学びの種 #009「深く掘るということ」
「深く掘るには幅がいる」
ひとつの事柄を深掘りすれば、自然にまわりの事柄も気になる。
元経団連会長でエンジニア・実業家であった土光敏夫(1896~1988)は、「深く掘るには幅がいる」という言葉を残しています。そして、次のようにいっています。
専門化が深くすすむのは当然だが、狭くなるとは不可解だ。ほんとうに深まるためには、隣接の領域に立ち入りながら、だんだん幅を広げてゆかねばならぬ。深さに比例して幅が必要になる。つまり真の専門化とは深く広くすることだ。そうして、この深く広くの極限が総合化になるのだ。
(土光敏夫『信念の言葉』)
実際、穴を深く掘ろうと思えば、ある程度の幅をもって掘り続けなければなりません。これと同じように、ある事柄について極めようと思えば、自然に隣接する分野についても考えざるをえなくなります。
たとえば、オペラ歌手は歌うことだけが仕事だと思ったら大間違いです。楽曲を理解し表現するためには、イタリア語やドイツ語を理解する必要がありますし、その楽曲の作者や歴史的背景についての理解も必要になります。
よく学者を揶揄する「専門バカ」という言葉がありますが、本当に専門を極めた学者は、その隣接分野や、場合によっては、まったく関係がないと思われる分野についても深い知見をもっているものです。したがって、世間でいう「専門バカ」とは、「中途半端な学者」の別名でもあるといってもよいでしょう。
日本人として最初にノーベル賞を受賞した湯川秀樹(1907~1981)は物理学者でしたが、空海の密教についても研究し、生誕100年を機に公開された日記などをみても、文学や芸術をはじめ幅広い分野に造詣が深かったことがうかがえます。同じく物理学者の寺田寅彦(1878~1935)も膨大な数の随筆を残していて、その博覧強記ぶりがうかがえます。
「浅く広く」という学び方も大事ですが、ひとつの事柄を深く掘り続けることで軸となるものの見方ができあがり、自然にまわりの事柄が気になり、興味が広がるはずです。