見出し画像

エッセイ 自己嫌悪

🛌 寝ぼけながら、左手でiPhoneを持ち、メールをチェックしようとしたら、その左手の甲に、ハエがとまった。

「なんちゅうことをするねん!」

 怒りよりも、無礼をいさめるために、どうせ素早く逃げられることを想定しながら、右手でハエを叩いた。

 すると、なんとなく手ごたえがあったのである。

「そうかなるほど……やっぱり地方都市のハエや」

 私はとっさにそう思ってしまった。

 その後、ものすごい自己嫌悪と、自己不信がタッグを組んで、鎌倉時代の蒙古のようにして襲ってきた。

「これは、差別かもしれん?」

「ワシは、地方都市をそんなふうに見くだしていたのか?」

「なんやかんやと綺麗事を言うても、ワシは結局は、差別主義者なんかもしれん」

 そんなふうに考えていたら、何やら、左手の肘のあたりが、モゾモゾする。

 ふと見ると、さっきのハエが、肘からまた、左手の甲に向かって、這い上がっているではないか。

「なんと、失礼な! 懲りんやっちゃのう!」

 衝動的に私は、また、ハエに暴力をふるってしまった。

 もちろん、火器も武器も使っていない。中共とインドの国境紛争のように…知らんけど。

 すでに前回の一撃のダメージで、反射神経が鈍っていたのだろう。

 ハエは、振り払われて、ベッドの端と壁の隙間に落ちていった。

 その後、ものすごい自己嫌悪と、自己不信がタッグを組んで、1945年のB29のように襲ってきた。

「そうやろな……当時の日本人は、彼らから見たら、ハエだったんやろね」

 そして、

「人はこうして、過ちを繰り返すのか……」

 これがお伽話だと、もう一度、ハエが左手を這い上がってきて、なんらかの教訓やオチにつながるのだろうが、残念。

 この話は、真実の物語。いわゆる、ノンフィクションなのである。

 私は、ただただ、後悔するしかなかった。

「そんなとこに落ちたら、ご遺体の収容ができんがな……」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?