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風邪との交渉

 朝晩 及び 出先の場所 場所での温度差がこたえて、ついに体調を崩してしまいました。
 汚れたような、風邪独特の疲労感が全身をなぶります。少しも仕事ができません。
 ここから一気に崩れるのか? それとも適当なところで、敵と手をうって、早期回復するのか……?
 ここ数年の私の、外敵に対する外交能力は、某 日の本の外務省とは大違いの高水準なのです。
 さっそく布団の中で、目をつむりながら、交渉を始めます。
「今回の目的は、なんやねん?」
 風邪の若頭が答えます。
「べつに〜」
「なめとんのんか?」
「べつに〜」
「注射うって、抗生物質かましたろか?」
「…………」
「なんや? 怖いんかい?」
「べっ、べつに〜」
「べっ、が、どもっとるやないかい?」
「べつに〜」
「おまえらな、相手を見て、カマシいれろよ、わしが風邪ひいて困るような、そんなまともな堅気の人間に見えるか? 一週間寝込んでも、なんにも困らんで、もっと頭を使わんかい。 そやけどまあ、おまえらもこうして、はるばるわしの身体にはいってもたんやから、それはそれで、ご苦労さんなこっちゃ」
「いや…それほどでも……」
「今晩、椎茸ごはんを炊くつもりやねん。
白ネギと人参と刻みあげいれてな、味は、昆布だしに醤油、みりん、酒、ごま油、七味と塩や…それでな、たっぷり生姜いれるねん」
「生姜……?」
「そうや、生姜や。 薬はのまへんことにするわ、今日のところは、くいもの療法や、食前に、春に仕込んだ梅酒飲むけどな」
「……」
「どないや? 今回はそのへんで、手ぇうっとけや、さっき言うたように、べつに明日も明後日も、寝込んでも、わし、寝床で読書するから困らへんけどな、おまえらもじゃまくさいやろ? そやから、今日のところは、生姜たっぷりの椎茸ごはんで、手をうてや」
「わかりました、ご主人、ほなら、そないさせてもらいます」
「そうか、まあな、これはわしからの、気持ちや、帰りに若い衆に飯でもくわしたりいや」
私はこっそり、風邪の若頭に、百円玉を1枚握らせました。
「いや、こんなことしてもろたら困りまんがな……」
「かまへんやないか、おさい銭や、おさい銭……気にせんでええがな。それより、帰ったらおたくの大将に、よろしゅういうとってや」
こうして、今朝はすっかり、
私の風邪は完治しておりました。

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