人生の総括
思春期、自分の顔や身体や性格や生まれや育ちや家庭や家族や環境……すべてがとにかく大嫌いでした。
大嫌いだった「家庭」は、ある日を境に両親のすれ違いと食い違いと衝突が繰り返され、私の住処は修羅場と化し、あっというまに崩壊しました。
そらもう、びっくりしましたよ。
子供としての、それまでの現実、常識、環境の船底、干渉の論理や意義、さらには彼我……そんなもんは、すべて砂の城やったわけで、最後に、北風よりも太陽よりも強かったのは、家庭裁判所でした。
いずれにせよ、自分の育った街が目の前で空爆されて破壊されて燃えあがるのを見ている気分は穏やかではありません。
『七人の侍』の、左卜全 やないですが、人間とは、限界を超えると笑わなしゃあないみたいです。
私は、ほんまに笑いました。
それでも不幸はさらにこれでもかとばかりに連鎖し、その渦中で私はまるで悲劇の映画の主人公になった気分になり、嵐にもまれる帆船のごとく、オズの魔法使いのお家のようにクルクルとまわりまわっているうちに妙なエクスタシーを感じ、ある時静寂の中でふと悟ったような気分がしたと同時に魂のエレベーターが上昇しました。
その時、エレベーターの窓から見えた景色は、それまでの世界とは一変していました。
あんなにつらかった運命も、すべては滑稽な喜劇だったのだということに気づいたのです。
カードが一枚、美女のスカートのようにヒラリとめくれた、照れ臭くもハッピーでラッキーな気分でした。
チャップリンは偉大でしたね。ええ言葉を残しています。
「人生は、クローズアップすれば悲劇だが、ロングショットで撮れば喜劇になる」
まさしく芯を突いてます。熟練のカリスマ鍼灸師のようです。
肩を張ることも、背伸びをすることも、強がることも、卑屈になることも必要とせず、ただひたすら喜劇の主人公である自分を楽しめばいいのだ。
この経験はものすごくその後の人生を生きのびる為の筋肉になりました。
今から思えば、トータルして、相当幸運だと思います。
そうこうしているうちに、少々のことでは自分は潰れない。壊れないのだと信じれるようになりました。
やがていい若い衆……大人になってからは、完全に世間や世の中をなめきった自分が居ました。
けれども、何の不安もなかった自分がある日突然、思いもしなかった強烈な力で足を引っ張られて拘束され、十字架に張りつけられて容赦なく責めたてられました。
相手は国家権力、検察の陰謀……そのスケープゴート……贖罪の羊に当選したのです。決してめでたくはありません。
この時、驚くべきことに、実は私は悲しむでも落ち込むでもなく、かえってホッとしたのでした。たいしたダメージではなかったのです。
そこからまたひとつ、エレベーターが上の階に上昇しました。
運命や世の中の大部分は仕組まれたシナリオで、それを楽しめば実にドラマチックで、案外面白いぞ……世の中というものは実によくできてる、と気づいたのです。
さて、そうなると自分のキャラクターなんかは、いくらでも自分の好きなように改造できるものだと理解できるようになりました。
ステアリングを替え、シートを替え、アクセルペダルや時計や、タイヤも、サスもショックも……自分の好きなようにいじくりまわしていると、だんだんそれが馴染んできて、いつのまにか自分という器……乗り物が案外好きになってきました。
ですから最近は、さほど自己嫌悪がありません。
うさんくさいのは仕方がありません。ホントに臭いのですから……。なるべく人様に聞かれないようにはしていますが、しょっちゅうオナラをしています。
ただ厄介なのは、自分が昔、有り余るほどたくさん持っていたはずの、あたりまえの謙虚さをどんどん失い、相当傲慢になりつつあるということです。
同時に、まわりには落とし穴がたくさんありますが、その位置は全部こちらから丸見えな気分がします。
これは気をつけなあきません。
さらに最近、50歳になりたての時にはまるでわからなかったことが次々と……今度はカードではなくオセロゲームのようにわかりだし、ジクソーパズルのほぼ最後のような解明のテンションになりつつあります。
傲慢と一緒に調子に乗ってる危機感が、猛烈にあります。
ジクソーパズルが完成してしまうことに漠然した不安が生じてはいるのですが、芥川龍之介のものとは少し品質が異なるようです。でもそう言いながら、どうしても揃わない、見えない部分があります。
コイツはかなり厄介な難問です。
それはどこかに同時に存在するはずの別世界、パラレルワールド、異次元への入口です。
この場所が、どうしてもつかめません。
いつも夢の中を必死で探し回っているのですが、まだそのヒントらしきものも見つけることができないのです。
それが今の私の悩みであり、もっぱらの課題なです。
きっかけさえ見つけたら、あとはそこを集中的にほじくればいいのですが……。
う〜ん……昼やというのに、また小雪が散らついて……ふぶき始めてきましたねえ……。
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