夜を歩く

真っ暗な夜の闇を歩く。今夜は月がこうこうと世界を照らしている。目線を下ろしたら、細長い僕の影が伸びていた。夜なのに影が出来るだなんて知らなかった。袖をまくり上げた腕を見ると、うっすらと肌色をしていることが分かる。ここには街灯は一つもなく、夜になると辺りは暗闇に包まれるため、昼間に見えている世界とは全く違う景色が広がっている。空を見上げると、ぽわんと浮かぶ月が僕を見ている。近づきたくて、月に向かって歩き出した。

ふいに腕が引かれた。隣にいる君が不安げな目で僕をうかがう。引かれた腕を優しく振り払い、小さな君の手のひらを握りしめる。君は少し驚き目を見開いたあと、ぎこちなく笑った。

「なんだか優しい夜だね。」

突然君が言った。僕と同じことを感じていたのかと、目を見張る。


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