『にじさんじポケモンジムバトル』に見る”配信ならではの様式”

 4月30日に行われたサロメ嬢主催による『にじさんじポケモンジムバトル』は、なかなかに興味深い配信でしたので、少しここで述べていこうと思います。なお、このコラムの内容はポケモンバトルについて語ったものではありませんので、ゲーム知識のない人でも理解できるものです。

今回の企画の特徴

 今回のこの企画は、何もかもが革新的というほどではないのですが、普通の配信では見られないものでした。少なくとも”配信”ならではの様式であったと思います。
 ポジションを整理しましょう。まず、主催がいます。そして参加者がいます。参加者は2種類に分かれており、それはジムリーダー挑戦者です。
ジムリーダーは自分のジムを持ち、挑戦者を待ち受けます。挑戦者は各々のジムに勝負を挑んでいきます。これらはゲームのストーリーをなぞったものです。

 一つの舞台で行われる催し物を各々の視点で追っていくという様式は『マインクラフト』などに見られるもので、これ自体はさほど珍しいものではありません。しかし、今回はある種のロールプレイが行われていました。挑戦者、渡会雲雀の配信のみを追っていたのならば、それは主人公視点の冒険物語であったでしょうし、ジムリーダー、椎名唯華の配信のみを追っていたのらば、それは次々と現れる挑戦者を待ち受ける敵視点の物語だったでしょう。ジムリーダーは、飛行ポケモンしか使わない、鋼ポケモンしか使わない等のコンセプトのもと勝負をします。よって、様々なコンセプトを持った敵を次々と撃破していく挑戦者の楽しみもあり、その一方で、一つのコンセプトに対し、対戦相手がそれをどう攻略してくるかを見る楽しみもあります。
 このロールプレイは、文化祭の催しに近いものがあるでしょう。
まず、それぞれの教室で行われている喫茶店やお化け屋敷を堪能する一人の人間がおり、その様子をカメラが追従していくパターンがあり、その一方で喫茶店を催している教室に固定カメラがおかれ、次々と客が出入りする様子が映し出されるパターンがある。どの映像を見るかはリスナー次第というわけです。

配信のつまみ食い推奨

 にじさんじの企画で代表的なものといえば『にじさんじ甲子園』だと思います。あそこには全員が終結し、大勢の人が一つの配信を見守ります。一方で、今回行われた企画は、だれがどの視点で楽しむのかを取捨選択し、適当にふらっと立ち寄るかのように、勝負が行われていたらそれを観戦する。気に入ったところをつまみ食いするかのような様式であったと思います。よくよく考えれば、これはテレビではできないものです。配信だからこそできる様式だったように思います。
 
 『にじさんじ甲子園』と『にじさんじポケモンジムバトル』の違いは、ドームで行われるライブと野外フェスの違いに近いでしょう。一つの催しに全員が集結するドームと、各地で催しが開かれているので、気に入ったところに移動したり留まったりするフェスです。どちらが優れているという話ではないにしても、私は後者の配信の様式には、前者に劣らない可能性を感じました。
 『配信は見られたほうが良い。それが多くの人に見られる配信ならば尚良い。』という一般的な考え方を保持しつつも、あえて”見なくても良い””全部見ることはできないのだから、掻い摘んで見ればいい”という取捨選択の『捨』があるというところに、私は可能性を感じるのです。というのも、私が『捨』にした部分は、間違いなく誰かの『取』の部分であり、自分が見れなかった部分があったとしても、その部分も確かに存在していたからこそ、全体として祭りが成り立ち、盛況であったと言えるからです。それは、一人の人間がすべての文化祭の催しを堪能することができなかったとしても、全体としては大盛り上がりとなるように。

どのような企画に応用できるか?

 今回の企画は、サロメ嬢がゲーム本編における主人公とジムリーダーの関係から着想を得たものでした。これは流石と言うべきか。いかんせん、サロメ嬢はポケモンバトル知識自体は乏しかったようでしたが、そこは笹木の助力もあって上手くいきました。頼れる先輩がいるというのもにじさんじの良いところです。笹木が協力したのも、参加者が10人も集まったのも、サロメ嬢の着想が企画として面白いものになると思われたからでしょう。
 では、このような様式は、他のどのような企画と相性がいいでしょうか?

 考えられるのは『マインクラフト』や『どうぶつの森』の箱庭ゲームです。『マインクラフト』などは花火大会での屋台などで、店側、客側に分かれてロールプレイをしていたこともあったので、既に今回の企画に近いことをしていました。『どうぶつの森』は、旅行する側と自分の島にもてなすホスト側に分かれて何かしら面白いことができそうです。
 
 ゲームを介さないものですと、昔、緑仙がやっていたお悩み相談の企画(チャイカがリゼの兄となる原因を作った配信)なんかは、形を変えれば、今回の様式にできたりしそうです。にじさんじポケモンジムバトルは、挑戦者がジムバッチを集めることを目的としていましたが、流れとしては『スタンプラリー』のようなものです。その形式となるものならば、色々と企画できそうです。このような、巡る側と待ち受ける側に分かれた文化祭のような企画を期待したいです。

 

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