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未来人との会話

 自分で自分のことを「未来から来た未来人」だと告げる謎の人物が、私にいろいろと、これから起きることを予言してくれた。

「なんでそんなことを、わざわざワシに教えるんや?」
 と、たずねたら、どうやら私が小まめにブログなどに長文を投稿していることが気にいったようで……、
 私がこのことを公表することによって、ほんの少しだけ歴史に変化が生じ……まあ変化といっても、山口市の南部、秋穂(あいお)の浜で投げた石が太平洋という歴史の海に与える影響ほどでしかないのだが……、
 逆に影響が大きすぎると、歴史がのたうち回って変化するので、非常に危険であるらしい。

 とにかく、私くらいの量と質と文才と影響力が、彼らにとってはちょうどいいらしいのである。
 それで、ほんの少しでも歴史の純度が変わることに意味があるのだとか……嘘かホンマか知らんけど。

 そのオッさんが言うには……

「オッさんとちがう、我輩は、れっきとした未来人や」

「未来人であろうが過去人であろうが、いつの時代でもこの地球上でその風貌してたら、それはオッさんなんや」

 つまりその未来人が、未来の学校で習った「歴史」というのが、今の我々にとって、これから先に起きること、ということになるわけであるから、ややこしいが興味深い。

 ただし問題がひとつある。
 この未来人のオッさん、歴史が苦手で、高校の時は世界史と日本史の両方とも単位を落としたらしいのである。

「じぶん、アカンやん? ソコは一番だいじなとこやんか……」

「こんなことになるんやったら、我輩ももっと歴史の授業をまじめに勉強しといたらよかったわ、少なくともこのことは、この時代の若い子らに、いの一番に伝えたいとこやな」

「そこだけは、妙に説得力があるな」

「失礼な、そこだけって、何やねん?」

「ところでな、未来人のオッさん、じぶん、トランプ って知ってる?」

「知らん」

「カードゲームで、スペード とか、ハート とかあるやつ」

「見たことも聞いたこともない」

「ほんなら、トランプ ゆう人物は?」

「知らんなあ……スーパートランプやったら、友達がレコード持ってるけどな」

「レコード? さすがにCDなんかはなくなってても、音楽はもっと他の媒体になってるんとちゃうん?」

「何ゆうてるのん、音楽は何と言ってもレコードやで、裏表があって、あれは世の中のすべてを象徴してる、人類が生んだ傑作的記録再生装置やな」

「それ、何年の話なん?」

「我輩は2060年生まれで、3001年の5月24日にタイムマシンに乗ったら、今日、こうして山口に着いたんよ、ごっついな、カエルの鳴き声」

「ということは、およそ80年先か? ……微妙やな……少なくとも、日本語は残ってるということやな?」

「あたりまえやん、日本あっての地球やで」

「マジ? ほんで、アメリカは?」

「アメリカ? ああ、なんや20世紀にブイブイいわしてた国やろ? ユダヤ人がみんなイスラエルに行ったてしもうてから経済が行き詰まって、アメリカ合衆国自体はつぶれてなくなって、南北が分断して、さらに小さい国ばっかりの昔のヨーロッパみたいになったんが、それが我輩が生まれるちょっと前のことや。
 第4次世界大戦が終わったんが、2045年やさかいにな」

「聞き捨てならんがな? 第4次世界対戦は、どことどこが戦って、結果、どないなったんや?」

「そやから、まあ、おおざっぱに言うたら、アメリカ イギリス フランス イスラエルとやな、ロシア、インド、ベトナム、日本やな」

「日本はアメリカ側につけへんかったんかいや?」

「それは第3次大戦や。 その時にヨーロッパとアメリカとロシアとインドの連合軍がまとまって、みんなで中共をつぶしてん。日本は後方支援やけど、なかなかええ仕事をしたんや」
「なるへそ」
「それで戦後にロシアとアメリカが中国の市場の取り合いをして、日本は後方支援で頑張ったのにアメリカが独り占めしようとしたから、ついにアメリカを捨てて、次はロシアに乗り換えたわけやね、それでめでたく北方領土返還や、ニシンや数の子が安なったがな」

「そんな些細なことは、どうでもええねん」
「ぜんぜん些細なことやないがな」
「それから?」

「それで、この頃から日米間は冷え込んで、2044年に第4次大戦が始まった時は、アメリカ、イギリス、フランス、イスラエル が、昔の日独伊みたいな悪者になって、日本はロシアやドイツやイタリアやインド、ベトナムなんかと一緒に勝ち組に入って、そっちの方で仲ようなったわけや。
 そやから我輩も、ハンバーガーより豚まんより、小さい時からピロシキが好きやねん」

「朝鮮半島は?」

「知らん」

「北朝鮮とか、韓国とかは?」

「そんな名前、歴史の教科書に出てけえへんかったもん」

「なるほど、そら教科書問題や歴史認識で文句言いよるわけやな……納得や……それで、日本はどないなん?」

「アメリカと手ぇ切れてから一気に繁栄したんよ。国民全体が裕福になってん。そこからずっと、我輩らの時代までルンルンで、ハイテク技術とか量子学とか、日本がやらんと、他ではようしよれへんねん。
 そやから、タイムマシンもメイドインジャパンでないと危のうてかなわん。よその国のメーカーのんやったら、いったいどこに飛ばされるかわからんからな」

「ところで、消費税は何パーセントや?」

「そんなもん、とっくの昔にないよ」

「あっそう……それで、ほんまにトランプって知らんか? 大統領候補の……」

「知らんわ……マジで……」

「ほんなら、念のため聞くけど、マスゾエって、知ってる?」

「そんなん、そんな名前知らんかったら日本人ちゃうやん、イチローよりも有名やで」

「え〜〜!」

「東京駅の前に銅像たってるねんで、マスゾエの」

「なんでや!」

「2021年か22 年かに、東京駅の日本橋口で、転んで頭打って死によってん。それで喜んだ都民が金出しおうて、死にかけてるのに、まだ札束握りしめてる銅像を建てたわけや、それからは腐敗と天罰の象徴としていつまでも都民の記憶に残すためにな」

「すごいな……今までの日本人には、なかった発想やな」

「ついでに、顔にマスク二枚つけて、犬抱いてるおっさんの銅像も、いろんなとこに建ってるで」

「まるで韓国人みたいや」

「そやから、韓国って国、知らんっちゅうねん。そやけどな、それからや、マスゾエの銅像が建ってから以降、あそこまでガメツイ政治家はおらんようになったんは。
 そやから、そのことは、ようテストにも出るんよ、その後の日本の政治家のあり方を大きく変えた、象徴的な出来事は何か? ゆうて」

「なるほどな……それなら理解できるわ……それで、第3次でも、第4次でも、戦争で核兵器は使われへんかったん?」

「最初にヤケクソで使うたんが中共やねん。チョコっとやったんやが、それで世界中の怒りを買ってやな、そのあと核で袋叩きされたわけやね。
 まあ、北京だけを狙い撃ち……そらもう、一瞬で勝負ついたで、人工衛星からドピュッ とピンポイントでおしまいや、こんなあっけないもんなんかと、世界中があきれたくらいや」

「ほんなら、核で世界は滅びんかったんや?」

「その頃の核兵器には、車の排ガス規制みたいに、放射能規制のための触媒がついてるから、汚染自体はあんまり気にせんでようなってん。その技術を開発したんが、何をかくそう日本の企業なんや、マスキー法案の恩恵やな」

「へえ〜〜〜〜!」

「そやけど、いまになって問題がでてきてん。なんやカタログデータに嘘があったらしいねん」

「それ、もしかして、その技術を開発したんは……」

「ニッサン ゆうメーカーや、元は何をつくってた会社かは知らんけど」

「車をつくってたんや、なるほどな……結局のところ、そういうことか……いろいろと、つじつまがあうわ」

「もっと聞きたいか?」

「そやな、そやけど、その前にちょっと、一眠りするわ、おやすみ」

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