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「人に頼らないと業務が進められない者にはテレワークを推奨しない」

業務の上でブレーカーの入切作業を行う際には、低圧電気取扱特別教育という講習の受講が必要であることを皆様ご存知だろうか。

当該講習は座学6時間と実技1時間と1日をかけて行うものである。その実技の中で、開閉器の入切を安全に行うための実技研修を行うのだが、実際に受講したことのある人はご存じかと思うがそこまで難しいものではない。

講師による模擬が行われた上で、指差呼称(※)内容はプリントアウトされた状態で手元に置いてある。

※ゆびさしこしょう。
安全確認などの目的で指で差す動作を行い、その名称と状態を声に出して確認することである。

内容を覚えられた人は見ないで行えば良いし、覚えられない人はそれを見ながらやれば良い。

講師も「内容は覚えなくて良い。はっきりと大きな声で、指で差す動作を明確に行えばいい」という旨を、何度も何度も念を押すように言っていた。

この時の実技試験で、私は軽くカルチャーショックを受けた。

まず、そもそも声を出せない人が大半だった。

それだけでも驚きだったのだが、あれだけ講師がプリントアウトした内容を見てやっても良いと言っていたにも関わらず、それを見ようともしない。

その割に、次にやる内容を把握できないまま、呆然と突っ立っているのだ。

そこで講師が「内容を忘れたのなら、手元のプリントを見てください」と促すと、「漢字が読めません」と驚きの言葉を発した。

私は愕然とした。

これらが全て同じ人が発言したと言うのなら、偶々そういう人に当たっちゃったんだねですむ話だが、驚くべきことに受講者の半数はこのような感じだった。

ボソボソと蚊が鳴くような声で話し、指示が書かれた内容を読もうともしない。分からないなりに指示を仰ごうともしなければ、小学生レベルの漢字すら読めない。

「業務の上でブレーカーの入切作業」「低圧電気取扱特別教育」「閉器の入切」とあるように、この講習は電気を取り扱うための大事な講習だ。

この講習を受け、実際に業務に従事する者も居るだろう。その先の世界では、何割かの人間が毎年、感電死している。

この人達はそれを分かった上で、ここに来ているのだろうか。

失礼ながらにもそう、印象強く思った出来事だった。

「人に頼らないと業務が進められない者にはテレワークを推奨しない」

弊社のテレワーク条件の中にこう記されているのを見た瞬間、ふっと思い出されたのが下りの受講者達のことだった。

彼らはまさにこの条件に合致し、いわゆるテレワークを認められない人達に分類されていたことだろう。

当然、と切り捨てるのは簡単だし、そのような気持ちが少なからず私の中にあるのもまた事実だ。だが、本当にそれでいいのだろうか。

彼らには彼らなりの事情があったのかもしれない。

私には発達障害の子が居る。小学校での集団生活についていけず、特別支援級のある学校への転校を勧められた際、先生にこう言われたのだ。

「登校拒否だけは、もっとも避けなければならない事態です。せめて──せめて小学3・4年生の知識は身につけましょう。でなければ、社会で生きていくことは極めて難しいです」

そう、切に訴えた先生の言葉は、確かに重みがあった。

彼らが「そう」だったかどうかは私には知り得ぬことだ。

だが、しかし。このコロナ禍の状況で彼らのことをふと思い出したのは、私にとって契機だったのかもしれない。

どんな状況下においても、誰から見られていたとしても、同じことを伝えることはひじょうに難しい。

テレワーク中のWeb会議上で、痛切に感じた。

発表者が「ここ」「あれ」と言うが、何処のことだかさっぱり分からない。恐らく、本人は現実にしか映らないレーザーポインターで指し示していたのだろう。

テレワークのあるある事象のひとつだ。

そこまで類推でき、「ちょっと失礼します」とマイクで指摘出来る私は問題ない。

だが、彼らの場合はそこまで出来たかも分からない。黙って聞いたまま、齟齬が発生していたかもしれない。

そんな彼らに対して、テレワーク非推奨のレッテルを貼ることはとても簡単だ。

だが、ちょっとした工夫で回避もできる。

今回の例ならば、こそあど言葉を使わずに、パソコン画面上で映るマウスポインタで円を描くだけで解決できた内容だ。

アップル社のスティーブ・ジョブズ氏や、ソフトバンクの孫正義氏など常に人に見られていることを意識できている人は、その辺りがやはりとてもお上手である。

かつて、講習を共にした彼ら。彼らは彼らなりに、カイゼンすべき点は多々あるだろう。

しかし、伝える側の私達も歩み寄ることが大事だ。彼らの視点に立ったらどう見えるのかを考え、ちょっとした心遣いをさりげなく実行する。

ひいては、万人に私の想いを正しく伝える術となる。

コロナ禍による緊急措置的なテレワークの中で気づいた、些細な仕事術のひとつ。

このnoteを執筆するキッカケを作ってくれた彼らに感謝の意を込めつつ、筆を置かせていただくとする。

転職活動一発目の面接で心が折れた精神惰弱なわたくしに、こころばかりのサポートいただけると大変嬉しいです。