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向後万端

 先日、20歳台前半の女性と話していて、【男はつらいよ】の歌をまったく知らなかったことに、世代間のギャップのショックを諸に顔面に受けました。

 けれどもよくよく考えてみれば、私の同世代でも、私のように浪曲や古い言葉・言い回しに興味がある人以外は、きちんと歌詞を理解している人は意外に少ないように思います。

 特に何げなく聞き流してしまう台詞(セリフ)の部分。

【男はつらいよ】では、冒頭とエンディングに台詞があります。

※冒頭

「私 生まれも育ちも、葛飾柴又です。
 帝釈天(たいしゃくてん)で産湯(うぶゆ)を使い、姓は車、名は寅次郎、
 人呼んで、フーテンの寅と発します」

 さて、問題はエンディング。

「とかく、西に行きましても東に行きましても、土地土地の、お兄貴(あにい)さん、お姐(あねえ)さんに、ご厄介(やっかい)かけがちなる若造です。

 以後、見苦しき面体、お見知りおかれまして……」

 さて、このあとです。
 発音は、

「きょうこうばんたん、ひきたって、よろしくおたのみもうします」と、なりますが、これは、

「今日、請う、万端」では、ありません。

「きょうこうばんたん」とは、

『向後万端』と書きます。

 意味は、

 今、この時から後(のち)、つまりこの先『万端』……これは、あらゆる事柄において、という意味。

 ちなみに、「きょうこう」ではなく、「きょうご」と読むこともあります。

 有名なのは祇園精舎から始まる平家物語。
 そこちゃんと出てきます。

「向後(きゃうこう)傍輩(はうばい)のため奇怪(きっかい)に候ふ」

 これを訳すと、

「今後、仲間のためには、けしからんことであります」と言う、ちょっと難しい意味になります。

 でもまあ、今では映画の中で桑田佳祐が歌うくらいですから、まあ若い人もぜひ、古臭いと馬鹿にせず、ちょっと前の時代を振り返って、後ろ向きに味わってみるのも、きっとこれからの時代、おおいにためになると思うのであります。

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