#百合婚姻魔女ユリレー 外伝 始まりの先から果てなき未来への剣を
21世紀に遊びに行こうとしていた時には
巨大魔導機神を創る事になるとは夢にも思ってなかったな
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イスナーン嬢には悪いことをしたと思ってるよ
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地球にいる人々と話したのはこれが初めてという訳ではなかった。
けれどその途中に人智ならぬ魔女智を超える存在がいきなり割り込んでくるのは初めてだった。
しかもその存在は魔女としての私達の源であるのだとか。
私達のお母さんは120万年前のお母さんだけだ。
けれどその存在には私達の「インチキ」に繋がる何かを感じもした。
私ともエアともどうやら他人ではないらしい。
…それに、冷や汗を流したのはお母さんに叱られた時以来でもあったし。
そんな彼女が、私とエアとアーレア女史とイスナーン嬢にやってほしいことがあるという。何でも「絶対無敵のくろがねの城」を創って欲しいとか。
しかし、とはいえ。
まずはその前に何とかしておきたい話があった。
「…えーっと、アーレア…さん? とりあえずぐっちゃぐちゃになっちゃったこの部屋はどうしようか。必要ならこの部屋だけを五分前に巻き戻したりとかも出来るけれど」
「そこは心配無用だよ、アイ…ちゃんでいいかな? ともかく、整理整頓も壊れた物の修復も私なら朝飯前だから」
「えっ、じゃあ私達がここをお掃除する必要はないんじゃ」
「それも修行の一環だよイスナーン、今度意識しながらやってごらん」
「この状態を放っておくのは気が咎めるな」
「エア、眼鏡眼鏡。外れてる」
「しまった、ごめんね皆」
エアが先に目をつむってから外れた眼鏡をつけ直す。
太陽の真下みたいだった部屋の明るさは元に戻った。
ぐちゃぐちゃなのは変わってないけど。
「それとアーレア、今ここにフェーリ・ミライ女史は呼べるかな」
眼鏡を付けてキリッとしながらエアが問いかける。
何処かの博士みたいな表情して大分楽しんでるね君。
「手紙を貰った時にはアイちゃんとエアちゃんに会ってほしくて、フェーリを呼ぼうと思ってたから…うん、来た」
「アーレア、大丈夫?! …って何この状況」
「エアちゃんです、ハッピーハロウィーン?」
「アイちゃんです、この有様はイタズラではありません。…ごめんね?」
「えっ、貴女達が何故ここに? それにそこの何だか強烈な魔力みたいなものは??」
「全員揃ったから説明は後にしようかな。とりあえずは無次元の世界を工廠にして、そこで早速始めてみるよ。あ、もちろんイスナーン嬢たちも平気なようにするから心配しないで」
「ちょっと待って工廠ってどういう事?」
「呪文は…そうだね、安心と伝統の「開け、ゴマ」で」
とりあえず安全かつ充分に広い空間を「願う」のはエアにとっては簡単だ。
細かい所はおいおい詰めていけばいいかなって。
「未来へようこそ、フェーリ・ミライ様」
眼鏡をクイッとしながらエアがこの部屋の扉を開ける。
私とエア、アーレア女史とイスナーン嬢、「何者か」はノリノリで。
未だに状況を説明されていないミライ女史は釈然としない顔をしながらも、
かくして無重力の工廠に六人が集ったのでした。
──
「願った」のは1km立方メートルの空間。
私とアイなら必要なものは雑に創れるから特に道具は置いていない。
白塗りの空間の中でひとまず全員で話を進める。
私とアイ、アーレアとフェーリとイスナーン嬢、「何者か」の間での摺り合わせは意外な程スムーズに終わった。
私達はお互いと母さん以外とは殆ど話をしてこなかったから、他人との会話には自信がなかったけれど余計な心配だったかな。
「ロボットと言えばロケットパンチとかどうでしょう!」
「質量と魔術を十分に乗せての一撃、なるほど悪くはない」
「頭にバルカンとか!」
「…純粋物理兵器を何か積んでおくのもフェイルセーフにはなるだろうか」
「それから、それから!」
二人はああでもないこうでもないと言いながらお互いのイメージを空間に描いていく。それぞれが考えた事をそのまま画像として投射出来るようにしたのはエメラルド・タブレットからの応用だ。
とはいえ、一番話が合ったのがイスナーン嬢と「何者か」だったのは予想外だった。
あの子が私の太陽の目のように瞳をキラキラさせながら話しかけているのは何故だろう。フェーリに聞いてみた。
「…実はあの子、特撮とかロボットアニメとかが好きで」
「それならああもなるかな、ぼくのかんがえたスーパーロボットを創れるんだし」
「それと、エアさんも「特撮」で分かるんですね」
「地球で生まれた物語にはだいたい目を通しているからね。ただ、思い入れだとイスナーン嬢には負けるかな」
「ふふ、あの子にも先始の魔女に勝てる所があるなんて」
「分野ごとだと私達以上の存在は珍しくもないさ。フェーリだって、こうして私達を見つけてみせたんだから」
「専門ですから。歴史上でも私が一番だって自覚はあります」
「良かったら、その知識でいっぱいアーレアを助けてあげてほしいな」
「勿論です、この「白き結び」にかけて」
「うん、お互い頑張ろう」
ちょっとだけフェーリとアーレアの幸せを知る事が出来た気がする。
なるほど、これが誰かの幸せを知る幸せなのか。
イスナーン嬢と「何者か」の描くイメージが少しづつ具体化していく中で、私は何となくそんな事を思った。
そんな私達に、漂っていたアイとアーレアが近づく。
どうすればこの「スーパーロボット」で「白い結び」を契れるのかを相談していたらしい。
「…正直に言えば、アイちゃんとエアちゃんがあっさり協力してくれてびっくりしたな。こちら側には不干渉を貫くものかと」
「地球のことや人類のこと、魔女のことだったら運命に任せていたよ。けど今回の「バッドエンド」とやらは私達だって巻き込みかねないし、それに」
「それに?」
「目には目を、理不尽には理不尽を、インチキにはインチキを…ならば、「バッドエンド」には理不尽な終わりを、なんて思ったりもしたんだ」
「…本音を言えば?」
「うん、私達とお母さんを作ってくれた世界そのものが壊れてしまうなら、私達だって阻止したいし…本当はね、君達や「何者か」の力になりたいとも思ってた。普段はさ、下手なことをすると逆効果だから何も出来なかったけど、今回はそうじゃない」
「…アイちゃんとエアちゃんのお母さん、本当に素敵な人だったんだ。二人を見ると分かるよ」
「ふふ、後でいっぱい自慢してあげよう」
アイとアーレアにも何か通じ合うものがあったようだ。
ちょっと大分気恥ずかしい事を言われてしまった気もするけれど、私の本音でもあるから良しとしよう。
さて。
そんなこんなで大体は「スーパーロボット」の設計図はまとまった。
一旦6人揃って白い立方体の真ん中に降りる。
私とアイで設計図を元に「願った」。
今回ばかりは一瞬でとはいかず、少しづつその姿が組み上がっていく…
──
七割くらいはイスナーンの趣味を元にしたその「スーパーロボット」は、
まさにくろがねの城の如くにそびえ立っていた。
とりあえずは全高500mで創ったがこれは我の都合で伸ばしたり縮めたりも出来る。50kmにも出来るし5mにも出来るぞ。
破壊力の源でもある質量は通常の方法では計測できない。何億トンをも一点に集中できるし、必要ならば質量0、更には虚数の存在となる事も可能だ。
動力炉は灰血機関を採用した。アイとエアは「強いから強い」「動くから動く」雑に強くて雑に無限力で雑に壊れない機関を提唱してくれたが、尽きる事なき魔力そのものである我が動かすにはこれが一番だろう。
くろがね色の機体は全てが魔導装甲で覆われている。こちらはアイとエアが願った「雑に壊れず雑に朽ちず、しかも自在に伸び縮みする」素材を元に、我の魔力を増幅しながら我の思った通り以上の機動を可能とする装甲だ。
この外骨格が硬度を保ちつつ筋肉のように伸び縮みするのに合わせて、内部の魔導フレームも駆動する。二つの経路で増幅される我の魔力は乗算を成してありとあらゆる「バッドエンド」を跡形もなく粉砕する。
整備と修理は必要ない。我の魔力が通っている限り、動力炉も装甲もフレームも、この機体の全てが生命のように代謝し再生する。必要であれば魔力で装甲を強化したり腕を増やしたりも出来る。
見た目は「スーパーロボット」らしさに溢れているが、シルエットや細部に目を凝らすと花嫁衣装にも見える意匠をエアが施してくれた。彼女は喜んでくれるだろうか。
そして、その左手。機能美と造形美を兼ね備えたマニピュレータの薬指には一つの白い指輪が添えられていた。これはアーレアとフェーリの願いであり、もし彼女と我が結ばれるのならば文字通りの婚約指輪となる。その暁には、この「白い結び」が世界や次元を超えて全てに幸せをもたらすのだ。
イスナーンは言葉もなく立ち尽くしていた。
間違いなくこのスーパーロボットは彼女の理想そのもので、
一生心に焼き付いてしまうに違いない。
こんな体験をしたらもう以前には戻れない。ちょっと気の毒な事をした。
だって我から見てもすごいもんコレ。完璧を超える完璧は創れるのだな。
「…うむ、申し分なき「フラスコ」だ。これならば最早百戦百勝、絶対勝利は決まっているようなものであろう」
「貴女が願えば何時でもゼロセコンドでこの工廠に戻れるようにはしたよ。仮に貴女の魔力が尽きていても、緊急離脱ならば私とエアみたいに願うだけで出来るから」
「イスナーン達のように、その子が見たものは私達にも見えるようになっているから。…プライベートとか、貴女が見せたくないものは自動でシャットアウトするけど、細かい仕様はちゃんと確認しておいて」
「本当に危ないなんて事は滅多にないとは思うけど、どうしようもなくなったら私とフェーリとイスナーン、アイとエア、それに魔女の皆を思い出してね。薄情な子はそうそういないんだから」
「ここまでしてもらって更に世話をかけるのは申し訳がないのだが」
「…あー、うん。もう一つ君に託したいものがあるんだ」
「え、まだ何かあるのかねエア」
「まずはその機体に乗って、それから右手を前に伸ばして」
「分かった、やってみよう」
文字通りのひとっ飛びで我はフラスコに収まる。
うむ、実に馴染む。最初からこの体で生まれてきたかのようだ。
それからエアの言われるままに右手を前に伸ばすと、
彩色に輝く光の大剣がその手に収まった。これは一体。
「闇を切り裂く聖剣、と呼んでほしい。私の好きな物語から貰った名前で、その名の通りにすべての闇を切り裂くはずだから」
魔導装甲を通してエアの声が響いた。なるほど魔力を通すという事は、魔女同士ならこの装甲越しに声が届くのか。
「この子のネーミングは任せるよ! 貴女と貴女の大切な人に相応しい名前を付けてあげて!」
イスナーンが大声で叫んだ。本当はイスナーン自身が名前を付けたかったのだろうが、それは私に譲ってくれるらしい。
アーレアとフェーリに似たいい子だ。
…よし、これで試運転も完了。
後は彼女のもとに飛んでいくだけだ。
我は我がフラスコの両目を光らせて五人にサインを送った。
「また会おう」と。
「白い結びが必ず貴女達を守るよ、忘れないで!」
「未来の先を見つけたら私達にも教えてね!」
「どうにもならなくなったら私達を思い出して、皆で貴女を助けるから!」
「君達が私達を守るように、私達も君達を守る。いつも側にいる!」
「がんばれーーーーーーーっ!!!」
アーレアが、フェーリが、アイが、エアが、イスナーンが。
そして皆が我の背中を押してくれた。
そうだ、我はこうして皆と共にある。負ける気がしない。
さあ行こうか!
──
無次元の世界には時間はない、とはいえ。
結構な時間をあの工廠で使ってしまった。
帰ってきて思い出したのがぐしゃぐしゃなままの私の部屋。
正直魔法でちょちょいのちょいも考えたけれど。
せっかくだからこの五人で片付けようか。
それからアイちゃんとエアちゃんの話も聞いて、
その後には「何者か」も大切な人と合流しているだろうし。
今日はまだまだ骨の折れる日になりそうだけれど、
フェーリも一緒だからどうって事もないよ。
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