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【漫画レビュー】「イサック」中世ヨーロッパの戦場を駆けるサムライ

今日は私の今一押しの漫画「イサック」をご紹介します。
時は17世紀、カトリックとプロテスタントに分かれ互いに激しく争っていた神聖ローマ帝国で、傭兵として戦っていた日本人のお話。
連載は講談社月刊アフタヌーン誌で、2021年9月現在11巻まで刊行されています。

まず驚くのが、日本人傭兵は史実として実在したということ。
ちょうど日本では戦国時代が終わりを迎え、戦う場をなくしたサムライたちが当時交易のあったポルトガル・オランダ・スペインへ傭兵として渡っていったそうです。その数少なく見ても数百人はいるとか。

そんな傭兵の一人が、本作の主人公のイサックです。
本名は猪佐久(いさく)。
鎧を身にまとい、手にするのは日本刀と一挺の火縄銃。
彼はこの火縄銃の名手、というか超人的な射撃の腕の持ち主で、350歩(一歩70センチとして約250ⅿ)の距離からヘッドショット決めてしまうほど。

そんな射撃の腕を買われ、イサックはオランダの貴公子ハインリッヒと一緒に戦うことになります。当時契約だけの繋がりであった傭兵に対し、イサックは無欲でひたすらハインリッヒのために、オランダのために戦います。
何故なのか?それはイサックが遠路はるばるオランダまでやってきた理由にありました。
イサックは言います。「親方の仇を討ち奪われたものを取り戻す」「オランダは俺を傭兵として戦場へ連れてきてくれた、その恩を返す為に俺は戦う」

イサックこと猪佐久は日本の堺において、凄腕の鉄砲鍛冶である芝草佐平の元、弟子の練蔵と共に日々鍛錬を重ねていました。
この佐平が誰でも簡単に精度の高い射撃が出来る、という「この世の戦を終わらせるほどの銃」を開発します。佐平はこの銃の作り方を「仁」と「信」の二挺の銃の銃身に刻み、猪佐久に託そうとしますが、もう一人の弟子である練蔵が「信」を奪い佐平を殺して逃げてしまいます。
この練蔵という男、自分が死にかける刹那に快感を覚えるという、戦の中でしか生きられない危険人物。戦のない日本に用はなく、南蛮に渡りこの銃で大波乱を巻き起こそうという魂胆なのです。
イサックは「信」を取り戻す為に、また親方である佐平の仇を討ち、恩に報いるためにロレンツォを追いかけていたのです。

この練蔵もロレンツォと名を変え、敵方のスペインに雇われイサックが持つ「仁」を狙っています。このロレンツォもイサックと互角の射撃の腕の持ち主。この二人を軸に、物語は進んでいきます。

この設定だけでもう十分に魅力的ですよね。
甲冑に身を包んだ騎馬兵や、ヨーロッパ風のお城の中で一人たたずむ黒髪のサムライ、イサック。「ナイフで切ったみたいな目」と例えられた切れ長の鋭い目を持つイケメン。銃撃はもちろん、実は刀でもめちゃくちゃ強くておまけに戦術にも長けている。
なのに旅の途中で一緒に行動することになった、鍛冶屋の孫娘ゼッタに対しては優しいお兄ちゃんのような表情を見せるんです。

そして、イサックを取り巻く登場人物も個性豊かです。
先ほど出てきた鍛冶屋の孫娘ゼッタの、野の花のような可憐さ。それでいて風や天気を読み、けがの治療もし、イサックが腕をけがして銃を撃てないときには片腕となってサポートもするし銃の手入れもこなすという有能さ。それも、イサックの役に立ちたいという一心なのがいじらしい。
イサックの雇い主であるオランダの貴公子ハインリッヒは、継承権を持っていませんがその戦いぶりで周りから尊敬を集めています。貴族なのにとても礼儀正しく下々のものにも優しくそしてイケメン。イサックとはもはや雇用関係を超えた、戦友と言うべき信頼関係を築いています。

他にも、ちょっとお調子者だけど機転が利く商人のクラウスや、甲冑に身を包み最前線で戦うことも辞さない女男爵のエリザベートなど、絵になるキャラクターが目白押しですが、何よりラスボスともいえるロレンツォの怪物っぷりが凄まじいです。味方とか敵とかどうでもいい、戦い自体が目的なので雇い主も殺すし平気で裏切るという悪魔のような男。イケメンなんですけど。

物語の中で繰り返される壮絶な戦いの中で、絶体絶命の場面を何度も射撃の腕とアイデアで切り抜けていくイサックは、果たして銃を取り戻すことは出来るのでしょうか?そして親方の仇は打てるのか?

美麗で重厚な中世ヨーロッパの雰囲気が、歴史好きにはたまらないでしょう。戦闘シーンはかなり激しくハードな描写になっているので、ちょっと苦手な方は要注意かもしれません。

遠い昔、遠い異国にいたかもしれないサムライの物語を、ぜひ。



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