若葉荘A バカとはさみは使いよう。

- バカとはさみは使いよう -
第二話「バカとはさみは使いよう」

「…あの野郎電話切りやがった」
あいつはいつもこうだ。
何が
『大丈夫、大丈夫』
なのだろう
あいつがそう言って
大丈夫だった試しがない。
大体飲み会の誘いは計画的に行われるべきだろう?
なぜ,あいつはこんなにも計画性に乏しいのだろう。
昨今、巷(ちまた)で大流行している、通勤中のサラリーマン
『謎の失踪事件』
『社会的大転職時代』
と呼ばれる大規模変換期だからこそ
世の中の変化を実感してしまう。
昔から日本人は無限に働くように作られているのだろうか。
だがまあ、転職者が多いということは勿論だが定職につかない根無し草もい
る。
あいつはその生き方が楽ではないのを知った上でいろんなものを捨て
楽だと言い聞かせるように生きている。
あいつは、いつからああなった。
俺のせいなのだろうか。
たまにそんなことを考えてしまう。

『頑張らなくても良いんじゃないか?』
と声をかけたことを最近になって後悔している。
取り返しがつかない…
今の現状に俺は贖罪できるのだろうか。
考えすぎだ、、、会社にいたはずなのにいつの間にか居酒屋の前に立っていた。
いつもの場所、何時からか、柄でもなくこういうところに来るようになったな。
あいつは本当に…なぜ俺なのだろう。
「失礼します、、、お元気ですか?」
店主に挨拶をする。
無骨な50代後半だろうか。
いつからこの店があるのか。
わからないが、この値段でよく持つもんだな。
うまいんだがな…ここのから揚げ。
「元気だよ?なんだい?今日はあんちゃん1人かい?」
なぜあいつは…
自分で呼んだにも関わらず俺の方が着くのが先なのだ。
この件に関しては…
まあ新人とやらを迎えにでも行ってるのだろうか?
そんな柄じゃないな…
「違いますよ。いつものでかいやつも同じです。後から来ます。」
でかい、やつは熊くらいの体躯を持って仕事をしている。
ふつうあの体系だと疲れるものだ、しかし、それを本人は何も考えなくていいただ
それだけの理由で今の仕事をしている。
考えるだけで、いろんなことが、、、
「、、、ちゃーん、あんちゃーんぼーっとしてどうしたんだい?疲れてんじゃない
のかい?スーツの袖も汚れているし疲れてんだろう?飲んで大丈夫なのかい?」
心配そうな顔で店主が聞いてくる。
この人は本当に利益で行動してないのだろう。
「ここのから揚げがあるから、大丈夫ですよ。」
「なんだい、いきなり?!ナンパかい?
そういうのは若いお姉ちゃんにでもしな?最近はうちにもちょこちょこくるんだよ?」
ここに?!女の子が?来るのか?
…路地裏のこの人気のない見栄とは人
をこうも変えるのか?
にやけ顔になり言っている、、本当なのだろうか?まあ審議は定かではないし、笑ってごまかそう。
「わかりました。そうであることをにしておきましょう。」
急にクシャっと顔を変えた店主が言葉を返す。
「ほんとだよあんちゃん?!覚えておくがいいさ!」
そうこうしていると、準備ができたようだ。
「じゃあ、奥で待ちますね。」
最後にはにかんで、奥まで案内してくれる。
「じゃあ、兄ちゃん来たら案内するよ。」
会釈をして中に入る。
いくつかのメニューを頼み一杯目が届いたころだろうか。
襖があいた。総一郎だ。ジョッキを片手に入って来るなよ。
中ジョッキの音が空間を支配する。
一気に飲み干した後に思い出した、、、
「おい、総一郎。お前、要件の途中で電話を切ったな。」
ばつが悪そうな顔をして、熊が口を開く。
「すまん!悪かった!まあ、酒の誘いだし許してくれビール一杯目はわしが
出そう!」
相変わらず、間の悪い奴だな
まあ…
「そうか?ならまあ…許そう
しゃーないしな。でもなあ!…」
こんこんと、個室のふすまをたたく音がした。
いつもこんな感じだ。
話せるときに邪魔が入る。
こいつはほんとに間が悪い。
新人とは明るいもので、すぐに打ち解けた。
互いに挨拶を終わらせた。
俺は、居ても良いらしい。
久々にちょっとだけ、嬉しかった。
話もそこそこに、総一郎が泣きそうになるような話題が出た。
この話は本当に苦手だ。
酒で酔ったのか気でも迷ったのか
口が開く。
「まあ、いい時間だし、帰ろう…
現くんも楽しんでくれたようで何より
だよ。
あとまあ、過去の話は他人にとっていい思い出ばかりではないからね
覚えておくんだよ。
総一郎、今日は出すよ。気が変わったから。」
何かを察したのか、さみしそうな、総一郎が口を開く、
「いや悪い、、今日は頼んでもいいか?ちょっと疲れた、わしはこの子を送っていくよ。タクシー代は五千円渡しとく。ありがとね。」
感謝されるようなことはしていない。
やめてくれ、返せなかった。
お前のヒーローに俺はなったことはない。
帰り際、店主が何かを察したのか話しかけてくる、
「兄ちゃん、珍しいね酔ったのかい?あんちゃんにいじめられたのかい?
おいちゃんが怒ってあげようか?」
息が漏れるくらい笑った。
そこまで子どもっぽく見えるだろうか。
「ふっ、、別にそんなんじゃないですよ、まあ、少し酔ったので、タクシーの番号聞いていいですか?」
ちっちゃい名刺のようなチラシをもらい、電話をする。久しぶりだ。タクシーか…
仕事できるような、感じだろうか。
少し仕事が残っている。
帰りにあのバカとはさみのように鋭い新人に給料を振り込む手続きをしよう。
「どこまでですか?」
タクシーの運転手に聞かれた。最寄り駅から歩こう。
「ここまでお願いします。」
スマホの画面を見せ発車。
パソコンを出してを作業する
ここでも仕事か…
総一郎は、いつもの流れですぐ終わった。新人は少しめんどくさい。まあ、名前を検索して
仕事も検索して…
『該当なし』
…何かを間違えたのだろう。
斎藤 現…
引っ越し…
日付…
間違いはない酔っているのだろうか
いや、待て、そもそも
新人の報告なんて今回受けていない
連絡の不備なんてざらだ。
労働者リストを参照する。
『該当なし』
…おかしい
初任者リストを参照する。
『該当なし』
…おかしい、おかしい
説明会記録を参照する。
『該当なし』
…ありえない、うちの登録者リストで完全なる不備はまずない
どこか一つならまだあるが
説明会に至っては身分を証明できるものを提示するしコピーをもらう。
そのデータもないのは、不思議では済まされない。
ではあいつは誰だ?
なぜだ、なんで総一郎なんだ?
わからない。
だが、最近の事件で、こんなことをよく耳にする。、、、
やばい、、、どうする?何分過ぎた?考えている場合か?!
気が付くと、電話をかけていた。
「そこを、すぐに離れろ!変だ!うちの登録名簿に斎藤 現なんて名前はな
い、今そっちに戻ってるから、(ガチャ)そこで待ってろ!(ツーツー)」
運転手が、クスッと笑った。
「お客さん変なこと言いますね。
離れるのにそこで待つとか。はっはっは」
何を能天気なこと言ってやがる。
そんな場合じゃない。
焦りと怒りが、こみ上げてくる。
「悪かったなあ、運転手、悪いが戻れるか?現在位置はわからないが居酒屋から公園の方向に走ってくれ。」
バックミラーに映る顔は怒った時の
あいつと被る…
くそ…またこれか。なんでなんだ。
急かすように、運転手を睨む。
「は、はい!」
間の抜けた声の運転手に申し訳ないが声をかける余裕がない、早く戻ってくれ。お願いだ。
数分間、昔のことを思い出した。
総一郎が、目の前に落ちてきた。
大学で親しい友人の少なかった俺の友人。
当時インターンで入っていた
今の会社ではない人材派遣の会社現場の様子を見に行くついでに
立派に楽しくやっているところを見て欲しかった。
気が付くと人に押され、その場にへたり込み、手が震え、何もできなかったのを覚えている。
もう、嫌だ。
あの後あいつは、やつれて、今でもどこか生気がない。
なぜ、あんな目にあって、まだ、何かあんのか。
もう奪うなよ。神様がいるなら、、、、。
『あいつに何がある。、、、』
前方の座席に頭をぶつけた。
「公園です!はい!公園につきました。」
あいつと新人くんがたっている。
クソガキが…舐めた真似を、、、
「運転手、少しだけ待っていてください、まだ清算してませんので、、、逃げたら後ろのアンケート票に『未精算の客を置き去りにした』と書いてしっかり会社に報告します。」
そう言い残し、降りたと同時にゆっくりドアが閉じられた。
ハザードライトが付いた。
きびつを返しまっすぐと進む…足が速くなる。
思考がまとまらなくなって、きた、、
「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。」
新人君ににじり寄る。ボールペンの、ふたを外し、首を肘を押し当てるように抑える。
「うるさいな、今から言う二択にすっと答えてくれ、事のてんまつをつまびらかに話すか、、」
すっと、鼻にボールペンを入れて、しっかりと目を合わせて、口を開く、、

『このまま、奥にペンを進めるか。』

肩をつかまれ制止する。誰だこんな時に、、、、
「やめろ、多作巳。違うから、、、敵じゃない。説明もする。この子からちゃんと。」
総一郎か…
いつになく真面目な顔で…
「なんだ、こいつがそんなに大事か?!こいつは何なんだよ!!」
大きい声で、怒ってしまった。
手からも力が抜ける。
「ボールペン抜いてもらっていいですか鼻血が止まりません。」
「すまない、、、」
ボールペンを抜く
じんわりと血が出ている。
ボールペンの血を振り払い向き直る。
その後どうしてこうなったのかを聞いた。要するにファンタジーでちんぷんかんぷんだった。
「、、、、にわかには信じがたいな、そんなこと、あるわけないだろう、その話が本当なら、総一郎はそんな魔法のようなことができるのか?まずそれ信じたのか?総一郎。」
「うん、信じた?まあ、なんも困ることないしな。」
アホ面が…
なんだか、こいつを助けるために奔走した自分が馬鹿に思えてくる。
「お前はどこまで馬鹿なんだ。よくも考えずに、契約を結んだのか?クーリングオフだな。」
「お前こそ、バカかよ。そんなこと、できるわけねえだろ!」
薄ら笑いで、先ほどから見ていただけの新人君が口を開く。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
「「バカにしてんのか?!」」
バッと顔を見合わせて固まる。
「い、いや、なんでも言い合える仲ってことなんじゃないですか?。多作巳さん、提案があります。私のことを信用できないのはよくわかりました。では、総一郎さんははどうでしょう。」
「んー…不安だな…
能力に対しての信用がそもそも無い上に、、、」
総一郎が、それを遮る。
「よし!!!やってみよう!!まずは何事も挑戦だ!!」
「バカか、、まあ、、でも確かにそうだな。話は正直半分もわかっていない。でもなあ、、」
こいつの能力は
正直腑に落ちないところが多いが
これもきっと贖罪なのだろうか。
「…わかった」
「その意気だ!!んで?お前は何になりたい。」
なりたいものか…
「ヒーロー…だな」
きょとんとした顔でこっちを見るな
アホ面。
「ん?なんて?」
「俺はお前を守れなかった。だからこそ、何者にも負けない英雄でありたい。」
「はぁ、、、お前まだそんなこと、、、まあでもよくよく考えたらお前は俺のヒーローだ!」
嬉しかった、けどなんだろうな、今更になって少し恥ずかしい。
総一郎の手を握る。
恥ずかしそうに総一郎が口を開く。
「なんだか恥ずかしい…じゃあ、なりたいものを強く思い浮かべてくれ、、、『夢は糧によって芽吹く』」
キン!という音とともに指輪が変化する。そして、額に小指が当たる。小指から強い光が出た後、目がくらむ。
目を開くと、小指から出血している総一郎が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫か?お前がなりたいものになれるかはお前次第、そして、お前が思い浮かべたものになる。けど、お前は間違いなく俺のヒーローだから…。」
光が額に集まるように収まった。お前を、あの時目の前にいた,お前を
俺は…
俺は救いたい…動けなかった…
お前を…俺は、、、
「おーい聞こえるか?しっかりしろー。」
どうやら終わったらしい、疲れたのか、足が少し重い。
「お前の足元に水たまりなんかあったか?」
こいつはこんな時に変なことを聞いてくる。暗くて気が付かなかっただけだろう…
いや今日は快晴だ
しかも、輪郭が結構きれいな丸みを帯びている。
「なんでしょうね。なんか小さいうねうねしたものも出てますよ。」
しんじ、、、現君といったか、、、なんだそれはそんなもの願ったわけではない。
「多作巳、、、動くなよ。ちょっとわしら、後ろに下がるから、なんか変だ。わしが設定したのは『痛みが少し長引く』くらいのものだ。なんか変だよn、、、、」
総一郎の言葉の途中、景色が変わった。点滅するハザードライト。タクシーだ。
おかしい、後ろの景色が見えるはずが、、声がでない!
あー…首が180度回ったのか…!!!
全身がピクリとも動かない。
どころか、全身が捻りきられるように鈍く痛い!痛い、、体中に痛みが走り数秒、ようやく景色が見えるようになったが、手を地面についた。
「おい!離せ現屋!」
後ろから、総一郎の声がする。振り返ると肩をつかまれた。
「多作巳!お前、大丈夫なのか?!首が回って、、目がはじけて、、」
おいおい…そんな状態だったのか?!
喉が痛すぎてしゃべれない、、、
すっと、見慣れないスマートフォンが目の前に差し出される。
「大丈夫ですか?喋れないんであれば、こちらお使いください。」
現君が様子を見かねて、自分のスマホを貸してくれたらしい。
テンキーに慣れていないこともあるが、何より全身の震えが収まらない。何回かタップしてようやく言葉を紡ぐ。
「『いたい』」
総一郎が見たと同時に、安堵したような表情を浮かべる。
「よかった、、、生きてた、、、
ほんとにいがったよー。」
袖で鼻水を拭い、ぐちゃぐちゃな顔をしている。
「『かおをふけ きたない』」
むすっとした総一郎が仕事用のタオルで顔をふく。可愛げのない。
痛みは凄まじいが、この感覚にも少しずつ慣れてきた。
さかむけを逆に引っ張ってしまったようなジンジンと痛む感覚が全身に広がるようなこの感覚。
ほんとにいたい。
「『ローマじ うちたい』」
少しの操作の後、現君が携帯をまた貸してくれた。
「『どんな状態だったか聞いてもいいか?、正直、全身痛くなった後、ブラックアウトした感覚だ。しっかり信じたが、周りの状況が分からないのはホントに不思議な感覚だな。』」
目を見開き、しっかりとした顔で、総一郎が口を開く。
「お前が、爆発したの!心配したんだぞ!」
爆発?
爆発したのか?!
、、、ほんとに?!
「それではわかりませんよ。簡単に言うとたぶんあなたは、、死にました。なんというか。なぜ生きているのか不思議なくらい、ねじられてました。」
血圧により破裂したのか?理由はよくわからないが全身が血まみれなのはおそらくその時の出血だろう。
「『血まみれな理由はよくわかった。痛みが引かないのは?』」
「それは、先ほど説明した、デメリットの設定ですね。」
「『総一郎のせいか。なら仕方がない。』」
「仕方ないでいいのか?!でもなんで、お前の体は無事なんだ?俺にはそこまではよくわかっていない。まず、お前は何を思い浮かべた?」
「『秘密だ。そういうこと聞くからお前は昔からモテない。』」
救えなかったあいつの姿が頭をよぎった。あの痛みにも耐えれるように体が戻れば、戻り続ければ、、、
何度でも、、戦える。
たとえ社会が、俺の敵でも、、、、
不屈の戦士、、違うなあ
何度でも立ちあがる。目の前の巨悪が消えてしまうまで。
なんて考えた。
たぶんその影響か、、、。
「『寒い。服を着替えたい。タクシーに乗ろう。』」
寒いし、痛いな。冬は苦手だ。
「その格好で乗るのは待ちましょう。黒いローブみたいなの出っぱなしですし、手に何か手帳みたいなの持ってますけど、それは何でしょう?」
視線を下に移す。
確かに薄い手帳のような…
開くと『残高』と書いてある。
金額は、、、、
見たことないくらい0が並んでいる。
そんな中、呆気に取られている総一郎がしゃべった。
「待て待て、そんな金額、、んー新築のマンション買えるな、、、」
「『これは通帳のようだな、ページをめくると送金もできるボタンのようなものが出てきた。とりあえずこの能力のお礼だ。40%ほど入れておくよ総一郎。』」
「税金が怖い、そんな額面急に入れないでくれ。俺に考えがある。あとで話す。」
「ちょっと待ってくださいよ!とりあえず変身を解く前にこの額面に驚かないんですか?!」
「んー?こいつの命はこんなもんじゃ買えないだろう?」
「はあ、、まあその恥ずかしい発言どうにかしてくださいね、、。」
念じるとローブのようなものが空中に霧散した。しびれは残るが動けそうだ。
「『のどは痛すぎてしゃべれない、悪いが少し肩を貸してくれるか?』」
「わかった。、、、タクシーは待ってもらってるんだよな?じゃあ、ヤマタカ行こう血が止まらん。」
ヤマタカとは町にある薬局。
風貌はそれに似つかわしくなく
ネオンライトのようなものが点灯している。
こいつが金のない時、治験のバイトをもらいに行ったりする。
俺からするとすごく怪しい店なんだがな。病院だと大事になるだろうし、仕方ないか、、、。
「僕もそろそろ、ティッシュが欲しいですね。鼻血すごいし、、、。」
それに関しては謝る気はないよ。
疑わしい動きをした君にも責任はあるからね。
ほどなくして、タクシーにたどり着いた。
ドアを軽くノックした。
青ざめた運転手がおびえた表情でこちらを凝視し固まっている。
まあ、総一郎に話すのを変わってもらおう。
肩をたたくと総一郎は察してくれたよでよかった。
「こいつは、酔った勢いで公園の木によじ登ろうとしたんですよね~それを止めたり受け止めようとしてこの様ですよ、、、。
見た目より軽傷なので薬局に行きたいんですけど、ヤマタカわかります?」
こいつ絶対痛みが引いたら一発殴ろう。
「そ、そそ、そうだったんですか?
とても軽傷には、、、
ま、まあ行きましょう!!なるべく早く!」
まあ
鼻血少年とか
血まみれサラリーマンとか
よくわからないが血が出ている男の人とか…気が付くべきだったな
この後も終始無言の車内で運転手の緊張感だけが伝わってくる。乗せてくれるのは申し訳ないが有難い話だ。
目的地について、お金を渡すとき
マナーモードの携帯くらい手が震えていたが
「またのご利用お待ちしております。」
って言ってた運転手には素直に感謝だな。
さて、今から向かう場所は、街中でも屈指の怪しい場所。
噂によると、最近の失踪事件にも関わっているとか、いないとか。
総一郎が
「治験のバイトガンガンくれるから嬉しいんだよなー副作用3%だぜ?すごくね?それで五万はうますぎ。」
とかほざいていたが33人に1人副作用出るんだろうが、とか思ったことを今でも覚えている。
そんなことを考えていると
見えてきた。
『どらっくすとあヤマモトタカシ』
ネオン管が消えていて判別できる文字と妙なゴロの良さから『ヤマタカ』と呼ばれている。かかわるのは初めてだ。
薄暗い店内に入ると漢方のような独特の甘い匂いと、丸眼鏡に、丸い帽子の老齢な店主が総一郎を睨みつける。
「痛み止めや仕事はないぞ。総一郎、貴様は用法容量という言葉を覚えろ。当たり引いても体がぴんぴんしてるのに、痛み止めをあんなに多量に摂取するなよ、、」
聞かないようにしよう。仕事の話をしているようだし、聞いてはいけない話のようだ。
ティッシュと包帯、、どこだう、、、
ひとしきり怒られた総一郎がしゅんとした顔で、こっちに来る。
「あーもう、、、お前も、糸目も怒りすぎだ。ほんとに落ち込むわー、、、タバコ吸ってくる。買い物は頼むな。欲しい物入れてくれ。」
金もないのに、良く言うものだ。
まあ、ゆっくり探すか、、、、。
「何かお探しかね?総一郎の知り合いにしては静かだね。」
「彼は少しのどをやっていまして良ければ私が、、、。」
見かねた現君がフォローを入れてくれる。
「いいんだよ。こういうお客さんもうちには多い。なにか書くものはあるかね?」
そうだな、、、スマートフォンで話はしてもよさそうだ。
「『すまない、名乗り遅れました、伊藤多作巳と申します。包帯と、ティッシュはありますか?』」
店主が、目を丸くしてスマホの画面を見る。
「こっちにあるよ、まあ、そこら辺のやつ適当に見繕っておこう。」
この店内、人の視線感じると思ったら壁に大量の仮面が飾ってある
南米のよくわからない怖いお面
中華料理屋の奥の棚にある子どものやつとか、なまはげまで、、、
「『これは、趣味なんですか?』」
少し驚いたような顔の店主が、答える。
「まあ、そんなとこだね、ほら、いるだろう?。あのーご当地のキーホルダー集めてる人みたいなものだよ。興味があるのかい?」
少しうれしそうに答える
正直に言えば興味はない。
しかし、、、
「『いえ、初めて見るもので、少し気になってしまって、、』」
「総一郎のやつは興味ないからね。こういう話ができるのも稀なんだよ。良ければ老人のつまらない話だが聞いてみるかい?」
あいつは興味ないことにはとことん反応を示さないからな。
「『少しだけなら。』」
「この仮面はね、、、、」
数分が過ぎた。
仮面とは案外面白いものだな。
いろんな種類があって、ドラマがそこにはある、、、
「最後に、こいつを紹介しておこう。」
「『カラスでしょうか?』」
二つの大きなレンズにくちばしのようなデザインまさにカラスのような形のこれはハロウィンなどでたまに見るな。
「まあ、そう見えるよね。これは医療マスクの一種なんだよ。黒死病を知っているかね?」
「『知識的には知っておりますね。』」
世界的な病の一つだ。
多くの死者を出した病で、全世界を絶望で満たしたとかなんとか、聞いたことがあるが体験したことはない。
「その時に、患者と関わる時に使われたのがこのマスクで、お医者様は皆このマスクをしていたそうな。」
患者には、正義の味方今でいう戦隊もののように映っていたのだろうか?
「『では、正義のマスクなのでは?』」
深く鼻から息を抜き、店主が少し憂鬱気に言葉を漏らす。
「そうでもないさ、このマスク自体もそうだが、当時の治療法にまともなもの等ほとんどなかった。だからこそ
このマスクはお医者様というヒーローの象徴であり、ペストという死の象徴ともとれるのさ。」
「『なるほど、またこのマスクにも不思議な話があるんですね。』」
多少の沈黙の間、頭をよぎる。このマスクは希望を与えたはずではあるが、どうなんだろう死の間際、人は何を考えt、、
「まあしんみりなるのは、終わりだよ。総一郎のやつも待っているみたいだし、そうだな、、、老人のつまらない話を聞いてくれた記念だ。一つ持っていくといい。」
考えの途中で遮らないでほしいものだ。
…今何と言った?!もらっていいのか?
「『いいんですか?大切なものでは?』」
「まあ私が持っていても別につけている訳でもないし、あなたは大切にしてくれそうなのでね。おひとつ好きなのを持っていくといいよ。」
持っていくならこいつだろう。親近感を感じた。本物の英傑に、、、このマスクとともに、、、。
「『ありがとうございます。では、最後のこいつをもらいますね。』」
老人が少し楽しそうに答える。
「そうかい、今日は楽しかったよ。また来ておくれ。」
マスクからは、この店の漢方のような匂いがした…。

NEXT
伊藤 多作巳 (ペスト兄さん)
【能力】漆黒遷体 カンパニーブラック
強制的に肉体のステータスを跳ね上げる。肉片になっても死なないが痛みはすさまじい。痛みは完治後も一定時間残る。付属している通帳、通称【労災手帳】には肉体の損傷度合いに応じて保険金が振り込まれる。変身時以外保険適応はない。一般口座への振り込みも可能で、その際は最寄りの銀行から振り込まれたかのように偽装がなされる。
普通に税金はかかるぞ!!

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