行方不明なんです。
円 んん。変なこと言った!!!
蝦氏 まあ、詳しい話きいてよさ。
円 だって~~。わからへんし。そんなんゆわれても。
糺 あ、詳しい説明いります?
円 そりゃ、うん。ほしいほしい。
蝦氏 まあ、簡単に言うと、映画が上映する度に、エンディングが変わるんよ。
円 え? どういうこと?
糺 まあ、見ているときは、わかんないんですけど。
円 はあ。
蝦氏 まあ、オレも見たけど、あれ? なんじゃこりゃって感じ?
円 結局、どう変わってるのよ。
糺 それが~~~……。
蝦氏 それはわからんのよね。確かに、こんなんじゃなかったよな~って思うんだけど、でも、どこがどう変わったの?っていわれると、細かい所まではわからない。
円 じゃあ~さ~、それって気のせい! うん。気のせい! はい、解決。はい、お金。
糺 違います! 絶対に気のせいじゃないです!
円 え~~~~。もうええやんそれで、それで~~。
蝦氏 まあまあ。怒られるし。いろんな人に。
円 オレ、関係ないし~~。
蝦氏 なあ。っていうか、お前、見てへんの? 映画。
円 あ?
蝦氏 キルイルリリー。
円 あ~。
糺 今、中でやってますよ。
円 ん~。
蝦氏 それはあかんやろ~~~。見たり~~や。
円 ん~……。
糺 映画、嫌いなんですか?
円 いや、そういうんとちゃうけど。まあ、あの手の映画は苦手っちゃ苦手やけど。うん。あれよな。映画はカンフーやね。やっぱり、ブルースリーええよね~。
蝦氏 おお~~!! ええなあ。ほわちゃ~~~。ドンシンクフィ~~~~~~!!
円 あれよな。静かな怒りと、あの敵を倒した後の表情、あれがたまらんおよ。
蝦氏 ほわちゃ~~~~。(ブルースリーのまね)
糺 カンフー映画はどうでもええですから!
円 まあ、あれよな。実際見てみんとあかんか。
蝦氏 お、あざ~~っす。前売り1500円な?
円 金とるんかい!
蝦氏 あっざ~~~っす。
円 ん~~~。で、解決したら、報酬は? 君、お金もってんの?
糺 それが……。
円 かだらで? かだらでぇ! かだら!!
蝦氏 だ~ぼお! オレが払うというか、どうや? うちの映画フリーパス半年分!
円 え~~。寅さんばっかやろ~?
蝦氏 好きやいうとったやんか。
円 せめて~1年じゃない?
蝦氏 じゃあ、8ヵ月!
円 10ヶ月。
蝦氏 9ヶ月!
円 のった!
蝦氏 よっしゃ、まかせた!
糺 あの~、すいません。
蝦氏 ああ、ええのええの。ま、まかしといて、こいつ、これでも、一応、名探偵やさけ。
円 まあ、な。
蝦氏 名付けて、不潔探偵、たかなし。
円 そうそう。あ、くっさ~。風呂入ってないって……。
蝦氏 じゃ、中行こうか? そろそろ次の上映時間やし。
糺 はい。
蝦氏 あ、ちょっと先行っててくれる? ちょっとこいつと悪巧みあるから。
糺 悪巧みですか?
蝦氏 大人にはいろいろあるんで!
円 誰が不潔やねん!
糺 ……じゃ、下行ってます。

と、去る。

蝦氏 というわけで、どうにかしてもらえへんやろうか?
円 事件? まあ、そら、映画みてみいひんとわからんけどよぉ。
蝦氏 いや、まあ、映画の方もほら、あれやねんけど~~。

と、くねくね。くねくね! くねっ!

円 ほんまにあれよな。子犬にありえへんぐらい、小指かまれたおしたらええのに。
蝦氏 あの娘、ちょ~~かわいない?
円 ん~。まあなあ。
蝦氏 これ、チャンスやねん。21世紀最初で最後かもしらん。
円 あの子、幽霊やろ?
蝦氏 まあ~。せやけどさあ~。そこらへんは? 愛の力で乗り越えられるんちゃう?
円 まあ~~、ええけど。惚れた?
蝦氏 ふふふ~ん♪

くねくねくねく。ああ、くねくね。

蝦氏 ほれてまうやろーー! って違うか!
円 まじきもい。トラさんみたいな一生を送ればいいのに。
蝦氏 トラさんと一緒にすんなや! オレはなんとかするねん!
円 あ、そう。
蝦氏 人間であかんかったら、幽霊やろ。
円 ま、ええんちゃう?
蝦氏 毒くらわば皿まで。なんやったら、一緒に幽霊にでもなります。ええ、なりますとも。
円 まあ……。
蝦氏 なんや?
円 ん~~。ちょっとめんどくさそうやな。今回の事件は。
蝦氏 ……監督の事か?
円 まあ、関係ないか。
蝦氏 まあ、そこらへんはつらいやろけど、オレのためやと思って。
円 ふむ。
蝦氏 ま、おまえやったら大丈夫やって、ほら、幽霊監禁事件1000人斬りもすごかったし。
円 ま~、それとな、あの娘、気になるんやけど。
蝦氏 なんじゃあ。あかんぞ。それは!
円 ちゃうわ! あほ、おまえと一緒にするな!
蝦氏 あぁ?
円 あの娘、ただの幽霊ちゃうぞ? 多分やけど。
蝦氏 あん?
円 ん~。
蝦氏 どういうこと?
円 ま、ようわからんけど。
蝦氏 ん?
円 あの映画って先月公開したばっかりやろ?
蝦氏 せやなあ。まあ、人気あんまりなかったみたいやけど。
円 まあ、幽霊っていうのは、普通、人間の怨念とか、心残りがこう、幽霊という形を持つもんやろ?
蝦氏 そやなあ。うちの映画館も、やたらじめじめしてるからな。あいつら、暗いねん!
円 まあ、だから、あの映画の幽霊というのが、どうもふにおちん。
蝦氏 ふ~ん。まあ、なんでもええんやけど。
円 ええんかい。
蝦氏 まあ、幽霊だろうが、お化けだろうが、ええねん。恋に壁はないのですよ!
円 あ、そう。まあ、せやったらええんやけど、あ~、オレも意外と忙しいんよね~~。すぐに解決できるか。
蝦氏 お前~~、人の足下みやがって。
円 ああ、そういえば、地下室の幽霊が、挟まって抜けられへん事件も、そろそろなんとかせんとなあ~。なあ?
蝦氏 フリーパス一年!!
円 一年半!
蝦氏 二年!!
円 おっしゃあああ!

二人、がっちりと手を組んだ。

暗転。


女が座っている。
男2がやってくる。

男2 お姉さん、なにして~~~~んのっ?
女 ねえ、ここどこ!
男2 どこって、橋の横。
女 そうじゃなくて、ここってもしかして、新世界商店街?
男2 新世界? ああ、そういえば、そんな名前だったかも。まあ、みんなシャッター商店街ってしか言わないけど。
女 なんてこった……。
男2 それよりさあ、ヒマ? まあ、ヒマだよねえ。こんなところで座ってるのって、ヒマですって大声でいうのと変わらないものねえ。
女 どうなってんのこれ?
男2 なんだ酔っぱらい? それとも、ご商売中ですか? おいくら?
女 も~、ほっといて。
男2 んん~~~。お困りですか? お嬢さん。ボクに力になれることはありますか?
女 ん?
男2 どう? こういうの。
女 (無感動に)すてき。
男2 なにしにきたのさ。こんなとこに。なにもないよ? もう。シャッターはたくさんあるけど。中身がない。
女 (はき捨てるように)すてき。
男2 そうだ、ガーデンパークの方行かない? なんなら、ラウンドワンでもいいけど?
女 なにそれ?
男2 みんなそっちで遊ぶんだよ。今じゃ。
女 ここは?
男2 通り道?
女 ははは。
男2 ガーデンパークに映画館が出来てから、ダメだね。ここにも映画館があったけど、一瞬で潰れた。
女 潰れた? そうなの?
男2 しんない。今は、大衆演劇やってる。およよ。お待ちになって~~~ってやつ。
女 あれ? 私、そこにいたのに。
男2 なに言ってんの? 薬やってんの? ボクにもちょうらい?
女 変な映画やってた。
男2 そんなわけないって、ほら、そこの商店街の入り口にある……あれ?
女 ……。
男2 映画館がある?
女 あの時のまま……。
男2 あれ~~~? まじで。なにこれ?
女 なんなのこれ?
男2 幽霊映画館。
女 幽霊映画館?
男2 ちょっとした、う・わ・さ? まあ、信じるか信じないかは、あなた次第です! な?
女 なにそれ?
男2 最近、幽霊が集まる映画館がこの商店街にあるって噂。まあ、子供だまし的なもんだとおもってたけど。まさかね。あ、そうだ。いってみる? なんかよく分からないなあ。あれ、なんてよむの? キル・イル・リリー? なんだそりゃ?

女、去る。

男2 あ、どこいくの? 映画館はこっちだよ? ねえ、行こうよ! なんで走って逃げるのさ!


円、ベンチにどったんと座る。
糺が横で周りを見渡している。
円は、非常にぐったりしている。

円 ふえ~~~。疲れた~。
糾 おもしろくなかったですか? 映画。
円 え? いや、そういうんとちゃうんやけど。
糾 別に、気つかわんでええんですよ。あんまり人気ないのわかってますし。
円 まあ、なんていうんかな? こう、エンターテイメントではないから、こう、楽しいっていうのとはちゃうけど、ほら、あれ。こう、深いっていうか、こう、後からじわじわ?って感じ?
糾 はは。よう、わからんけど、よかったってやつですか?
円 そう! それ!
糾 ありがとうございます。
円 いやいやいやいや。
糺 なんか~~、懐かしい気がします。
円 え?
糺 この風景。
円 ああ、そう。
糺 私って本当に幽霊なんですかね?
円 え? なんで?
糺 いろんな街に行きました。あのフィルムと一緒に。しってます? 映画ってプリントってそんなにないんですよ。
円 ああ、そう。
糺 映画館には、配給会社から、フィルムのプリントをレンタルするんです。だから、私の映画のプリントは、10本しかないんです。元々ミニシアター向けの映画だったし、あんまり売れなかったから……。
円 ああ、そう。
糺 この街に来てから、なんだか、懐かしい感じがして。
円 君、記憶はあるの? 生まれる前の。
糺 記憶?
円 ほら、だから、その、幽霊? 的な物になる前の。
糺 なんか……。ぼんやりと。
円 そう。
糺 ……。
円 どんなの?
糺 えっと……。
円 ほら、そういうのも関係あるかもしれんし。その映画の内容がかわっていってるのと。
糺 なんか、わからないんですけど。ちゃんと、はっきりしてないから。
円 うん。
糺 なんか、約束してて。それを守らないとなっていう。
円 約束?
糺 なんか、それがどんな約束だったかっていうのは覚えてないんです。
円 そう。
糺 私の映画、脚本、監督した人って、この街の出身だったんでしょ?
円 うん。
糺 そういうの、関係あるんですかね?
円 さあ~なあ~?
糺 雲母晶(キララアキラ)。知ってます?
円 ……さあな?
糺 この街もかわってしもうたんでしょうか?
円 ん?
糺 あの映画の舞台ってこの新世界商店街でしょう?
円 ん? そうやろな。多分。
糺 丸正があったっていうのは、あの場所ですか?
円 んん。そやな。
糺 レコード屋さんがあったって場所は?
円 ああ、あの真ん中の通りあるやろ?
糺 うん。
円 その通りを、ずっと通って、橋渡っても、ず~~っと渡って。
糺 風俗のお店がある場所も通り過ぎて。
円 そう。そのままずうっといって、アーケード抜けたら、商店街の出口のすぐそこ。
糺 もうないんですね。
円 まあ、いまどき、レコードなんか売れへんからな。
糺 なんか楽しかったんでしょうね。そういう思い出。
円 ……単なるノスタルジーやろ。歳いった、くそ監督のやりがちなことや。
糺 厳しいな~~。
円 街は変わる。進化する。進歩する。そうやって、人類は前へ進んでいくんよ。せやないと、経済は発展せえへん。街がすたれていきおる。
糺 進んでも、止まっても、どっちにしろ、かわってまうんですね。
円 ま、それがニッポン! やからな。
糺 私はどうなるんやろ?
円 ん?
糺 私って、すすめるんか、このまますたれていくんか。
円 ……。
糺 ……。
円 で、あの映画、なにがどうかわってたんよ?
糺 え?
円 いや、オレは初めて見たから、なにがどう変わってたんかわからへんやろ?
糺 いや、だから、どこをどうっていわれても。
円 でも、変わってるとは分かる。
糺 ええ。
円 さっぱりやな。見た人の記憶がおかしなってるんか。フィルム自体が変化しているか。
糺 でも、同じ場所で見てるみんなは、同じ物がみえてるのは変わりないんでしょ?
円 まあ、そうやなあ。大体映画の内容は、聞いてたんと同じやったし。
糺 なんなんでしょうね?
円 偶然か、必然か。
糺 え?
円 世の中の事件ていうか、事柄? には、二種類しかないんよ。
糺 偶然か、必然?
円 まあ、誰かが何かをして欲しいか、したいかで起きてるのか、たまたまが重なって起きてるのか。
糺 なるほど。どっちなんでしょう?
円 まあ、どっちにしろ、原因があるはずや。結果には、必ず原因があるはずやし。
糺 原因。
円 原因のない結果はないはずやさけよ。ま、なんでこうなってるんかわからんいじょう。原因を探しださなあかんわな。
糺 わ~。探偵っぽいですね。
円 探偵ですけど?
糺 はは、そうでした。
円 ……。
糺 ははは……どうしました?
円 君はほんまにそれでええの?
糺 え?
円 もしかしたら、消えてまうかもしれへんで?
糺 え……。
円 一応な? 幽霊相手にまあ、事件を相談されるけどな? そんなに解決はせえへんねん。
糺 どういうことです?
円 幽霊っていうのはな? いうたら、結果なんよ。
糺 結果。
円 幽霊って言うのは、まあゆうたら、怨念やったら、後悔の念やったりがあるから、こう、現れるわけやん?
糺 まあ、そうですねぇ。
円 つまり、なんかしらの原因があるから、結果として、幽霊が現れる。
糺 なるほど、となると、私もなんかしらの原因から生まれた結果の存在だと。
円 まあ、な。
糺 じゃあ、なんかしら、原因が、その、映画がおかしい原因と、同じかもしれないと?
円 う~ん。わからん。それは。おんなじかもしれんし、別かもしれんし……。
糺 はあ。
円 君はおそらくやけど、生き霊やと思う。
糺 生き霊?
円 そう。
糺 いきよう? なんですか? それ。
円 あ~、まあ、簡単に言うたら、どっかの生きてる人間が、なんかなあ、なにかの思いが強すぎて、それが形になって、霊となるっていうか。まあ、簡単にたとえば、ほら、嫉妬に狂った女の人が、実際はそこにいてないのに、霊となって男の場所に現れて、男を呪い殺した、昔話とかしらん?
糺 ああ~、なんかあったような。
円 まあ、そうやろ。君は。
糺 誰の?
円 多分、あの映画の監督の。
糺 ああ~~~。へ~~~。
円 うん。
糺 ……で、どうすれば、私。
円 ま、そうなるわな。
糺 映画監督が、原因なんですか?
円 まあ、そこらへんは、ちょっとややこしいてな。まあ、それも違うと思う。
糺 ……。なにがなんだが。
円 まあ、なんとなく原因は分かってはおるんやけど。
糺 そうなんですか!?
円 まあ、いま、監督について調べてもらってるから。
糺 そうですか……。
円 まあ、会えるかどうかはわからんけど。
糺 どうなるんですかね? 私。やっぱり消える?
円 まあ、わからんけどね。あれよ。理由があるんよ。君がいるっていうことには。
糺 あるんですかね。
円 なにかしら。君が生まれた理由。
糺 なんだか……怖くなってきた。
円 ま、そう怖がらんでも。
糺 ……。

糺が、円に抱きついた。

円 ちょっちょっちょっちょ。
糺 ……。
円 ……。
糺 ごめんなさい。
円 いや~、まあ、あれ~。うん。あはは。

蝦氏が駆け込んでくる。

蝦氏 大変でやんす! 大変でやんす!
円 おわああ!
糺 ……。
蝦氏 え? なにしてんの?
円 違う違う。
糺 ……。
蝦氏 え? ちょっと? ちょっと?
円 あ、なに? なにが大変なの?
蝦氏 そんなんええやん。今。それよりちゃうやん。ちょっとこっちこようか?
円 ちゃうって誤解やって。な? な? なんかいえよ!
蝦氏 ま、いいからいいから。

円と、蝦氏、端のようにいき、こそこそひそひそしゃべり。
蝦氏、円をぱんと殴った。

円 いった。
蝦氏 糺ちゃ~ん。大丈夫~?
糺 ごめんなさい。大丈夫です。なんか、こわくなっちゃって。
蝦氏 こいつになんかいわれたんか! ぐーで、もう一度なぐろうか? もっと強め、強めで!
円 いたたたた。
糺 違うんです。もし、私、この事件が解決したら、消えるかもしれないってなって。
蝦氏 なああにいい! おまえ、ほんまか!
円 まあ、幽霊っていうのはそういうもんやからな。
蝦氏 マジ? マジ?
円 まあ、わからんねんけど。
蝦氏 おめえ、絶対事件解決すんなよ!
円 別に、おれはそれでもええけど?
糺 困ります。映画があのままじゃ。
蝦氏 じゃあ、解決しろやあ。
円 じゃあ、消えるかもしらんけど?
蝦氏 解決すんなや!
糺 困ります。
蝦氏 困るやろが!
円 じゃあ、する。
蝦氏 オレが困るやろが!
糺 なんでですか?
蝦氏 いや、ははは。
円 もう、ええし。まあその話は。おいおいで。で、なに? 大変って。監督の居場所分かったんかいな。
蝦氏 あ、そやった。も一回やるわ。

と、一度出て行き、勢いよくはいってくる。

蝦氏 大変でやんす! 大変でやんす!
円 もう、すっきりいえよ!
蝦氏 監督が自殺したらしいでやんす!
円 え?
糺 うっそん。
蝦氏 な。大変やろ?
円 ど、どういうことや?
蝦氏 いや、どういうこともなにも、その通りやけど。いや、配給会社にずっと問い合わせてたんやけどな、なんか、連絡とれへんいうて、調べてもうたら、どうも、自宅で……。
円 まじか……。
蝦氏 まあ、向こうも、今、それでごたごたしてるし、とてもじゃないけど、情報はとられへんな。
円 これは、参ったな……。
蝦氏 そうやなあ……。まさかなあ。
糺 あの……一個いいですか?
円 あ?
蝦氏 なに?
糺 私、生き霊なんですよね?
蝦氏 生き霊?
円 ま、多分やけど。
糺 その、多分、監督の生き霊だったんですよね?
蝦氏 そうなの?
円 ま、多分。
糺 その、監督、死んじゃったんですよね?
蝦氏 あ。
円 ああ。
糺 私、生き霊じゃなくなったんですか?
蝦氏 ああ。
円 はは。
糺 ええええええええ!
蝦氏 ははは。
円 ま、死に霊に昇格やね!
糺 ええええええええ!

糺、倒れた。

蝦氏 おおおおお! 
円 大丈夫かああ!
蝦氏 きゅ、救急車!
円 あほ! 幽霊に救急車関係ないわ!
蝦氏 じゃ、霊柩車!!
円 葬式するんか、あほ!
蝦氏 ど、どないしたらええんよ!
円 と、とりあえず、奥の部屋運んで、横にしろおおお!!!

と、慌てて糾を、奥の部屋に連れて行く。
暗転。

 4
女 みなさんこんばんわ! 私思うんです! 人間が多すぎる! 私はこのとある街の、このとある場所にすんでいる、ただのとある女なんだけど! それにしても多すぎる! 電車、(地名1)駅から、(地名2)行きにのって、そこで乗り換えて急行(地名3)行きに乗ったことがありますか!?

女がドバッっと布団から飛び出し、電車に乗ったようだ。

女 (地名4)を越えたあたりから、徐々に人が混雑してきて、(地名5)! そう、(地名5)! そこで乗車率200%!

サラリーマン姿の男1と、男2に、挟まれて動けなくなる女。

女 (地名2)まではあと10分! なんでこんなに人間はいるんだ! おばはん! 香水くさいねん! おっさん、なにを興奮しとんねん! こっちゃしわくしゃになってるやないか! くそがき、ヘッドホンうるさい! なんでアユやねん! なんじゃあ! 人祭りか! ここは人祭りか! あ、イケメン。う~ん。いい感じ。やっぱり男はさわやかさが必要。とくに、こんなよどんだ電車の中では、一服の清涼剤。車内をざっと見渡す、イケメ~ンチェ~~~ック! 1イケメン,2イケメン,3イケメン,これは含めていいかしら。ちょっと疲れた顔がおお、セクシー。おまけで4イケメン?,5イケメンに、6イケメン。いいねいいね。しかしながら、どうせ、きれいな彼女がいるんでしょう。お幸せに。もしくは呪われろ。7イケメン?,8イケ~~メン……?。ん~。っと、今日も窓の横の棒をきっちりガードする、変なやつ。あなたような人間も、恋愛をするのでしょうか? ええ、私は恋愛しますよ。ええ、いや、してました? まあ、それはいいでしょう? あなたは人を好きになることはあるんでしょうか? あるのですか! じゃあ、わたしなんかいかがかしら? だめですか! こんちくしょー! あんたなんかダメでもな、日本にゃ、た~くさん、男がいるんでい! あんたなんかよりかっこよくて~。あんたなんかよりもやさしくて~~。そんでもって、お金ももってて~。そうだな。仕事は医者がいいな。え~っとねえ。そうだそうだ。次男がいい。でしょ? そこらへんはよくわかりませんが、お局ビトウさんが、わたくしによく言うのです。
「結婚するなら次男よ~。長男はダメよ~。次男よ~。長男だめよ~~」
ってね。私は、よくわからないですけど、はい! 次男がいいです。で、そうだ。後は、笑顔はとっても素敵なのよ。本当に、あんなやつなんかよりも、とってもいい笑顔よ。ふん、笑顔がいい男なんか、いるのよ。世間には、なん百人。何百万人。そりゃ、あの人は、ワールド笑顔カップ2011イン(地元の名前)だと、ぶっちぎりで、銅メダルぐらいだったらとれたかもしれないけどね。でもね、そんな大会に出てない笑顔素敵なメ~ンはいくらでもいるっつうの! つうか、そんな大会ねえっつーの! 残念でした! くやしいです! ほら、私には、こんなに素敵な彼氏ができたんですよ。ほら、どうですか! どうですか! 
と、男2を彼氏にしたててみた。

女 ちょっぴりはにかみキュートな感じ。まさに、電車の窓の横をすっかり握りしめるぎゅっとするすがたに、こちらこそぎゅっとしたい欲をそそる。もう、それだけで、飯3杯はいけますよ。ごちそうさまな感じ、いいでしょう? いいでしょう? いいですね。いいですよ~。他には特に思いつきませんけども。どうですか? いい男ですよね。というか、そういう設定です。本当はみしらぬ他人ですが、というか、◎◎という役者さんなのですが。あら、こんばんわ。ほら、みなさんにこんばんわって。ほら、以外と照れ屋さんなところがキュートでしょう? でも、女を狙うときは、草食系なフリをして、実は肉食系なところがあるんですよ。あ、ごめんなさい。目が意外と笑ってない。拝啓そちらはお元気ですか?

と、少し落ち着き、お昼のいい感じのトーク番組風になってみた。

女 こちらはお元気ではありません。どちくしょう。風の噂で、素敵な彼女ができたかどうかはしりませんが、なんか素敵なあなたのことでしょうから、きっとできているんでしょうね。どちくしょう。呪われたらいいのに。本当に呪われたらいいのに。くちから、緑の物がたくさんでてきたらいいのに。意外とそれでも健康で、どうしたらいいのかなとかそれほど悩まずにいたらいいのに。口から緑の物がでる男で有名なればいいのに。あ、あの人だ、口から緑の物でてるけど、あ、元気なんだって私は思うでしょう。この時期は、どこにいくにも、微妙な時期ですね。微妙に暑いし、なんかうだうだしてしまって行くところがないから、家でいちゃいちゃしてるんでしょうか? あなたは、執拗に右のおっぱいをもむ癖、もう、なくなりましたか? あれは、微妙に気持ち悪いですよ。しんだらいいのにって今は思っています。くそったれ。なんだよ。いちゃいちゃしてるのかよ。ああああああああ!

男2 まもなく~~。(地名1)。(地名1)。
女 ええっ! 戻ってきてるじゃん!
男2 お忘れ物のなきようよろしくおねがいしまっ。
女 な、なんで~……。
先生 逃げちゃだめですよ。いいですか。原因から逃げちゃだめ。それは新しい問題となってまた別の問題を生み出すことになるんです。逃げちゃだめです。問題を問題として認識するかが問題です。つまり、今のあなたの問題はここです。答えは、逃げない。ええ、実に簡単だ。
女 私はこの新世界から逃れられない……。


蝦氏が、部屋をいそいそと片付けている。
奥の部屋のドアから、円が入ってくる。

円 おお……片付けか。
蝦氏 おお。どうや?
円 寝てるみたいや。
蝦氏 大丈夫なんか?
円 まあ、大丈夫やろ?
蝦氏 いやいや、消えてまうとかそんな感じのよ。
円 ああ、まあ、大丈夫みたいやな。ただ単にショックやったんちゃうか?
蝦氏 そうか……。
円 参ったな……。死んだか……あいつ。
蝦氏 ……。
円 自殺は間違いないって?
蝦氏 まあ、遺書もあったみたいやし。
円 あほやな……。なんで死ぬねん。
蝦氏 そうやなあ。
円 やっと映画監督になれたっつうのに。
蝦氏 まあ、おおこけしたみたいやからなあ。あの映画。初監督で、まさかの大不評。まあ、死にたくもなるわなあ。
円 ふぁ~む。
蝦氏 探偵さんは、おもろかったんか?
円 ……。いや。
蝦氏 まあ、繊細やったんやな。
円 ……。で、映画は相変わらずか。
蝦氏 そやなあ。おかしいままやな。
円 そうか……。
蝦氏 関係なかったんかな? 監督の事は。
円 そもそも、関係あるんやろか。あいつが死んだのと。
蝦氏 いや、オレには分からんよ。
円 まあ、そうやけどよ。どう思う?
蝦氏 まあ、関係あるかもしれへんし。ないかもしれへんし。
円 なんじゃそりゃ。
蝦氏 ま、そういうもんやん。
円 大体、映画の内容が変わるっていう意味がわからん。目的がようわからんやろ?
蝦氏 そうやなあ。映画の内容が変わって得する人間はおらんわなあ。
円 はあ……。
蝦氏 まあ、事件は解決せず、こう、原因だけを突き止めればいいんだよ。探偵えもんよ。
円 うっせえよ。その探偵えもんっつうのをやめろ。
蝦氏 とりあえず、この事件。早くなんとかしてくれよ。な? それが……。
円 ……ふぅ。まあ~。

と、大きくのびをした。

円 オレが動く時間かな。
蝦氏 なんか分かったんか?
円 あのな。答えは問題がないと分からん。
蝦氏 どういうこと?
円 本当のこの事件の問題を探してくるんよ。
蝦氏 わからんけど。まあ、頼むわ。
円 ちょっと行ってくるわ。
蝦氏 おう。
円 あの幽霊の子にいたずらすんなよ。
蝦氏 わ~ってる。意地でも守るわな。
円 じゃ。

と、出て行く。

蝦氏 ……。さてさて、ちゃんとおねんねしてるか。確かめないと~~ね~~~。

と、奥のドアの方に忍び寄っていく。
そして、ドアを開けようとした瞬間、後ろから、糺が現れる。

糾 ……。
蝦氏 うおおっ! え?
糺 ……ひさしぶり。
蝦氏 え? こっちの部屋に?
糺 え?
蝦氏 あ、いや。大丈夫?
糺 大丈夫?
蝦氏 いや、ほら、監督が死んじゃったって言って。
糺 ああ。まあ、大丈夫ではないよ。死んじゃってるから。
蝦氏 あはは。そりゃそうだ。
糺 まあ、まさかこんなことになるとは思ってなかったけど。
蝦氏 ははは。
糺 久しぶり。
蝦氏 え? いや、さっき会ったじゃん?
糺 え? そうなの?
蝦氏 いや、え? 大丈夫? さっきのショックで記憶変になってる?
糺 分からない……。時々記憶が曖昧になる。
蝦氏 そうなんだ。まだ横になってたほうが、いいんじゃない?
糺 ううん。大丈夫。

と、ベンチに座って周りを眺める。

糺 変わらないようで。変わってしまうもんなのね。この街も。
蝦氏 まあね。あの店もこの店も、シャッターをずっと閉めっぱなし。人もいなくなるし。
糺 昔はここだけが遊び場所だったのにねぇ。
蝦氏 あれ? ここ知ってるの?
糺 だって、わたしの街だもの。
蝦氏 ん? 幽霊ちゃんだよね?
糺 私? まあ、幽霊なのかな?
蝦氏 ……なんか変だよ?
糺 私の事、忘れた?
蝦氏 えっと、うん? まあ、監督の幽霊でしょ?
糺 なんだ、わかってるじゃん。
蝦氏 ははは。忘れるわけないじゃないか。
糺 私、これからどうなるのかな?
蝦氏 え?
糺 忘れられていくんだろうねえ。あの映画も、いまいちだったし。
蝦氏 いや、ボクは面白かったよ~~。
糺 ホント?
蝦氏 ほんとほんと。ボク嘘つかない。
糺 うれしい。あなたにそういってもらえると。
蝦氏 えへへへへ。
糺 でも、わすれられるんだろうね。きっと。この街みたいに。
蝦氏 大丈夫。忘れないよ。ボクは。なんなら、一生。
糺 一生?
蝦氏 なんなら、一生一緒にいてくれても。って言っちゃった。きゃっ♪
糺 ホントに? 私と一緒にいってくれるの?
蝦氏 ええ、どこへなりとも、天国へでも地獄でも。
糺 天国でも地獄でも?
蝦氏 いやもう、君となら、どこへでも。三途の川もす~いすいっ!
糺 よかった。うれしっ♪

糺、蝦氏に抱きつく。

蝦氏 うっひょおおお! ここは天国ですか~~~!
糺 でもね、天国なんて、なかったよ。
蝦氏 え? うお!

と、蝦氏が、自分の腹を見ると、刃物が刺さっている。

蝦氏 な、なんじゃこりゃあああああ!
糺 あなたも一緒に来て。
蝦氏 うううううう。
糺 ね?
蝦氏 あの、一個ええですか?
糾 なに?
蝦氏 あの、ボク、探偵ちゃいますよ。
糾 え?
蝦氏 ボク、映画館の人です。蝦氏いいます。
糾 嘘。
蝦氏 はい。
糾 え? でも……。あっ。
蝦氏 あ?
糾 あ、そっか。あちゃ~~。間違っちゃった♪
蝦氏 え? まじで? まじで? え? ちょっと~~~。うっそんやん?

と、倒れ込む。
去る、糺。

蝦氏 ううう。ひ、ひどい~~。まあ、これで、幽霊になったら……。って。なんかちが~~う。こういうのちが~~~う。

と、コテンと死んだ。
しばらくして、円が帰ってくる。

円 わりい。あいつの東京の家しらねえわ!

と、蝦氏が倒れているのに気づく。

円 え? なにしてんの?
蝦氏 ……。
円 え? 寝てる? まさかの寝てる?
蝦氏 ……。
円 浣腸するで。秘技千年殺ししちゃうよ?
蝦氏 ...。

と、蝦氏のおしりにぶすり♪

蝦氏 やめろよぉ! 死んでるの! わからんか!
円 え? マジで?
蝦氏 ほれ、ここ、ほら、すごい痛そう! な? 死んでるって感じを全力でやってるの!
円 また~、小芝居して。
蝦氏 うるせえよ!
円 なんやねん。お前、ノリ悪いなぁ。
蝦氏 もう、ほんまに勘弁してくれ。死んでるねんから。これ、あかんやろ。
円 でも、喋ってるやんか。ほれ、ぺらぺーら。小芝居しながら。
蝦氏 もう、おこってんの? 小芝居ゆうたん。
円 さ~?
蝦氏 もう、ほんまごめんなさい。死んでますんで!
円 あのね、一個ええ?
蝦氏 なんやねん!
円 なんで、死んでるん?
蝦氏 ほれ、ここみて、血。の部分。
円 いたそ~~~。
蝦氏 いたそ~~~。じゃなくて!
円 え? どういうこと?
蝦氏 殺されたの! 今! 分かる?
円 ああ~~。なるほど。

糾が、今度は、奥の方から現れる。

糾 ど、どうしたんですか?
円 ああ、起きた? もう、大丈夫か?
糾 ええ。まあ、なんとか。
蝦氏 よかったよかった。
糾 あの、大丈夫ですか?
蝦氏 え?
円 ああ、大丈夫。死んでるだけみたいや。
糾 そっか。よかったよかった。
蝦氏 だから、大丈夫じゃないって!! 殺されたんですよ! ぼく!
糾 ああ、ほんとですね。あああ! 殺されてる!
円 やる? それ。
糾 いや、一応。
円 そうか。あああ! 死んでる!!
蝦氏 ……。おそ。
糾 あの、一個いいですか?
蝦氏 なに?
糾 死んでる人って喋ったらあかんのとちゃいますか?
蝦氏 な~る~!!

と、コテンと動かなくなった。

円 さてと、どうしたもんか。
糾 はあ。
円 これは、困ったなあ。
糺 犯人は誰なんですか!!
円 ここは、密室だったわけだ。
糺 え? そうですか?
円 ボクは外にいた。窓は、ないし、上映している中にはだれもお客はいない。入っても、出てもこなかった。非常口は閉まってるし、奥の部屋には君がおった。
糾 え? ということは、密室というか、犯人はほぼ、ワタシに限定されてます?
円 そうか! 分かった!
糾 え?
円 犯人は君だ! ~~~?
糾 違います。
円 違うか。まあ、そうやなあ。殺す理由もないしな? 殺人マニア? 君?
糾 違います。
円 まあ、そうやなあ。凶器はナイフみたいな短刀類っぽいし。そんなもんは、この部屋にはないしな。
糾 となると。
円 となると……。

間。

円 犯人は!
糺 犯人は?
円 ……。誰?(蝦氏に)
糺 え?
蝦氏 ……。
円 誰って。なあ?
蝦氏 ……。

円、蝦氏の腹を蹴り上げる。

蝦氏 イタイ!
糺 ひゃっ! 動いた!
円 大丈夫、こいつも幽霊やから死なんよ。
糺 あ、そうなんですか?
蝦氏 え! マジで!!!
円 あれ? 知らんかった?
蝦氏 しらんわ! なにそれ!
円 お前、この幽霊映画館の一部やんか。
蝦氏 マジで!
円 とっくに知ってるかと思った。だから……。
糾 だから?
蝦氏 いや! それはええけど! え! なに! そうなん!
円 うん。そやで。
蝦氏 ええええ!
円 ま、もうええから、犯人だれ?
蝦氏 まじかああああ! きっつ~~~!
円 ま、ええから。教えてちょ♪
蝦氏 も~、ほんまありえへんわ。
円 ま、ええやんか。大体あれやで、お前の為に、犯人探しだそうとしてるんやんか。
蝦氏 も~~、ほれ、この娘やって。
糺 え? 私?
円 なるほど……。
糺 ……?
円 やっぱり、犯人は君だ!
糺 違いますよ!
円 え?
糺 違います。私、犯人じゃないです。
円 ……。

再び、円の腹を蹴る。

蝦氏 いたいなあああ!
円 お前、ちゃういうてるやんけ!
蝦氏 しるかよ!!!
円 どないやねん!
蝦氏 ……。
円 あ?
蝦氏 まるでしかばねのようだ。
糺 踏むよ? 幽霊だけど、踏むよ? 強めに! 強めにぃ!!。
蝦氏 もうしらんよお! なに、この状況。ぐずぐずやんけえええええ!
円 はあ……役にたたん死体やで。
蝦氏 お前、倫理観にちょっと問題あるやろ!
円 まあ、ある程度、目星はついてるんやけどよ。
蝦氏 んあ?
円 じゃ、犯人に会ってくるわ。
蝦氏 は? どういうこと?
円 まあ、次のシーンへ行こうか。
糺 え?
蝦氏 おい!
円 ほら、お前は、はけろはけろ!
蝦氏 ええええ! 扱いひでえ!


女 その商店街には、人がいない。人がいない商店街というのは、商店街なんだろうか?ご大層な石造りの建物と、古くさい長屋のような店が並ぶ入り口に、シャッターの閉まった店が並ぶ。最近では、若者の夢はついえ、パチンコ屋が幅をきかせている。若者達が集まったファッション店は今では、クリニックタワーと変化していて、衣服代に熱心になっていた人間が、今では医療代に熱心になる時代なんだろうか。クリニックタワーの一階の案内板を見てみる。私が必要なタワーはどこにあるのだろうか? 内科、外科、耳鼻咽喉科。皮膚科に、歯科に、小児科、眼科に、産婦人科、精神科に、ひにょ~~き科。私はどこがわるいんだろうか? どこが悪いかわからない科というのはないのだろうか?
男2 すいません、どこが悪いのでしょうか?お腹は痛いですか~?
女 お腹は痛くないんです! でも痛いんです!
男2 じゃあ、外科ですね~。上の階になりま~す。
男2 すいません。どこが悪いのでしょうか?どこか怪我ありますか~?
女 怪我はありません! でも痛いんです!
男2 じゃあ、耳鼻咽喉科ですね~。上の階になりま~す。
男2 すいません、どこが悪いのでしょうか?くしゃみや咳、耳がぐじぐじしますか~?
女 しませんが、痛いんです!
男2 じゃあ、皮膚科ですね~。上の階になりま~す。
女 皮膚じゃない。痛いんです!
男2 じゃあ、歯科ですね~。上の階になります。
女 虫歯じゃない! 痛いんです!
男2 じゃあ、小児科ですね~。上の階で~す。
女 私は子供じゃない!
男2 眼科ですね~。上の階で~す。
女 もう、涙も出ない!
男2 産婦人科は上の階で~す。
女 頭が狂いそうだ!
男2 精神科は上のかいで~す!
女 死にたくてたまらない!!
男2 上の階で~す!

女 扉を開けると……そこは屋上だ。

女がベンチの上に立ち上がった。

空白。

先生がやってくる。

先生 どうしましたか?
女 死にたくてたまらないんです。
先生 なるほど、それは問題ですね。
女 あの、ここは、何科ですか?
先生 何科かと聞かれると、いつも私はこう答えることにしています。そうです科。
女 そうです科?
先生 駄洒落です。ただの。笑ってください。
女 ……ははは。
先生 すいません。ただ、ひどく説明しにくいのです。ただ、私は答えを出すだけですので。
女 答え?
先生 ええ、答えを見つけるのが私の仕事です。そうですね。まるで優秀な探偵のように。
女 探偵……。
先生 そうです。問題にたいして、答えをみつける。これだけで、大抵の問題は片付くはずです。
女 なるほど。
先生 あなたの問題はなんですか?
女 わかりません。
先生 わからない?
女 ええ。
先生 問題がわからないと、答えもわからないのです。
女 でも、答えはあるんです。
先生 死にたくてたまらないと?
女 ええ。ビルから飛び降りて死んだんです。
先生 ほう。すでに死んではいるのに。
女 ええ。
先生 死にたくてたまらないのだと
女 そうなんです。
先生 ひとつ、質問をだしましょう。
女 質問?
先生 ええ。クイズといってもいいですね。
女 クイズ?
先生 ええ。
女 なんですか?
先生 「No」はこの質問に対する正しい答えか? YesかNoで答えてください。


女がベンチに横になっている。
円が入ってくる。

円 !? ……。(あたりを見渡す。誰もいない)あの、大丈夫ですか?
女 ……。あれ?
円 気分でも悪い?
女 あ、おはようございます。
円 ああ、おはよう。
女 あれ? 寝てた……。もう、昼?
円 ああ、そうだけど。
女 あ~~。お腹すいた。
円 え?
女 ……。コンビニいってきていいですか?
円 ああ。
女 ……。
円 ……?
女 あの、どこにあります? コンビニ。
円 コンビニはないよ。
女 え?
円 それよりも、映画を見ないかい?
女 映画?
円 もうすぐ始まるみたいなんだよ。次の回がね。
女 なんて映画?
円 キルイルリリー
女 キルイルリリー。
円 知ってる? この街出身の映画監督の作品なんだよ。ボクはまだ見てないんだけど、まあ、難解な映画で、普通に面白くない。
女 え? なにそれ。
円 エンディングがないんだよ。エンディングが。
女 エンディングがない?
円 ずっとループし続ける映画。なるほど、話をループさせ続ければ、エンディングは作らなくてすむ。これは、世界中の作家どもも、大喜びの手法だ。観客が許すかどうかは別にして。
女 頭が痛い……。
円 知ってるんだろう? この映画のエンディングを。
女 私が?
円 たかなしただす。キルイルリリーの監督さん。
女 ……ばれたか。
円 問題は、なにが問題なんかじゃなくて、なぜ、問題がみつからんかやな?
女 ……誰? あなた。
円 オレや、オレ。あきないまどか。探偵や。
糾 え!? ええ! あきない君? マジ?
円 せやせやせや。
糾 べ、別人やん。うそやろ?
円 まあ、オレも年とったしな。
糾 ショック……。
円 うるさいわ。お前は幽霊やからなんか若いんやろうけど。こちとら生きとるねん。
糾 かっこよかった面影まったくないよねぇ。まるで別人。がっかりよ。
円 もう~、やめろ。その話は! 辛い。
糾 まあ、うん。よっ。ひさしぶり。
円 おう。お前、死んだんやって? まあ、幽霊なんやから、そうやろけど。
糺 そうなの? 私、死んじゃった?
円 うん。まあ、おそらく。
糺 そっか~~~。なんで? 事故?
円 ……自殺らしぃ。
糺 ええ~~。自殺か~~~。
円 ま、おれもようわからんけど。
糺 で、私、幽霊になっちゃったの?
円 わからへん。幽霊になったのか。そうじゃないのか。もしくは、それとも、お前の頭の中の話に閉じこめられてるのか? ま、なんでも別にええけど。
糺 ま、いろんなタイミングよね。ま、あんたのせいかもよっ!
円 なんでやねん。
糺 はは。まあ、なんつうか、あんたに振られてさ、監督にやっとなれたけど。気づいたら才能枯れてて。
円 別に振ってないやろが。
糾 あんたが、東京いってしまえっていったんやろ? 映画で成功するまで帰ってくるなって。
円 あれは、お前のためをおもってやなあ。
糾 分かってる。分かってますよ。
円 やっと上映できたいうてたやんけ。
糺 ま、失敗だよねえ。エンディングがないっていう映画は。ハッピーエンドでも、バットエンドですらないっていうのが。
円 それで死んだんかよ。
糾 ま、自分の才能のなさに絶望して?
円 ばーか。
糺 ちょっと~。優しくしてよ~~。幽霊になって会いに来てるんでしょ~?
円 生きてろよ。ばーか。
糺 ごめんって。
円 ……。
糺 あんたはかわんないねえ~~~。
円 まあな。いつまでたってもぐだぐだや。
糺 東京くりゃ、あんたぐらいの腕さえありゃさあ。
円 また、その話かよ。
糺 ま、もう私いないけど。
円 ふん。
糺 なんで結局こんかったんさ。もう、ええやろ? 私、死んでもうたんやし。おせえてよん♪
円 ……。
糺 な~な~~。
円 一応、オレを待ってる客がおるしな。
糺 幽霊ばっかのくせに。
円 悪いかっ!
糺 別に~~。なんかでもな、もったいないやん。
円 しるかよ。
糺 それだけ? ほんまに?
円 ……。
糺 ……。
円 まあ、そんなんは、どないでもええんかもな。オレもようわからんけど。
糺 うん。
円 わからんわ。オレにもよう。
糺 そう。
円 まあ。
糺 まあ?
円 ……。
糺 ……。
円 多分、オレが生まれた場所やから。
糺 それだけ!?
円 それだけ! 悪いかっ!
糺 別に~~。
円 ふんっ。
糺 ま、そんなもんかもね。
円 まあ、そこにおる理由と、そこにいつづける理由は別ってことやな。
糺 そうっ。
円 なんやねん。興味ないんかいな。
糺 あんたにねっ!
円 ……。
糺 あ、傷ついた?
円 ちげ~わ。
糺 ふんっ。
円 なんやねん。
糺 あんたもまね。
円 ふんっ。
糺 はは。
円 まあ、まだしばらくはこの街にオレはおるよ。新世界の入り口、そこにいる。
糺 この街ね。
円 ま、それなりにおもろいし。
糺 いろいろ起きてるんでしょ?
円 あまな。
糺 あまな?
円 まあな。
糺 かんだ。
円 ま、あんまりもうからへんねんけどな。
糺 残念。

間。

円 幽霊っていうのは、なんでおるかしってるか?
糺 なんでおるか?
円 そう。幽霊の存在理由。
糺 そりゃ、死人の思いがどうたらこうたら、であれでしょ?
円 ん~。ま、オレも、実際の所はわからんけどな。実際にはあの世はないと思うし。
糺 え? どういうこと? じゃあ、幽霊になってもうた私は?
円 まあ、最後まできけよ。とはいえ、この世の中には、幽霊という単語があり、それを信じてる人がおる。実際に、日本以外にも幽霊らしきもんがあるわけやし。
糺 まあ、せやね。
円 となると、幽霊というのはなんつうかとや、生きている人間が見ている存在と言うことになる。
糺 え?
円 つまり、生き残った方の人間が、認識して、初めて幽霊という存在が実在するわけやな。
糺 難しなってきてるやんか。
円 まあ、簡単に言うと、生きてる人間がな、死んだ人間の事を、幽霊として感じるわけよ。たとえば、恨みがありそうな人間がまるで生きて悪さしているような。まあ、偶然とかもあるやろけど、そういうことが起きたときに、幽霊という存在を感じてしまう。
糺 まあ、勘違い?
円 まあ、そういうてまうとあれやけど、まあ、人間の脳みそなんて適当なもんよ。勘違い一つで、あったもんもなくなってるし、ないもんもあるように思う。黒いもんを白く感じたりもする。
糺 で、どういうこと?
円 つまり、幽霊が存在するということは、それを見ている側に原因があるっちゅうことやな。
糺 なるほどね。
円 まあ、君の場合は。
糺 原因はあなたなのね?
円 まあ、犯人は探偵でしたという、しょうもない落ちやな。
糺 ま、あっけなくかいけ~~つ。お疲れ様でした。
円 まあ、幽霊探偵なんてな、あほげな名前ついてるけど、まあ、一応解決はしてんねんて。
糺 そっか。じゃあ、今の私は、あなたの頭の中だけの存在?
円 まあ、幽霊というんはな、共通認識と群集心理とかまあ、ややこいいろいろなあれがあって、一人が見るって訳でもないし。
糺 な~~る。どう? ワタシ、あなたの見た、私。
円 はは、聞くな。そんなこと。
糾 残念。
円 なあ、一個だけ、聞いてええ?
糺 なに?
円 あの、ラストシーン。
糺 うん。
円 ほんまのラストシーン。
糺 うん。
円 ……。
糺 ……。
円 まあ、ええわ。
糺 じゃあね。バイバイ。
円 また。
糺 はは。

糺、去る。
雰囲気たっぷりに窓の外を見る、円。
と、糺が、おっとっとと帰ってくる。

円 ……。
糺 あ、ごめん。
円 ……なんよ。忘れ物か?
糺 あ~、ちょっと言い忘れてて。
円 …………なんやねん!
糾 一個、まだ謎が残ってるやん?
円 謎? そやったっけ?
糾 なんで、あの映画館の人が殺されたんか。
円 あれは、お前が犯人なんやろ。あの生霊の子と、実際の幽霊のお前が入れ替わったっていうことちゃうん。
糾 いや、まあ、そうなんやけどな。なんで、ワタシが、あの人殺してもうたんかっていうところよ。
円 ああ、そういや、そうや。なんでよ。
糺 いや、まあ。これって、まあ、私目線で、見たお話な訳じゃない。
円 あ? んだよ。
糺 だから、まあ、私も若いままじゃない?
円 ああ、だからね。はいはい。も~、せっかくええ感じやったのに!!! なにぃよ!
糺 いや、美化ってこわいなあ~って感じで、まあ、その、ほら、おっさんおばはんの話じゃこまるじゃない? 映像美? フォトジェニック?
円 なんよ~。なにがいいたいんよ~~。
糺 いや、本当のあんたって、ちょっと美化しすぎたな~と思って。
円 あ?
糺 ごめんね~~。
円 え? え? え? ちょっとまってちょっとまって。
糺 いや、本当のあんたってこっちやし。

蝦氏が、笑顔で手を振っている。

円 うっそ~~ん。
蝦氏 まさかのリッボ~~~ン!
糺 ま、ほら、月9とかね。ほら、美男美女かよ。また、美男美女かよ! みたいな感じよね。ほら。
円 どういういこと?
糾 だから、本当の探偵さんの方? お話じゃない、現実の中での探偵っていうのは、こっちなの。で、ワタシは、あんたをこっちの世界へな? 一緒に連れてこようとおもって、殺したんやけどな。ほら、あんたも入れ替わってるっていうの、忘れててな。
蝦氏 ひっで~~~。
糾 ごめんごめん。
円 え~? じゃあ、オレはだれ?
糺 まあ、えっと探偵役の役者さん◎◎さん。ちょっと悩める◎歳。
円 ああ~、それはそうやけど。
糺 ま、ということで…………。(雰囲気たっぷりに)さよなら……。
円 ちょっまて~よ。おい~。(と、ちらりと蝦氏を見ると、超笑顔で手を振っている)も~、なにこれ~~。めっちゃ笑ってるし。
蝦氏 お疲れ。
円 え~。あれっすか? おれ、出番、これで終わり?
蝦氏 お疲れ♪
円 じゃ、そこでみてていいんかな?
蝦氏 ……。あ、オッケーって。
円 じゃ、おつかれ~っす。

一人、窓から外を眺めている蝦氏。

蝦氏 ……うけた。


糺が、ベンチに横になって、眠っている。
蝦氏が探偵椅子に座って外を眺めている。
円が駆け込んでくる。

円 探偵さん、ちわ~~っす。おっ?
蝦氏 よう。
円 寝てる?
蝦氏 おう。
円 襲っていい?
蝦氏 ばーか。
円 しかし、なんでいるの?
蝦氏 ん?
円 今日から、また、寅さんだけど? 家の映画館。
蝦氏 そうか。
円 映画も、元に戻ったし、フィルムももう、返却しちゃったし。彼女どうなってるわけ? 結局。
蝦氏 わっかんねぇ。まあ、なんかしら、幽霊的なもんで。彼女は彼女。それでええんちゃうか?
円 はあ。
蝦氏 まあ、幽霊なんてそんなもんだ。
円 な~るほどね。身にしみるお言葉。
蝦氏 まあ、行くところもないみたいやし。しばらくうちで、アシスタントでもやってもらうわ。
円 ほうかほうか。それにしても、幸せな顔して寝ておられる。
蝦氏 ……。
円 結局なんだったの? あの事件。
蝦氏 ん? まあ、オレがもてたってことだな。
円 ? どういうこと?
蝦氏 オレはもてるのであるよ。
円 あ、そう。ま、そういうことで。
蝦氏 さて、次の事件でも解決しにいきますか。
円 あ、そう。次はなに?
蝦氏 このビルに映画館の支配人づらした幽霊がでてきて困るってよ。
円 へ~~。そりゃこまったもんだ。
蝦氏 ここのオーナーから、なんとかしてくれって頼まれててね。家賃三ヶ月分。まあ、楽な仕事だ。
円 そやな~。ええなあ~~って、それ。おれやんけ~~!!
蝦氏 頼むよ! 成仏してくれ! 金がねえんだ!
円 あほ! まだまだやることがあるねん!
蝦氏 たのむ! そろそろマジで立ち退きになりそうやねん!
円 しるかあああ!

と二人、どたばたと去っていく。
しばらくして、むくりと起き上がってくる糺。
少し、ぼうっとしているようだ。
糺が、窓の外を見た。
糺、窓を開けに行く。

女 いい天気だ。昨日よりも、明日よりも、いい天気だ。それを私は見ている。
(幕)

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使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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