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『にじさんじ』元1期生への愛を語る

 10月31日に行われるライブ『initial step in NIJISANJI』は、100人以上が在籍するVtuber集団『にじさんじ』の中で、最初にデビューした8人によって行われるライブです。
 私は、その前日の『NIJIROCK NEXT BEAT』も一緒に、ネットで楽しもうと思います。(追記:『にじロック』めちゃくちゃよかった。チケット買おう。そうじゃなくても、無料分だけでも見よう!)

 さて、今回はこの8人。『にじさんじ元1期生』によって行われるライブが、どれだけエモいのか、そもそも1期生はどんな人たちなのかを語っていきたいと思います。

 まず、何から語ったものか……やはり、歴史を語るべきでしょうか。『にじさんじ』は、今でこそ大手Vtuber事務所だと注目されていますが、
勢いづいたのは、2019年頃でしょうか。そこから『にじさんじ』ファンになって追い続けている人が増えたと思うので、2018年頃を知っている人は、けっこう少ないと思います。

 Vtuber界隈全体の規模も小さく、主に生配信ではなく動画による活動が主流だった時代に『にじさんじ』は現れました。
 物珍しいものではありましたが、3Dが主流であった時代に、技術的にも劣る薄っぺらい平面(2D)。しかも当時は動きもぎこちなく、チープであると嘲笑の対象であったのを覚えています。
 これに関しては、月ノ美兎自身も、雑談の中で「アプリを使ってみて『終わった』と思った」と、当時のことを自嘲気味に話していました。
『オーディションに受かったのはいいが、アプリのチープさに失望してしまった』というわけです。

 そのような彼女たちの主戦場となっていたのは、youtubeではなく、Mirrativという配信サイトでした。ゆえにVtuberではなく、バーチャルライバーと呼称をしていました。これならば、パソコンを持っていなくても、スマホ1台で、にじさんじアプリを使って配信をすることができます。そうして彼女たちは、雑談やゲーム配信を頑張っていたのです。
……アプリのテスターとして。


 『にじさんじ』がタレント事務所ではなく、『アプリ』の名前であり、ライバー達は、この『アプリのテスター』であった過去を知っている人は、全ファンの何割程度でしょうか?

 素人でも自分のアバターを持ち、スマホ1台だけでVtuberとして活動できる。ANYCOLOR株式会社(当時は『いちから株式会社』)は、そんなアプリ『にじさんじ』を開発しました。『にじさんじ』のライバーは、「こんなことができてしまうんですよ」と、その機能を広める係として活動していたのです。
 ぶっちゃけた話をしますと、彼女たちは、この時点ではタレントとして面白くある必要はなかったのです。ただ「こんな活動ができる」と、知らしめることさえできればよかったのです。それが彼女たちの仕事でした。

 私が『にじさんじ』の存在を知ったのは、このあたりだったと思います。youtubeへの移行をし始めたり、Mirrativでの配信をyoutubeに載せたりしていたころです。「次はこの人たちがデビューします!」という2期生の告知を見た覚えがありますので、2期生デビュー前には注目していたことは確かです。告知されていたのは9人で、シークレット枠として登場した森中花咲に驚いた覚えもあります。

 のちに『にじさんじ』は、タレント業へと大きな方向転換をすることになります。その理由は複数ありました。
ネガティブな理由ですとアプリの審査が通らなかったから。ポジティブな理由ですとテスターと選ばれた8人は化け物揃いの配信者だったからです。
ここで金の卵を見つけることができたのは幸運だったでしょう。

 私がにじさんじファンの1人として、とても自慢できること。誇りに思っていることがあります。
 あれはSeeds1期生のオーディションが発表された頃でした。私は、とあるコラムを投稿しました。
 『にじさんじ』は素人をタレントにする。しかも本職ではなく副職でも可能な状態として。この自由度、ネット社会の新しいビジネスを、経済学の『クラウドベース型資本主義』と絡めて、今は亡き(サービス停止した)ニコレポというところに投稿しました。そうしたらツイッターで田角社長と、当時社員だったいわながさんが触れてくれて、好意的なお言葉をもらえたのです。これは、とても嬉しいことでした。

 なぜか、社長のツイートを見つけられなかったけど、当時のいわながさんのツイートは見つかりました。

いわなが


 構想自体は4月からあったっぽいですね。私がアカウントを分ける前の古いツイートが見つかりました。

わぐのつい

 今はコラムを読むことができませんが、ここで私は『にじさんじ』が『アプリ会社』から『タレント業』へ方向転換したことについても述べました。そこで私は『にじさんじ』を『ゴールドラッシュ』に譬えて解説していました。

 ゴールドラッシュ(英語: gold rush)とは、新しく金が発見された地へ、金脈を探し当てて一攫千金を狙う採掘者が殺到することである。狭義では、1848年ごろにアメリカ合衆国カリフォルニア州で起きたカリフォルニア・ゴールドラッシュを指すが、ゴールドラッシュという言葉が現れたのは1870年代半ば以降である。

 なるほど。ウィキペディアではこんな説明がなされてました。
それで、私が言いたかったことは『ゴールドラッシュで一番儲けたのは、スコップを売っていた人』ということです。
本当に金脈を見つけて大儲けできた人は、ほんの一握りだったでしょう。賢く儲けたのは、そのための道具を売りさばいた人だった。

 Vtuberと『にじさんじ』の歴史も、これに近いものがあったと思います。途中までは……

 まず、最初に、誰もいない大地に『キズナアイ』という偉大なる採掘者が降り立ち、金があると信じてスコップで穴を掘り続け、見事、金脈を掘り当てることに成功しました。ここは可能性に満ちたブルーオーシャンである。そう知れ渡り、次々と採掘者たちが現れては、金脈が発見されていきます。
 「ここならば、自分の夢を叶えられるかもしれない。」そんな希望に満ち溢れていました。
 しかし、多くの者にとって深刻な問題がありました。それは『スコップを持っていなくて採掘者にすらなれない』ということでした。

 ある日、『いちから株式会社』という名前のスコップ販売業者が、その大地に現れました。
 「このスコップを使用すれば、みんな手軽に採掘者になれちゃうよ」
 そのスコップはどんなものかと、『いちから製スコップ』の性能を披露するために地面を掘り始めた8人の採掘者たち。
月ノ美兎、樋口楓、静凛、エルフのえる、勇気ちひろ、モイラ、鈴谷アキ、そして渋谷ハジメ。

 「このスコップがあれば、こんなに簡単に穴が掘れてしまうんですよ!」客前で性能をアピールする8人。

 しかし、いざ、そのスコップを売りさばこうと思っても、販売の許可が下りないときた。どうしようかと悩んでいるところに、『いちから株式会社』が雇っていた8人の近況が耳に入る。
『彼女たちは、でかい金脈を掘り当てた』
スコップの性能を知らしめるために雇った8人は、採掘者として、とてつもなく優秀だったのだ。

 ベンチャー企業いちから株式会社が『アプリ会社』から『タレント業』へ移行した経緯には、こんなに面白い出来事があったのです。

 つい最近のインタビュー記事にて、静凛は「畑でクワを持ってた」と言っていました。私の譬えでは『スコップ』、彼女の譬えでは『クワ』になってるんですね。


 では、次に、活動初期の『にじさんじ』の正の側面と負の側面について述べていきましょう。正の側面は、なぜここまで人気になったのか、その理由について。負の側面に関しては、今に至るまでの道のりは、決して順風満帆ではなかったということについて。

 にじさんじアプリのチープさは、キズナアイのような豪華な3Dに太刀打ちできるものではありませんでしたが、その代わりキズナアイには無い強みがありました。それが『手軽さ』と『同期』です。

 キズナアイが『豪華客船』だとすると、にじさんじライバーは『カヌー』です。キズナアイが動く(動画を一本作る)には、大勢の大人たちが働く必要があるのに対し、にじさんじライバーは一人で十分です。その小回りの利く運用は、大きな武器となりました。

 にじさんじライバーが活動する前にも、2DのVtuberは存在しました。しかし、その多くは個人勢で、『同期』や『グループ』という概念は、新しく珍しいものでした。
おそらく、いちから株式会社も、この『グループ』という形式が、ここまで上手く作用する強みになるとは思っていなかったと思います。コラボや繋がりを意識していたかどうかも疑わしいものです。

 ライバーが配信をし、終わりになると「次は〇〇ちゃんが配信します」と告知する。もうこれだけでアドバンテージです。その繋がりは告知だけに留まらず「〇〇ちゃんとご飯に行った」のような発言、ついには1枠に2人以上のVtuberが存在する「コラボ」をするようになり、そこで会話したり、一緒にゲームするようになりました。

 いまでこそ「コラボ」は当たり前で、ライバーによっては、ソロ配信するよりもコラボした回数のほうが多いんじゃないかと思うほどです。しかし、当時『コラボ』は珍しく、企業所属且つタレント一人の体制であったキズナアイ、輝夜月、電脳少女シロ、ミライアカリ、ときのそら、富士葵という、錚々たる面子には、気軽にできない芸当だったのです。
 輝夜月はキズナアイを慕っているとアピールしたり、電脳少女シロの所属する『.live』では、Vtuberばあちゃるがデビューしたりして、関係性を生み出していましたが、手軽に船同士を連結して自由に動ける小型船『にじさんじ』が、その点では最も秀でていました。
 いままではVtuberとリスナーの関係でしかなかったのに、VtuberとVtuber同士の『関係性』にリスナーは注目するようになりました。

 少し、アレな話で苦手な人もいると思うので、軽く触れる程度にしますが、この『関係性』によって、二次創作が活発になったと言っても過言ではありません。同じ立場にいるライバーが複数人いれば、それでストーリーが作れますから。漫画や小説で会話が可能になったわけです。あのヒカキンがVtuber化する際に「どういう意味なの?」と訊ねた「てぇてぇ」という言葉は、『にじさんじ』1期生の二次創作、それも百合要素のある漫画が元ネタです。
 イラスト・小説投稿サイトpixivの小説は女性ライターが多く、女性ライバーの名前をタグ検索してヒットするものは、9割が百合小説です。(実在する人物のBLやNLは百合に比べてゾーニング意識が高く、探すにはコツがいる)
 今でこそ、多くの女性とフラグを立てまくっている某皇女にトップの座を奪われたものも、その前は、名前で最もヒットするVtuberは『樋口楓』2位は『月ノ美兎』だったのです。ここにも、にじさんじの『関係性』の強みが現れています。(ちなみに、現在、CP名でタグ検索した場合は某SMの女王と某医療従事者の組が圧倒的に1位となる)
 ファンによる二次創作活動が活発になればなるほど、別の界隈にいた人も認知し興味を持つようになりますから、このSNSの時代に適していたと言えるでしょう。

 全てが全て『二匹目のドジョウを狙った』わけではないと思いますが、にじさんじの特徴である『オーディションで選ばれた2Dの配信者集団』を踏襲したVtuberグループが続出したのも、この形態の強さを物語っているでしょう。すでに、ときのそら、ロボ子さんを抱えていた『COVER株式会社』も、いままでのような3Dではなく、2Dで配信をメインとするホロライブ1期生がデビューしましたし、電脳少女シロ、ばあちゃるを抱えていた『.live』も、電脳少女シロの後輩に当たる『アイドル部』がデビューしています。

 関係性が『にじさんじ』の強みではありますが、もちろん『個人』としても魅力溢れ、その力を見せつけることのできる人たちです。 
 『自分らしい配信』を探りながら、8人のライバーは配信を続けていきます。ある者は喋りが達者で、ある者は歌が上手で、ある者はゲームが得意で……それぞれの味を活かしてファンを獲得していきました。まさに、そのグループの名前が示すように、皆がそれぞれの『色』をもって。
 
 私の場合は、面白さにおいては月ノ美兎。癒しにおいては鈴谷アキ。の2人を中心にハマっていきました。主にこの二人と、ホロライブのときのそらが毎週木曜日にやってた生配信に活力をもらっていました。
(ホロライブ初期も同様に、ときのそらの感動的なエピソードがあって、ずっと応援していきたいと思えるんですが、ここでは割愛)

 突如として現れた『にじさんじ』1期生の8人は、月ノ美兎を始めとする狂人・奇人の集まりであり、それに呼応するかのように、続々と加入してきた2期生、Seedsもクセ者揃い。『グループ』特有の『関係性』という強みをもって、注目の的となった……と言いたいところですが、軌道に乗るにはそう簡単なものではなかったそうです。
 「今だから笑い話として話せる苦労話」を、ライバーの雑談で聞くことがありますが、苦労した出来事の中には、話すことすらできない内容もたくさんあったのだろうと思います。
 『にじさんじ』のデビューは輝かしいものではなく、嘲笑されてのスタートでした。3Dが主流だった時代にあらわれた、ぎこちなく体を左右させて喋ることしかできない2Dのライバーたち。そんなのが8人も登場したのですから、世間の印象は良いとは言えませんでした。その可動域の狭さは『割りばし』と揶揄されていました。また彼女たちは『量産型』と揶揄されることもありました。(これに反して「『量産型』かと思いきや『精鋭部隊』だった。」と言われることもあります)

 今でこそ収益化はすぐに通りますが、当時はなかなか収益化がなされることはありませんでした。鈴谷アキなどは、なかなか収益化が通らずにサブアカウントを作ったほどでした。彼が今メインで活動しているチャンネルは、サブとして作られたものであることを知っている人も少ないでしょう。

 『いちから株式会社』は、スタート時、社員は3人しかいませんでした。サポートも十分になされずに、労働条件も悪く、お世辞にもホワイトと言えるものではありませんでした。一番の成功者と思われた月ノ美兎ですら貧乏生活を強いられ、樋口楓はそのような胡散臭い会社で活動することを親に認めてもらえませんでした。家族愛の強い彼女の葛藤は如何ほどのものだったでしょうか。彼女は一時期、ライバーとしての仕事を取っておりませんでしたが、その理由は、にじさんじを辞める可能性が高かったからです。
 月ノ美兎、樋口楓は『にじさんじ』を辞めることを視野にいれていました。二人で「卒業はどんな形でしようか」と話し合ったこともあるそうです。私は、この二人が根気よく続けてくれたことをとてもありがたく思います。月ノ美兎、樋口楓という逸材を抱えながら、生活ができないほどに儲けが出ないことが知れ渡ったのならば、ほかの企業はこのバーチャル界隈に見切りをつけて撤退を考えたであろうからです。
 後に、樋口楓は『にじさんじ』ライバー初のソロライブ『KANA-DERO』を決行。ファンメイドの曲含め多くの曲を歌唱し、zepp大阪を沸かせました。そのライブは多くの人々に感動を与えました。後にライバーとなる戌亥とこ、雪城眞尋は、このライブで『にじさんじ』に入ることを志します。
 にじさんじライバーたちのオリジナルアルバム『SMASH The PAINT』に収録されている『Only』は、樋口楓が、家族への感謝の気持ちを込めた曲であると言います。喧嘩しながらも『にじさんじ』の活動を続ける自分を認めてくれた家族に対する彼女の想いで溢れています。
 彼女が一番好きなアニメは『ラブライブ』ですが、そんな彼女はランティスからメジャーデビューを果たしました。後にラジオ番組『だいさんじ』で『ラブライブ』の声優をゲストに呼んでトークをすることができました。大先輩にあたるVtuberキズナアイ、ミライアカリと一緒に、彼女のグッズが作られることもありましたが、担当したイラストレーターは『ラブライブ』のキービジュアルを描いた人です。
 月ノ美兎は大の『アイドルマスター』が好きであると言っていましたが、彼女もメジャーデビューし、アイマス関連で有名な作曲者からオリジナル曲を提供されました。後に公式よりアイマスのソシャゲの案件を任されています。
 また、二人の数少ない共通点として『さよなら絶望先生』という漫画・アニメのファンということが挙げられますが、この二人が出演した『にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!」追加難波公演』のキービジュアルは『さよなら絶望先生』の作者が担当しており、月ノ美兎の衣装のうちの一つは、このキービジュアルのものですので、実質、衣装を仕立ててもらったことになります。

 二人とも、ただのファンからクリエイター側へと移り、自分の好きなコンテンツと少しばかりの接点を持つことができています。これも彼女たちが苦しい時代を耐え忍んで、きっとこの先に楽しいことが待っていると信じて頑張ってきたからだと思います。

 苦しいことは金銭的なものだけではなかったでしょう。嘲笑によりスタートした『にじさんじ』は、月ノ美兎のような怪物的なエンターテイナーの活躍によって一目置かれるようになるも、風当たりは強いものでした。月ノ美兎はアンチの犯罪によって警察の世話になったエピソードを語っていましたが、あの口ぶりでは表に出すことのできない警察沙汰となる事件が他にもあるように思えました。
 当時のファン層は男性層が非常に高く、イケメンの男性である渋谷ハジメに対しての風当たりも強かったのを覚えています。にじさんじは最初から男女混合の箱ですが、界隈全体で男性と女性がコラボすることは快く思われず人型の男性に対し攻撃的になる厄介なファンが多かったように思えます。
(今では、配信中に神田笑一が郡道美玲をお姫様抱っこし、リスナーからの 祝福や感謝の言葉で満ち溢れたのですから、良い時代になったものです)
 当時、渋谷ハジメが少し失言をしただけでも、大ごとのように騒ぎ立てられ炎上させられることがありましたし、粘着されることが多かったです。
 当時は誹謗中傷対策チームも存在しておらず、そのようなネット犯罪に対しての対処もうまくできなかったことでしょう。
 スタッフのサポートが充実していなかった初期、ライバーの機械関連の相談役になっていたのは、同じくライバーである彼でした。彼のパソコン知識が、ほかのライバーを助けていたのです。彼は活動する最中、ファンの信頼を失うような失態を犯したこともありましたし、その過ちを受け止め、自省のために長期の活動休止をしたこともありました。そんな隙を見せてしまった彼は人気配信者を妬むアンチに目を付けられやすくなりましたが、それでもめげずに活動を続けました。その甲斐もあってか、この前の静凛のソロライブにて初の3Dの体を手に入れました。そしてこの度、同期8人そろってライブをすることになるのです。
 男性ライバーのパイオニアとして、サポート役として、優秀なゲーマーとして、個人勢との繋がりを大事にし輪を広げることに努めてきた彼を知る者としては、彼も1期生として同じステージに立てることを、とてもうれしく思うのです。

 公式が明確に言及したわけではないのですが、3Dモデルを作るためには、youtubeの登録者数10万人を達成する必要があるといいます。多少の前後はあれど、基本的には3Dお披露目配信の順番は、10万人達成した順になっているので、おそらくそれは本当でしょう。
 いまでこそ、にじさんじライバーはデビューして1日、2日で10万人を達成できますが、規模が小さく知名度も低かった当時は、それは高いハードルでした。abemaTVで公式番組を持ったときでさえ、10万人を越えていたのはJK組の3人と物述有栖の4人しかいなかったはずです。
 おそらく、『にじさんじ』以外の箱でも同じ現象になっていると思いますが、途中から急激に世間から認知され始めて、ファンも急増してきた界隈ですので、2018年ごろにデビューした古参ほど『数』の面では、新入りより伸びなくなっている傾向にあります。
これに対し本人が苦痛を感じているかはわかりませんが、視聴者の増加量も公式グッズの数も次々とデビューしていく後輩のほうが多い状況にあります。
 鈴谷アキは最も古参の1期生で、10万人達成は、8人の中で一番遅かったライバーです。
 『男の娘』。この属性は一部の男性にはたまらないものですが、残念ながらニッチであることを認めざるを得ません。しかも彼の配信スタイルは、良くも悪くも毒がなく、爆発的な注目を浴びることは見込めません。
 Vtuberが世間の注目を集めるには、強めの毒が必要となります。その刺激的な毒性を持つライバーは、良くも悪くも注目を集め、ときに起爆剤となり、界隈や箱全体の人気を押し上げます。
 『にじさんじ』ですと、月ノ美兎が最初の起爆剤で、叶、葛葉、笹木咲、御伽原江良が続いたという感じでしょうか。『ホロライブ』ですと、宝生マリンや、桐生ココがこれにあたるでしょう。どれも毒性が強い人です。それにあたる刺激的なものが鈴谷アキにはないのです。

 加えて、鈴谷アキは先にも述べたように、なぜか収益化が通らず、サブアカウントを開設しなければなりませんでした。それまでに登録されていた数万人は消え、0からのスタートをする羽目になってしまいました。
 デビュー時期や、彼の特徴、彼の配信スタイル、運の悪さなど、すべてが「バズり」という点から見れば不利に働いていました。
 しかし、その代わりに彼は『箱庭』を得ました。彼の配信には刺激はないものの、とてつもなく心地よい空間が維持されています。
リスナーは温厚で礼儀正しく、定期的にスパチャでナンセンスな「なぞなぞ」を出してくる変な人もいますが……温かい癒しの世界が3年間維持されているのです。
 私も初期からのアキネコ(鈴谷アキのファンネーム)で、今もよく彼の配信にお邪魔しているので、彼には『数字』では測れない素敵なものを持っていることを知っているのです。だから私は彼が大好きなのですが、そんなアキネコの私から見ても3Dはまだまだ先の話だろうなと、諦観していました。しかし、この度、同期と並んでライブに初参戦し、3Dのお披露目されるというのですから、私はとてつもなく幸せな気分になっているのです。心から「おめでとう」と言いたい。

 今回、この8人が、悪意や不遇、不運にさらされながらも、3年以上の活動を続けてくれたこと、こうして一人も欠けることなくライブを開催できたということに、私は感謝の気持ちでいっぱいなのです。

 にじさんじで最も新人であるエデン組の公式番組への呼ばれ具合など見ると、初期と比べて雲泥の差でサポートが充実しているなあと思います。急激に増えた女性リスナーの需要を意識していると察するところもあったりするのですが、だからといって、古参である1期生は蔑ろにされたわけではありませんでした。むしろ、会社は彼女たちに敬意を払っています。

にじぽすた

 私は、このポスターの構図を考えた人は天才だと思いました。普通だったら、観客に向けて顔を見せるでしょう。しかし、これは後ろ姿のみ。それでも私には、このポスターで伝えたいことが痛いほどに伝わってくるのです。
 募集で素人のライバーが集まり、社長も若いたった3人のベンチャー企業、Vtuber界隈全体が若く、リスナー含めてすべてが未熟だった『にじさんじ』は、大きくなるまでに皆が一丸となって歩んできたという認識があります。少なくとも私はそう思っています。『にじさんじ』の歩みは、ライバーの成長であり、会社の成長であり、スタッフの成長であり、技術の向上でもあり、そしてリスナーの成長でもあったのです。
 ライバーが失態を起こしたこともあれば、会社が戦略を間違えたこともあった。そしてリスナーもネットマナーの欠如によって迷惑をかけることもあった。そして、その度に反省し、より良い世界を模索してきた。
 だからライブの観客であっても、私たちリスナーの視点は、この位置が正しいのです。1期生は、いつも私たちの先頭にいた。そして道を切り開いてくれた。このポスターからは、そのリスペクトが伝わってきます。


 『にじさんじ』は100人を超えるライバーが属し、海外を含めれば150人を超えます。デビューした後輩ライバーが、次々と才能を発揮し、様々なメディアや団体と関わり、素晴らしい功績を収めています。
 『にじさんじ』ライバーは、だれもかれも輝きを持っていると思います。
2019年デビューした大人気ユニット『さんばか』や、登録者数だけならば月ノ美兎を上回る男性アイドルユニット『くろのわーる』の葛葉と叶。
『ぶるーず』『SMC組』『メイフ』は個人でもグループでも多くのファンを獲得し、久しぶりの新人『エデン組』も新しい風を吹かせ、先輩ライバーとの絡みも期待され、注目の的となっています。それでも、1期生の偉大さは翳ることはありません。皆が彼女たちに敬意を払うのです。
なぜならば、この先誰がどんな活躍をしようとも、その活動を可能にする盤石な礎を築いたのは、1期生の8人に他ならないのですから。

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