花火大会と浴衣とビール
子供のころ一発も見逃したくなくて「花火大会」に卑しかった自分。虫に刺されていることにも気づかず花火の虜になった。家に帰ったら赤い斑点に覆われた手足に塗布されたキンカンがきつく染みた。
その頃の私にとって、夏に花火を見ないなんて、東京に行ってディズニーランドに行かないも同然のことだった。
いや、もちろん東京に行ったからといって誰もがディズニーランドに行くわけでないことくらい今は理解しているが、当時東京は私にとって死にたいくらいに憧れた花の都「大東京」だったし、あれほど楽しいアミューズメントパークを他に知らなかった。それと同レベルに夏の花火には重きを置いていたのだ。
ときは流れ19の夏、はじめて浴衣をきて人生初の彼氏と花火大会に出かけた。
あの頃、浴衣をきて男と花火大会へ出かけることがどれだけ眩しい出来事だったか…。夏のデートの大道、花火大会。鼻緒で痛む足指間もなんのその、彼氏持ち女子のステータスをも向上させるイベントだ。
ほんのり漂う火薬のニオイにテンションは徐々にあがり、花火が打ち上がる度に、浴衣、男、花火の夏の恋愛三大条件を満たしてゆく。ラストのしかけ花火で乙女モードはマックスに達し、夏の恋の最高峰にたった(つもりだった)。
それからも着たり脱いだり、脱がされたりを繰り返し歴史刻んだ浴衣。19の花火大会の日、はじめて袖を通したそれは41の夏もまだ現役だ。しかし昨今の舞台はもっぱら花火大会からビアガーデンへと移ろいでいる。
余談だが夜空もそうだが、打ち上げ花火を見あげている時間が肩こり解消にも効果的だと聞いた。
男とどうとかよりも健康のために行ってみたいなどと考える自分に、もう恋愛欲はないのだな、と思った。
今年も浴衣を出してみた。それを横目にそとで誰かがやっている花火の音を聞いている夏の休日の夜。
冷えた缶ビールの冷気が右手に心地よく感じた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?