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【声劇台本】ヒトノマエ

ヒトノマエ

登場人物
鈴木(男) 幽霊
所沢(女) 葬儀社社員
由宇(女) 鈴木の同級生

時と場所
街の葬儀場・小ホール

鈴木 目が覚めると、透明人間になってしまった件について。そうです。どうやらボクは透明人間になったようなのです。気づいたら、知らない場所で、大勢の人が花や写真を飾ったりしている。「すいません」と声をかけても誰も反応しない。これはいじめか? とも思ったが知らない人がそもそも無視するのも変だ。これはどうやらボクが見えてなのではないかと、あれやこれややってみました。最終的に全裸で踊ってても、誰も見もしない。これは確定でしょう。オレ、透明人間になりました! ありがとう! 異世界よりも透明人間の方が実際はいいんです! ああ、丁度いい所にキレイなお姉さんが、やってきました。いいですか? こういう時は、さりげなく、かがみまして、スカートがですね、意外と難しい。踏まれてしまうととてつもなく痛いですからね。ああ、角度が大事なんです。ああ、いい感じ、もうちょっと、足をですね。ん? なんか目、合ってない?
所沢 きゃあ!
鈴木 殴らないでください!
所沢 きゃあ!
鈴木 いたたた……くない?
所沢 きゃあ、きゃあ!
鈴木 いたくない!
所沢 きゃあ!(バンバンたたく)
鈴木 痛くない! 痛くない!
所沢 きゃあ! きゃあ!
鈴木 痛くない痛くない痛くない!
所沢 きゃあきゃあきゃあ!
鈴木 痛くない痛くない痛くない! ってもう! やりすぎ!
所沢 あ、はい。
鈴木 っていうか、みえるんですか!
所沢 へ?
鈴木 いや、透明人間になったと思ったんですけど……。
所沢 え? い、いや、見えてません。
鈴木 いや、見えてるでしょ。
所沢 あ、いやいやいや。
鈴木 ちょっと! どこ行くんですか。
所沢 いやいやいや。
鈴木 待って!
所沢 いやいやいや。失礼しま~す。
鈴木 待ってって!!
所沢 はぁ……。
鈴木 なんで逃げるんですか。
所沢 もう、うんざり!!
鈴木 へ?
所沢 やっぱり見えた! ほら、見えたほら!
鈴木 ……。
所沢 どうせどこいっても一緒だと思って、もう逆に? 葬式なら、逆にいないかもとか思ったのに! いるもん、ほら、いる!
鈴木 あ、あの落ち着いてください。
所沢 他に仕事あるだろとか言うんでしょ! 他に仕事ないんですよ! 私、ダメ人間なんですよ! 金縛りにあって寝れなくて遅刻とかしまくるんですよ! 急に幽霊出て、料理とか落としまくるんですよ! もう逆に、いいやとも、思ったけど。もう、絶対私、なんかヘマするわ。これ。幽霊なんか見えたら、絶対ヘマするわ。
鈴木 ボクが、幽霊?
所沢 あ。
鈴木 死んだ? ボクが?
所沢 あちゃ。やっちゃった。
鈴木 そうか。死んだか。
所沢 すいません。思わぬ形で。
鈴木 マジか。
所沢 すいません。ああ、ヘマこいたぁ。(オンオンと泣き始める。)
鈴木 ちょっと……。泣かないでくださいよ。もう、泣きたいのはこっちですよ。もー、意味分からないし、死んでるし。
所沢 すいませ~~ん。
鈴木 ほら、誰か来ましたよ。あっ……。
所沢 うぅ、すいません。あれ、どうしたんですか?
鈴木 いや、ちょっと。
所沢 いや、隠れてもどうせ見えないんだから。
鈴木 どっちなの?
所沢 だから見えませんから。普通の人には。
鈴木 そうなんだ。
由宇 あの……。
所沢 あ、はい。
由宇 ここ、鈴木さんの葬儀で、よろしかったでしょうか?
所沢 あ、はい。
由宇 あの、焼香はどこに?
所沢 すいません。あの、人前葬(ジンゼンソウ)ですので、お焼香はありませんので、遺影の前でお手をお合わせ下さい。
由宇 そうなんですね。
所沢 どうぞ。ワタクシ、控えておりますのでなにかありましたらお呼びください。
由宇 ありがとうございます。
所沢 失礼します。
由宇 はい。
所沢 あの、
由宇 はい?
所沢 あ、いや……。
鈴木 あ、オレ?
所沢 (小声で)私が、あの人に、あなたの代わりに、喋りましょうか?
鈴木 え? 声が小さくてよく聞こえないんだけど。
所沢 (もう一度、より丁寧に)私が、あの人に、あなたの代わりに、喋りましょうか?
鈴木 え? 胸があいつより大きいぞ?
所沢 違う!!
由宇 はい!? ち、違いました?
所沢 あ、いやいやいや。失礼しました。ご自由ですので。ええ。すいません。すいません。
由宇 は、はあ。
所沢 (小声で)ちょっとあんた近くにきなさいよ!
鈴木 近くに? あ、はい。
所沢 私が、あの人に、代わりに、伝えましょうか?
鈴木 あ、ああ~! なるほど。
所沢 なるほどって。うち、代々イタコの家系だから、そういうのできるし。
鈴木 イタコ?
所沢 まあ、そういうインチキだ、なんだなんて言われて生きてくのが嫌だったんだけど、まあ、今回は、さっきの謝罪の意味で特別にいいですよ。
鈴木 そう。
所沢 聞いてます?
由宇 はい?
所沢 あ、いや。すいません。こちらの話しで。
由宇 は、はあ?
所沢 すいません。
由宇 あの。
所沢 は、はい。
由宇 ありがとうございます。
所沢 へ? あ、い、いえ。
由宇 彼のために泣いてくれる人が……。いてよかった。
所沢 え!? いや。
由宇 私、全然知らなくて。まさか、死んじゃうなんて。
所沢 あ、いやぁ。
由宇 す、すいません。(泣き伏せた)
所沢 大丈夫ですか? なにか飲み物もってまいりましょうか?
由宇 私のせいなんじゃないかと思って。
所沢 あなたのせい?
由宇 彼が、こんな人嫌いになっちゃったのって、多分私のせいなんです。
所沢 彼がこうなったのは。
由宇 すいません。すいません。大丈夫です。はあぁ。すいません。誰も聞いてくれる人がいなくて。
所沢 ええ。わかります。
由宇 今更謝ったって、もう、遅いんですけどね。
所沢 (小声で)ちょっとあんた
鈴木 オレ?
所沢 そうそう。伝えたげるから。
鈴木 いや。なんて言っていいか?
所沢 許すって彼が言ってます。
鈴木 おい!
由宇 え?
所沢 あの、ごほん。驚かないでお聞きください。あの、ワタクシ、代々由緒正しいイタコの家系でありまして。まあ、いろいろあって。ここで働いているのですが。、彼、鈴木様が今、現在、ここにいらっしゃいますよ。
由宇 彼がいるの?
所沢 えっと、なにか。そうだ。彼女の情報ちょうだい!
鈴木 彼女の情報?
所沢 早く。信用よ。まず、信用第一なのよ!
鈴木 えっと、彼女は、かなめ・ゆう。オレと幼なじみ。
所沢 かなめゆうさん。鈴木様とは、幼馴染だったようですね。
由宇 私の名前!! なぜそれを?
所沢 鈴木様が教えてくれました。(小声)もっと! ほら!
鈴木 えっと、なんだろ? なにがいいの?
所沢 なにか、幼なじみでしかしらない、思い出、小さな恋のメロディー的な!
鈴木 メロディー的なっていわれても。
所沢 いいから!
鈴木 えっと、あ、小さい頃、プロレスごっこしてて、こいつの頭にケガさしちゃって、それ、今も残ってると思う。
所沢 あんた! 女の子相手になにしてんの!
由宇 はい!?
所沢 由宇さん。彼が、子供の頃、プロレスごっこで付けた傷。後悔してるって謝っています。許してやってね。
由宇 それは彼と私しかしらないことなのに。
鈴木 オレ、そんな事いってねえぞ!
所沢 黙ってまかしとき!
由宇 ほ、本当なんですか?
所沢 そこにいらっしゃいます。
由宇 ここに彼が?
所沢 彼が、あなたに、なにか、おっしゃりたいようなのです。私は、通訳いたしましょう。
由宇 ほんとうですか?
所沢 私、嘘をついたことがありません。
由宇 じゃあ、彼の血液型は?
鈴木 A型。
所沢 A型。
由宇 誕生日は?
鈴木 7月11日。
所沢 7月11日。
由宇 アキラ君の一番お気に入りの、AVのタイトルは!
鈴木 なんでおまえがそれ知ってんだよ!
所沢 早く! もうそこらへんの邪念ないでしょっ!
鈴木 …。ザ・ロリコン。
所沢 ザ・ロリコン。
由宇 うわ~~。
鈴木 しらんのかい!
所沢 しらんのかい!
由宇 その、ツッコミ! アキラ君、いるの!
鈴木 ほんとかよ!
由宇 どこ? どこにいるの?
所沢 あ、もうちょっと右。右。もうちょい、あ、いきすぎた。あ、その半分。ええ。そちらです。
由宇 アキラ君?
鈴木 よう。
所沢 よう。
由宇 本当にいるの?
鈴木 いや、なんかわからねえけど。
所沢 いるよ。由宇。会いたかった。
由宇 え。
鈴木 おい! オレ、そんなこといってねえだろ!
所沢 翻訳よ。翻訳。
鈴木 なんだよそれ。いいから、普通に伝えろよ。
所沢 まかしとき。
鈴木 なんだよそれ……。
由宇 アキラ君。
所沢 あ、右。あ、逆。えっと私から右。ええ。あ、行き過ぎ行き過ぎ。そうそう。あ、もうちょいもうちょい。そうそう。
由宇 あ、アキラ君……。なんで死んじゃったの?
鈴木 ……。
由宇 なんで?
鈴木 ……。
由宇 あの、彼はなんて?
所沢 ほら、なんかいいなさいよ!
鈴木 いやぁ。げ、元気?
所沢 いやぁ。げ、元気?
由宇 え、ええ。
所沢 え、ええ。
鈴木 そうか……、よかった。
所沢 そうか……、よかった。
由宇 ねえ。
所沢 ねえ。
鈴木 ん?
所沢 ん?
由宇 な、なんで死んじゃったの?
所沢 な、なんで死んじゃったの?
鈴木 いやぁって。オレは聞こえてるから!
所沢 いやぁって。オレは聞こえてるから!
由宇 え?
鈴木 いや、あんたに、あんたに!
所沢 いや、あんたに、あんたに!
由宇 な、なに?
鈴木 あんたにいってんの!
所沢 あ、私に。失礼失礼。
鈴木 違うから。
所沢 あ、やっぱり言った方がいい?
鈴木 いや、今のは、彼女に。
所沢 あ、ごめんごめん。オッケー「違うから」
所沢 あ、今のは、彼が「違うから」
由宇 あ、はい。
鈴木 お風呂でこけて、そのまま。多分。それで。
所沢 お風呂でこけて、そのまま。多分。それで。
由宇 お風呂でこけただけ?
鈴木 ま、事故?
所沢 ま、事故?
由宇 そ、そうなんだ。事故。
鈴木 あの……。ありがとう。
所沢 ありがとう。
鈴木 来てくれて。
所沢 来てくれて。
由宇 うん。
鈴木 その、お前は関係ないから、引きこもったのは、オレの責任で。
所沢 その、お前は関係ないから、引きこもったのは、オレの責任で。
由宇 私、ずっと後悔してて。ずっと一緒にいたのに、あのとき、どうして、助けてあげられなかったのかって。ずっと、放っておいて、ずっと孤独だったのに、私、しらんぷりしてて。
鈴木 由宇には悪いけど、まあ、こんな事になっちゃったけど。まあ、結局、な~んもせんまま、終わってもうたけど。ま……。未練も心残りもあるけど、しかたないわな。
所沢 ……。
鈴木 ……。
所沢 あ、ごめん。もう一回!
鈴木 はぁ!?
由宇 え? あ、あの、ずっと一緒にいたのに、あのとき、どうして、助けてあげられなかったのかって、その、ずっと、寂しいだろうっての、分かってて、私、しらんぷりしてて……。
所沢 ちょっと長すぎて。
由宇 あ、その、色々後悔してて。
鈴木 いや、だから。こんなことになってしまったけど……。いや、その……。もう、いいよ! 
所沢 え?
鈴木 いや、もう。
所沢 ゆうの事、が、未練で、心残りあるけど?
鈴木 略すなよ!
由宇 え? 私のこと、が?
鈴木 違う違うよ! オレ、そんなこと言ってないよ!
由宇 そうなの。
鈴木 あああ!
由宇 知らなかった。
鈴木 なにやってくれんだよ!
所沢 え? 何? 何?
鈴木 最悪だ。も~~。
由宇 私のこと、怒ってない?
鈴木 え?

長い間。

鈴木 いや、まあ。……。
所沢 幸せになってくれ。オレの分も。
鈴木 おい!
所沢 元気でな。オレの分も生きて、オレの分も幸せになってくれよ。
鈴木 そんなこと言ってねえだろ!
所沢 どうせ、そういうんでしょ?
鈴木 いや、まあ。
所沢 サービスよ。
鈴木 なんだよ。サービスって。まあ。そういうこと。
所沢 まあ、そういうこと。
由宇 ありがとう。
鈴木 あ~、ダメだ。ちょっと一人にさしてくれ。ちょっと外でてくるわ。
所沢 ちょっと。
由宇 アキラ君が、そんな事考えてたとか、全然しらなくて。アキラ君のこと、絶対忘れない。私、これからどうなるかもわからないけど。でも、ずっと、ずっと、忘れずにいるから。安心して。ね?
所沢 ……。
由宇 何か言ってよ。ねえ。
所沢 ……。
由宇 ねえ。
所沢 ……。
由宇 なんで私には見えないの。
所沢 あ、あの……。
由宇 なに! 彼、なんて言ったの?
所沢 あ、じゃなくて。
由宇 じゃなくて?
所沢 すいません。あの、ほんと、あの。
由宇 はい。
所沢 彼、部屋、出て行っちゃいました。
由宇 出て行った?
所沢 ええ。今、いません。
由宇 そんな! いつ。
所沢 「ありがとう。」のらへんで。
由宇 じゃあ、今、私、独り言、言ってる感じでした?
所沢 ええ、ばっちり。
由宇 きゃああ! 恥ずかし!
所沢 そ、そうですよねえ。私も、どうかなとは思ったんですけど、このまま、いないのに、やばいなあとは思いまして。
由宇 いやー! 私、恥ずかしい!
所沢 捜してきましょうか? 多分、そんな遠くには、いってないだろうし。
由宇 いい。うん。いいです。
所沢 はあ。
由宇 ま、彼らしいわ。
所沢 そうなんですか。
由宇 いつも逃げてばかり。私からも、いろんな事からも。ついに、人生からも。
所沢 すいません。
由宇 いいえ。ありがとう。
所沢 そ、そんな。
由宇 本当か、嘘か、わからないけど。今日、来てよかった。
所沢 はあ。
由宇 ええ。
所沢 よかったよかった。
由宇 そうです。
所沢 いや、よくないな。やっぱり探してきます。ちょっと、失礼しま~す。

由宇 行っちゃった。ああ、一人になっちゃった。本当に、バカなんだから。ばーか。私、ずっと好きだったのよ。だから悔しくて、だから、でも、もう、遅いよね。
鈴木 なんだよそれ! 今言うなよ! 遅いよ! おそすぎるよ! オレ、しんじゃってんじゃん! なにやってんだよ! ああ、くっそ! なんでだよ! ああ! もう! なんだよそれ! うう。あの時、一発やっときゃよかった!
所沢 うう。あの時、一発やっときゃよかった!
鈴木 ええっ! なんでいるんだよ!
所沢 あんた探してたのよ。
鈴木 それだけは、言うなよ!
所沢 サービスよ、サービス。
由宇 今の、アキラ君が?
所沢 ええ。
由宇 ひどい。
鈴木 もういいよ。
所沢 ちょっとあんた、なにしてんのよ。
鈴木 せめてスカートの中覗くんだよ!
所沢 ばかっ。
鈴木 叩くなよ!
由宇 なにしてるんですか?
所沢 とめないでください!
鈴木 いたくない! 痛くない痛くない痛くない! 痛くなーい!
(了)

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コチラをご利用ください

使用許可について

基本無料・使用許可不要。改訂改編自由。作者名は明記をお願いします。
上演に際しては、観に行きたいので連絡を貰えると嬉しいです。
劇団公式HP https://his19732002.wixsite.com/gekidankita

劇作家 松永恭昭謀(まつながひさあきはかりごと)

1982年生 和歌山市在住 劇団和可 代表
劇作家・演出家
深津篤史(岸田戯曲賞・読売演劇賞受賞)に師事。想流私塾にて、北村想氏に師事し、21期として卒業。
2010年に書きおろした、和歌山の偉人、嶋清一をモチーフとして描いた「白球止まらず、飛んで行く」は、好評を得て、その後2回に渡り再演を繰り返す。また、大阪で公演した「JOB」「ジオラマサイズの断末魔」は大阪演劇人の間でも好評を博した。
2014年劇作家協会主催短編フェスタにて「¥15869」が上演作品に選ばれ、絶賛される。
近年では、県外の東京や地方の劇団とも交流を広げ、和歌山県内にとどまらない活動を行っており、またワークショップも行い、若手の劇団のプロデュースを行うなど、後進の育成にも力を入れている

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