倫子 と 銀子

あの日、ボクが飛び越えてゆく階段を一緒に飛び越えようとはせずに、突然 引き返して駆け出して ホームの向こうにちょうど止まった逆方向の電車に彼女は飛び乗ったのだった。国電は扉を閉めて、何もなかったように反対方向へと発車して消えていった

けっこう長い間付き合ってきたけどといっても二週間ほどだけど、名前と電話番号しか知らない奴。さっきまでご機嫌に話をして、明日から「旅に出でようかな」となどと夢のようなことを呟いていたけど

風船の糸が切れたようにふらっと消えてちまいやがって・・とその時はそう思っただけでほったらかしにしてたものの、日暮れの時刻に電話をかけてみて大変なことがわかったのだった

夕食をどこの店で待ち合わせようかと・・と言い出すつもりだったのだが、かけた電話が「使われていません」とアナウンスを繰り返す。最初はええ?っと思ったが、そう言えば一度も電話をかけたことなどなかったことに気づいた

あいつ、消えたのか?
逃げた・・とは思わなかった
最初からそのつもりで、いつか消えるつもりでいた・・とも疑わなかった

けれどもよく考えれば「やられた」わけだ。
後頭部あたりから血の気がなくなって行くような錯覚が襲ってきた

心を奪われていた