さよならまたいつか。

青黒い頬。赤黒く染まった耳たぶ。
下唇には堪えたときにできたらしい、血塊がうすくこびりついている。

17年ぶりの再会、たった半年の想い出。
とても軽いようで、貴重なようで、すごくちょうどいい。

去年の夏、長い空白をはさみ、お互いに少し太って老けた姿で待ち合わせた。

始めて会ったときからは20年が経っていた。
懐かしさと僅かに当時のほろ甘い想いの入り交じった気持ちが染み渡っていく。昔なかったハラを突き出し、私に向かって「そんな小さかったか?」と。互いの劣化に笑った。

むかしの淡い想いが鼻のずーっと奥の方で僅かにこみ上げ明けた。
が、息を吐き出すとそれはまるで違うものに変わった。
懐かしさはそれ以外の何でもなく、男、女、愛、恋、惚れた、腫れたはノスタルジアな「旧友」という大きなカテゴリーにみんな包まれていった。


私たちはただ居心地がよかった。互いの若い頃を知っている、それだけなのに、一緒に居て気楽で面白いことが、なんだか希少なことに感じた。

こっちに友人が少なかったから、それからもしょっちゅう私をよく飲みに誘った。
またいつでも会える。あたり前にそう感じていたから、仕事がいそがしいときは飲みの誘いを何度か断ったりもした。

一緒に飲む時はいつだって笑った。ただ気楽で面白かった。
40を過ぎて未だ結婚すらできない互いのことをバカだとも言い合った。
「うさぎなんか飼いやがって」とよく言われた。

年末に「忘年会しよや」と連絡あった。
飲み代を借りっぱなしになっていたので、「いいよ」と返事した。

以前からすすきののニューハーフショーはすごいんだ、と話していた。
ふたりでお酒とショーを楽しんだ。
3件ほど飲み歩き、「ほななー」といって深夜にわかれた。いつもの飲んだあとの帰りとなんにも変わらなかった。

結局それが最後になった。

それから約一カ月後の先日。夕方会社に私宛の電話が入った。
あいつが死んだと。

20年前すんだこの街に、たった半年しかいなかった。
最後の場所にここを選んだみたいに戻ってきた。


半年前、もうこの後の人生で再び会えることなど大して望んだりはしていなかった。
なぜ、また会わせられたのだろう。17年ぶりに私に会うことは何か奴にとって意味があったのだろうか。何かをあたえることができたのだろうか。

ただ、悲しませるための再会だったんだろうか。なら神様は意地悪だ。
あのまま離れた土地で、再び会うこともなければこれほどまでに悲しみに暮れなかった。

所帯もなく、布団のなかで一人冷たくなって死んだ。その時間すら確定できない。やつが逝ったとき、私は何をしている瞬間だったのだろう。
そんなこと、わかったところで何の意味もないのに…。

突然予告もない死は、周りの人間をひどく悲しみのどん底へ落とし込む。

親友と呼べるほどの深みはなく、ましてや男女の関係でもない。
互いに都合のいい飲み友達だった私たち。
手ごろでお気楽で、適当な飲み友達は、私にとってとてつもなく貴重な存在だった。


大概、大切なことはなくしてから気づくとよくいう。
例外なく自分もそういう人間だったのだろう。

「あんた、死んだのかい?」とLINEに送ってみた。
このメッセージが既読になることは、もうない。

都合の良い飲み友よ。さよなら、またいつか。








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