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【長編戯曲】服を決められない乙女とオシャレ女王

服を決められない乙女とオシャレ女王


作 松永 恭昭謀

登場人物
 ユリナ/女の子 女
 アオイ 女
 ハルキ/カカシ 男
 女王/魔女/ブリキ /清掃員 女
 詐欺師/謎の男/ライオン/家来 女
 
舞台について
 舞台は高さが違う2面が重なり合っている。
 高い方を舞台A、低い方を舞台B。舞台Aの下には人一人ほど入れるほどの隙間があり、そこを舞台Cとする。
 舞台A・Bともに、床が見えないほどに服が散乱している。
 舞台Bには、マジックミラーが必要である。

  
  
舞台Cに、スーツを着た謎の男のシルエット。

謎の男 皆様。初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。本日はご来場頂き誠にありがとうございます。まもなく開演の時間ですが、皆様にお願いがございます。【上演の諸注意を述べる】さて、皆様は夢をご覧になられるでしょうか。いい夢、悪い夢、変な夢。布団の中で観る夢には様々ですが、残念ながら他人が観る事は叶いません。しかし、他人が見る事が出来る夢がございます。それこそが芝居、誰もが観る事が出来る夢なのでございます。その場所、その時、その時間に、役者であり、音楽、明かり、最近は映像がアンサンブルを奏で、そこに夢の世界が現れる。そうして作られた夢を、皆様が見ているのでございます。さて、本日もとっておきの夢をまもなく皆様にお届けいたしましょう。ほどなく、夢の国の住人が、なにかを申し始める事でしょう。さあ俗世を忘れてお楽しみ下さいませ。ではのちほど。

舞台C、暗転。


舞台A、アオイがいた。

アオイ ユリナ。ユリナ。
ユリナ アオイちゃん?
アオイ どこ。
ユリナ ってててて。手踏んでる。
アオイ あ、ごめん。
ユリナ うん。
アオイ どこ。
ユリナ ちょっとまってね。
アオイ うん。

ユリナが服の間から現れる。

アオイ そこにいたんだ。
ユリナ アオイちゃんだ。
アオイ なにしてたの。
ユリナ めっちゃ寝てた。
アオイ 寝てた?
ユリナ すっごい寝てた。
アオイ 寝てたんだ。
ユリナ 夢見てた。
アオイ 夢?
ユリナ うん。
アオイ なんか変な事言ってたよ。
ユリナ 私が?
アオイ 女王よって。
ユリナ 女王。
アオイ そう。お命じ下さいって。
ユリナ なんかカッコイイね。
アオイ ユリナが言ったんだよ。
ユリナ そっか、
アオイ 寝ぼけてるの。
ユリナ ごめんなさい。
アオイ なんなのこの部屋、服だらけ。
ユリナ 服がね、決まらないの。
アオイ 服?
ユリナ 明日なんか来なければいいのに。
アオイ 明日って、卒業旅行の事?
ユリナ うん。
アオイ 行きたくないの? ランド。夢の国だよ?
ユリナ すっごい行きたい。
アオイ じゃあ、何。
ユリナ 服が決まらない。
アオイ 服?
ユリナ 分からないの。
アオイ 分からない?
ユリナ ハルキくんに嫌われちゃう。
アオイ なんなの、全然分からない。
ユリナ どの服を着たらいいのか分からない。
アオイ 明日着ていく服?
ユリナ うん。
アオイ それでこんな事になってるの。
ユリナ どうしよう。
アオイ で、部屋中服まみれなんだ。
ユリナ このままじゃ夢の国で裸すっぽんぽん。悪夢よ。
アオイ 悪夢どころかリアルに捕まるよ。
ユリナ 夢の国で裸で捕まるなんて、私死んじゃう。
アオイ 死んじゃダメ。ユリナが死んだら、私も死んじゃう。
ユリナ ダメ、アオイは死んじゃダメ。
アオイ じゃあ死なない?
ユリナ うん、死なない。
アオイ よかった。
ユリナ ごめんね。
アオイ ユリナはね、そのままでもカワイイんだから、服なんて普通でいいんだよ。
ユリナ 普通の服って?
アオイ 普通って普通。
ユリナ 分からない。普通の服って分からない。普通ってなに。
アオイ 普通って。何だろう。
ユリナ ……。
アオイ ごめん、分からない。
ユリナ そんな、じゃあどうしていいか分からない。
アオイ でもさ、ほらほらお気に入りの服とかあるでしょ。
ユリナ お気に入り。
アオイ その中で、
ユリナ (服の山を眺める)
アオイ 一番よく着る服。
ユリナ 一番よく着る服。
アオイ どれ、
ユリナ ……。
アオイ 分かった、じゃあ一個づつ決めていこう。
ユリナ 一個づつ。
アオイ 色は、色。どの色が一番好き?
ユリナ 色。
アオイ そう、色なら決められるでしょ。赤、青、黒、白、
ユリナ えっと、分からない。
アオイ はぁ。
ユリナ ごめん分かんないの。どの色も一緒だと思っちゃう。
アオイ でも色々あるでしょ。赤は、何思った?
ユリナ 赤いなぁ。
アオイ じゃあ、青。
ユリナ 青いなぁ。
アオイ 白、
ユリナ 白いなぁ。
アオイ 黒、
ユリナ 黒いなぁ。
アオイ 真面目にやってよ。
ユリナ 真面目だよ。
アオイ いつもどうしてんのよ。服着てるでしょ。
ユリナ そりゃそうでしょ。裸で外出たら捕まるよ。
アオイ じゃあどうしてるの。
ユリナ その日の気分。
アオイ それでいいじゃない。明日の気分は、
ユリナ ……。
アオイ ごめん、聞いた私が悪かった。
ユリナ ごめんね。
アオイ あ、イイ事思いついた。
ユリナ なになに、
アオイ 私天才だわ。
ユリナ もうアオイ大好き。付き合って。
アオイ それはムリ。
ユリナ ムリだった。
アオイ こういう時こそ占いよ。
ユリナ 占いか。
アオイ なに、
ユリナ 占いはあんまり。
アオイ どうでもいいの、ユリナが好きかどうかとか。こういう時はね、乙女は占いに一喜一憂するもの。
ユリナ さすが、乙女。
アオイ ちょっとまってよ。(スマートフォンを取り出す)。確かユリナの誕生日はっと。(スマートフォンを操作する)
ユリナ 出た出た?
アオイ もうちょっと待って。
ユリナ どう、どう?
アオイ もうなによ。占いとかどうでもいいんでしょ。
ユリナ そうだけど。
アオイ あ、

間。

ユリナ どう?
アオイ どうしようね、明日の服。
ユリナ え、
アオイ やっぱり季節感とか、流行も重要だよね。
ユリナ え、え、
アオイ ユリナのフェミニンな感じも出さないとだし、結構難しいよねぇ。
ユリナ 結果は? ねえ見せてよ。(携帯を奪おうとする)
アオイ 見るんじゃない。
ユリナ え、
アオイ 占いなんてね、あんなものはインチキ宗教とおんなじよ。人間は強くないといけないの。自分の硬い意思を持って、最高の服を見つけよう。ね、
ユリナ 怖い。
アオイ 逃げちゃダメ。
ユリナ ねえお願い、アオイ選んで。
アオイ 私?
ユリナ だっていつか自分のファッションブランドを立ち上げるのが夢だって。
アオイ やめて、その話は。
ユリナ ファッション業界の女王になるんでしょ?
アオイ 現実は、アパレルメーカー全落ち就職浪人なのよ。現実コワイ。
ユリナ アオイといえばオシャレ、オシャレといえばアオイでしょ。
アオイ ああ、早く夢の国へ現実逃避したい。
ユリナ お願い。オシャレ女王様。私じゃもう決められないの。もう二日間寝てないの。
アオイ さっき寝てたでしょ。
ユリナ ああ、私、このままじゃ死んじゃうかも。
アオイ ダメだから、死んだら。
ユリナ ごめん。もう私、限界。
アオイ 分かった。私が選ぶから、ね、安心して。一番ユリナに似合う服を選んであげる。
ユリナ 本当?
アオイ 明日、夢の国の女王はあなた、ユリナよ。
ユリナ アオイちゃん大好き。結婚して。
アオイ イヤ。
ユリナ イヤですか。
アオイ ふざけないで。
ユリナ ああ、なんだか安心したら眠くなってきちゃった。
アオイ そっか、ちょっと寝たら?
ユリナ そんな、選んでもらってるのに寝るなんて出来ない。
アオイ そう。
ユリナ おやすみなさい。

ユリナ、服の中に潜り込む。

アオイ すぐ寝た。もう、かわいいなぁ。寝顔みちゃうぞ。

アオイも、服の中に潜り込み去る。


舞台Bに女王。

女王 仕立て屋よ。おい、仕立て屋よ。女王が参ったぞ。なんだこの部屋は。おい、仕立て屋よ、おらぬのか。余自らが訪問したのであるぞ。出迎えよ。

舞台Bに、ユリナ登場。

ユリナ アオイちゃん。
女王 む、
ユリナ その服はダサすぎてヤバイよ。
女王 何だ。
ユリナ 今流行りのもこもこファーな感じを取り入れようよ。
女王 どうしたのだ。
ユリナ アオイちゃんに似合わないか。
女王 似合わない。
ユリナ でもチャレンジする事は大事だよ。
女王 おい、
ユリナ アオイちゃん、もうちょっと。
女王 アオイとはなんだ。
ユリナ え、
女王 目を覚まさぬか。失礼であるぞ。
ユリナ 誰。
女王 誰とはなんだ。余はこの国を統べる女王であるぞ。
ユリナ 女王様。
女王 またか。よいか、よく聞け。第24代王位継承者、エリザベス・クリスチャン・コロンブス12世とは余の事である。
ユリナ 女王様だ。
女王 あがめよ。
ユリナ ははぁ。
女王 よいぞ。
ユリナ めっちゃ寝てた。
女王 寝てた?
ユリナ すっごい寝てた。
女王 寝ておったのか。
ユリナ 夢見てた。
女王 夢だと。
ユリナ うん。
女王 喋っておったぞ。
ユリナ 私が。
女王 アオイちゃんと。
ユリナ アオイちゃん?
女王 そうだ。もこもこファーと。
ユリナ もこもこファーってかわいい響き。
女王 おぬしが申したんであろう。
ユリナ そっか、
女王 しゃんとせい、
ユリナ ごめんなさい。
女王 さあ余の服は出来たのか。
ユリナ 服ですか。
女王 そうだ、おぬしはこの世で一番高雅(こうが)たる女王である余の所へ来てこうのたまった。女王様はオシャレではありませんと。
ユリナ 私がですか。
女王 なんだ、寝ぼけておるのか。余はこの世で一番威厳ある女王として、それにふさわしき衣服を纏わなければならぬと努力して参った。そのために、この世のありとあらゆる典雅(てんが)な服を集めてまいった。しかし、おぬしが申した一言に、余はハッとした。余が服に着られているという言葉にだ。
ユリナ 言ったかなぁ。
女王 余はそれに感服したのだ。服が余に合わせるべきなのであると。さすが、この国一の仕立て屋であると感服したのだ。服とは着る者の品性、人格を映す鏡。女王様は女王様にふさわしい、オシャレな服を仕立てるべきなのですと。そう申したではないか。
ユリナ 言ってた。
女王 おぬしは、余に「世界一の仕立て屋である私が女王様に似合うオシャレな服を仕立ててご覧にあげましょう」そう申した。余は、おぬしに、田畑1イエーカーにも匹敵する大金を渡したであろうが。
ユリナ そっか、渡されてた。
女王 しかしすごい量の服であるな。さすが世界一の仕立て屋である。見た事もない服が沢山ではないか。これは期待できそうであるな。
ユリナ そうでもないですよ。こんなのはまだまだ。
女王 ときに、余の典麗(てんれい)たる服はどこだ。
ユリナ まだできてません。
女王 なんだと。
ユリナ 眠くて眠くて、
女王 眠いだと。
ユリナ 途中で起こすし。
女王 余のせいだと申すのか。
ユリナ 女王様。私はオシャレな服を作る時、よく眠る事にしているのです。
女王 眠ってはオシャレな服を作る事はできまい。
ユリナ いいえ、女王様。オシャレな服を作るという作業は、ただ布を切ってつなぎ合わせるだけではないのです。
女王 なんだと。それ以外に何をする事があるというのだ。
ユリナ いいえ、女王様。オシャレな服を作るという事は、その多くの時間を、デザインに費やすのです。つまり、考えるという事です。
女王 なるほど、
ユリナ 考える時間こそがオシャレな服を作るという事なのです。
女王 おぬしの申す事も一理ある。
ユリナ どれほど素晴らしい技術があろうとも、どれほど素晴らしい布があろうとも、この考える事を疎かにしていては、ただの無駄になるというものです。
女王 その通りであるな。
ユリナ そこで、私は考える時、沢山寝る事にしているのです。
女王 なぜだ。寝てしまっては考える事はできまい。
ユリナ いいえ女王様。人間は起きている時よりも、寝ている時の方が考える事が出来るのです。人間は夢を見ます。なぜ夢を見るかご存知ですか。
女王 知っておるわ。あれだ、浅い睡眠中に、脳がこれまでの経験を元に見せる幻だ。
ユリナ いいえ、女王様。違います。
女王 なんだと、
ユリナ 夢は人間の理想、願望、欲望を反映した理想郷でございます。人は眠っている間、魂を抜け出し、神の国へと旅へ出るのでございます。そこはもちろん神の国でございますので、人々の想像もつかない素晴らしき理想郷でございます。そして、そこに暮らす人々は、神の国に相応しきオシャレな服を着ているのでございます。女王様、貴方様には、まさにこの神の国のオシャレな服こそふさわしい。私はそこへ旅する事により、オシャレな服の着想を得る事としているのです。
女王 なんと素晴らしい事であろうか。余は感動しておる。ぬしこそ、この国一の仕立て屋であろう。
ユリナ ありがとうございます。
女王 では、そちは余のために、眠っておったという事であるな。
ユリナ そうでございます。女王様。
女王 なんと忠実な我が、下僕(しもべ)。
ユリナ 私は、この国で一番の仕立て屋であると自負しております。
女王 さぁ、どんどんと眠るがよい。そして、至極の服を、早くこの目に、手に、触れさせてくれ。
ユリナ 分かりました女王様。もう眠りすぎて頭が痛くなっておりますが、この忠実な下僕たる仕立て屋は、眠り続けてみせましょう。
女王 さあ、眠れ。どんどん眠れ。
ユリナ おやすみなさいませ。
女王 夜の帳よ、この忠実な臣民に深き眠りを与えたまえ。快い眠りこそは自然が人間に与えてくれるやさしい、なつかしい看護婦だ。神は現世における色々な心配事のつぐないとして、われわれに希望と睡眠とを与え給えた。さあ、忠実な臣民よ、心置きなく神の国を覗く旅へ出よ。
ユリナ 少し、静かにして頂けますか。
女王 すいません。
ユリナ では女王様、おやすみなさい。
女王 はい。

ユリナ、服の中に潜り込む。
女王、去る。


舞台Aにハルキ。

ハルキ ユリナさん、ユリナさん。
ユリナ 女王様、まだでございます。
ハルキ え、女王様?
ユリナ 仕立てとは、総合芸術なのでございます。
ハルキ ユリナさん?
ユリナ ああ、眠るのに忙しいのです。
ハルキ 寝てるの?
ユリナ ……。
ハルキ ユリナさん、どこ。
ユリナ え、

ユリナ、服から顔を覗かせる。

ユリナ え、
ハルキ いた。
ユリナ なんで、なんで。
ハルキ ごめん、寝てた?
ユリナ う、うん。
ハルキ 出直してこようか。
ユリナ え、なんでハルキくんがいるの?
ハルキ なんで?なんでって呼ばれたから。
ユリナ 呼ばれた?

アオイが服の間から顔を出す。

アオイ 私が呼んだの。
ハルキ そこにいたんだ。
アオイ やっぱり、服は男に選んでもらった方がいいんじゃないかという結論に達しました。
ハルキ ボクが、ユリナさんの服を選ぶの?
アオイ そうです。
ユリナ ちょっと、アオイ。
アオイ では若い者同士、後はよろしく。
ユリナ ええっ。

アオイ、服の間に消える。

ハルキ 正直、困ってます。
ユリナ なんかごめんなさい。
ハルキ それにしてもすごい量ですね、服。
ユリナ 服が決まらなくて。
ハルキ 明日の?
ユリナ そうなの。
ハルキ 女子は大変ですね。
ユリナ ま、まあ。
ハルキ ボクに聞かれても困ります。正直、ファッションに興味がありません。
ユリナ 正直だね。
ハルキ なんでそんなに困ってるんでしょう?
ユリナ だって、どんな服を着たらいいのか分からなくなっちゃって。
ハルキ そうなんだ。
ユリナ そんな事ない?
ハルキ 自分はあまり。
ユリナ へぇ、そうなんだ。
ハルキ 正直、ファッションにかけるお金があれば、ボクはそれを勉強にかけたいとおもいます。
ユリナ 素敵。
ハルキ そんな事はないです。やはり、ボクは正直、服でモテるのってなんか違うかなって思います。
ユリナ そうなの?
ハルキ 正直、服なんてお金を出せば買えますが、それがその人がどんな人だという証拠にはならないと考えています。
ユリナ でも、そこにそのヒトの個性って出るんじゃないかな。
ハルキ なるほど。正直、それならもっとやる事あるんじゃないかと思います。それこそ、部活とか勉強でもいいんですが、ボクたちはまだ学生でしょう?
ユリナ そうだった。学生だった。
ハルキ 学生にはやるべき事って沢山ある。正直、ボクは変でしょうか?
ユリナ ううん。素敵。
ハルキ ありがとう。服のために、アルバイトをして、勉強とかさ、色々やるべき事を疎かにして、得た個性なんて正直、キレイじゃないと思います。
ユリナ うんうん。
ハルキ だから、ボクは明日、制服で行こうと思っています。
ユリナ ええっ。
ハルキ 学生だっていうのが、ボクの個性だと思うんです。
ユリナ そうなんだ。
ハルキ 服って個性だというのなら、なんらかの主張ではないですか。
ユリナ じゃ、じゃあ私も制服にしようかな。
ハルキ それでいいんですか?
ユリナ え、
ハルキ だってこれはボクの主張ですが、ユリナさんはユリナさんの主張があるんじゃないでしょうか。だからこうやって悩んでるんではないですか?
ユリナ そうだけど。
ハルキ 正直、ボクはそういう人、軽蔑するな。
ユリナ それは困る。
ハルキ 正直、自分はこう思うんですっていう主張がないと。
ユリナ ハルキくん、思想が濃いね。
ハルキ 正直、ボクはゆくゆくは偉人になりたいんです。
ユリナ イジン?
ハルキ 偉い人。政治家とか、ベンチャー企業の社長でもいいんですが。彼等は、服装もやっぱり一流だなと思うんです。自分って物が分かってる。
ユリナ そうなんだ。
ハルキ 正直、やっぱり男に生まれたからには、一国一城のあるじにならないと。
ユリナ 女王様。
ハルキ 女王様? 王様でしょう。っていうか、お城なら殿様か。
ユリナ ハルキくんなら、いいお殿様になりそう。
ハルキ 正直、そういう事を言いたいんじゃなかったんですけども。
ユリナ ごめんね、私おバカなの。
ハルキ 自分で自分の事をそんなに言っちゃダメですよ。
ユリナ ごめんなさい。
ハルキ まず正直に自分を認める事。それから始めるべきではないでしょうか?
ユリナ すごい、偉い人みたい。
ハルキ 正直、たくさん偉い人の本を読んでますから。
ユリナ すごいね。
ハルキ 正直、服を決めるのだって同じでしょう。まず服を決める前に、自分がどういう人間なのかというのを、考えなくちゃいけないんじゃないかと思うんです。
ユリナ 私はどういう人間か。
ハルキ 正直、それがないとダメです。服なんてただの飾り。中身が空っぽじゃダメ。
ユリナ そっか。私はなにか。
ハルキ ユリナさんは、どういう人間か。
ユリナ 私ってどういう人間なんだろう。
ハルキ 正直に、
ユリナ 分かんない。
ハルキ 分かんない?
ユリナ 私は私が分からない。
ハルキ 自分の事なのに?
ユリナ ああ、私ってどういう人間なんだろう。どうしよう。私は空っぽな人間なんだろうか。
ハルキ そ、そんな事ないと思うよ。正直、誰だって色々考えて生きてるんだから。空っぽの人間なんて存在しない。ユリナさんはユリナさんのいい所があると思います。
ユリナ 私のいい所、なんだろう。
ハルキ それはボクに聞かれても正直困る。
ユリナ ごめんなさい。
ハルキ そんなに話した事ないのに。
ユリナ そうだね、うんうん。こんなに話したの初めてだね。
ハルキ 正直、アオイさんに聞いた方がいいんじゃないかな。
ユリナ だよね。
ハルキ どこいったんだろう。明日、ボクが学生服で行くっていうのを報告しないといけないのに。
ユリナ そうなの?
ハルキ ええ、勝手に学生服を着ていく訳にはいきませんから。
ユリナ どういう事?
ハルキ ボクの服はアオイさんが全部決めてるんです。
ユリナ そうなんだ。仲いいんだね。
ハルキ ええ、しかたがありません。
ユリナ え、二人は付き合ってるの。
ハルキ 付き合ってる? よく分かりませんが、いつも一緒にいます。
ユリナ あ、そうなんだ。
ハルキ それがどうかしましたか?
ユリナ ううん、アオイちゃん、カワイイもんね。
ハルキ ええ、ボクはアオイさんが大好きです。きっとアオイさんなら、ユリナさんにぴったりな服を選んでくれますよ
ユリナ そうだね、ありがとうわざわざ。
ハルキ いや、お力になれず申し訳ありません。
ユリナ ううん。充分です。
ハルキ ではボクはアオイさんを探してきます。
ユリナ ありがとう。

ハルキ、服の中に去る。

ユリナ ああ、なんて事だろう。もういやだいやだ。全部いやだ。明日夢の国なんて行きたいけど行きたくない。もう服なんかどうでもいい。ファッションのない国へ行ってしまいたい。服なんかどうでもいい国へいってしまいたい。ああ、眠たい。もう現実なんかどうでもいい。ああ、眠りたい。ずっとずっと眠りたい。

ユリナ、大きなあくびをして、服の中にもぐりこむ。


舞台Bに詐欺師、登場。

詐欺師 おい、おい。どこだどこだ、私だ、私。どこにいるんだ。
ユリナ 誰、
詐欺師 おい、なに言ってやがんだ。どこにいるんだ。忙しいのに。
ユリナ もうウルサイなぁ。眠れない。
詐欺師 なに言ってんだ寝てる場合か。上手くいってるのか。
ユリナ 私頑張ってるの。
詐欺師 そうか、ガンバッているのか。いい事だ。
ユリナ ええ、頑張って眠っているの。
詐欺師 訳が分からない。顔出せよ、おい。
ユリナ 眠らないと服が出来ないじゃない。
詐欺師 ふざけるな、裏切るつもりじゃないだろうな。
ユリナ もうウルサイなぁ、一人にしてよ。

舞台Bにユリナ、登場。

詐欺師 何だお前、泣いてるのか。
ユリナ 誰でしたっけ。
詐欺師 お前の相棒だろうが。
ユリナ 相棒さん。
詐欺師 おい、忘れたのか。あのオサレ狂いの女王に取り入って、大金ふんだくってやろうっていう話だろうがよ。
ユリナ ああ、そうでした。
詐欺師 なんだ、寝ぼけてるのか。
ユリナ 私、寝ぼけてるのかしら。
詐欺師 おい、バカにしてるのか。
ユリナ してません。
詐欺師 じゃ、いいけど。
ユリナ やさしい。
詐欺師 やさしくない。
ユリナ そうなの、
詐欺師 私は詐欺師だ。とっても悪い悪人だ。自分では手を下さず、案だけを練って、実行は別のやつにさせる。知能犯だ。悪いやつは良く眠るのだ。
ユリナ 私もよく眠るわ。
詐欺師 しかしお前は単なる実行犯だ。演技力を買って、私が雇ったタダの実行犯だ。よく眠っては困る。お前はバレないかどうかドキドキしながら日々を暮らさなければならないのだ。
ユリナ そうでした。ドキドキする。
詐欺師 そうだ、それでいいんだ。今、どんな状況なのだ。それを聞きに来たんだ。さあ、聞かせろ。
ユリナ 今はね、服のデザインを考えてるの。
詐欺師 なるほどなるほど。
ユリナ でも思いつかないの。
詐欺師 なるほどなるほど。
ユリナ オシャレな服ってよく分からないの。
詐欺師 分からないのか。
ユリナ そうなの、私おバカなの。
詐欺師 そうだ、お前はおバカかでキュートなのだ。
ユリナ ありがとう。
詐欺師 それでこそ、女王に取り入る事ができるのだ、誇りに思え。
ユリナ 詐欺師さんも、賢そうで、素敵。
詐欺師 そうだ、私は賢くて素敵なのだ。
ユリナ うふふ。
詐欺師 わはは。
ユリナ うふふふ。
詐欺師 わはははは。
ユリナ 笑ってる場合じゃないわ。このままオシャレな服が出来ないと、私、女王様に怒られちゃう。
詐欺師 わはは、怒られるどころか、首をハネられてしまうだろうな。
ユリナ やだやだ。首をハネられたくない。
詐欺師 それどころか、ハリツケにされて、火あぶりにされるかもしれない。
ユリナ やだやだ。熱くて死んじゃう。
詐欺師 そうだ、死んじゃうのだ。
ユリナ やだ、死にたくない。ドキドキしてきたわ。これじゃあ、眠れなくなっちゃう。
詐欺師 そうだ、お前はバレないかどうかドキドキしながら日々を暮らさなければならないのだ。
ユリナ 助けて、どうしたらオシャレな服を作れるの。
詐欺師 そんなものは作れない。
ユリナ 作れない? じゃ、じゃあ買ってくるのね。そうでしょ。
詐欺師 そんなもの売ってない。
ユリナ 売ってない。そんなそんな、でもあるんでしょ。
詐欺師 そんなもの存在しない。
ユリナ やだやだ。じゃあ、私、首を切られて燃やされちゃう。ドキドキがとまらない。
詐欺師 安心しろ。
ユリナ 無理よ。ああ眠れない、眠れなくなっちゃう。
詐欺師 お前は、オサレな服を渡すのだ。
ユリナ どうやって。
詐欺師 聞きたいか。
ユリナ 聞きたいです。
詐欺師 すごく聞きたいか。
ユリナ すごく聞きたい。
詐欺師 すんごぉく聞きたいか。
ユリナ すんごぉく聞きたい。
詐欺師 それはな、
ユリナ うんうん、
詐欺師 すんごい案だからなぁ、教えるのもったいないなぁ。
ユリナ もういけず。
詐欺師 ふふふ。しかたないなぁ。教えてやろう。
ユリナ うれしい。
詐欺師 お前は、オサレな服を持っていかないのだ。
ユリナ 持って行かない? 首なくなっちゃう。
詐欺師 まあ、待て、最後まで聞くのだ。
ユリナ うん、最後まで聞く。
詐欺師 そしてお前はこう言うのだ。
ユリナ うんうん。
詐欺師 女王様。ここにありますのは、オサレな服でございます。
ユリナ え、ないよ?
詐欺師 だから黙って最後まで聞け。
ユリナ うん、黙って最後まで聞く。
詐欺師 女王様はこう言うだろう。おい、オサレな服など、ないではないか。
ユリナ うん、で、私を燃やすんだわ。
詐欺師 黙らないなら、やめるぞ。
ユリナ ごめんなさい。
詐欺師 その素直な所がいいな、お前は。
ユリナ ありがとう。
詐欺師 そしたらな、お前はこう言うのだ。女王様、このオサレな服が見えないのでございますか。
ユリナ え、あるの。
詐欺師 ……。
ユリナ しっ。
詐欺師 女王はビックリするだろう。そしてお前はこう続ける。このオサレな服は、オサレな服を着るべき真の女王にしか見えない服なのでございますと。
ユリナ まあっ、あ、しっ。
詐欺師 うむ。するとあの女王はなんと言うだろうな。
ユリナ きっとこう言うわ。見える。見えるぞ。余は、オサレな服を着るべき真の女王なのであるからして、ソチの持つ、輝かしいばかりのオサレな服が見えるぞ。こう言うわ。
詐欺師 そうだ。
ユリナ すごい、これなら私怒られない。
詐欺師 これならお前は怒られないし、首もハネられない、燃やされない。
ユリナ すごいわすごい。なんだか安心して、眠たくなっちゃうわ。
詐欺師 おいおい、眠るのは本当に悪い私なんだ。お前はまだドキドキしていろ。
ユリナ 分かったわ、まだドキドキしてる。
詐欺師 いいか、首尾よくいって、追加のお金を要求したら、ちゃんと私に渡すんだ。そしたらお前に一割ちゃんとやるからな。いいな、全てが終わったらここに来るからな、絶対に逃げるんじゃないぞ。
ユリナ ええ、分かったわ。
詐欺師 私を騙そうとしてもダメだからな、私はとおっても悪いんだから、お前のようなおバカでキュートな女なんかは絶対に逃げられないんだ。
ユリナ 分かってるわ。
詐欺師 さあ後はお前が女王に上手くやって報告を受け取るだけだ。なんとも悪い事を考えると眠くなるものだ。ほら眠くなってきたぞ。お前はまだドキドキしてるんだ、いいな。明日、私が起きた時に上手くいった報告をする為に起こすんだ。いいな。ああ、もう眠くてたまらない。いいな。じゃあ、おやすみ。
ユリナ おやすみなさい。

詐欺師、服の中にもぐりこむ。

ユリナ ああ、私、上手くできるのかしら。ドキドキしてきちゃったわ。私、上手く出来ないんじゃないかしら。だって、私はおバカでキュートなだけなんだもの。オシャレっていうのが分からないもの。きっと上手く出来ないわ。私、本当に賢くなって、オシャレが分かるようになりたいの。こんなオシャレが分からない国じゃなくて、本当にオシャレが分かる国へ行きたい。ああ、ドキドキしすぎて疲れてきちゃった。もう眠ってしまいたいのに、眠れなくなっちゃった。

ユリナ、泣く。
マジックミラーの内部が光り、そこへ、黒いフードをかぶった魔女が現れる。

魔女 そんなに泣くものじゃないよ。
ユリナ だって……だって……。
魔女 私はちゃんと知ってるんだよ。お前は舞踏会に行きたいんだろう?
ユリナ 舞踏会。違います。
魔女 よしよし、お前はいい子だから、舞踏会に行けるようにしてあげよう。
ユリナ あの、私服が選べないだけで、
魔女 いいんだよ、いいんだよ。そんな事、少しも心配いらないんだよ。さあ、畑へ行って、かぼちゃを一つとっておいで。それがお前さんを、舞踏会へ連れて行ってくれるんだよ。
ユリナ カボチャですか。
魔女 ……。
ユリナ は、はい。

ユリナ、舞台Bから去り、すぐに舞台Aへ登場。
そして、まばゆい光が舞台Aを包む。

ユリナ あ、すごい。カボチャが馬車になった。
魔女 ハツカネズミも馬になったろう。
ユリナ すごいですね。
魔女 さあ、舞踏会へいっておいで。
ユリナ あの、服は。服はこうちょんってやるとボンってなる。
魔女 いってらっしゃい。
ユリナ あ、はい。

ユリナ、去る。


舞台B。
ハルキが四つんばいになり、その上に座っているアオイ。

アオイ はっ、ユリナが泣いてる気がする。
ハルキ そうなの?
アオイ あんたのせいだ。
ハルキ すいませんでした。
アオイ 謝らなくていいから。
ハルキ すいません。
アオイ 謝るな。
ハルキ すいません。
アオイ 謝るなって言ってるだろ。
ハルキ すいません。
アオイ もういい、このバカ。
ハルキ はい。
アオイ なんて事。まさか、こんな事になるなんて。
ハルキ ユリナさんが聞くから正直に答えただけなんです。
アオイ 正直に答えればいいってもんじゃないでしょ。
ハルキ すいません。
アオイ ユリナはね、あんたが好きなの。もし私があんたと一緒にいるなんて知ったら、ユリナ死んじゃう。ユリナが死んだら私も死んじゃう。
ハルキ アオイさんが死んだらボクも死んじゃいます。
アオイ 勝手に死ね、このバカ。
ハルキ 正直勘弁して下さい。腕がプルプルしてきました。
アオイ もう、ユリナはどこなのよ。っていうか、ここどこよ。ユリナの部屋じゃないじゃない。
ハルキ さぁ、自分もユリナさんの部屋にいたと思うんですが。
アオイ 可哀想に。ユリナも今頃一人で迷子になって泣いてるのよ。
ハルキ そうかなぁ。
アオイ ああ、私のカワイイユリナ。私がいないとダメなユリナ。服が決められないユリナ。泣いてるユリナもとってもカワイイの。もう何でもしてあげたくなっちゃう。もうキュンキュンしちゃう。
ハルキ そんなアオイさんに、キュンキュンする。
アオイ 黙れ。
ハルキ ひぃ、
アオイ 何処行っちゃったんだろう。もしもユリナになにかあったら。
ハルキ すでにもう……。
アオイ 黙れって言ってるでしょ。この嘘つき。
ハルキ なんて事を、自分は正直者で有名なんです。
アオイ 正直者が正直だと言うか、嘘つき。
ハルキ 本当の正直者は言うんです。これだけは信じて下さい。
アオイ 信じられない。
ハルキ これは侮辱だ。それだけは我慢ならない。
アオイ な、なによ。
ハルキ では、正直に言わせてもらいますけど、大体あんた達おかしいんだよ。
アオイ お、

ハルキ、アオイを跳ね除け立ち上がる。

ハルキ ボクっていう存在がありながら、お互い、ユリナアオイって、いちゃいちゃぺちゃぺちゃ。なんなのオレって。オレを介して二人で付き合ってるの? オレは問屋じゃありませんけど。
アオイ なに逆ギレ?
ハルキ 大体アオイさんは、オレの事別に好きでもなんでもないだ。分かってるんだよ。ユリナさんが好きなボクをそばに置いておくのも、アオイさんはユリナさんに優越感に浸りたいだけなんだよ。
アオイ それが?
ハルキ そうやってオレを介して、ユリナへの優越感に浸っているんだ。なんて小さい人間なんだ。めっちゃカワイイ性格ドブス。オレは間接照明じゃないんだ。
アオイ 言うねぇ男らしいねぇ。そういう所いいよ。
ハルキ ありがとう。
アオイ まあその通りよ。
ハルキ あっさり認める。
アオイ だってそうだもの
ハルキ ドライな女子だ。キュンとくる。
アオイ あの子は私のもの。だから私はあの子を思い通りにするの。いままでもこれからもずっとそう。あんたみたいな思想が濃いだけの嘘つきバカには分からないだろうけど。
ハルキ ひどい。ボクは利用されていただけなのか。
アオイ いまさら気付いたんだ。
ハルキ この人でなし。
アオイ ありがとう。
ハルキ 褒めてない。
アオイ ああ、ユリナは何処に居るのかしら。私のユリナ。私がいないとあの子は何も出来ないのに。
ハルキ 正直、もう女を信じられなくなりそうだ。
アオイ 早くユリナ探しなさいよ、このバカ。
ハルキ ひどい、なんてひどいんだ。

ハルキ、四つんばいになって落ち込む。
そこへ女王、登場。

女王 仕立て屋よ。おい仕立て屋よ。女王が参ったぞ。
アオイ なになに、
ハルキ え、
女王 なんだ貴様らは。

女王、当たり前のようにハルキの上に座る。

アオイ 誰。
女王 貴様こそなんだ。仕立て屋はどこだ。
アオイ 仕立て屋? なんなの?
女王 なんと無礼な、余が分からぬのか。
アオイ 知らない。
女王 なんだと。余はこの国を統べる女王であるぞ。
アオイ 女王様。
女王 第24代王位継承者、エリザベス・クリスチャン・コロンブス12世とは余の事である。
ハルキ この当然のように座る感覚、本物の女王だ。
女王 そうだ。
ハルキ ははぁ。

ハルキ、土下座しようとして、女王が滑り落ちる。

女王 なにをしやる。この無礼者。
ハルキ すいません。
女王 その謝り方とてもよい。
ハルキ 嬉しい。
女王 家来にしてやろう。
ハルキ 嬉しくない。
女王 嬉しくないとな。
ハルキ 正直、面倒くさい女ばかり。
女王 おい家来。
ハルキ 家来になった。
女王 仕立て屋はどこだ。
ハルキ 仕立て屋とは、
女王 この部屋におった、服を仕立てる女の事だ。
ハルキ ユリナさんの事ですか。
女王 名は分からぬ。少しとろそうなキュートな女である。
アオイ ユリナね。
ハルキ ユリナさんだな。
女王 ユリナという名であるか。
アオイ ユリナになにかしたの。
女王 異な事を申す。余こそ仕立て屋を探しておるのだ。奴は余の為に、世界に一つしかない至高の服を作っているのである。待っても待っても世の服を届けに参らぬ。仕方なく余の方から尋ねて参ったのであるぞ。
ハルキ 約束は守らないといけないな。
女王 そうだ、約束は守らねばならぬ。
アオイ ユリナ、変な事に首を突っ込んでいたのかしら。
女王 おいその方、仕立て屋は何処だ。
アオイ だから私達も探してるんだって。
女王 そもそもおぬしらは何者だ。
ハルキ 自分は街のちょっと素敵な正直者です。お見知りおきを。
女王 礼儀を知っておるの。よいぞ。
アオイ よく言うわ。嘘つきが。
ハルキ まだ言うか。オレは正直者の中の正直者、まさに正直者の鑑なんだっ。
女王 ほう、正直者の鏡か。ちょうどよい。
ハルキ ちょうどいい?
女王 そこの小生意気な小娘は何者だ。
アオイ 私はね、ユリナの大親友、一心同体といってもいいの。私のユリナに何かしようっていうのなら、ただじゃすまないからね。
女王 では、おぬしも仕立て屋か。
アオイ 知らない仕立てとか。あんたみたいなダッサイおばさんにとやかく言われたくない。
女王 なんだおぬし、なんと申した。
アオイ ダッサッ、キッショ、ハッズイ。
女王 なんという事だ。なにを言うておるか分からぬが、罵倒されておる気がする。
ハルキ そうですね。結構な悪口ですよ。
女王 無礼な、余はこの世のありとあらゆる服を治めし女王であるぞ。
アオイ 本当に女王なの?
女王 朝になれば太陽が昇るのと同じように、余が女王であるのは自然の摂理である。
アオイ そう。でもね、服を持ってればオシャレって訳じゃないのよ。
女王 なぬ、
アオイ お金持ちに多いパターンよねぇ。成金根性っていうの? いい服、高い服さえ着てればいいでしょっていう。そういうの一番ダサいから。
女王 また言いおった。
ハルキ 服が格好悪いと言っております。
女王 なんだと。
アオイ うーん。あんた女王様よね。
女王 そうである、第24代……
アオイ 女王様だって言うなら、その格好ダメね。ふるえる。
女王 ふるえるとはどういう意味だ。
アオイ ださすぎてふるえるって言ってんの。
女王 私がダサい。なんと無礼な。首をハネてハリツケにして、火あぶりにしてやろうか。
アオイ 黙らっしゃい。
女王 ぬぅ。
アオイ 私、そんなダサい人見てられないの。
女王 ぬううう。
アオイ もう本当全部ダメ。色がもう本当にダメ、一個一個の色はいいのよ。シックな感じ。でもねその上着、その色じゃ全部の色が殺し合ってる。もう色のバトルロアイワル状態よ。ふるえる。
女王 そ、そうなのか。
アオイ それにそのスカートのたけ感、全然あなたに合ってない。女王様だっていうのなら、もう少し長くするか短くしないと。
女王 そ、そうであるか。

女王、スカートを下げようとする。

アオイ ちょっとそういう事じゃないから。服には服のサイズってのがあるの。ふるえる。
女王 すいません。
アオイ それにね、あなた、服にストーリーが無いの。
女王 ストーリー?
アオイ 自分がどう見られたいのか、どういう風に見せたいのか。ちゃんとある?
女王 余は威厳を、
アオイ 今、私が喋ってます。
女王 そ、そちが質問するから……。
アオイ ちゃんと最後まで聞きなさい。
女王 はい。
アオイ あなたが女王様だっていうのならね、もっと尊敬されたり、憧れられるような物語をまとわないと。それじゃお下品なスナックのママがちょっと張り切って町内会の運動会に来ましてった感じ。服には物語が必要なのよ。服には着るヒトの人生、そして思いが出るの。言葉以上に言葉を話すコミュニケーションツールなのよ。
女王 ぬうう。なんという奴だ。
ハルキ おい、正直言いすぎだろ。
アオイ はい以上。勉強してらっしゃい。
女王 素晴らしい。
ハルキ ええっ、
女王 余は感動に打ち震えておる。
アオイ なに、まだあるの?
女王 余はそちほど、服について素晴らしき思想を持つ人物を知らぬ。
アオイ そう?
女王 まさにお主は、ファッション界のミューズ。
アオイ いやぁ、ファッション業界に就職失敗しましたが。
女王 なんとな?
ハルキ 無職ということです。
アオイ 思春期の乙女だったらこれぐらい誰でも。
女王 思春期の乙女。
アオイ おばさんにはわからないでしょうけど、乙女は、いつでもどこでも、いろんな人の目にさらされながら、いかに自分を他人によく見られるか考えてるの。少しでもダサい格好をしようものなら、それで乙女の評判はダダ落ち。すぐにおダサガールのレッテルを貼られるの。毎日が戦いなの。乙女はいつだってオシャレ戦争。
女王 戦争であったのか。
アオイ 就職戦争よりは楽ですけどね。
ハルキ 励ましたいなぁ。ガンバっ。
アオイ ウルサイ。
ハルキ ……。
女王 目からウロコが落ちるとはこの事であろうか。余は、悩んでおった。余は世界中の服という服を集めて参った。
アオイ あら、素敵。
女王 しかし、余の心が満たされることはなかったのだ。
アオイ そりゃ集めりゃいいってもんじゃないでしょ。シマムラだってユニクロだってオシャレはその人次第。
女王 余はここに宣言しよう。
アオイ なに?
女王 ファッション戦争を宣言する。
ハルキ 戦争はダメだよ。
女王 武力ではない、ファッションでこの世を統べるのである。ファッションでこそ、この世は真の変革と真の平和がやってくるのだと、余は今、確信したのである。
アオイ なんか大変そうだけど頑張ってね。
女王 なにを他人事のように言うておる。
アオイ え、
女王 お主が、ファッション統一軍総大将として、戦いを勧めるのである。
アオイ 私が?
ハルキ 大出世だ。
女王 そうである。今、この場を持って任命する。
アオイ やだなぁ。めんどくさそう。
ハルキ 断った。
女王 予算は使い放題。
アオイ え、
女王 世界中のどんな服もすぐさま持ってこさせよう。
アオイ 海外でも?
女王 もちろん、それどころか、超一流の職人にオーダーメイドし放題。
アオイ 悪くない。
女王 さぁ、余についてまいれ。ともに世界へとファッションの笛を吹いて参ろうぞ。
アオイ その仕事、引き受けましょう。
ハルキ 引き受けた。
女王 よくぞ言った。
アオイ 就職が決まりました!
ハルキ 就職おめでとう!
女王 ああ、なんと心強い言葉であろうか。お主の名は、
アオイ アオイです。
女王 お主にデュークの称号を与えよう、今からお主は、デューク・アオイである。
アオイ ええー、なんかダサいなぁ。へんな歩き方しそう。
女王 とてもありがたい称号であるぞ。
アオイ そうなの? まあいっか。レッツオシャレ革命。
女王 さあ、偉大なる一歩だぁ。

アオイ・女王、エクササイズウォークで、退場。

ハルキ あ、オレも連れてってよ。

ハルキ、退場。


舞台Cにユリナ。

ユリナ さて、気づくと私は荒野に居た。どうしようもなく荒野を40日のあいださまよい続けた。その間、私は何も食べず、その日数が尽きると空腹になった。

舞台Aにライオンの人形、登場。

ユリナ ライオンが私に問いかけてきた。

ライオン 私はライオンです。百獣の王たるライオンの一匹です。
ユリナ 私は服を選べません。他の動物が服を着ないように、服を着る人間の一人です。
ライオン 私は勇気を持つ事が出来ませんでした。他の獣を狩る勇気がです。狩るという事は命を奪う行為です。駆られる側も命をかけて戦うのです。私は自分の命を掛けて他の命と戦う勇気を持てなかったのです。
ユリナ 私は勇気を持てなかったのでしょうか。他人に見られる事が怖くて仕方がありません。服を着るという事は他人へ自分を晒す行為です。観る側も服を通して私を観るのです。私は他人へ自分の内面を晒す行為が怖くて仕方がないのです。
ライオン しかし、あなたは服を着ている。
ユリナ あなたも生きている。
ライオン 私は悟ったのです。勇気は私の中にあるのだと。人はパンのみで生きるのではありません。しかし獣たる私は肉でしか生きられないのです。彼らの命は私に奪われるでしょうが、私の命もまた誰かの為に有るという事なのです。自分自身の為の勇気はとても脆いものですが、自分自身がなんの為にあるのかという問いとともに、私は生きる理由という勇気を獲得するに至ったのです。
ユリナ 人は服を決められなくても生きていける。
ライオン 生きる勇気です。
ユリナ ありがとう。

ライオンの人形、退場。

ユリナ それから、私は服を着て生きていく勇気というものを考えるため、高いところへといった。そこには、じっと世界を見つめるカカシがいた。

舞台Aにカカシの人形、登場。

カカシ 私はカカシです。ただこうやって立ち尽くすだけのカカシの一体です。
ユリナ 私は人間です。ただ生まれ、死に向かうだけの人間です。
カカシ 私は知恵を持つ事が出来ません。考える脳を持っていないのです。考えるという事は、生きるという事です。何も考えない無生物は、ただ風に吹かれる石ころのようにただそこに有る事だけしか出来ません。
ユリナ 私は服を選ぶ事が出来ません。考える事が出来ないのです。考える事が出来ないという事は選べないという事です。なにも考えない人間は、何も着ていないマネキンと同じ。ただの人の形をした、まさに人形なのです。
カカシ しかし、あなたは服を着ている。
ユリナ あなたも考えている。
カカシ 私は悟ったのです。今こうやって考えられないという事自体が考える事だという事に。考えるゆえにワレあり。考えられないという事を考える事により私は考えるという行為を得るに至りました。考えるという行為は、考える事ではないのです。何を考えるか、なのです。そうして、私は考える方法を獲得するに至ったのです。
ユリナ 人は服を考えなくても選ぶ事が出来る。
カカシ 考えるゆえにワレありです。
ユリナ ありがとう。

カカシの人形、退場。

ユリナ それから、私は服について考えるため、ショッピングモールへと行った。様々な服が売られていたが、そこにはまさに機械のようにウロウロとうろつくブリキの人形がおり、私に問うてきた。

舞台Aにブリキの人形、登場。

ブリキ 私はブリキの人形です。金属でできた冷えた体を持った人形の一体です。
ユリナ 私は服を選べません。他の人々が服について喜び憂う間もただ冷えた心で思う事が出来ない人間の一人です。
ブリキ 私は心を持つ事が出来ませんでした。この冷えた体では何も感じる事が出来ないのです。感じる事が出来ないという事は、他者との対話が出来ないという事です。私は心からの対話をする事が出来なかったのです。
ユリナ 私は心を持てなかったのでしょうか。服が何を他者に感じさせ、また自分が感じるべきなのかが分からない。服を着るという事は感覚を揺さぶる行為です。観る側も服を通して私を感じるのです。私は他人を感じ、また感じさせる行為が怖くて仕方がないのです。
ブリキ しかし、あなたは悲しんでいる。
ユリナ あなたも生きている。
ブリキ 私は悟ったのです。心は私の中にあるのだと。心を試してはいけない。しかし、私はただの冷えた機械なのです。しかし、そう感じる自分自信を感じていたのです。私は他者にばかり目がいき、本当に感じているもう一人の自分の存在を感じる事が出来たのです。そうして、それを通して、他者とはもう一人の自分であるという感情を抱くに至ると共に、私は自己と他者という心を獲得するに至ったのです。
ユリナ 人は他人の服を気にして生きてはいない。
ブリキ 感じる心です。
ユリナ ありがとう。

ブリキの人形、退場。

ユリナ それから私は自分の部屋へ帰ると、そこには私を待ち受ける運命があった。

舞台Aにスーツ姿の謎の男、登場。

謎の男 夢の国へようこそ。
ユリナ これは夢なの?
謎の男 そうでしょう。でなければ、こんな素敵な事はおきません。
ユリナ そっか、夢か。
謎の男 夢の国は素敵でしょう。
ユリナ そうかなぁ。
謎の男 お気に召さなかったですか。
ユリナ そんな事はないですけど。私、困ってるんです。
謎の男 何を、
ユリナ 服が決められないんです。
謎の男 ふふふ。よく聞く質問です。
ユリナ なんと、
謎の男 みなさま、夢の国に来るのに、服がなかなか決まらないとおっしゃられます。
ユリナ そうなんだ。なんだか私って普通なのね。
謎の男 がっかりさせてしまいましたか。
ユリナ 少しね。
謎の男 夢の国では、皆様現実を忘れて、思い思いの時間を過ごすのです。そこには俗世を忘れて、ありとあらゆるファンタジーが待っている。あなたもめいいっぱいオシャレをして、私の夢の国を楽しむのです。
ユリナ 私の夢の国。
謎の男 そう、私が作った夢の国で。
ユリナ あなたは……。
謎の男 では後ほどお会いしましょう。

謎の男、退場。

ユリナ ああ、夢の中にいるような気分。現実なんかに戻りたくないわ。このまま夢の中で私はずっと過ごしていくの。なにもかも忘れて。そうすれば、私はなんにでもなれるの。楽しい夢ばかり見て、私はずっとすごすんだわ。
詐欺師 しかし、夢は醒めなければならない。
ユリナ そうなのね。
詐欺師 しかし、お前の夢は終わらない。
ユリナ これ悪夢なの?
詐欺師 お前が広めた服をめぐる話は終わらない。お前がマイた種が、夢を超えて、悪夢を広めているんだ。
ユリナ その声聞いた事がある。
詐欺師 探したぞ。

舞台C、詐欺師登場。

ユリナ ああ、相棒さん。
詐欺師 お前のせいで、計画は台無しだ。
ユリナ ごめんなさい。
詐欺師 なんて悪いやつなんだ。本当に悪いのは私だと言うのに。
ユリナ 私、逃げるつもりじゃなかったの。本当よ。
詐欺師 まあいい。今や事情が変わったんだ。変なやつが、女王の横に居座りやがって、今やあんなにダサかったオサレ女王がオサレになってしまった。これじゃあどうする事も出来ない。
ユリナ 変なやつ?
詐欺師 そうだ。そいつが今や、オサレ女王の服を演出しているんだ。
ユリナ すごいわね。
詐欺師 しかしそいつも危ないだろうなぁ。オサレ女王は満足する事が出来ない人間だ。これまでも幾人もの人間が粛清されてきた。やつもやがて首をハネられてしまうだろうな。
ユリナ かわいそう。ハリツケにされてしまうのね。
詐欺師 そうだ。そして燃やされてしまうのだ。
ユリナ ああ、可哀想。殺されちゃうんだわ。
詐欺師 そうだ、殺されてしまうのだ。
ユリナ どんな人なの。
詐欺師 なんだか変なやつだった。まるでお前のような格好をしていた。
ユリナ 私みたいな。
詐欺師 そして、長い黒髪に妙に肌が白かったな。
ユリナ そ、そう……。
詐欺師 そう、確か名前は……。
ユリナ その人の名前は。
詐欺師 そいつの名はアオイ。
ユリナ アオイ。
詐欺師 そうだ。そいつを使ってある計画を実行するんだ。
ユリナ アオイちゃんがここにいる。
詐欺師 なんだ、お前知ってるのか。
ユリナ アオイちゃん? 誰。
詐欺師 お前が言ったんだぞ。
ユリナ 分からない。アオイちゃんって誰、でもとても会いたい。
詐欺師 このままだとアオイというやつの命も危ないなぁ。
ユリナ そんな、私助けに行かなくちゃ。
詐欺師 そうか、アオイを助けたいか。
ユリナ ええ、とっても。
詐欺師 しかしなぁ、どうする事もでないかもなぁ。
ユリナ そんな、あなたは悪人なんでしょう?
詐欺師 私は悪なのだ。皆が一生懸命働いている時に、影でスヤスヤと眠り続ける悪人だ。
ユリナ あなたにも無理なの?
詐欺師 なにを言う、私には出来ない悪事はないのだ。私は悪であり、悪は私なのだ。
ユリナ じゃあ、助けられるの?
詐欺師 ふふふ、出来る。
ユリナ どうやって。
詐欺師 聞きたいか。
ユリナ うん、聞きたいです。
詐欺師 すごく聞きたいか。
ユリナ うん、すごく聞きたい。
詐欺師 すんごおぉく聞きたいか。
ユリナ すんごおぉく聞きたい。
詐欺師 それはな、
ユリナ うんうん、
詐欺師 すんごい案だからなぁ、教えるのもったいないなぁ。
ユリナ 殴るよ。
詐欺師 お、怖い。
ユリナ ごめんなさい。私真剣なの。
詐欺師 しかたない。教えてやろう。そのためにはお前の力が必要なのだ。
ユリナ 私の、
詐欺師 さあ、まずは眠るのだ。
ユリナ 眠る、
詐欺師 夢を見るのだ。
ユリナ それだけでいいの?
詐欺師 私を信じろ。
ユリナ 詐欺師でしょ?
詐欺師 それでも信じろ。
ユリナ 分かった。
詐欺師 さあ、よい夢を見よう。オシャレの女神として。
ユリナ ええ、

ユリナ、詐欺師、退場。


舞台B、マジックミラーの前に女王がやってくる。

女王 鏡や、鏡、正直者の鏡よ。世界中で、誰が一番オシャレが、いうておくれ。

マジックミラーの中に、明かりが入り、そこにはハルキがいる。

ハルキ いや、正直者の鑑とはいいましたけど、その鏡じゃないですから。
女王 だまれ、お主は正直者の鏡だ。余の質問に答えればよい。
ハルキ 正直納得できない。
女王 おぬしが納得しようがしまいがどうでもよい、さあ、答えよ。鏡よ、鏡。正直者の鏡よ。世界中で、誰が一番オシャレかいうておくれ。
ハルキ 女王様、ここでは貴方様が一番オシャレです。けれども、いくつも山超した、七人の小人の家にいる白い雪的な姫は、まだ千倍もオシャレです。
女王 おほほほ。残念だが、白い雪的な姫という姫は、余がすでに服を剥ぎ取りボロボロの服を着せて、ガラスの靴を履かせてやったわ。
ハルキ くそう。話をややこしくする女王だ。
女王 すでに世の中の優美な服という服は、全て余の物となっておる。この世で一番オシャレなのは余であろうが。
ハルキ そこまでして。なんてオサレ狂い。
女王 これこそが、女王というものだ。余は、この世の誰よりも閑麗でなければならぬのだ。この光り輝く格調高雅な服が分からぬか。世界一のオシャレ大将が仕立てた服ぞ。
ハルキ くそう。アオイさんめ。なんてファッションセンスがあるんだ。
女王 さあ、観念せい。正直者、正直者。ヨを映す鏡たる正直者よ。世界中で、誰が一番オシャレが、いうておくれ。
少年 うむぅうう。
女王 さあ、述べよ。正直者。
ハルキ ああ、神様、助けてください。ボクの口は正直に出来ているんだ。イイたくないことも言わなければならないなんて。なんて不条理な世の中なんだ。ああ、神様、私のこの口を呪ってしまいそうだ。なぜあなたは助けてくれないのだ。
女王 さあ、神もこの私のオシャレにはヒザマづくのだ。さあ、述べよ。正直者よ。誰が一番オシャレであるか。
ハルキ 女王様、この世であなたがいちばんオサレです。
女王 ほう、やっと言いおったか。正直者め。
ハルキ けれども、
女王 なぬ、
ハルキ けれども、
女王 ふふふ。もうよい、もう、私よりオシャレな者などおるまい。
ハルキ けれども、あなたは一番オサレではない。
女王 なんだと? それはどういう意味だ。
ハルキ それは、
女王 言え、いうのだ。
ハルキ それは、
女王 言え、いうのだ、そいつも余の力で、潰してくれようぞ。さあ、言うのだ、
ハルキ 言えない、
女王 そちは正直者であろうが、
ハルキ 言えない、言いたくない。
女王 おのれ、その口を割らせてみせようぞ、おい、誰かおらぬか、誰か、

アオイが、エクササイズウォークでやってくる。

女王 おお、デューク・アオイよ。
ハルキ アオイさん。
ハルキ この裏切り者。
アオイ や、元気?
ハルキ なんでボクだけこんな目に。
アオイ ちょうどいいじゃない。男なんて汚い鏡のようなもんよ。
ハルキ そんなひどい。
アオイ あんた分かってないわねぇ。
ハルキ なに?
アオイ こうやってれば、ユリナの情報を入手しやすいでしょ。
ハルキ なるほど、すごい。惚れる。
アオイ まあ、就職できたし。
ハルキ ちょっと本音も出た。
アオイ ユリナとオシャレと就職の一石三鳥。ありがたい。
女王 さあ、デュークよ。こやつがいう、余よりもオシャレな者を聞き出すのだ。どんな手を使っても構わぬ。そして、そやつの服を剥ぎ取りオシャレとは程遠い、ボロボロの服をまとわせてやるのだ。
アオイ ほら、あんた嘘つきなんだから、ちゃっちゃと言っちゃいなよ。
ハルキ むぅ。また嘘つきと言う。
アオイ 言うのはタダでしょ。
ハルキ そう来ますか。はいはい。あ、いいこと思いついた。
女王 はよう述べよ。
ハルキ 女王様、この世で一番オサレなのは。
女王 誰だ、
ハルキ それは、(アオイを見る)
アオイ え、
ハルキ アオイさんだぁ!
女王 なぬ、
ハルキ アオイさんといえば、オシャレ。オシャレといえばアオイさんです。
女王 なんと。
アオイ ちょっとあんた何いいだすのよ。
ハルキ 自分、正直ですので。
女王 飼い犬に噛まれるとはこの事か。
アオイ ねえ、こいつの言うこと、嘘だから。ね、気にしないでいいから。
ハルキ 正直者だっていってるだろ!
アオイ 誰かおらぬか、誰か!

黒いフード付きのローブを着た家来がやってくる。

家来 へえ、なんでございやしょう。
女王 この者を捕らえて不格好にせよ。
家来 へえ、了解しやした。

家来、アオイを舞台Cへ入れ、もっていた袋からダサいジャージを出し、アオイに渡す。

アオイ うっそ。なにこれ。
家来 お嬢さん。これを着ないと死にますぜ。
アオイ ……。
女王 ソチにはまだまだ仕立てをしてもらわねばならぬからな。。
アオイ これはちょっとなぁ。
ハルキ 着とけよ。
家来 首を切られて、ハリツケて火あぶりですぜ。
アオイ しかたないなぁ。

アオイ、渋々ジャージを着る。

女王 ははは。ダサいのう。お主、ダサいのう。
アオイ くぅ。
ハルキ ダサいアオイさんも素敵。
女王 さあ、邪魔者は処分した。さあ、今こそ、申すがよい、余こそがオシャレだと。その正直な口で認めるが良い。すでに優々たる服は余しかもっておらぬ。さあ、述べよ、正直者よ、正直な者よ。ヨを映す鏡たる正直者よ。世界中で、誰が一番オシャレが、言うておくれ。
ハルキ うむぅうう。
女王 さあ述べよ。正直者。
ハルキ ちょっとアオイさん、助けて。
アオイ ごめんなさい。無理です。
ハルキ はっ、しおらしい。
アオイ ダサいと力が出ないの。
ハルキ さすがオサレウーマン。
女王 さあ神もこの私のオシャレにはひざまづくのだ。さあ述べよ。正直者よ。誰が一番オシャレであるか。
ハルキ 女王様、この世で貴方様が一番オサレです。
女王 やっと言いおったか。正直者め。
ハルキ ですけど、
女王 ふふふ。もうよい、もう余よりオシャレな者などおるまい。
ハルキ 貴方は一番オシャレではない。
女王 なんじゃと、それはどういう意味じゃ。
ハルキ それは、
女王 言え、言うのじゃ。
ハルキ それは、
女王 言え、言うのじゃ、そいつも余の力で、潰してくれようぞ。さあ、言うのじゃ、
ハルキ 言えない、
女王 そちは正直者であろうが、
ハルキ 言えない、言いたくない。
女王 おのれ、その口を割らせてみせようぞ、おい、
家来 なんでございやしょう。
女王 おい、こやつが言う余よりもオシャレな者を聞き出すのじゃ。どんな手を使っても構わぬ。そして、こやつの服を剥ぎ取りオシャレとは程遠い、ボロボロの服をまとわせてやるのだ。
家来 へえ、ですが女王様。
女王 なんじゃ、はようせい。
家来 それは、そやつに聞かんでも、分かる事でございやしょう。
女王 なんじゃ、そちは知っておるのか。
家来 へえ、簡単な事で、
女王 それは誰じゃ、
家来 あら、女王様分からぬので。
女王 うぬぬ。何じゃもったいぶりおって、分かってはおるが確認じゃ。
家来 それでは言いますだ。女王様はとってもオシャレですだ。おそらくこの世の誰よりも。
女王 正直じゃのう。
ハルキ 嘘つきだ。
家来 しかしその素晴らしき女王様のオシャレを見る事が出来ぬ人間が、この世に一人だけおられるのです。
女王 誰じゃ、その可哀想な人間は。余のオシャレを見る事が出来ぬ人間などおるはずなどおらんであろう。
家来 それは女王様、貴方様です。
女王 なんじゃ、余がじゃと。
家来 女王様、貴方様は自分自身を見る事が出来ぬのです。
女王 なにを言うておる、余は鏡をみておるぞ。
家来 しかし、それは鏡に写った女王様でございます。虚像でございます。嘘偽りの女王で本当の女王様ではございませぬ。私めはこうやってはっきりと女王様をこの二つの眼に焼き付ける事が出来ますだ。しかし女王様、貴方様だけはそれが出来ませぬ。
女王 なんと、余は自分のオシャレを楽しめぬと言うのか。
家来 つまり女王様、貴方様はオシャレでありながら、オシャレを楽しめぬのです。つまりこの世で一番オシャレではないのは、女王様、貴方様ですだ。
女王 なんという事だ。ああ、余はなんとオシャレを楽しめていなかったのか。なぜじゃ、余はありとあらゆるオシャレを集めたというのに、なぜオシャレになれぬのだ。
家来 女王様、貴方様は分かっておらぬのです。この正直者に聞かねば分からぬオシャレさなど、意味のないものなのです。本当のオシャレとは、なぜオシャレをするのかが分かっておらぬのです。
女王 余は、誰よりもオシャレでありたかった。余は余のために、オシャレでありたかった。それが間違いと言うのであるか。
家来 オシャレは、誰かの為にするものなのです。他人に自分を定めさせるために着る、もう一つの皮膚なのです。この世に誰もおらぬ世界で、誰が服を気にしましょう。女王はまさにその世界を作り上げた、

家来がフードを外す、それは詐欺師である。

詐欺師 世界一の阿呆なのです。
女王 余が世界一の阿呆であると。
詐欺師 ええ、間違いなく。
女王 おい正直者、お前もそう申すのか。正直者や、正直者。世の鏡たる正直者よ。世界中で誰が一番の阿呆か言うておくれ。
ハルキ 女王様、貴方様が一番の阿呆です。この世で一番の阿呆です。
女王 なぜじゃなぜじゃなぜじゃ、余は満たされたかった。誰にじゃ、余にではないのか。余は余を欲しておるのじゃ。しかし、余は余を認めぬ。余は余を認められぬ。いつまでたっても余を認められぬ。なぜじゃ、なぜなのじゃ。
詐欺師 それは、誰も貴方様を認めていないからでありましょう。
女王 ああ、そうか。余は誰かに認めてほしかったのか。
詐欺師 ええ、貴方様が本当にオシャレを楽しむ為には、民衆にオシャレをさせねばならぬのです。
女王 なんと、それは気づかなかった。
詐欺師 女王様、いままで暴虐の限りを尽くし、国中から集めた絢爛豪華(けんらんごうか)な服々を、民衆に分け与えるのです。そうして貴方様は、真の世界一のオシャレになるのでありましょう。さぁ、私めにその命をお授け下さいませ。
女王 ぬぅ、
詐欺師 さぁ女王よ。世界一オシャレを求めたる裸の女王よ。
女王 うぬ、その方の言うとおりにせよ。
詐欺師 ありがたき幸せ。
女王 ああ目眩がする。余は休むぞ、後はそちに任せた。
詐欺師 ごゆっくりお休み下さいませ。

女王、服の間に潜り込む。

ハルキ アオイさん、しゅんとしてる場合じゃないよ。すごい事になってるよ。
アオイ なに、
ハルキ ファッション革命が起きたんだ。
アオイ ファッション革命。
詐欺師 ふふふ。
アオイ どういう事。
ハルキ あの人が、オサレ女王を倒したんだ。
アオイ え、私、また無職?
ハルキ 神様。きっと貴方様はオシャレの神様に違いありません。
詐欺師 勘違いするな正直者。
アオイ なんか様子がおかしいけど。
ハルキ あれ、
詐欺師 はははは、私は世界一の悪人だ。すやすやと眠りつづける世紀の悪人だ。あんなバカな女王ごときは私の相手ではない。これでこの国の財産は我がものだ。神も私にヒザマつくだろう。
アオイ 悪人って言ってるけど。
ハルキ なんかドキドキする展開。
詐欺師 さあ正直者よ、叫べ。本当の神の名を。
ハルキ 貴方様のお名前は。
詐欺師 馬鹿者、私ではない。私は本当の悪人。表には出ずスヤスヤと眠りながら、悪事を働くのだ。今やこの国のオシャレは我が手にある。それはこの国の産業をおさえたも同じ。つまり本当の女王はこの私だ。それを表に伝える役目は別にいる。
アオイ なに言ってんのこの人。
ハルキ 黙って。ああ、それはいったい誰なのですか。
詐欺師 お前もさっきいったろう。民衆が呼ぶ名はなんだ。民衆が祈るのは誰だ。
ハルキ オーマイゴッド。
詐欺師 そうだ神だ。いや女神だ。
ハルキ オーマイゴッデス。

古代ギリシャ人のように白い布をまとったユリナが現れる。

詐欺師 さあ、オシャレの女神が民衆を導くのだ。
ハルキ オシャレの女神。オーマイゴッデス。
アオイ ユリナなんでこんなところに。
ユリナ 誰ですか?
アオイ 私よ。
ユリナ そんなダサい人は知りません。
アオイ もう、こんなもの。

アオイ、ジャージを脱ぎ捨てる。

ユリナ アオイ!
アオイ そう、アオイです。
ユリナ よかった、無事だったんだね。
アオイ どういう事。
ユリナ ごめんね。私はやらなくちゃいけない事があるの。
アオイ やらなくちゃいけない事?
詐欺師 民衆はヤツを、オシャレの象徴として、祈り崇拝し金を納めるのだ。我々が本当に求めるのは、神だ、答えだ。神こそ全ての答え、オシャレとは神だ。さあ正直者よ、触れ回れ、我々のオシャレ女神が現れたのだ。
ハルキ オーマイゴッデス。
詐欺師 さあ、キュートな女神よ。民衆を導け、オシャレな世界へと民衆を導くのだ。

ユリナ、布を剥ぎ取ると、下にセーラー服を着ている。
BGM「セーラー服を脱がさないで」

ユリナ 民衆よ、服を着よ。いつの日かこの服を着るのだという信念を真の意味で持つ日がくる事を望みながら。服を着よ。いつの日か、すべての人が、服を着る自由を楽しみながら、楽しくオシャレをする日々を思いながら。服を着よ。今、服を着る自由を楽しめない人々が、本当の意味での自由を楽しむ事が出来るという日々を思いながら。服を着よ。遠い未来、誰もなにも考えずとも服を自由に着る日常に思いを馳せながら。服を着よ。

ユリナ 私は服を着ている。
詐欺師 さぁ、パレードだ。
 
「民衆を導く自由の女神」の様に、ユリナがポーズを決める。
BGM「エレクトリカルパレード」
ライオン・カカシ・ブリキの人形が舞台Aに現れ、パレードが始まる。

アオイ ユリナ、どういう事。女神ってなに。
ユリナ アオイちゃんを助けるためにはこうするしかなかったの。
アオイ 私を助けるため?
ユリナ 女王を倒して、世界を平和にするの。
詐欺師 そうだ、ハッピーエンドだ。
アオイ あんたはなんなのよ。
詐欺師 私か、
ユリナ 詐欺師さんでしょ。
詐欺師 違う。
ユリナ え、
詐欺師 詐欺師とは話の中の姿。その正体は、
ユリナ え、
詐欺師 ちょっと待って下さい。

詐欺師、謎の男の格好になる。

アオイ 早くしてよ。
詐欺師 うるさいなぁ。
ユリナ どきどきしちゃう。
詐欺師 話しかけないで下さい。そっちでちょっと話しててもらえますか。
ハルキ なんかすごい展開ですね。
アオイ あんたは黙ってなさいよ。
ハルキ 久しぶりの出番なのに。
ユリナ 鏡の中にいても素敵。
ハルキ だろ。
ユリナ あ、そういえば、アオイちゃん、ハルキくんと付き合ってたって。
アオイ ここで言うの。ちょっとあんたとっととしろよ。
詐欺師 せかすな、今やってます。
アオイ 遅いんだよ。
ユリナ アオイちゃん。ねえ、
アオイ もういいよ。全部着替えなくてもいいから。
詐欺師 なんなんだよ。こいつもう。しかたないなぁ。お待たせしました。
ユリナ アオイちゃん。
アオイ あんた、一体何者。
詐欺師 この話の作者。そう、そして夢の国を作った人です。
アオイ あんたが、
詐欺師 そうです。そして、自分の作品に出るのが好きなでしゃばりさんです。
アオイ なんだって。
ユリナ どういう事。
ハルキ オレも分からないんだけど。
詐欺師 この話を作り、そして広め、そして夢の国のアトラクションにして、世界中の人に、夢のひとときを与える、とってもいい人でした。
ユリナ 詐欺師じゃないの?
詐欺師 それは言っちゃダメ。絶対。
アオイ そうよ。それはダメ。
ユリナ ごめんなさい。
詐欺師 人々が夢のひとときを過ごす、ちょっとした対価をえてるだけですから。そういう詐欺とかダメだよ。
ユリナ そうね。
詐欺師 さぁ、この話も、後はハッピーエンドへ向かうのだ。
ユリナ ハッピーエンドはどうなるの。
詐欺師 ハッピーエンドは決まってる。素敵な服を手に入れた姫は、素敵な王子様と結婚して終わるんだ。
ユリナ 王子様。
詐欺師 そうだ。
アオイ 王子様なんていないじゃない。
詐欺師 いる。この中に。

間。

ハルキ ボクかな。
詐欺師 違う。
ハルキ 違った。
詐欺師 私だ。
ユリナ あなた。
詐欺師 そう。
アオイ なにいってんのよ。あんたはこの話を作った人でしょ。
詐欺師 さっきも言ったでしょうが。自分の作品に結構出るのが好きなでしゃばりさんです。
アオイ 普通ちょっとでしょ。
詐欺師 作者だって目立ちたいの。
ユリナ あなたが王子様をやるの?
ハルキ さっするなぁ。
詐欺師 そうですよ。お姫様。
アオイ ユリナはあんたなんかと、くっつかないんだから。
詐欺師 黙ってろ。話が進まないだろうが。
ハルキ そうだよ。さっきからテンポ悪くなってる。
アオイ それは謝る。
詐欺師 さあ女神よ。ともに夢の国をつくっていきましょう。
ユリナ そうしたら、アオイちゃんは元の世界に戻れるの?
詐欺師 ああ夢はいつか覚めるもの。人はいつか現実に戻らなければならない。それは夢の終わり。この話がハッピーエンドを迎えれば、人は現実に戻っていくのだ。
アオイ ダメ。
ユリナ 分かりました。あなたと結婚します。
アオイ ユリナ!
詐欺師 さあ、行こう。ウエディングという名のエンディングへ。
ユリナ はい。
ハルキ おい、止めるなよ。
アオイ なんでよ。
ハルキ だって、エンディング迎えたら、人間はもとに戻れるんだろ。じゃあ、みんなもとに戻れるんじゃないのか。
詐欺師 それはムリだ。
ハルキ なんで。
詐欺師 彼女は私が作った人形だからだ。
ハルキ ええっ。
ユリナ どういう事。
詐欺師 この話の主人公として作られた人形だ。そして子供たちはお前を買い与えられて、服を着せ替えて遊ぶのだ。
ハルキ そんな。
ユリナ 私、着せ替え人形なの?
詐欺師 そうだ。
ユリナ だから、私、服が決められなかったの?
詐欺師 そりゃそうだ。着せ替え人形は服を選ばない。選ばれるのが着せ替え人形だ。
ユリナ そんな。
ハルキ そんな……。
アオイ ごめんね。
ハルキ え、
ユリナ 知ってたの?
アオイ ユリナが私の家に来た時、本当に嬉しかった。いつもユリナと一緒にいた。どんな友達よりも私の一番の友だちだった。いつもいつも。でも……。
ユリナ でも?
アオイ 最後に、ユリナとディズニーランドに行きたかった。私、もう大人だし。
ユリナ そっか。お別れなんだ。
アオイ でも……。
ユリナ ありがとう。
アオイ でも、私、やっぱりイヤ。ユリナとずっと一緒にいたい。
ユリナ ダメだよ。アオイちゃんには、アオイちゃんの人生があるんだから。
アオイ 忘れられない。ユリナと一緒にいろんな服を選んだ事。どうすればオシャレになるか一生懸命考えた。忘れられない。
ユリナ アオイがオシャレになったのは、私も役に立ったんだね。よかった。
アオイ ユリナ。
ユリナ 向こうに行っても私の事、忘れないでね。
アオイ ユリナ。
ハルキ ボクも忘れないよ。ユリナさん。
詐欺師 あ、お前も人形だから。
ハルキ ええっ、
詐欺師 正直者の、ハルキくん。
ハルキ そうか、ボクも夢の国の住人だったのか。
詐欺師 違う違う。彼女がゴミ箱に捨ててあったのを拾ってきて、勝手に複雑な設定を付けた、正直者のハルキくん。
ハルキ そんなぁ。

ハルキ、退場。

アオイ 帰ろう、ユリナ。
ユリナ ありがとう。
アオイ やだやだやだ。
ユリナ ううん、いままでありがとう。
アオイ やだやだ。
ユリナ 元気でね。
アオイ 一緒がいい。
ユリナ 大人がワガママ言っちゃダメだよ。
アオイ 大人になんかならなくてもいい。
ユリナ ダメだよ。
詐欺師 あのう。
アオイ なによ。
詐欺師 もうさすがにいいですか。
アオイ ちょっと黙ってなさいよ。
詐欺師 いや、そろそろ帰ってもらえませんか。
アオイ なんでよ。
詐欺師 閉園時間だからです。
アオイ 閉園時間。
詐欺師 夢の国だって閉園時間が必要です。24時間は勘弁して下さい。
アオイ どういう事。
詐欺師 スタッフだって眠りたいんだ。さあ、帰って下さい。
アオイ そんな、ユリナ。
ユリナ いままでありがとう。
アオイ ユリナ。
詐欺師 ご来園ありがとうございました。

暗転。

アナウンス みなさま、東京ディズニーランドは閉園時間となりました。楽しい一日をお過ごしいただけましたでしょうか。またおこしいただける日を心よりお待ち申し上げます。本日はご来園ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい。


溶明。
舞台Bにアオイが座って、眠っているようだ。
白い服をまとった清掃員がやってくる。

清掃員 お客様、お客様。
アオイ え、
清掃員 大丈夫ですか。
アオイ どこ、ここ。
清掃員 夢の国ですよ。
アオイ ああ、そうかすっごい寝てた。
清掃員 寝てたんですか。
アオイ 夢見てた。
清掃員 夢。
アオイ ええ。とってもいい夢。
清掃員 それは失礼しました。
アオイ ううん。パレード終わったんだ。
清掃員 ええ、
アオイ そっか残念。
清掃員 申し訳ありませんが、もうすぐ閉園時間です。
アオイ もう夢も終りね。
清掃員 またいつでもおこし下さい。夢の国はいつでもお待ちしておりますよ。
アオイ ありがとう。
清掃員 そういえばこれ、お客様のですか。

小さな着せ替え人形を渡す。

清掃員 お客様の側に落ちていました。
アオイ これ、
清掃員 ユリナちゃん人形ですね。
アオイ ユリナちゃん。
清掃員 今さっきまでパレードやってたやつですよ。
アオイ そうなの。
清掃員 ええ、その着せ替え人形ですよ。昔、近所の女の子が大事そうに持っていましたね。
アオイ そうね、子供頃よくそうやって遊んだ。私もこの人形持ってたの。
清掃員 大事にしてあげて下さい。
アオイ あ、でも……。
清掃員 では、
アオイ ありがとう。

アオイ、人形を見る。
BGM「光」IN
女の子がやってくる。

女の子 お姉ちゃん。
アオイ ん、なあに。
女の子 それ、
アオイ これ?
女の子 私の。
アオイ ああ、そうか。ごめんね。
女の子 ありがとう。

女の子、着せ替え人形を受取り大事そうに抱える。

アオイ 大事にしてあげてね。
女の子 うん。

女の子、去る。
それを眺めているアオイ。

引用
 シェイクスピア「リチャード三世」
 ヴォルテール「人間論」
 グリム童話「白雪姫」 菊池寛 訳

参考文献
 「裸の王様」 アンデルセン
 「オズの魔法使い」 ボーム
 「白雪姫」 グリム兄弟
 「シンデレラ」 グリム兄弟
 「荒野の誘惑」 新約聖書
 演説「I Have a Dream」キング牧師

PDFファイル

コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)


1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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