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2021年角川短歌賞応募作

連作50首 春の亡骸

まだ僕は旅立ってすらいないのにsuicaの残高ばかり気にして

二十マス目「天才じゃないって気づいちゃった!生まれる前まで二十マス戻れ。」

原作を再現してくれ実写版「マスク外し」間もなく開演

何万人も死んだ日の朝にしゃっきりと目覚めて食らうフレンチトースト

三月の屋外プールに筆をつけ画用紙に塗れば草原の僕

どん兵衛を冷ますときに漏れ出した君で育ったサボテンがある

シリアスな問題提起の例として「歯科助手はどこの歯医者に通う?」

元気のないみかんを食べてほせほせと言う前よりもほせほせの母

ボールペンシャーペンそれからボールペンその二を試してから書く手紙

出会いには偶然が絡む恋愛も難読地名が読めるかどうかも

喫茶ピノはステンドグラスに守られてウェイトレスはまだ踊り足りない

先生がとめ・はね・はらいを指導するために生まれたフランツ・カフカ

破滅的なウソもつくのさ「スシローのテーブル席には手洗い蛇口」

駅前のビジネスホテルの地下に湧く天然温泉のようだな愛は

耳元に口を近づけ「Oh…」と漏らす 聖なる者の成り立ちである

世界中の誰もがきっとヒーローで、ぼくは、そうだな、ルサンチマンかな

Q.鼻につく。アバンギャルドってなんなのよ。
A.都会のギャルが押し寄せること。

春になった人から順に乗り込んで行方不明行きバスは満員

「もついたの?」「まだ あめふている」「きおつけて。わすれずたまご。」「わかたこういち」

でもそれは本当はまつ毛が光ってる流星群も線香花火も

母校ではない学校の柵を越えて居眠り警備員にデコピンとキス

大将のねじり鉢巻きにアイロンをした後すぐにくちゃくちゃにした

お墓では走ってはダメ!葬儀場のⓟを飛び越せスケートボーダー

傍線部の作者の意図を答えなさい 接吻の後に引き金を引け

百グラム三十八円のかぼちゃでも魔法で馬車にしてくれますか

月面のウサギの餅がうにょーんと伸びた先で待ってたおくち

花束を駅のトイレに捨てました、それから桜を見に行きました

花びらを見上げた君が踏んづけた靴ひものほどけ方すらも春

キスすると妊娠しちゃうよライオンの核が弾ける以前の話

天狗にはできないキスをした後で吐き出したガムの形いかにも

軽率な色のTシャツを着たのなら さあ吊るし上げろ春の亡骸

寝て起きて寝て寝て起きてそれだけでモラトリアムが徐々に暮れゆく


「あれはなに?」「あれはヒメシャガ」「じゃあ、あれは?」「あれはレンギョウ、で、話って?」

ロレックスにはない刻み方のろれをする君のれろれろに喘ぐ秒針

君の名をひらがなで書いたときに空く穴の数だけちんこが欲しい

お手紙を籠めたいろはす流されてウミガメさんたら読まずに誤飲

この腕の骨折が治ったらすぐにフライパン買う殴りやすいやつ

客のいない市民プール第4レーン巨大ザリガニゆけどこまでも


滅亡社地球通信創刊号付録は右耳(ピアスは当たり)

シンデレラはガラスの靴を履きました 僕がグラスを二つ割った日

Catch me if you can もし僕がボルトだとしても頼んだからね

蓋のないいろはす片手に宙返り 重力 レイニ― ブンガク カナザワ

理念とかわからないまま水色のリネンが窓辺に揺れる日曜

歪んでるガラスを通して散りばめた光が唾できらめいている

ユニコーンのデカぬいぐるみをぎゅっとする少女がビッチと呼ばれ新学期

コーギーのおしりをちぎる そのおしりもやがてちっちゃなコーギーになる

冷凍庫でバナナをカチコチに凍らせる オノマトペならひんやりがすき

この街の誰にもなれない僕たちで気球に乗ってお茶会したい

顔面にドッジボールが当たっても花とアリスは親友だった

蚊柱の帷を上げると夏が来る 鎖骨の窪みに退屈と彫る


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