あの人はそっとわたしのそばを通り過ぎたのでした  - @2018

あの人はそっとわたしのそばを通り過ぎたのでした

もう一度
あの人のそばを

あの人に気づかれることなく
吹いてゆける風になりたい
あの日の風になりたい
あの日の風に戻りたい
そう
つぶやいてみた日記が見つかった

あの人の
あの日の
風とは
いったい
何者だったのだろうと
残された日記を見て
わたしは考える

きっとわたしは
誰かにひとつのことを
知らせたいと思ったのだろう

これは告白のようなものではなく
祈りのようなものでもない


では
と考えてみる

熱い情熱を燃やし尽くすための
揺るぎなくパワフルなものが
わたしに備わっていて

あのときその力を使い果たすことができていたら
わたしはふたたび風になりたいとは考えなかったに違いない

風は気まぐれでなくてはならない
ゆくあてもなくさまよえる自信があったのか

あの日あのときに
風であったわたしは
強くて逞しかったのだ

だから
あの日の風には戻れない

---

2018年10月 2日 (火曜日)