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【長編戯曲】オヤじいギャグ

オヤじいギャグ

人物
岡さん  男 客演
中田くん 男 代表
鈴木さん 女 彼女・看板
山崎さん 女 所属役者
後藤さん 女 新人さん
※ 役者が台本を読みながらの台詞には、名前の上に「☆」をつけることにする。

シーン0
始まる10秒ほど前に、集まった皆で発声の準備したり、談笑したりしている。

中田くん じゃ、始めますねー。

一同、くちぐちに返事する。

シーン1

中田くん 本日は声劇の上演会にお集まりいただきありがとうございます。上演時間は、一時間ぐらいです。よろしくおねがいします。では、まもなく始まります。って感じで始まります。
☆山崎さん え~、また~?
☆中田くん へへ。だめ?
☆後藤さん 私は結構好きですけど。そういうの?
☆岡さん あ、いつもこんな感じ?
☆中田くん へへ。まあ、つい。
☆岡さん つい?
☆鈴木さん 好きだよねぇ~。
☆中田くん ん~。
☆後藤さん あの~。
☆中田くん はい?
☆後藤さん これ、タイトル未定ってありますけど……。
☆中田くん いや、そこなんですけど。
☆岡さん まだ未定?
☆中田くん いや、まあ。
☆山崎さん あるの?
☆中田くん あるっていうか~。
☆岡さん 何?
☆中田くん え、言うんすか?
☆鈴木さん 照れてどうするのよ~。
☆山崎さん 何? どんな? どんな?
☆中田くん ……死ぬことも出来ない僕らの日常。

間。

☆中田くん じゃなくて~。
☆鈴木さん じゃないって。
☆中田くん ……どうです? だめっすか?
☆山崎さん ……ま~? なんかあ……中二病?
☆岡さん ははは。
☆中田くん あ~。
☆後藤さん これで決定ってわけじゃ?
☆中田くん そうっすね~、一応。まだエンディングもできてないし。
☆山崎さん あれ? 前一回書いてたって。
☆中田くん ああ、そうなんだけど~。ちょっと、書き直して。その、昔書いたやつをですね。で、まあ、その、その昔のやつ、なくしちゃって。
☆鈴木さん え~。
☆中田くん へへへ。
☆山崎さん どーいうことー!?
☆中田くん いや~、超昔に書いたんで、データ一回クラッシュしてて、いや、どっかに、プリントしたやつ、残ってると思って、探してるんですけど~。
☆岡さん 全然覚えてないの? 自分で書いたんじゃないの?
☆中田くん いや~、全然。
☆岡さん あちゃ~。
☆鈴木さん どーすんの?
☆中田くん いや、大丈夫。別にね、うん、エンディングって、あれですよ。ほら、こう、作るもんじゃないっていうか、ほら、神様が、与えてくれるみたいな。
☆山崎さん は~?
☆中田くん へへへ……。

間。

☆岡さん とりあえず、一回読んでみない?
☆中田さん あー、そっすね。
☆鈴木さん うん。
☆岡さん ほら、実際にやってみてるの見たら、エンディングも見えるかも。
☆中田くん あー、ありがたいっすわ~。
☆岡さん ねぇ?
☆鈴木さん うんうん。
☆後藤さん それで、タイトルも思いつくかもしれないですしね。
☆中田くん あー。
☆山崎さん で?
☆中田くん はい。
☆後藤さん 私、どの役?
☆中田くん あ~。じゃ、えーっと、とりあえず今日は、ボクが男1を読むんで、岡さんが、父親と男2で。
☆岡さん は~い。
☆中田くん で、ど~しよかな? じゃ、後藤さんが、母親と、女1で、山崎さんが、叔母さんと、女2で。
☆後藤さん・山崎さん はーい。
☆鈴木さん ちょっとちょっと。
☆中田くん で、鈴木さんが、……(分かってますよね)ということで。
☆鈴木さん え? これ?
☆中田くん で、お願いしまーす。
☆鈴木さん ねえ。
☆中田くん はい?
☆鈴木さん この役ってさあ、どうしたらいいの?
☆中田くん あ~…。

中田くんの携帯電話が鳴る。

☆中田 おお。

と、慌てる。
笑う山崎さん・後藤さん。

☆岡さん あらら。
☆鈴木さん かっこわる。
☆中田くん もしもし。

と、電話に出た。

☆岡さん え~。
☆山崎さん うわ~。

と非難の声。

☆中田くん もしもし、うん。え? 何?

どうも、緊急の電話のようだ。

☆中田くん ちょっと落ち着いて。うん。え? あ、うん。わかった。すぐ帰る。うん。はい。じゃ。

みんな、中田くんを見る。

☆鈴木さん 何?
☆中田くん あーー。

間。

☆中田くん ちょっと~~~すいません。
☆鈴木さん どうしたの?
☆中田くん ちょっと、今日、帰っていいです?
☆鈴木さん え? なんで?
☆中田くん あの、おばあちゃんが死んだって。
☆後藤さん え?
☆山崎さん 今?
☆中田くん あ、はい。で、ちょっと。
☆岡さん いや、すぐ行きなよ。
☆中田くん すいません。
☆鈴木さん しかたないよ。
☆中田くん ほんとごめん。
☆岡さん そっか……。
☆中田くん すいません。じゃ、お先です。

と、足早に去る。
みんな、台本を見る。

☆後藤さん なんか恐いですね。
☆岡さん うん。台本、これ。
☆山崎さん えっ?
☆後藤さん あらすじに書いてましたけど。
☆山崎さん あ、そうなんだ。
☆鈴木さん 読んでないの?
☆山崎さん いや、ちょっと忙しくて。
☆後藤さん これですね、中田さんが、おばあちゃんがもし、死んだらこうなるだろなってことで、書いたって言ってましたよ。
☆山崎さん へ~。じゃあ、まさかのこのタイミングですよね。
☆後藤さん ですね。
☆鈴木さん どうすんだろ?
☆岡さん え?
☆鈴木さん いや、じゃあ、これ、やるのかなって。
☆岡さん ああ~。
☆山崎さん まさかの中止?
☆後藤さん でも……。
☆鈴木さん チラシとか宣伝してるし。
☆岡さん ああ~。ま、いっぺん会議あるんかな~?
☆鈴木さん で、どうします?
☆山崎さん え?
☆鈴木さん いや、今日。解散?
☆後藤さん ああ。
☆岡さん いや~、なんかなあ。
☆鈴木さん 一回ぐらい読んでみます?
☆後藤さん はあ。
☆山崎さん せっかくですしね~。
☆後藤さん うん。
☆岡さん ま、とりあえず、読んでみよっか。
☆後藤さん うん。
☆岡さん じゃ、中田くんのとこは、適当にだれかがって感じで?。
☆山崎さん おっけ。
☆岡さん じゃ、ト書きはオレ読むわ。
☆鈴木さん お願いします。
☆岡さん シーン2。女が一人、スーツで現れる。どうやら、葬儀社のCMのようだ。

シーン2
山崎さん 我が、山崎葬儀社では、多様化する現在の葬儀事情に完璧に対応する施設を誇っております。仏教、神道、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教に、ブードゥーだって、その他もろもろ、ありとあらゆる宗教に対応する葬儀場を備え、神父、牧師、神主にグルまで葬儀を行う祭儀者と契約し、それ以外のニーズにも、完全なるネットワークで対応しております。まずは資料をお電話で!
後藤さん 困ったわ~。ジャワクトワラ神様でお母さんのお葬式したいのに、日本じゃ、できないの!
山崎さん お任せ下さい! 採算ド返し、お客様第一主義! やすらかなる第二の人生、完璧にサポート、完全対応! メジャーから、インディーズまで幅広く対応しております!
後藤さん まあ、安心!
岡さん 困った~。葬式がしたいのに、お金がないよ!
山崎さん お任せ下さい! 安心プランで、喪主のお客様にも優しい料金セットを作っております。ローンもオッケイ! もちろん金利手数料当社負担!!
岡さん ありがとう! 山崎葬儀!
鈴木さん どうしよう! お葬式のことが心配で心配で死んでしまいそう! 親切丁寧な葬儀会社ないかしら?
山崎さん お任せ下さい! 安心安全死出の旅! おまかせご予約受付中! しかも今なら早割キャンペーン中です!
鈴木さん まあこれで、いつでも安心して死ねます!
山崎さん さあ、今すぐお電話。073の、シゴ、ゴクラク。シゴ、ゴクラクです。

電話音が鳴る。

山崎さん はい、もしもし!
中田くん あの……。
山崎さん もしもし! しもしも!
中田くん あの……。
山崎さん もしも、もしもしも、もしもし?
中田くん ……。
山崎さん もっしもっし~、さっせてよ~♪
中田くん あのぉ!
山崎さん ……。
中田くん あの?
山崎さん (ものすごく不機嫌に)はい。
中田くん あの~?
山崎さん はいはい。
中田くん すいません。
山崎さん はぁいぃ~。
中田くん あの、葬儀社さんですか?
山崎さん え~、一応? そうですけど~?
中田くん 今、見たっていうか。
山崎さん (急にテンションがあがる)え?
中田くん 見せつけられたんですけど。
山崎さん そうなんですか! ね。ね。
中田くん はい。
山崎さん ね。どうだった? 私?
中田くん あ、宣伝の人っすか?
山崎さん そう。そうなの~。えへっ♪
中田くん あ~。
山崎さん あ~?
中田くん なんか、
山崎さん はい♪
中田くん あ~。元気があって……。
山崎さん 元気があって?
中田くん あ~、とても、こう葬式っていうイメージが覆されて。よかったです。
山崎さん (がっかり)いや、……そうじゃないんだけどな……。
中田くん え?
山崎さん で、なにかご用ですか~?
中田くん あ~。
山崎さん あ~?
中田くん 教えてください。
山崎さん はあ。
中田くん 葬式ってなんなんですか?
山崎さん はあ。
中田くん 教えてください。
山崎さん ……。え~っと、ちょっと待ってくださいね。(携帯を盗み見る)
中田くん ……。
山崎さん 葬儀、葬式とは、人の死を弔うために行われる葬儀。
中田くん (なんか納得いかない)あ~。
山崎さん え~、葬儀は故人のためだけでなく、残されたもののために行われるという意味合いも強くある。残された人々が人の死をいかに心の中で受け止め、位置付け、そして処理するか、これを行うための援助となる儀式が葬儀である。
中田くん あ~。
山崎さん はい……。
中田くん ウィキペディアですか?
山崎さん はい、ウィキペディア参考です♪
中田くん 便利ですねえ。
山崎さん はい、便利です♪
中田くん 違うんですよお。葬式ってなんなんですかあ。
山崎さん いや、ですから、人のですね。死を……。
中田くん 違うんですよぉ~。
山崎さん なんなんですか!
鈴木さん もしもし!
山崎さん はい!
鈴木さん あの、どんな葬式もオッケーなんですか?
山崎さん はい~。
鈴木さん では、宇宙神、牛頭大良(ごずだいら)様のご進言で、死を乗り越えた人間に葬式は必要でしょうか?
山崎さん 死んでから来てください。
後藤さん あの~、死にたいんですけど~、先に葬式予約してもいいですか~?
山崎さん はい、どうぞ。早割り対象になっております♪
後藤さん えっとですね~。棺桶はピンクで~、お経の代わりに~、アユの歌で~、私の写真プリクラでもオッケ~?
山崎さん 死ぬな!
岡さん もしもし、太陽軒さんですか? ラーメン一つ出前お願いしま~す。
山崎さん 間違いです!
中田くん 宗教によって、葬式って違って、
山崎さん はいぃ!?
鈴木さん 牛頭大良様が~、そもそも君は生まれてないっていうんですが~。
山崎さん 生まれてこい!
後藤さん 彼が~、死ぬときは一緒だ~っていうんですよ~。カップル棺桶とか~。
山崎さん ねえよ!
岡さん ピザ一枚、チーズ、サラミ抜きで!
山崎さん 食パン食ってろ!
鈴木さん 葬儀をしてくれるはずの牛頭大良様が、そもそも死なないはずなのに死んで困ってるんですが……。
山崎さん ご愁傷様!
中田くん 宗教が違うと、おばあちゃんは、
山崎さん はいぃ!
後藤さん もしもし~~。あの~。
山崎さん はい!
後藤さん 葬式って~。私~。
中田くん 違うところに行くんですか?
山崎さん それは……。
岡さん もしもし~?
山崎さん はいぃ!!
中田くん 葬式って絶対やらないと駄目ですか~?
山崎さん それは……。
岡さん お姉さん、今日はどんなパンツはいてるの?
山崎さん はいてねぇよっ!
岡さん・鈴木さん・後藤さん うっひょ~。

全員去る。

中田くん 助けて下さい! ってあれ?

シーン3
☆鈴木さん シーン3。病院の待合室。中田くんの父・母。そして、父の姉であるおばさんがいる。
☆岡さん カズアキは?
☆後藤さん 今、稽古してた場所から向かってるって。
☆岡さん そうか……。
☆後藤さん もう、来るって……。
☆岡さん んん……。
☆山崎さん 何、カズアキ、芝居してるって?
☆後藤さん あ、はい。
☆山崎さん もう、ええ歳ちゃうの?
☆後藤さん ……。
☆岡さん 姉貴、それはええやんか。
☆山崎さん カズオー、で、あんた、どうするん。
☆岡さん ああ。
☆山崎さん あんたー、しっかりしいや~。あんたが喪主になるんやで。

中田くんがだらだら、くる。
鈴木さんだけが、中田くんに反応する。
中田くん、台本を開きながら。

☆中田くん 今どこ?
鈴木さん ん? はよ、病院行かんで、ええの?
☆中田くん え? だから来たんやんか。
鈴木さん え?
☆中田くん 今、どこってよ。
鈴木さん 今、ちょうど病院のシーン。お父さんと、おばさんが、どっちの宗教で、葬式するか、もめ出すとこ。
☆中田くん ほうか。あ、ここ?
鈴木くん そうそう。
☆中田くん ちょ~どやんか。もうちっとで出番やし。

後藤さんのすすり泣く声が聞こえてくる。

☆岡さん それは今話さなあかんのやろか?
☆山崎さん なにいうてるん。あんたしっかりしてや。
☆岡さん わかってるけどな。わかってくれや。
☆山崎さん あんた、どっちの立場なん?
☆岡さん どっちとか、そういうもんとちゃうやろ。
☆山崎さん だからな、私がいうたやろ。それをほっとくからや。

鈴木さん なあ、今私ってどういう役なん?
☆中田くん どういう役って、台本書いてる通りやんか。
鈴木さん どういうこと?
☆中田くん え? 台本よんでへんの?
鈴木さん え? いや……。
☆中田くん ま、やってたらわかるよ。
鈴木さん ……。

☆後藤さん 最後にね、手を、私の、しっかり握って。で、私が、「神様を信じますか? 天国に行きたいですか?」って。
☆山崎さん あんた、ねえ。
☆後藤さん しっかりと、私の目を見て、うなずいたんです。
☆山崎さん ちょっと、あんた、なんで止めへんのよ。
☆後藤さん それで、安心したように、目が穏やかになられました。
☆山崎さん あんたねえ、意識もうろうとしてる母さんに、なにしてるの? 人として、おかしいとおもわんの!?
☆岡さん ちょっと…。

再び、後藤さんのすすり泣く声。

☆中田くん なあ、これは本人として、なんかいうてよ?
鈴木さん 私が?
☆中田くん そうやん。せっかくやん。
鈴木さん え? あ、私が、おばあちゃん役なん!?
☆中田くん うん。え? いまさら?
鈴木さん そら、無理よ。
☆中田くん なんでぇ。いうてや。セリフ。
鈴木さん そもそも、死んでるんやろ、おばあちゃんとしては。
☆中田くん 死人にクチナシですか。
鈴木さん 死人にク~チナシですっ。

☆山崎さん ちょっと、あんたもいいなりなんか!!
☆岡さん え……? そんなんとちゃうけど。
☆山崎さん どないするんよ! え!
☆岡さん えっ?
☆山崎さん えって、葬式よ。
☆岡さん ああ。
☆山崎さん ちゃんと葬儀場で、お坊さん読んで、ちゃんとやらんと、あんた。
☆後藤さん 教会で……。
☆山崎さん あんた、だまっとりぃって!
☆後藤さん お母さんが天国に行けるかどうかなんです!
☆山崎さん 家は代々、仏教なんです! それを、なにしてけつかる!
☆岡さん ……ああ。

鈴木さん そっかあ、もめてる? やっぱ。
☆中田くん そら、もめるなあ。
鈴木さん こまるなあ。
☆中田くん そこのところどうなんよ。
鈴木さん え?
☆中田くん 最後、そこでもめてるし。
鈴木さん そんなん、こっちのしったこっちゃないで。あんた死んでんねんで、おばあちゃんとしては。
☆中田くん あ~。

☆山崎さん あんた、なんか答え!
☆岡さん コタエ。
☆後藤さん 答えを答えて。
☆岡さん 答えを答えて答える。
☆山崎さん 答え答え答え。
☆後藤さん こ・た・え。
☆岡さん コタエコタエコタエコタエコエコタエコエタコエコタコエコ、タコタコタコタコチューカイナ?
☆山崎さん カズオ?
☆後藤さん お父さん?
☆岡さん コ、コ、コ、コ、がっちょ~~~~~ん!!!!

岡さん、ふらふらと去る。

☆後藤さん お父さん?
☆山崎さん カズオ! どこ行くんよ!

後藤さんと、山崎さん去る。

☆中田くん あ~あ。頭パーンなってもた。
鈴木さん かわいそうになあ。こういうのあかんこやからなあ。ええこなんやけど。
☆中田くん ばあさん、死んだらあかんかってんで。
鈴木さん ほんまかあ。でも、そら無理よ。
☆中田くん ほんまやな。
鈴木さん いつかくる。
☆中田くん いつかくる。

シーン4

山崎さん シーン4! 問題かいけ~つ山崎葬儀社! このたび、私、昇進しました~!!!
☆中田くん え?
☆山崎さん もう、次のシーンですよ!
☆鈴木さん あ、そう。
山崎さん 山崎葬儀社、威信をかけてこの問題解決いたしますぅ!
鈴木さん なにこの人?
山崎さん 月刊葬儀、問題解決してくれそうな葬儀社一位!ヤング葬儀、働らくなら葬儀部門一位! 雑誌ザ・デス。洒落がわかる葬儀社一位!。オリコンランキング、葬儀部門1位! 明星、キム兄が選ぶ、もしもこんな葬儀社があったらランキング一位! の山崎葬儀社です!

上手に、十字架を持ち、外人のマスクを被った後藤さん。
下手に、大仏のマスクを被った、岡さん。

山崎さん え~、青コーナー。仏教代表ナムアミ和尚~。
岡さん はい、な~む~♪
山崎さん 赤~コ~ナ~。キリスト教代表、アーメン牧師~。
後藤さん はい、あ~め~ん♪
☆中田くん あの、なんすか? これ?
山崎さん え~、本日は、喪主のお父様は?
☆中田くん あ、なんか失踪しました。
山崎さん お~っと、これはトラボゥー。ということは、キリスト側の主力が一人減ったというわけですねー!?
☆中田くん あ、はい。
山崎さん おーっと、思わぬ先制パア~~ンチッ。

後ろでは、実況に沿ったボクシングの試合のような物が行われている。
鈴木さんは、大爆笑。

山崎さん さあ、思わずゴング前に始まってしまいましたこの試合、決着はどうつくのでしょうか? 解説の鈴木さん。
鈴木さん はい~。楽しみですね。どちらも2000年以上の年月を耐えてきたファイターですからね。スタミナは半端ないでしょう。教義、信仰、リアリティーを、現代人に向けて、いかにアピールするかですよね。
山崎さん ありがとうございます。どうでしょう、コミッショナーの息子さんとしては。
☆中田くん な~んじゃこりゃ?
山崎さん いや、どうしたらいいかな~って考えて、もう直接戦えばいいじゃないか。やあっちまいな~の精神で、不道徳な感じでお送りしてるんですが。
☆中田くん は~。

岡さんと、後藤さん、ぱこぱこしながら、去る。

山崎さん さあ、おっと、南無和尚、いきなり、フックフック、ナンマイダー。これはきいている。さあ、後がないぞ、おっと、ここへきて、いきなりの神頼みだ、アーメン牧師ー!!

中田くん、去ろうとする。

鈴木さん どこいくっちゃ?
☆中田くん おもんにゃい。
鈴木さん これ、ちょ~、おもろいよ。
☆中田くん ええよ。もうそんなん。
山崎さん 決まった~。南無和尚の、卍固め~~~~~!!
☆中田くん 終わり終わり。次、シーン5。失踪した親父が、どこかの海で釣りをしてるシーンです。

中田くん、去る。
遅れて、みんな去る。


BGМ・海の音。
釣り竿を持った岡さんと山崎さんが現れる。

岡さん ん~、三千円にしてよ?
山崎さん 三千円? それは無理。
岡さん そ~か~。
山崎さん 三万はねえ。
岡さん そりゃ無理だわ。

岡さんは、釣りを始める。

山崎さん おっさん、三千円しか持ってないの?
岡さん お~、三千円しかないで~。
山崎さん しけてるなあ~。
岡さん お~、オレもしてけてるし、海もしけてんぞ~。
山崎さん オヤジギャグ。
岡さん おー、オヤジギャグやで。
山崎さん おっさん、なにしてるの?
岡さん ん? なにしてんのやろ?
山崎さん つり? でも、えさ付けてないし。
岡さん ふむぅ。
山崎さん う~ん? なんの魚つりたいの? 今だとね~。ここだと、メジナかな?
岡さん メジナ? ああ、グレか。ええな。旬やな。
山崎さん グレ? なにそれ? 
岡さん おじさんの地元ではそういうんよ。
山崎さん へ~。あとね、あとね、太刀魚が釣れるよ。カレイだとね、えさは……。
岡さん 詳しいね。釣りは好き?
山崎さん ん~。あんまり~。
岡さん ん? そう?
山崎さん だってさ~、ヒマでしょ~。
岡さん ま、そやな。
山崎さん ね~、何釣りたいの?
岡さん なんやろねぇ~。……。あ~。
山崎さん 何?
岡さん 答えかなぁ~?
山崎さん こたい? 小さい鯛?
岡さん 答え。
山崎さん 鯛はなかなか釣れんよ。
岡さん あ~、そう。たまに釣れる?
山崎さん そりゃね。
岡さん 逆にな、何がよう釣れんの。ここらへんは。
山崎さん あ~、人魚?
岡さん 人魚?

岡さんの竿が引き始めたようだ。

山崎さん おっさん! 引いてる引いてる!
岡さん おお! すごい強い!
山崎さん 大物やな!
岡さん おお!

岡さん、必死に竿を引く。
下手の布がぴくぴくと反応し始める。

山崎さん おっさん! 負けてる!
岡さん 手伝って!
山崎さん こう?!
岡さん おりゃーーー!

二人で、竿を思いっきり引っ張る。
人魚っぽく足に布を巻いた後藤さんが不満そうに現れる。

岡さん え?
後藤さん あちゃー。
山崎さん おー、結構すごいの釣れた。
岡さん え?
後藤さん どうも。
岡さん あ、はい。どうも。
山崎さん すっご~。色気のない人魚だ。
後藤さん なんじゃ! このくそがき!
山崎さん おお、こわっ。
後藤さん あの……、すいません。
岡さん はい……。
後藤さん すいませんが、これ、外してもらえませんでしょうか? 凄く痛いんです。
岡さん あ、すいません。

岡さん、人魚の針を外し、気まずい雰囲気の三人。

山崎さん で、どうするの? この人魚?
岡さん え?
後藤さん ……。
岡さん はは、ども。
後藤さん ども。
山崎さん 食べちゃえば?
岡さん・後藤さん え?
後藤さん 次のシーン! シーン6!

後藤さんが、逃げた。
慌てて追いかける岡さんと、それについていく、山崎さん。


中田くんがお尻を出して隠れている。
鈴木さんが現れる。

鈴木さん ……。

鈴木さん、中田くんのお尻を蹴った。
でへへ顔で笑って顔を出す中田くん。

鈴木さん ちょっと! また!
☆中田くん おかえり。
鈴木さん 勝手に人の家でくつろぐなっていうてるでしょ!
☆中田くん ええやん。
鈴木さん ええくない!
☆中田くん 落ち着くし。
鈴木さん 落ち着くなって! だいたいあんた、ええん? ここおっても。
☆中田くん ん~?
鈴木さん 大変なんちゃうの?
☆中田くん ああ、そう?
鈴木さん ああ、そう? ちゃうやろ!
☆中田くん あ、これ。

中田くん、小さなクーラーボックスを差し出した。

鈴木さん 何?
☆中田くん おみやげ。
鈴木さん 何?
☆中田くん カレイ。
鈴木さん カレー?
☆中田くん 見る?
鈴木さん ひゃっ! 魚?
☆中田くん 新鮮だよ~ん。クールパックで送ってきた。
鈴木さん 誰から?
☆中田くん 親父。昨日釣ったってさ。ほれ、手紙も。
鈴木さん なんて?
☆中田くん 昨日釣りました。人魚も釣ったのですが、郵便局に送るのを断られました。なので、放流しようとしたら、漁師さんに怒られました。どうやら、最近、人魚が増えて困っているらしいです。しかし、家に連れて帰るわけにもいかないので、もう少し、こちらにいます。やって。
鈴木さん なんじゃそりゃ?
☆中田くん な?
鈴木さん で、病院はええの?
☆中田くん ん? なんで? 病院?
鈴木さん え?
☆中田くん なんもやることないし、オヤジの失踪で、とりあえず、葬儀でけへんことなってるし。
鈴木さん 失踪? ほんとに?
☆中田くん んん。そういうことになってるやんか。え?
鈴木さん え? そういうことって、あんた、探さんでええの!
☆中田くん 探すって? 誰を?
鈴木さん え? お父さん。
☆中田くん 親父はずっと寝てるで。家で。
鈴木さん え? どういうこと?
☆中田くん おいおいおい。読んどけよ。台本?
鈴木さん 台本?
☆中田くん こっから妄想が飛躍するんでしょうが。
鈴木さん は?
☆中田くん ま、しばらくとめてや。
鈴木さん は?
☆中田くん 探し物があるんやわ。
鈴木さん 何?
☆中田くん 台本!
鈴木さん 台本? これ?(今持っている台本を差し出す)
☆中田くん あ、ちゃうちゃう。超昔に書いたやつ。
鈴木さん 超昔に書いたやつ?
☆中田くん しらん?

鈴木さん、はっとして、奥を覗く。

鈴木さん も~、部屋めちゃくちゃやんか!
☆中田くん あ、ほんまや。
鈴木さん ほんまやちゃう!!
☆中田くん ごめん。
鈴木さん 何? 昔のやつって。
☆中田くん 何って。だから、昔書いたやつ。
鈴木さん え? じぶんちにないん?
☆中田くん 今、うち、それどこちゃう感じやし。
鈴木さん それがなんでワタシん家にあるんよ。
☆中田くん あ~、なんか貸した気するねんけど。
鈴木さん あ~……。はは。そやったっけ?
☆中田くん ……まさか、捨てた?
鈴木さん そ、そんなわけないやんか。え、ええから、部屋、片づけときよ!
☆中田くん え? どっかいくん?
鈴木さん あんなあ、普通の人は働いてるんよ。
☆中田くん はは。
鈴木さん ほな。片づけときな!
☆中田くん あ、ちょっと!

鈴木さん、去る。


中田くん、おっかけようとした所に、山崎さんが現れる。

☆中田くん あれ?
山崎さん さあ! シーンは変わって7ラウンド! 試合は依然と緊張が続いています。

大仏のマスクを被った岡さんと、外人のマスクを被った鈴木さんが現れ、ぐるぐるぐるぐるしている。
山崎さんは、変な踊りを踊っている。

☆中田くん ああ、あれの続きか。

神様っぽいヒゲを付けた後藤さんが現れる。

☆中田くん あ、誰ですか?
後藤さん あ、審判です。
☆中田くん 今、坊さんと牧師の試合ってどないなってるんですかっていうか、これ、すでに試合ですらないですよね。
後藤さん ほんとだねえ。
☆中田くん ちょっと、止めたら? 審判!
後藤さん なに?
☆中田くん なんか、もうすぐバターになりそうですよ。
後藤さん ホントだ~。うける~。
☆中田くん いや、ちょっと、そこは止めた方が……。
後藤さん いいんじゃなぁ~い? 本人達、必死なんだし~。
☆中田くん はあ……。
後藤さん ねえ、あんたどっち派? 右? 左?
☆中田くん どっちでもないですよ。
後藤さん 駄目だね~。信念のない人間は弱いよ~。
☆中田くん ズバズバいいますね。誰ですか、あなた。
後藤さん なんだちみはと?
☆中田くん いや、そうは。
後藤さん なんだちみはと聞かれたら、こまる。
☆中田くん はあ。
後藤さん (小声で)聞いて、聞いて!
☆中田くん え?
後藤さん (小声)なんだちみはって!
☆中田くん なんだちみは?
後藤さん 神様です!
☆中田くん はあ。
後藤さん あがめとけ! あがめとけよ!
☆中田くん はあ。
後藤さん 御利益あるかもよ~。
☆中田くん はあ。
後藤さん ほんとはないけど。
☆中田くん ないんですか?
後藤さん まあ、信じる物は救われる系?
☆中田くん はあ。
後藤さん どうした~? 感動しすぎて、声もでない系?
☆中田くん いや、こっちのこの展開ここまでもってきて、どうしたらいいかな~って考えてたんです。
後藤さん こらこら♪ 神様よりもぶっちゃけるなって♪
☆中田くん とりあえず、この後ろのうっとおしいのなんとかしてくれます?
後藤さん え? いいの?
☆中田くん はい。
後藤さん あ、じゃあ、なんかひっぱる感じやってみて。
☆中田くん え? こうですか。
後藤さん うん。

SE・トイレの水が流れる音。
後ろのトイレの水のように流される岡さん、鈴木さん、山崎さん。

☆中田くん あらー。
後藤さん 流しちゃった♪
☆中田くん なんか今、すごい罪悪感と、敗北感。
後藤さん こーらっ!
☆中田くん とりあえず、お願い聞いてくれます?
後藤さん 待ってましたよ。私の存在意義、レーゾンデテールちょうだいな。
☆中田くん とりあえず、神様的な物がごたごたを納めるのは、昔のギリシャ悲劇の常套手段だとはおもうんですよ。
後藤さん うんうん。
☆中田くん ね、便利ですから。こう、昔の人って反則ぎりぎりっていうかアウトですけどね、まあ、ありはありかなって思うんで。
後藤さん うんうん。
☆中田くん とりあえず、エンディングなんとかしてほしいんですよ。まだ出来てないんで。
後藤さん なるほどなるほど。
☆中田くん でもですね。まだ、だいぶ続くんで、出番としては、早すぎるんですね。
後藤さん あ、そう?
☆中田くん はい、だもんで、もうしばらく出てくるのまっててもらえます。
後藤さん あーっと失敬、こりゃお呼びでない。
☆中田くん はい。
後藤さん じゃ、ドロンしますわ。
☆中田くん あい。
後藤さん ドロン!

後藤さん、普通に去る。

☆中田くん は~。次のシーンいっちゃって~。

中田くん、去る。


岡さん、山崎さん、鈴木さんが、ぞろぞろとやってくる。
それぞれに挨拶を交わしている。

☆岡さん 今日は中田くん、こないの?
☆鈴木さん らしいですよ。
☆山崎さん そりゃ、おととい亡くなったばかりだからね。
☆岡さん でもさあ、稽古あるかないかぐらいはよお~。連絡しいよな~。
☆鈴木さん あれ? みんなのとこは連絡なしですか?
☆岡さん オレない。
☆山崎さん 私も。
☆岡さん なんだよ。それ。
☆鈴木さん あちゃ~。
☆岡さん 後藤さんは?
☆鈴木さん あ、いない。
☆山崎さん ほんとだ。
☆岡さん また遅刻?
☆鈴木さん じゃないですか?
☆岡さん は~。ど~する? 今日は自主練習?
☆鈴木さん らしいです。
☆岡さん っていうか、この台本でやるのかわかんないし。
☆山崎さん 連絡ぐらいほしいよね。
☆岡さん なにしろっちゅーの。どうする?

一同、沈黙。

☆岡さん もうやめて、飲みにいこっか?
☆鈴木さん いや…それは。
☆岡さん だってさ~。駄目~?
☆鈴木さん かるく読み合わせしてみません?
☆岡さん え~~。
☆鈴木さん ま、軽くって感じで。私もようこの話わからないですし。
☆岡さん あ~、ね~。めちゃくちゃごちゃごちゃしてるもんな。
☆山崎さん 私もなんかよく……。
☆鈴木さん あ。

間。
後藤さんが遅れてやってくる。

☆後藤さん すいません!
☆鈴木さん あ、来た来た。
☆山崎さん また?
☆後藤さん あ、いや……今日は寝坊……。
☆鈴木さん なんじゃそりゃ。
☆後藤さん すいません……。
☆山崎さん じゃ、読んでみよっか。
☆後藤さん あれ? 中田さんは?
☆岡さん 今日は来ないよ。
☆後藤さん あれ? そうなんですか?
☆岡さん 葬式じゃないの?
☆後藤さん ああ~。あれ?
☆岡さん ん?
☆後藤さん そこにいましたよ。
☆鈴木さん え?
☆後藤さん さっき……。
☆岡さん え? さっき?
☆鈴木さん どこで?
☆後藤さん いや、ここに来る途中、ばったり……。
☆鈴木さん え? なんで??
☆後藤さん いや……私、よくわからなかったんで……。
☆鈴木さん え? で、なんて?
☆後藤さん いや、こんにちは~って。
☆鈴木さん こんにちは~って?
☆後藤さん はい。
☆鈴木さん え? それだけ?
☆後藤さん はい。
☆鈴木さん こんにちわーって?
☆後藤さん はい、こんにちわーって。
☆鈴木さん こんにちわーって。
☆後藤さん はい。
☆鈴木さん なにそれ?
☆岡さん  こんにちわーってねえ。
☆後藤さん はい。
☆岡さん  それはちょっとなあ。
☆山崎さん こんにちわーか。
☆後藤さん はい。こんにちわーでした。
☆山崎さん まちがっちゃいないけどねぇ。
☆岡さん なにそれ? なんでこないの?
☆鈴木さん ……。

いやな間。

☆山崎さん あ~あ、怒らせた。
☆鈴木さん え? 誰が?
☆山崎さん え? 私に怒らないでよ。わるいのはあのコでしょ~?
☆鈴木さん も~、殴り倒したい。
☆後藤さん あ、もう殴りました。
☆山崎さん え?
☆後藤さん あ、はい。
☆岡さん え? なんで?
☆後藤さん いや~、なんか殴ってって言ったんで。
☆鈴木さん あいつが?
☆後藤さん あ、はい。
☆鈴木さん なんじゃそりゃ?
☆岡さん ああ……。そう?
☆山崎さん ま、台本よんでみようよ。

長い間。

☆岡さん で?
☆山崎さん え?
☆後藤さん はい?
☆鈴木さん なんですか?
☆岡さん 何読むの?
☆山崎さん え? 台本。
☆後藤さん 台本、ってこれですよね?
☆岡さん  そうそうそう。
☆山崎さん あ。
☆後藤さん これ、今、よんでますもん。
☆岡さん だよな~。
☆山崎さん え? どういうこと?
☆後藤さん 今、よんでますって~!!

間。

☆山崎さん え? これ今セリフ?
☆岡さん うわ~。
☆後藤さん ほら、ここ、「これ今セリフ?」って書いてる。
☆山崎さん うわ~。今、鳥肌立った。
☆鈴木さん 今のも台本!?
☆岡さん 何、これも全部あいつの頭の中ってこと? 孫悟空みて。
☆山崎さん え。これも台本通りってこと?
☆後藤さん でも……彼も、台本持ってませんでした? 読んでませんでした?
☆岡さん え?

一瞬、ざわっとする一同。

岡さん うわっ!

岡さん、台本を殴り捨てる。
その瞬間、岡さんは、呆然としだす。

☆鈴木さん どうしました? 大丈夫ですか?
岡さん ??????
☆山崎さん 大丈夫?
岡さん ????

後藤さん、岡さんの捨てた台本を拾って、岡さんに渡す。

☆岡さん 卵は経済の優等生だ。戦前からほとんど値上げがない。値上げがないといっても、車が一万円そこらで買えた時代から値段が変わっていないというのだから、これは値上げどころか、すごいことだ。
☆山崎さん え?

後藤さん、あわてて、岡さんに、今読んでいるページはここだと教えてあげる。

☆岡さん あははは。

間。

☆岡さん 帰るわ。
☆山崎さん そうしましょか。
☆後藤さん え、いいんですか?

岡さん、そそくさと帰る。
山崎さんも後を追い、遅れて後藤さんも、とまどいながら去る。

鈴木さん ……。

鈴木さんも去る。


中田くんが、そろそろとやってきて、中央に立つ。

☆中田くん え~、ボクが、鈴木さんの家に引きこもって、特に何をするでもなく、ブログを更新するっていうシーン8です。○月○日。卵について。

岡さんが現れる。

☆岡さん 卵は経済の優等生だ。戦前からほとんど値上げがない。値上げがないといっても、車が一万円そこらで変えた時代から値段が変わっていないというのだから、これは値上げどころか、すごいことだ。

岡さん、去る。

☆中田くん △月△日。食欲について。

後藤さん、現れる。

☆後藤さん 食べて食べて食べて吐く吐く。三歩進んで二歩下がる。結局一歩進む。昔の貴族なんかは、一日ひたすら食べては吐いてを繰り返した。一日中、うまいものを食い続けられるようにだ。彼らに空腹を満たすという概念はない。そもそも空腹という概念がないからだ。4個目のカップヌードル塩味にお湯を入れて三分待っている間に、何故自分が食べているのかを考える。空腹ではもちろんない。人間にはいろいろ欲があるが、中でも性欲、食欲、睡眠欲の三つは本能に関わる重要な事だ。自分は何か他の欲求を満たせない代わりに食べているのだろうかと考えたところで3分が立った。その後、走ってこけてほとんど割れた卵をもった彼女が玄関でぼうっと立っているのを見つけて、3回セックスして、2時間休憩してっていうのを何回か繰り返し、その後、3日間寝続けたのだが、そこは彼女の了解を得られなかったので、描写はしない。

後藤さん、去る。

☆中田くん □月□日。コミュニケーション食欲理論について。……は、ブログに送信するのを止めた。

山崎さん、現れる。

☆山崎さん これは暴力である。胃袋に対する暴力である。暴力は進化する。暴力もコミュニケーションである。コミュニケーションの進化の波に乗せて、暴力も進化する。あふれるグルメ番組、あふれるレポーター。進化するレポーター。進化するグルメ。暴力。食べることに対する暴力。食べつづけ、食べて、食べて。人は感覚を抑制する。人生を食べることと錯覚させる。抑制された性、抑制された暴力。全て、食欲に還元される。フォアグラに発情しろ! トリフュで射精しろ! キャビアで、撃たれて蜂の巣になれ。血を流せ、ケチャップよりも濃い血を!

山崎さん、去る。

☆中田くん 代わりにこれを書いた。

岡さん、現れ、

☆岡さん 卵かけご飯は、やはり炊きたてご飯である。炊きたてのご飯に、卵をかけ、醤油をぶわっとひっかけ、がっとかっこむ。それだけでややものたりなくなったら、塩昆布、もしくは塩からなんかがあるといい。

去る。

鈴木さんがやってきて、少し酔っ払っているようで。

鈴木さん な~に? 台本書いてるの?
☆中田くん んん? ん~ん。
鈴木さん あんた、はよ、台本かかな、迷惑かけても~。エンディングはできたん?
☆中田くん できてないし。台本ちゃうし。ブログ。
鈴木さん 駄目じゃん。
☆中田くん 結構人気あるし。
鈴木さん どーせ、しょうもないことやろ~?
☆中田くん 酔っ払ってるん?
鈴木さん え~、今日も働いてきましたよ~。このくそニートめ。働け。
☆中田くん 働いてるっちゅうの。貸したり、返却されたりしてるっつうの。
鈴木さん この、消費社会の最下層めが。この他人の家でひきこもりやろー。

鈴木さん、奥を見て。

鈴木さん あ、冷蔵庫空っぽ!
☆中田くん うん。
鈴木さん 全部食べたの!?
☆中田くん うん。
鈴木さん 結構あったよ。
☆中田くん うん。
鈴木さん はあー。なんか買ってくる。
☆中田くん 卵。
鈴木さん 卵?
☆中田くん 買ってきて。
鈴木さん え?
☆中田くん で、やろう。
鈴木さん なにを?
☆中田くん 卵焼きを焼くか、セックス。
鈴木さん なにいってんの?
☆中田くん 卵焼きを焼くか、セックス。そういいました。
鈴木さん あ、そう。
☆中田くん シーン9。疾走したオヤジの話の続き。

中田くん、鈴木さん、去る。


SE・海の音。
岡さんが、爪楊枝でしーはーしーはーしている。
山崎さんが、食べ過ぎでぐったりしている。
後藤さんが、上半身だけを出して、ぬなぬなしている。

岡さん 結構、あれだね。脂っ気がなかったね。
山崎さん ん~。煮付けにしたほうがよかったんじゃない~?
岡さん ん~。
後藤さん ちょっと~。
岡さん けど、あれな、ほんとに魚なんだね。
山崎さん 私、こう、足があって~、魚にのみこまれてるだけだと思ってた~。
後藤さん ね~。
山崎さん コラーゲンは多そ~。
後藤さん ちょっと~!!
岡さん ごちそうさまでした。
後藤さん 足~。どうしてくれるのよ~。
岡さん え? どうしてくれるっていってもなあ~。
後藤さん 足~~~。
山崎さん そこの干涸らびたフグくっつけといたら~? きゃはははは。
岡さん くっつくかな?
後藤さん や~~。
岡さん なに。どうしてほしいわけ。
後藤さん 足ほしい。
岡さん 足っていってもなあ。
後藤さん (山崎さんに)あなたの足ちょうだい!
山崎さん や~よ。
後藤さん けち。
山崎さん けちでけっこ~♪
後藤さん だいたいね。どうなの? 食べる? 普通。人魚ってさ。半分人間でしょ?
岡さん ん~。
後藤さん 食べちゃ駄目でしょ?
岡さん いや、食べるよ。
後藤さん え?
岡さん ボクは信念を持って食べるね!
後藤さん え?
岡さん いい? 釣った魚は食べる。これは釣り人として、当たり前の姿だ。最近のキャッチアンドリリースだの、スポーツフィッシングなんてえのもあるけど。魚は食べる。これ、当然だろ?
後藤さん いや、でも、魚っていっても、ほら。
岡さん だからさ、人の部分は食べてないでしょ?
後藤さん でも~。じゃあ、あんた代わりに足どっかで買ってきてよ。
岡さん 売ってないでしょ。足なんて。
山崎さん Tヤに行けばあるんじゃない?
岡さん ツタヤ?
後藤さん こらーーー!! 怒られるやろがい!!
岡さん あ、ごめんなさい。
山崎さん ひゃはははは。
岡さん ところで、君、誰?
山崎さん え?
岡さん え?
後藤さん というわけで、ここは、ティー屋です。

と、後藤さん、引っ込む。
と、同時に中田くんがだるそうに出てくる。

☆中田くん らしゃーーせーー。
岡さん おっっ!
☆中田くん らしゃーせっ。
後藤さん すいませ~ん。
☆中田くん はい、らしゃせっ。
後藤さん 足下さい。
☆中田くん はいっ。しょーしょー、お待ちくらさっ。
後藤さん あ、あるんだ。やっぱり。
☆中田くん えー、邦画でしょーか? 洋画でしょーか? あ、音楽でしょーか?
後藤さん え? 足って何になるの?
岡さん 違うんじゃないの? ここ、やっぱ。
後藤さん いやいやいや。
岡さん だって、ここ、ただのレンタルショップでしょ。
後藤さん いやいやいや。ここはただのショップじゃないって。
岡さん え?
後藤さん はい。どうぞ。
☆中田くん 当店は、お客様からいただいた、ありとあらゆる情報を元に、ありとあらゆるニーズにお答えするため、日夜、情報の収集にいそしんでおります。年代別、男女別、所得別はもとより、犯罪者、無国籍の方、果ては、人間かどうかも判別がびみょ~的な方にまで、ありとあらゆる情報を集め、それを本社にある、ウルテラコンピューターに集め、この社会の全てを見渡す目として、日夜社会に貢献しているのです。
後藤さん はい、では、ぶっちゃけ。
☆中田くん われわれはー、情報を総合し、情報の網から見えてくる社会の姿を提供しているのです。ある意味、神様じゃね~?
後藤さん だから、足がほしいといわれれば。
☆中田くん 足はー、2階、奥の棚にございます。中古セール中ですので、どうぞ、ごゆっくりごらんください。
後藤さん はい。
☆中田くん ありがとうございまったー。
岡さん はあ。わからないような、わかるような。
後藤さん つまり、この社会は全て、Tヤの手の中にってことです。
☆中田くん ちなみにー、明日は、雨でしょう。
岡さん はー、今のレンタルショップはすごいことになってんだなー。
後藤さん まあ、情報化社会ですから。
☆中田くん はい~。
岡さん あ、せやったら、一個きいてええ?
☆中田くん はい、らっしゃっせっつー。
岡さん この話のエンディングはどうなるの?
後藤さん あ、ちょっと!

後藤さんが現れる。

☆後藤さん 本日はご多用のところ、わざわざご来場いただき誠にありがとうございました。なお、この上演は、近々上演予定である「いつかくる」の予告公演となっております。何かと混乱に取り紛れの段悪しからずご容赦くださいますようお願い申し上げます。近年中に、本公演を謹んで、執り行いたいと思っておりますので、そちらも恐縮ではございますが、ご参加いただけますようお願い申しあげます。また、当劇団に対しましても今まで以上のご支援を賜りますようお願い申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。

ぺこりんと頭を下げて去る。

岡さん 何? 今の?
山崎さん エンディングじゃないの?
岡さん え? 今のが?
☆中田くん 370円になりましゅ。ブブッ!
岡さん え?
☆中田くん 370円っしゅ。ブブッ!
岡さん 今の?
山崎さん みたい。
岡さん んん。

と、渋々お金を払う。

岡さん じゃ、じゃあ、あるんか?
山崎さん なに?
岡さん ねえ、君、あるのかな? 答え?
☆中田くん はい、ございます~。
岡さん 教えてくれよ。答え。

中田くん、時計を見た。

☆中田くん なにぃ?
岡さん ん?
山崎さん あ~あ。
岡さん 教えろよ。
☆中田くん しらんわ。そんなん。
岡さん なんやあ! そん態度ぉ!
山崎さん バイト時間おわったんじゃない?
☆中田くん ちゅーす~。
岡さん おい、こら~。
☆中田くん なあ、一個言うてええ。
岡さん あ?
☆中田くん はよ、帰ってこいよ。おとん。
岡さん うげ。
山崎さん がちょ~~~ん。
☆中田くん おつかれした~。じゃ、次のシーン10いきま~~す。バイト終わりのボクが、さっそうと帰っているところです。

岡さん、山崎さん、去る。

10
後藤さんが、食パンを咥えて、てけてけやってくる。
バイト終わりの中田くんとぶつかる。

後藤さん いった~~い!
☆中田くん あ、ごめんなさい。
後藤さん あ、田中さん。こんにちは。
☆中田くん ああ、どもども。こんにちは。
後藤さん あ…。
☆中田くん ん?
後藤さん ども。
☆中田くん うん。どうも。
後藤さん あ……。
☆中田くん じゃ。
後藤さん あ、はい。じゃ……。
☆中田くん あ、ねえ。
後藤さん はい?
☆中田くん なぐっといてくれない?
後藤さん え?
☆中田くん いや、こう、ばちん!と。殴って。
後藤さん え? 私がですか?
☆中田くん そうそう。
後藤さん なんで?
☆中田くん いや……、そうなってるんで……。
後藤さん え? 意味が分からないんですけど。
☆中田くん 意味? 意味! 意味か!?
後藤さん はあ……。
☆中田くん 意味か……。必要か? いや……。確かに、意味は……。
後藤さん あの……。
☆中田くん いや、意味とはちゃうな。必要なんは、必然性や。
後藤さん あの……。大丈夫ですか?
☆中田くん 必然性。ここで殴られる必然性。いや? 求めてんのはボクやから、ボクん中に殴られる必然性が必要やっちゅうことやから、ちゅうことは、このシーンの前に、ボクは殴られたかったちゅうシーンを挿入する必要性が必要あったわけやからや。いや、そうとは限らんなあ、こん後で、謎解きみたいに倒置的に、ボクが殴られたかったんはこういうことがあったからみたいな、たとえば鈴木さんが、怒ってるとかってシーンを挿入すりゃええってことちゃうんかな。っていうことで、あと○分後に、そのシーンをやろか? いや、構成的には○分前か? 書き直しか!?

と、そこで、おもいっきり後藤さんに殴られる。

☆中田くん いたーーーー!!
後藤さん あ、すいません。
☆中田くん 結構本気やね。
後藤さん いや、なんか殴ったほうがよさそうな気がしたんで。
☆中田くん ああ、そう。
後藤さん あ、はい……。
☆中田くん ありがとう。
後藤さん あ、はい。
☆中田くん じゃ。
後藤さん あ、はい……?

中田くん、去る。
後藤さんも去る。

11
岡さん、山崎さんが、台本を見ながら、首をかしげながら、現れる。
ぺらぺらめくってみるが、続きがないのだ。

岡さん そっちは?
山崎さん 終わってる。
岡さん こっちも。
山崎さん これで終わり?
岡さん いやいやいや。

と、台本を見てみるが、

岡さん あっれ~~?

後藤さん、鈴木さんも現れる。

岡さん どう?

首をふる、二人。

岡さん で、どこいったの? 中田くん。
後藤さん さ~?
鈴木さん そこらへんにおったりして。
岡さん ここ~?

と、探し始める。
何気なくすっかりくつろいでる中田くん発見。

鈴木さん あ、いた。
☆中田くん ちょっ。なにするんすか!
岡さん いや、なにするんすか、じゃなくてよ。
山崎さん 台本、終わってるよ??
☆中田くん ああ……。
岡さん え? これで終わりなの?
☆中田くん いや……そんなわけないじゃないですか。
山崎さん え? どういうこと?
☆中田くん だから、ボクも探してるんすよ。
岡さん 何を?
☆中田くん いや、だから台本。
後藤さん あ、あるんだ。
☆中田くん いや、あるっていうか、昔書いた台本をね。
山崎さん ああ。
☆中田くん なんかないんですよね~。
岡さん 新しいのじゃだめなの?
☆中田くん いや……全然思いつかなくて……。
山崎さん でもね~、ここで終わりもないし。
後藤さん 困った……。
☆中田くん も~、書いて下さいよ。
後藤さん え~??
鈴木さん あのさ、もしかして、これのこと?

と、別の台本を出す。

☆中田くん え~、やっぱり持ってたし。
鈴木さん 別に隠してたんとちゃうで。
岡さん まあ、いいじゃないか。見つかったんだし。
山崎さん そうそう。私もちょうだいよ。
後藤さん あ、私も。

中田くん達、台本を受け取って読み始めた。
岡さん、山崎さん、後藤さん、後ろに行く。

12
☆中田くん シーン12、病室。その日は、珍しく涼やかな夜だった。いや、ボクの熱が、夜を越えていたのだろうか。部屋は静かで、ボクの息遣いだけが、ちいさく壁に反響する。窓はくらく、外には、高い木が一本見えている。その木は、ボクの吐く息にあわせるように、揺れている。

男のシルエットに、寝転がった女のシルエット。
男のシルエットの前に、中田くんはたつことになり、見ている側からは、中田くんの影のようである。
その間、鈴木さんは特になにをするわけでもなく、ぼうっとその様子を眺めている。

☆中田くん 病室に忍び込むと、プンと、悪臭がした、おそらくそれは人間がゆっくり腐っていく臭いなんだろう。

男のシルエットが、女のシルエットの首に手をかける。

岡さん あなたのせいで書けない。あなたの存在が、ボクを圧迫するんだ。

女のシルエットが動かなくなる。

☆中田くん 書いてない。書いてない。オレ、こんなシーン書いてない!

シルエットが消えた。

鈴木さん なんで嵐やないの。こういうのって、雷なるとこちゃうん。
☆中田くん テレビドラマの見すぎじゃない。
鈴木さん ねえ、書いた覚えあるの?
☆中田くん ん~~~~?
鈴木さん もう、あきらめて新しいの書いたら?
☆中田くん いや~~。
鈴木さん 現実をそのまま書くだけなんだから、簡単でしょ?
☆中田くん いや~~。それは……。
鈴木さん もう、情けないな。
☆中田くん 色々難しいんだって。
鈴木さん シーン13 過去。中田くん家。
☆中田くん おいおい、勝手に。
鈴木さん おばあちゃんの遺品を整理している中田くんのところに、後藤さんが演じる、中田くんの母がやってくる。

13
中田くん、再び部屋を探し始めた様子。
鈴木さん、それを眺めている。
後藤さんが現れる。

後藤さん すごい荷物やな。なんでもかんでもおいとく人やったから。
☆中田くん ん?
後藤さん さ、さっさとほるで、お父さんやったら、なんでもかんでも置いとくいうて片づけへん。
☆中田くん んん?
後藤さん ほれ、おばあちゃんの部屋片付けるの手伝ういうたやろ!?
☆中田くん ああ、せやったな。
後藤さん ほんますごい量やわ、これ。 さ~、これ、捨てる! 捨てる! 捨てる! 捨てる!
☆中田くん とりあえず、でっかいのは、ベランダにもってたらええ?
後藤さん 台所、ガラスとかあるさけ、きーつけよ。スリッパ履き。
☆中田くん んん。
後藤さん ちょっときてー。
☆中田くん んん?
後藤さん タンスの上の荷物おろして。
☆中田くん んん~。

中田くん、椅子を持ってきて、それに登って上の荷物を取る。

☆中田くん おお。これ。
後藤さん 何?
☆中田くん 出征兵士ちゃうん。これ、おじいちゃんやん。
後藤さん ほんまや。
☆中田くん 若いな。オレより、若いし。
後藤さん さ、ほろ。
☆中田くん ちょっ。これは……。
後藤さん ほろほろ。
☆中田くん これはもろとく。
後藤さん ……。
☆中田くん 写真はさすがにまずない。
後藤さん ……。
☆中田くん 鬼の敵みたいやな。捨て方が。
後藤さん ……。
☆中田くん 敵か。なんつって。
後藤さん ……。全部ゴミ袋にまとめ解いてな。明日、エネルギーセンターに持って行くさけ。
☆中田くん んん。

後藤さん、去る。
岡さんがやってくる。

岡さん おお、もう片付け始めとったんか。
☆中田くん んん。なんや、めちゃくちゃやで。お母さん
岡さん ほうか~。
☆中田くん ほれ、写真も全部捨てようとしててん。
岡さん ほうか。
☆中田くん これ、おじいちゃん?
岡さん おお。そやな。こんなんあったんか。
☆中田くん んん。棚の奥にあったで。
岡さん 懐かしな……。
☆中田くん まだどっさりことあんで。どっか置いとく?
岡さん ん~?

岡さん、他の写真を見ているようだ。

岡さん おっと、これはやばい。
☆中田くん なに?
岡さん これは、ちょっと隠しといてくれ。
☆中田くん なんよお。
岡さん 昔の彼女の写真やわ。
☆中田くん !

中田くん、写真をまじまじと見る。

岡さん 内緒やぞ。
☆中田くん ん。隠してくるわ。

中田くん、去る。

鈴木さん シーン14。遠い昔、若い祖母と、若い祖父がいる。

14
鈴木さん、真ん中に立つ。
岡さんが、横に並ぶ。

岡さん きみの名前は?
鈴木さん ありません。
岡さん 何故。
鈴木さん 失われたからです。
岡さん 失われた。
鈴木さん 私の最初の記憶。私は一人で絵本を読んでいました。私は、そこでふと気付く。自分が誰でもないことを。自分であるということを。そして、自分が誰にも相手をされていないことを。
岡さん 両親は、君に名前を与えたろう?
鈴木さん 私の名前は、捨てられた。私は捨てられ、拾われたが、私の名前は永遠に捨てられたままだ。
岡さん 何も違いはないだろう。戦争は僕たちからたくさん何かを奪っていたんだから。
鈴木さん そうね。
岡さん ボクは、眠ることを失った。左手の小指を失った。
鈴木さん 私は夢を見る、私の無くした名前は、まだどこかでじっと私を待っていて、私は探しにいかなくてはならない。なのに……。
岡さん 子供を二人作りましょう。男の子が生まれたら、二人の名前から一字づつとって名前を付けよう。女の子なら、うんとかわいい名前にしよう。
鈴木さん ええ、そうね。
岡さん いいだろう?
鈴木さん ええ、そうね。

鈴木さん シーン15、家族の風景。若い祖母、祖父、そして父と叔母がいる。

15
山崎さんが現れる。
食卓を囲むように座る、山崎さん、鈴木さん、岡さん。
食事のシーンを再現し始める。

岡さん あいつは?
山崎さん 彼女のとこでしょ?
岡さん そうか。
鈴木さん ほんとうに?
山崎さん もう、見え見えじゃない。
鈴木さん あんたはどうなの。
山崎さん え? 私~?
鈴木さん そう。
岡さん ……。
山崎さん そりゃまあねえ。
鈴木さん あら、いるの?
岡さん んん。
鈴木さん おかわり。
岡さん もう、寝る。
鈴木さん あら、そう?

岡さん、あくびをして、布を布団のようにかぶって足だけをだす。
二人、きゃきゃきゃと笑う。

鈴木さん あの子、今日、帰らないつもりかしら?
山崎さん さあ、かもね。
鈴木さん ほんとに、今度の人、大丈夫かしらね。
山崎さん 大丈夫って?
鈴木さん あの子、変な娘ばかりじゃない?
山崎さん ママは誰連れてきたって駄目じゃない。
鈴木さん そう?
山崎さん 嫌なところしかみないんだから。
鈴木さん そんなことないわよ。この前の、ほら、あのちょっとしもぶくれのした娘なんかよかったじゃない。
山崎さん よく言うわよ。さんざんあいつに、悪口いいたらして、結局ママのせいで、わかれたんじゃない?
鈴木さん そうなの?
山崎さん いや、わからないけどね。
鈴木さん ま、もう片づけましょうね。
山崎さん はいはい。

山崎さん、片づけをするフリをして、去る。
鈴木さん、あくびをして、布を布団のようにかぶって足だけをだす。

間。

中田くんが、現れる。

☆中田くん 疲れた。
鈴木さん そ……。

二人分の足が上、下に、それぞれ布下からひょこっと現れている。

☆中田くん お父さん? お母さん?

間。

☆中田くん なんや、寝てるんか……。

と、中田くんも、たれている布を布団のようにかぶって頭をだして、眠りだす。
ヘリコプターの音が聞こえる。街の音が重なり、遠くなり……。
ずりずりと足が引っ込んでいく。

鈴木さん シーン16、新しい家族の風景。新婚当初の祖母と、母。

16
後藤さんが現れ、えづきはじめる。

鈴木さん あの子、今日は残業?
後藤さん あ、オカアさん。
鈴木さん 冷蔵庫みたけど、ないじゃない。麺類。
後藤さん え?
鈴木さん あの子、仕事終わりは麺類なの。
後藤さん あ、はい。すいません。
鈴木さん どうしたの? 体調悪いの?
後藤さん ちょっと、つわりが……。
鈴木さん そう。とにかく、麺類買ってきてちょうだい。
後藤さん 今……、ですか……?
鈴木さん 私、わからないもの。この辺り。
後藤さん ……はい。分かりました。
鈴木さん ああ、それと、サイダーがあったら買ってきてちょうだい。
後藤さん はい……。

後藤さん、去る。

☆中田くん 今の、腹の中、って、オレ?
鈴木さん あ、そうなの?
☆中田くん やべー。おれ、ころされかけてるっぽくない?
鈴木さん 妊娠してるからって、家でじっとしてたら駄目なのよ。
☆中田くん はは。でも、恨まれた。
鈴木さん ……。

鈴木さん シーン17、残された風景。記憶に新しい祖母一人。

17
鈴木さんが、一人で座っている。
しばらくして、中田くんがのっそり、起きあがり、その様子を眺めている。

☆中田くん おばあちゃんの思い出いうても。
鈴木さん (ボレロのメロディー)
☆中田くん 部屋でずっと、座ってるとこしか、覚えてないわ。
鈴木さん (ボレロのメロディー)
☆中田くん じっと、部屋でおるだけやし。
鈴木さん (ボレロのメロディー)
☆中田くん まだオカンはだいぶ恨んでるみたいやな。はは、家があの、どろどろ嫁姑ドラマみたいなんて、だいぶ気付かんかったわ。
鈴木さん (ボレロのメロディー)
☆中田くん なんや、うそくさ過ぎて逆に、生っぽいねん。
鈴木さん (ボレロのメロディー)
☆中田くん 全部、もー、灰ですわ。

沈黙。

鈴木さん つうかさ、なんで私におばあちゃん役?
中田さん え?
鈴木さん つうか、全部嘘やん。
☆中田くん …。
鈴木さん この、うそつき~。
☆中田くん 物語ってやあ、嘘かとか本当かとかな、そういう問題ちゃうわ。
鈴木さん フィクションは、フィクションでしょが。
☆中田くん ノンフィクションかて、編集されたフィクションなわけやし。真実ってな、それは個人的解釈に基づく、可能性の段階を出ない、一種のフィクションのひとつやし。
鈴木さん 結局さ、この物語もひとつの可能性ってわけ?
☆中田くん わからへん。可能性におびえたフィクションですらない代物。
鈴木さん 下手な人間のついた嘘みたい。
☆中田くん どういうこと。
鈴木さん 支離滅裂。脈絡がなくて、つじつまがあってない。

どんどんと、中田くんを追いつめていく。

鈴木さん ようはさあ、私に物語のいいわけさせよってことでしょ~? この現実逃避ばっかの物語の~。で、私にこんなこといわせてさ、まるで、そこは分かってるんですけどって。これ、一人SMっていうか、もうオナニーじゃん。私使って、オナニーするなよって言う感じ? ってかさあ、これじゃあ、なんか私損してるだけやんかあ。正直どうでもええんよ。そこらへん。ようはボクは向かい合えないんですってことでしょ?
☆中田くん おばあさん、ボクは、あなたが大嫌いでした。ボクは恐怖しているのです、あなたの、葬式でボクは泣くのかどうか。いや、悲しいという気持ちを抱けるのかどうかという事が。
鈴木さん またセリフに逃げ込んで。
☆中田くん 家族という強制がかかった他人なんだよ!
鈴木さん さあ、私の次のせりふを頂戴よ。
☆中田くん ……。
鈴木さん 可能性のひとつ。あなたの答え。
☆中田くん 答えとか、ないし。
鈴木さん ない答えを求めつづけるのがあなたの仕事?
☆中田くん 違う。考えられないことは、考えないこと。
鈴木さん それがあなたの答え!?
☆中田くん ……。おばあさん、ばあさん、ばあちゃん。まず、ぼくは、あなたのことをなんて呼んですらいいかわからない!
鈴木さん あなたは向き合えない。なんで?
☆中田くん あなたは家族の不和の原因。
鈴木さん ほんとに?
☆中田くん ボクがそう思い込んだ。思い込みたかった。思い込まされてた。
鈴木さん 結局?
中田くん やめてくれ! 俺はこんな台本書きたくない!。

中田くん、台本を破った。
鈴木さん、急に、動きを辞めて、止まる。

しばし空白。

後藤さんが現れる。

山崎さん 本日はお忙しい中、お越し下さいありがとうございます! 故人も草葉の陰で喜んでいると思います。

山崎さんが、鈴を鳴らす。
鈴木さんが、ゆっくりと、台本を遺影のように持って、歩き出す。
岡さん、後藤さんが現れ、鈴木さんの後をついて歩く。
ゆっくりと、ゆっくりと歩くその列。、みな、一様に笑顔である。
一人、それを眺めている中田くん、持っていた台本をびりびりに引きちぎり始める。
鈴木さんを先頭にしたその列は、ゆっくりと去っていく。最後に後藤さんも、その列について、去る。
一人残される中田くん、台本をちぎって、紙吹雪のようにばらまく。
中田くんの演技が終わり、しばらくして、鈴木さんの声だけがする。

鈴木さん で、ここで終わり?
山崎さん 続き、どうしよって事?
鈴木さん ねえ。これは自分で書かないと駄目じゃないの?
岡さん とりあえず、書いてみれば?
中田くん ……。
鈴木さん 聞いてる!?
中田くん かけるかあ~!! こんなん。もぅ~、いいっすよぉ~。
鈴木さん 逃げるの!?

中田くん、ごろごろと、転がって去る。
入れ替わりに、中田くん以外の4人がぞろぞろと現れる。

岡さん お~い。どうすんのさ~、続き~。
山崎さん こら~。
鈴木さん ふざけんなよ~!!
後藤さん 最低!

等と、中田くんに非難囂々。

中田くん ちょっと待ってくださ~い。

中田くんがごろりと現れ、寝転がったったまま、一枚の紙にさらさらと文字を書いていく。
岡さんが、受け取り。

☆岡さん あ、おれ、もうねえの。お疲れ。
☆後藤さん おつかれさまでした~ 。
☆山崎さん おつかれさま~。

紙を回し読みした三人、退場。
岡さんから、帰り際に、紙を受け取る鈴木さん。
中田くんが、のっそりと立ち上がる。

☆鈴木さん これ?
☆中田くん うん。
☆鈴木さん 鈴木さんが残る。他の人間は去る。私が「これ?」君が「うん」
中田くん のほほ。
鈴木さん どうするん? エンディング。
中田くん どないしょ。
鈴木さん どうしよって言われても。
中田くん つうかなあ。まだ生きてるし。ばあちゃん。
鈴木さん あ、そう。
中田くん どないしょ。ほんまに死んだらや。
鈴木さん 分からんよ。そんなん、ほんまに死んだらとか、そんなん。
中田くん めっちゃもめるやろな~。やっぱ。宗教でもめるとかやばくね?
鈴木さん 人魚はでてけえへんと思うで。つうか、食ったらあかん。
中田くん なあ、自分やったら、なんていう。あのシーン。
鈴木さん どのシーン。
中田くん 最後。私のせりふをちょうだいのところ。
鈴木さん しらんよ。私、あんたのおばあちゃんちゃうし。
中田くん ……。
鈴木さん まだ生きてるねんやろ。本人に聞いたら?
中田くん 聞けるかよ。
鈴木さん なんでこんなもん書いたん?
中田くん 自虐ネタ。最近はやりやん?
鈴木さん 親と自虐って。二つあわせて、おやじぎゃぐ?
中田くん はは。親と、オナニーと、ギャグで、「オヤジイギャグ」。ええなあ。それ、タイトルにしよか。
鈴木さん あほちゃう?
中田くん も~、こーするわ。

後藤さんが現れ、新しい台本を読む。

☆後藤さん どうもどうも、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~~ン。神様ですけど、呼んだ?
☆中田くん はい。よろしくお願いします。
☆後藤さん オッケ~。はい、今、ハルマゲドンです~。人類終わり~。ケタケタケタ。

鈴木さん センスね~。
中田くん ハハハ! ごみんに。

鈴木さん、中田くん、いつものごとく、帰る。
後藤さん、台本通りにこう言う。

☆後藤さん 本日はご多用のところ、わざわざご来場いただき誠にありがとうございました。なお、この上演は、近々上演予定である「いつかくる」の予告公演となっております。何かと混乱に取り紛れの段悪しからずご容赦くださいますようお願い申し上げます。近年中に、本公演を謹んで、執り行いたいと思っておりますので、そちらも恐縮ではございますが、ご参加いただけますようお願い申しあげます。また、当劇団に対しましても今まで以上のご支援を賜りますようお願い申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。

ぺこりんと頭を下げて去る。

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使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている


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