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文学の衰退

 あれは1970年頃……?

 たしか朝日新聞だったと思うのですが社説で、電車の中で複数の大学生が漫画本を読んでいる姿を、大人目線で嘆く内容が書かれていて、当時それなりに話題になりました。

 内容は、「仮にも我が国の最高学府に通う若者が…情けない云々」。

 当時の大人の価値観では漫画は低俗で文学は崇高だったわけです。当然、文学界や主な作家たちも、自分自身の立場や権威の保身も含め、多かれ少なかれ漫画という創作物を見下していた風潮が存在したことは否定できないと思います。

 私は、その後の活字文化の衰退は、この見立ての甘さも大きな理由の一つだったのではないかと今も考えています。
 あの時に、文学界がもっと真剣に漫画家たちの才能を評価し、危機感を感じて身を引き締めていれば、その後この国の文学はまた違った発展を遂げたのではないだろうかと……。

 さて、漫画には漫画でなければできない素晴らしい表現力があります。
 文学……あえて純文学と漫画の関係は、「詩」と「歌詞」の関係に似ています。
「詩」と異なり、「歌詞」は「音」や「リズム」その他を味方につけて、「詩」では不可能な表現を可能にするからです。
 
 でも、ツールが多いことがそのまますべてよいわけでもないのが芸術の摩訶不思議な面白さです。

 天然色という武器を得た映画より、モノクロ作品の方が深いというようなケースが多々あるように。

 漫画はストレートに伝わる真理の描写が得意技のひとつです。

 先日からとりあげている「静かなるドン」にも、こんなワンシーンがあります。

 私は、これを読んで思わず泣きました。
 泣くということは、その瞬間、刹那……素晴らしい自己浄化の現象なのです。

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