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ホントの幸せ

🏫 私には、後々の人生の根幹をガッシリ握りしめて、グイッと傾けて……いや、価値観の方向付けの型をつけて下さった恩師……(先方にはその自覚はない)……が、何人か居ます。
 その中のお一人。著名な文学者であった大先生。11 年前にお亡くなりになりましたが……。
 私が関学高等部1年生の時、古典の授業のあと、ホンマに世間知らずというか、怖いもの知らずというか、今思えば赤面もの、青臭く沸騰した"じゃまくさい向上心"で、廊下を歩いて職員室に戻るところの"せんせ''をつかまえ、
「せんせ、人間のホンマの幸せって何ですか?」と、あまりにストレートで馬鹿な質問をしたのでありんす。
 すると大先生、この大上段から斬りつけた無謀な質問に対し、少しも表情を変えず、躊躇せず、間髪入れず、淡々と。
「クボくん、人間は、自己を表現しうる時に真の幸福感を体感できるんだよ」
 さらに、
「自己の内面を見つめ、そこで見つけたものを表現しうる時にね」
「えっ?」
「だから、書けばいい。何でもいいわけじゃないよ、表現する価値があるものを書く。何を書けばよいかわからなければ、探し続けるんだ。外ではなく、内側をね」
「は、は、はい」
 それで、また歩き始めた大先生が、今一度足をとめ、私を振り返り、
「あっ、言い忘れた。今言ったことは、学生の時だけじゃないよ、一生、死ぬまでの課題だから……それから、人間はいつからだって、新たな道に歩みだせるんだ。これから色んなことに出会うだろうけど、まちがいなくそればイバラの道だ。でも決してあきらめるんじゃないよ」
 15〜16歳の若造が体験した、ほんの1分ほどの、今となれば、夢、幻のような語らいが、その後半世紀近くも私の全身を支配しているのです。
 私は、真の幸福感を得たい。
 できれば、継続的に。
 たぶんその代償が、今の懐具合なんでしょうな。
 羽振りのええ時もあったんやけどなぁ……。

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