情報鎖国は続くよ どこまでも

終戦後、当時のブラジルの日系移民社会の間では日本の敗戦を信じない「勝ち組」と敗戦を信じる「負け組」の分断があった。

その中で「勝ち組」の間で形成した国粋団体、「臣道連盟」によって書かれた怪文書が日系移民社会の間で流布した。

その内容というのが、「日本軍が開発した新型爆弾で米国艦隊何百隻が全滅」などのような現代の我々からすれば「なんだこれ?SFか何か?」と失笑するほどあまりにも荒唐無稽な内容だが、しかし現地のポルトガル語が理解できる者があまりにも少なかったことや、幼いころから天皇への服従を教えられてきたことに加え、戦時中日本語の出版物や新聞も廃止されて情報鎖国に陥り、「敵国人」として現地民から白い目で見られながらも自分たちの祖国、「日本」を心のよりどころにしてきた当時の彼らはそれを「本当のことである」とオーマジメに信じていたのであった。

そのため、彼らが事実が書かれているポルトガル語の新聞や、敗戦を伝える玉音放送の内容を「そんなもの嘘に決まっている」と断定して反発したのも無理は無い。

その後、「臣道連盟」による敗戦を信じる「負け組」に対する殺人事件が11年間ブラジルの日本人移民社会の間で起きることになる。

終戦当時のブラジルの日本人移民社会に限らず、他言語ネットから見た日本語ネットの情報量の貧弱さと流言の多さにはあまりにも呆然とする。

例えば、2010年代に来日する人が増えてきたネパール人が話しているネパール語だと、英語ネットだとかなり本格的な文法講座やオンライン辞書がいくつもあるのに、日本語ネットだとほとんどが「こんにちは」「私は~と言います」「ありがとう」「さようなら」みたいな海外旅行で使うポケット会話本かなんかに載ってるような日常会話を教えるだけの薄っぺらい内容ばかりでさらに酷いものだとカタカナ表記しかないものまである。

まあ、ネパール語はともかく、アフリカのエリトリアで話されているティグリニャ語なんか、日本語ネットだと50Languages.comの日本語版サイトにある、その中での「ティグリニャ語 初心者用 (日本語)」(https://www.50languages.com/phrasebook/ja/ti/)のみ唯一の「ティグリニャ語講座」と言えるサイトであり、それ以外まったく情報が存在しないのである。

・・・とまあ話が少し斜め上の方向に進んでしまったので少し話を戻すが、

実際、日本語ネットではYoutubeやGoogleなんかで調べると出典が何なのか詳細不明な内容ばかりの胡散臭い自称ニュースサイトや、ニュース動画ばかり多く、昔はネットに疎かったが、50代近くになってiPadでその類の動画ばかり見ることが多くなった俺の母親は、夕飯の時「日本人とユダヤ人は元々同じルーツを持っていたのではないか?」みたいな内容の話をしていたのを聞いて、「そんなの眉唾物だ」と言ったら、「そう思うでしょ?だけど日本人の40%が中国人と韓国人とはまったく違う遺伝子を持っていて・・・」と長々と話していて少し前は「そういう内容の動画には胡散臭いのも混じってるから気をつけてね」と言ったはずなのにネットリテラシーが無い人間がネットにはまるとこうなってしまうのか、と唖然としたのであった。

さらにアジアのこととなると、俺の親にベトナム人の友人のことを話すと、父親が「豚肉食べないでお祈りかなんかしてんだろうw」とインドネシアのムスリムと混同したり、俺の弟なんか「中国と韓国の区別がまったくわからん」と「ジャッキー・チェンは世界で有名な日本人である」と述べていたソマリア人友と同じようなことを言う。

ここ数年、周辺国の景気がよくなる一方で、日本が円安で他の国から「安い国」扱いされて日本に来日する中国、韓国、ベトナムなどから来たアジア人が増えているというのに、アジアの国の一員のひとつに過ぎない国である、日本に他のアジア諸国の人間に関してはかなり無知な人間が数多くいるのはあまりにも閉口する。

まあ、そりゃ自分たちのまわりのことしか感心が無いからなぁ、日本人。

また自分が書きたい話が二度も三度もずれまくってまとまりがなくなってしまったので、再び話を戻すと、例えばYoutubeで「日本」と検索すると

「【日本の技術力】世界のジェットエンジンを乗っ取りつつある日本の素材!」
「【海外の反応】海外が衝撃!!日本人が居なくなった町が驚きの変貌www隣国人「こんなはずじゃ・・・」世界がびっくり仰天www「観光客として日本人ほどマナーの良い民族は無い」【凄いぞ日本!】」
「海外 感動「なぜ日本人は黒人から尊敬されるのか」欧米が驚愕した20世紀の日本人の対応7つとは?日本と黒人社会の「歴史的な絆」【海外が感動する日本の力】日本大好き外国人」
「【海外の反応】「驚愕の日本分析映像」アジアの新たな支配者は 日本。2050年アジアの構図は激変する予測に海外が驚き注目。「本当に素晴らしい国だよ。」【凄いぞ日本!】」
「「日本は謝罪を必要とすることなどしていない」外国人が語る真実!世界各国の要人の証言に衝撃!【世界が称賛する日本】」

・・・と他にもあるが、このようなタイトルの動画がまあ出てくる、出てくる。この動画のタイトルを見る限り、日本は世界でもっとも尊敬される国であり、日本人は世界で最も民度が高い民族であり、日本の技術力は世界一であり、そして日本の未来は永劫に安泰なままである。

隣国の中国や韓国、アメリカや欧米諸国など敵ではない。

しかし、現実はというと、日本は30年前のバブルの頃と比べたらあまり目立たなくなってる国になりつつあるし、日本人でも駅員に怒鳴る人や、田んぼや用水路に平気でペットボトルを捨てたりする人もいるし、ネット上だともっと酷くて、特にニコニコニュースやヤフーニュースのコメント欄は「ゴミ」という軽蔑的な言葉にふさわしい。

技術力はどうかというと中国のハイテク、IT技術に押されててその地位も危うい。

そしてここ7年間安倍政権が国民の税金を引き上げて豪遊したり、海外にばら撒いたりしてきたくせに各地で災害が起きるとまったく支援をしようともしないし、福島の原子力発電所の汚染水や放射能はまったくほったらかしのままである。

にもかかわらず、「日本は世界で賞賛されている」というこれらの内容を真に受けている人にBBCのような海外の英語ニュースがわかる人が、「本当は日本はあまり世界で賞賛されていない」と伝えたとしても、それは全く信じるに値しない情報でしかない。

それどころか、「お前は日本を嫌っているのか?」「日本から出て行け」とあたかも日本を批判するものは敵、と攻め立てるのである。

前述のブラジルの日本人移民社会で敗戦を信じない「勝ち組」が「日本は勝っていた」という内容のデマニュースを流布したり、「負け組」を「国賊」として殺害したりしていたのと同じように。

ネットだけではない。

テレビ番組かなんかでも、「YOUは何しに日本へ?」「世界!ニッポン行きたい人応援団」みたいな外国人(ほとんどが欧米人)が日本や、日本の文化を賞賛したりするような自画自賛番組がかなり放送されているのである。

そのようなことを書くと、じゃあ日本を貶しながら他国マンセーしないといけないんですかね?国を愛するのは万国共通、何が悪い?お前の好きな中国か韓国に行け云々、ぐだぐだぐだぐだ他人を腐しにくる人がウヨウヨと来そうだが、じゃあ毎日日本マンセーって言えばいいの?お前らマジでしつこいんだけど。

とまあ、こんな風に今の日本語社会は「臣道連盟」化している状態なのであるが、そんな彼らを見ていると、昔は優等生だったのに周囲が自分より優等生になっていくのを見て、自ら殻に閉じこもって「僕はみんなよりすごいんだ、僕はみんなよりすごいんだ」と呪文のように唱えながら自分が今起きている現実を直視できないほど途方にくれているのではないか?と思う。

貧すれば鈍する、というのはそのためにある言葉なのではないだろうか。

その「貧すれば鈍する」状態が終わらない限り日本人の「臣道連盟」化はこれからも続くだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?