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塚部検事 証人尋問再現(統合版)

塚部検事は、逮捕の約8ヶ月前から主任検事として大川原化工機事件の捜査を担当し、公安部による逮捕状請求にゴーサインを出し、勾留請求、起訴を行いました。既に公安部刑事から大きく立件方法に捻じ曲げられた捏造事件であったとの証言が出ている中、起訴前に塚部検事にどの程度の情報が共有され、また、塚部検事が公安部や経産省にどの程度突っ込んだ確認をしていたかが焦点となった尋問でした。

以下は、被告東京都、原告による各主尋問をベースに、原告主尋問、被告国反対尋問、被告東京都再主尋問、裁判所補充尋問を統合して、論点ごとに整理したものです。
各尋問及び証言は、当事務所の弁護士のメモをベースにしているため、一部再現に不十分な点がある可能性があることをご了承ください。


1. 導入

<被告国主尋問>
丙36(陳述書)の内容に訂正はありますか。
→ない。
 
東京地検に着任したのは令和元年6月ですか。
→はい。
 
着任前から警察の捜査は行われていましたか。
→はい。
 
本件事件の相談を警察から受けていましたか。
→はい。

<原告主尋問>
本件について、東京地検は、2018年10月の捜索差押の前から継続的に警視庁公安部の相談を受けていましたか。
→はい。
 
あなた自身が相談を受け始めた時期は?
→令和元年6月着任後、1ヶ月もしないうちである。
 
相談の段階から捜査資料の共有を受けていましたか。
→はい。
 
大川原化工機の役職員の任意取調べの方針について警視庁に指示をしていましたか。
→はい。
 
逮捕状請求のタイミングについても、指示を行いましたか?
→指示ではなく、了解を出した。 

2. 1回目の逮捕前の捜査資料の共有状況

<被告国主尋問>
1回目の逮捕前に警察から捜査記録の写しを受け取りましたか。
→はい。
 
受け取った捜査記録にはどのようなものがありましたか。
→噴霧乾燥器の省令の解釈についての報告書、経産省の供述調書、経産省の通達についての報告書、噴霧乾燥機について最低箇所がどこになるかについての報告書、実機での実験でどれくらいの温度になるかの報告書、A社(注:同社からの要望により匿名化しています)の聴取報告書、乾熱殺菌で細菌を殺菌できるかの結果についての報告書、千葉大学からの聴取結果報告書、実験結果報告書、経産省の該当性に関する回答書、原告会社の従業員や、当時被疑者の供述調書などがあった。
 
警察側で捜査を報告した責任者は誰でしたか。
→M警部。
 
原告の逮捕前、本件の捜査状況についてどのような報告を受けていましたか。
→捜査記録の写しをもらっていた。そのうえで、経産省からの回答内容も問題ない、被疑者との関係でも概ね被疑者は事実を認めている旨の報告だった。
 
事件記録を検討した結果、本件の主な問題は何でしたか。
→共謀の事実及び被疑者を誰にするのか。
 
事件記録の検討の結果、1回目の逮捕時点で客観的要件はどう考えましたか。
→証拠を見る限り問題ないと判断した。
 
1回目の逮捕前に捜査メモを受け取ったことはありますか。
→ない。
 
温度が上がりにくい旨述べている従業員がいることの報告を受けていましたか。
→受けていない。
 
経産省との打ち合わせ内容の報告は受けていましたか。
→受けていない。
 
<原告主尋問>
検事相談の段階の警視庁公安部とのやり取りについて伺います。まず法令関係ですが、貨物等省令の条文、経産省が定めた運用通達の該当箇所は検事相談の段階から資料共有を受けていましたか。
→はい。
 
経産省が事業者向けに公表しているマトリクス表やCISTEC発行のガイダンスの該当箇所はありましたか。
→資料は膨大にあったと記憶している。
 
貨物等省令の元となったオーストラリアグループ(AG)の規制リストや、AGの規制リストに関するハンドブックの該当箇所も確認していましたか?
→ありました。
 
甲11号証を示します。2014年ころのマトリクス表です。5頁目の下、噴霧乾燥器の欄には、運用通達の定めが記載されていません。こちら、なぜマトリクス表に運用通達の定めが記載されていないか、警視庁公安部に説明を求めたことがありますか?
→ないです。
 
甲5号証を示します。CISTEC発行のガイダンスです。下の頁番号で44頁。こちらに、噴霧乾燥器の規制要件に関する記述がありますが、運用通達の定めが記載されていません。そればかりか、「乾燥粉体がもれないようにして」と、曝露防止がなされていることが要件であるかのような記述も見られます。この点について、警視庁公安部に説明を求めたことがありますか?
→ありません。
 
同じく下の頁番号10頁。こちらには噴霧乾燥器に限られず全ての規制対象機器共通の特徴として「漏れ・拡散を防止対策された機構・構造を具備」とあります。この点について警視庁公安部に説明を求めたことはありますか?
→ないです。
 
そもそも問題となっていた規制要件ハの趣旨は何だと理解していましたか。
→細菌兵器を製造した人たちが分解しなければ菌を死滅できないのであれば、その機器で細菌兵器を作るとは考えにくい。
 
作業員が被爆するのを防ぐという趣旨ですか?
→はい
 
甲11号証の「滅菌又は殺菌することができるもの」の解釈部分と、甲3号証のクロスフローろ過器の箇所にあるテクニカルノートを合わせて示します。原文のdisinfectedの定義と、運用通達の殺菌の定義との間で、文言上どのような違いがあるか、起訴前に理解していましたか?
→(読解に手間取る)・・・今は、見てわかります。化学薬品を使用することにより、という記載がマトリックス表にはないです。
 
両者の定義に違いがある理由について、警視庁公安部や経済産業省に説明を求めたことはありますか?
→ない。
 
AGの合意を受けて制定された輸出管理規制が、日本においてAGとは異なる内容、しかも上乗せ規制として敷かれている理由を確認する必要があるとは考えませんでしたか?
→経過については、AGの合意に至るパブコメなどの経緯から合理的な説明をしていると思いました。
 
日本が上乗せ規制をした理由はどう考えていましたか?
→AGは国際規定であり、それより国内規制を緩くするのはまずいが、国内法の規定の仕方はAG合意に縛られるものではないため、AGより厳しくするのは問題ないことだと思う。それ以外で説明は受けていない。

<被告国再主尋問>
捜査当時、AGの合意は把握していると言いましたが、AGの合意をそのまま国内法に反映させる認識はありましたか。
→国内法に反映させなければならないという認識はありませんでした。
 
起訴時、法令解釈についても検察官が判断するものですか。
→はい。
 
調べた上で経産省の解釈は相当だと判断したということですか。
→はい

<原告再主尋問>
AGの規制リストも事前に共有されていたという話ですが具体的にいつですか。
→2019月6月の着任したときには既に改正経緯が全てまとめられた写しがありました。
 
AGのテクニカルノートの文言と経産省の運用通達の文言が違う理由は確認しましたか。
→していません。改正経緯がまとめられた資料を読めば、文言が違う理由は一目瞭然でした。
 
なぜ両者の文言が違うのかは資料を見ればわかるので確認しなかったということですか。
→はい。


 あなたが認識する限り、大川原化工機の噴霧乾燥器が国外で悪用されているといった事実はありましたか?
→そのような事実は把握していない。
 
④捜査事項照会に対する経産省の回答に関する認識
丙3号証(経産省回答)を示します。経産省の回答内容は、「照会における添付資料の内容を前提とすれば、規制に該当すると思われる。」というものです。添付資料の内容を前提とした判断であることは、検事相談を受けていた段階で認識していましたか?
→はい。
 
丙2号証2頁目の添付資料リストを示します。これらの内容を前提としての経産省判断ですから、これらの内容に誤りや不足がある場合、経産省判断が変わる可能性があるというものであることは、理解していましたか?
→一般的にそうだと思います。

資料17〜20は殺菌の解釈に関する有識者見解です。法令の解釈運用を自ら行っているはずの経産省が規制該当性の判断をするのに、4人もの有識者見解が添付されていることについて、違和感はありませんでしたか?
→ないです。
 
違和感がなかったのはなぜですか。
→何故と言われても、違和感がなかったからです。
 
経産省が自ら殺菌の定義、解釈を持っていれば、有識者見解は不要ではないですか?その経緯からして、経産省が殺菌の定義や解釈を持っていない可能性があるとは思い至らなかったのですか。
→経産省が求めたものではないと思います。
 
輸出管理規定の法定刑は分かりますか。
→分かりません。
 
警視庁は、殺菌の解釈やその証明方法について、経済産業省と5ヶ月間に渡り打合せを重ねて、当初は警視庁の考えに難色を示していた経産省を、学者の意見を取り付けるなどして説き伏せたという事実経過があるようなのですが、このような事実経過について、警視庁や経済産業省から報告を受けたことがありますか?
→知りません。

3. 1回目の逮捕から勾留請求、起訴の判断

<被告国主尋問>
RL5を無許可で輸出した事件は、3月11日に逮捕、送致されていますか。
→はい。
 
3月12日時点での主な証拠は、事前相談の内容に加え、逮捕後の供述調書がありましたか。
→はい。
 
大川原社長の任意取調べの供述はどのようなものでしたか。
→概ね該当性も含めて認める供述だった。共謀の事実は島田さんが話していたほど詳しくは話していない、共謀として社長室で話したことは言っていた。
 
客観的要件に関する主張はありましたか。
→特別な主張はない。
 
相嶋さんの供述はどのようなものでしたか。
→客観的要件は認める供述で、共謀は社長室で話をしたことはある旨の供述だった。弁解録取ではすべて認める旨の供述をしていた。
 
ここで丙40(相嶋さんの弁解録取書)を示す。相嶋さんは、客観的構成要件につき間違いない旨供述しましたか。
→はい。
 
丙41を示す。相嶋さんは逮捕事実を認める供述をしていましたか。
→はい。
 
島田さんの供述はどのようなものでしたか。
→経産省とのそれまでのやり取りを含め、事実を認める供述だった。
 
証人はRL5の輸出に関する事件について勾留請求しましたね。
→はい。
 
勾留請求をした理由は。
→逮捕前からの捜査記録を見る限り、RL5が法令の要件に当たると考えたし、任意捜査から、共謀の嫌疑も認められると判断した。会社による組織的犯行と思われ、被疑者3名は検察での弁解録取段階から黙秘になった。特に相嶋さんが当初「許可申請していると思っていた」と言っていたが、途中から黙秘に変わった。そこで、故意や共謀の事実について、罪証隠滅の恐れがあると考えた。

RL5の事件について起訴しましたか。
→はい。
 
貨物等省令を要件ハの解釈はどう考えるのが相当と考えましたか。
→経産省通達のとおり、殺菌方法は限定せず、乾熱殺菌を含むものであり、省令で定めた細菌のうち1種類でも殺菌できれば該当すると思った。
 
そう考えたのはなぜですか。
→軍用転用できる噴霧乾燥器を阻止するのが法令の趣旨であり、細菌になりうるものを1つでも殺菌できるのであれば輸出規制すべきと考えた。そのため殺菌方法を限定する必要はない。
 
また、証人は輸出規制で曝露防止は必要かどうかはどう考えましたか。
→必要ない。
 
なぜそう考えたのですか。
→条文に規定されていないから。
 
RL5が規制に該当すると判断した根拠は何ですか。
→実際に実機を使った乾熱実験の結果、RL5がバグフィルター下部で、110度で5時間以上になるという実験結果があり、また、乾熱殺菌については、O157と同程度の耐熱性を有する菌について実施したところ、90度で2時間加熱すれば殺菌できるとされていたことから、RL5で殺菌できると考えた。
 
警察がA社(注:同社からの要望により匿名化しています)の聴取結果から最低温箇所を特定しているが、この聴取結果はどう判断しましたか。
→A社も噴霧乾燥器を作っている上、中立な第三者の立場であり、意見内容は噴霧乾燥器はヒーターから遠い排風口に近づけば近づくほど温度をあげられないのでそこが最低温になるというものであり、合理的な考えだと思った。
 
以上から信用できるということですか。
→はい。

4. 2回目の、逮捕、勾留、起訴の判断

<被告国主尋問>
5月27日、L8iでの2回目の逮捕時は、L8iの捜査報告書がありましたか。
→はい。
 
勾留請求をしましたか。
→はい。
 
それはなぜですか。
→先ほど述べたのと同じ証拠構造であった。2回目の逮捕は勾留するまでの相嶋さん、大川原社長の弁解録取は私が自らやったが、大川原社長は大腸菌であれば死滅するとわかっていたと言っていたのに、法律が悪いと言っていたので、関係者と口裏合わせや証拠隠滅を相談する可能性が高いと判断した。
 
相嶋さんはどのような供述でしたか。
→該当性を争う趣旨の供述はなかった。私が覚えているのは供述態度である。黙秘は本意ではない印象であった。私は「自分の信念に基づいて話したいことは話せ」と言った記憶がある。
 
L8iの事件についても起訴しましたね。
→はい。
 
2回目の起訴時、要件ハの該当性は同様に考えていましたか。
→はい。
 
どのように判断していましたか。
→先ほどと同じで該当すると判断した。

5. 検事調べでの測定口の指摘

<被告国主尋問>
原告会社従業員のEさんの小林検事への供述の内容は知っていますか。
→はい。
 
Eさんの供述当時、認識していましたか。
→認識していたか記憶がない。
 
Eさんを含む原告会社従業員はどのような供述をしていましたか。
→3人程度の人が、温度が上がりにくい箇所があるという話をしていたのを認識している。
 
他の関係者はどうでしたか。
→任意捜査と同じく要件ハの該当性を認める人もいた。原告従業員もなかなか取調に応じてくれなかったが、応じてくれた人は、認めた人もいたし、任意捜査と違うことを言っている人もいた。原告会社のOBは認めていた。
 
原告会社従業員の供述を受けて、補充捜査はしましたか。
→しなかった。
 
それはなぜですか。
→関係者3人の供述が、具体的な供述ではなかったと記憶している。任意捜査段階では技術者としての根拠が持った回答だったが、検事調べでの供述は、供述の変遷の理由も根拠もなく、具体的な話でもなかったので補充捜査は必要ないと判断した。
 
Eさんの発言は立件を揺るがすものではないと判断しましたか。
→はい。
 
仮に測定口の箇所を認識していたとしても、補充捜査しなかったということですか。
→はい。

<原告主尋問>
大川原化工機の従業員である枝村さんが、小林検事の調べに対して「温度が上がらない箇所がある」との指摘したことはあなたも認識していたということですね?漠然とは認識していた?
→はい。
 
小林検事から報告を受けて認識していたということですか?
→はい。
 
乾燥室の「測定口」という指摘があったかどうかや、測定口の温度が上がりにくいことの根拠として小さいパイプ状になっていて風が通らないと述べていたこと、手で触れるぐらいの温度までしか上がらないと述べていたことまでは記憶にないということですね?
→記憶にないです。
 
他の従業員も、先程の主尋問だと少なくとも3人、検事に対して温度が上がらない箇所があると供述をしていたのですが、こちらは報告を受けていましたか?
→はい。
 
原告の社員が述べている部位や温度が上がらないという根拠、具体的にどの程度の温度だと言っているのかについて、小林検事に確認しなかったのですか。
→はい。女性の方一人が、噴霧乾燥機が温度が上がらない理由は、噴霧乾燥機の外部におでこをつけても熱くないからと言っているという抽象的な報告を受けたことはあります。他の方もも、技術者としてどういう理由なのか、また、技術者なりの計測の結果を述べたわけではなかったです。

<被告東京都反対尋問>
「おでこをつけても」という話がでたそうですが、どこにつけるという話でしたか。
→具体的にどことかいう話ではなかったです。

その報告を受けて、熱くないと言っている具体的な部位はどこなのか、検事に聞き返したり、確認したりしなかったのか
→報告を受けた記憶はないです。聞き返したかの記憶もありません。
 
小林検事の報告が抽象的だったということですか。
→小林検事の報告は抽象的ではなく、小林検事が代弁する従業員の報告が抽象的だったということです。
 
結局のところあなた自身は、社員が温度の上がらない箇所があると述べていることについて、あまり重要ではないと思っていたわけですね。
→はい。

丙20号証を示します。あなたが陳述書7頁で言及している大川原化工機の従業員の検面調書です。2頁目。この従業員は、箇所によっては温度が上がりきらない部分もあると述べています。熱伝導が悪い箇所は温度が上がらないのではないかとの指摘です。あなたは起訴前にこの調書を読んでいますね?
→はい。
 
丙19号証を示します。大川原化工機の役員の検面調書です。4頁目。この役員も、熱風が行き渡らずに温度が上がりきらない部分があると述べています。あなたは起訴前にこの調書を読んでいますね?
→はい。
 
少なくとも検事調べにおいて5人の役職員が温度の上がりきらない箇所があるとの指摘をしていました。これら5人からの聴取は、大川原社長らが逮捕された2020年3月11日以降に行われたものですね?
→はい。
 
任意調べでその旨の指摘があったか公安部に確認しましたか?
→確認していません。
 
大川原社長らの逮捕前の、警察官による大川原化工機の役職員の聴取でも、複数の従業員が温度の上がりづらい箇所があることの指摘をしていたのですが、こちらについては報告を受けていなかったのですか?
→受けていない。
 
警視庁が、2018年12月以降、大川原化工機の役職員に対して任意の取調べを繰り返し行っていたことはご存知でしたね?
→継続的に取調べをしていたことは認識していた。
 
あなたは、大川原化工機の役職員の中で、噴霧乾燥器の仕組みや噴霧乾燥機の構造について、誰が一番くわしいと認識していましたか?
→相嶋さん。
 
相嶋さんは何と供述していると認識していましたか?
→相嶋さんは認めの調書があったのでコールドスポットについてはどういう供述だったかわざわざ確認していません。逮捕後の検事調べでも、弁解録取は担当していないが、弁解録取の録音録画を見てそのような主張はありませんでした。
 
あなたは、警視庁に対して、相嶋さんから、最低温度の箇所に関する聴取を行うようにとの指示をしましたか?
→していません。
 
あなたは、逮捕後に検事が聴取を行ったところ少なくとも5名の役職員が検事に対して温度が上がりづらい箇所があると指摘したにもかかわらず、役職員への聴取を含めて一切補充捜査の必要はないと判断したということですね?
→はい。
 
もう一つ聞いておきます。検事調べでの指摘を受け、警視庁に対して、任意の取調べの時点で大川原化工機の役職員から温度の上がりづらい箇所に関する指摘がなかったか、報告を求めましたか?
→いいえ。
 
実際には捜査メモがあったわけですから、あなたが報告を求めていれば、報告を受けられたと思いますが、そういった考えは有りましたか
→思い浮かばなかった。

<左陪席裁判官補充尋問>
事情聴取の情報共有はどの程度されますか。
→主任検事は私ですが、取調べについては4人くらい応援の検事がいました。検察官同士で取調べで聞くべき内容は事前共有しているし、報告すべき点はするようにさせています。
 
あなたに情報はすべて集約されるということですか。
→はい。
 
枝村さんに測定口の話は訊きましたか。
→測定口の存在を公判に初めて知ったので、していなかったです。パンフレットは見ましたが測定口はなかったです。測定口について何か指示したこともないです。
 
具体的に訊いたことはないですか。
→ないです。

 6. 補充捜査を行わなった理由(測定口以外)

(1)業界の状況を確認していたか

<原告主尋問>
噴霧乾燥器の規制が施行された2013年10月から警察が捜査を開始するまでの間、経済産業省における噴霧乾燥機の輸出許可実績は1件のみであったことは、ご存知でしたか?
→はい。
 
あなたがそれを知ったのはいつ頃ですか。
→逮捕後、3月24日だったか、、、。
 
前任の検事からの引き継ぎの際にそのような情報はありましたか。
→起訴前には把握していた。1回目の逮捕か2回目の逮捕か覚えていない。
 
あなた自身は、逮捕前には輸出許可実績を把握していなかったということですか?
→記憶にない。
 
大川原化工機はもちろん、藤崎電機を除くすべてのメーカーが、非該当と判断していたことについて、その判断の理由や、ハの要件について業界がどのような理解をしていたのか、警視庁公安部や経済産業省に説明を求めたことはありますか?それはいつ頃で、どんな反応があった?
→ないです。

<被告東京都反対尋問>
該非判定の申請が藤崎電機だけということを起訴前に把握したというが、宮園警部から訊ききましたか?
→はい。

それでも原告会社のみ立件した理由はなんですか?
→新しく改正した法律についてはきちんと判断できない中小企業もありますが、その場合は、1回目は警告、従わない場合に2回目は刑事処罰となる流れが普通です。今回特殊だったのは、原告会社は法改正の過程に自ら関与して。このような条文だと自社製品が該当してしまうので改正してくれと意見をしており、それは裏を返せば該当することを認識したはず、そこが他の企業よりも違う点であり、悪質だと判断しました。
 
宮園警部から、他の企業の立件の話は訊いたか
→きいていないです。

<原告再主尋問>
原告会社が噴霧乾燥機の輸出に関し警告を受けたか確認しましたか。
→していません。
 
他の企業が非該当としている理由を確認しようとしましたか。
→していません。

(2)経産省が殺菌解釈を有していなかったことを確認していたか

 <被告国主尋問>
1回目の逮捕から起訴まで、捜査メモを受け取ったことはありましたか。
→ない。
 
1回目の逮捕から起訴まで経産省から要件ハの解釈が曖昧であると聞いたことはありましたか。
→ない。

<原告主尋問>
2020年3月23日ないし24日、本件の捜査に関する相談のため、時友警部補と田村警部補が相談に訪れた事実はありますか。
→勾留期間中は、ほぼ毎日来ていたと思います。
 
その時、時友警部補らから、経産省が当初(犯行つまり輸出行為の時点で)、規制要件ハの明確な定義や解釈をもっていなかったということを聞かされた事実はありますか。
→ないです。
 
あなたはそれに対して、それまで聞いていた話が違う、そうであれば立件できないといった趣旨を述べていませんか。
→いいえ。既に立件した後なので立件できないという言葉は使わないはずです。
 
当時、【その内容/警視庁は、殺菌の解釈やその証明方法について、経済産業省と5ヶ月間に渡り打合せを重ねて、当初は警視庁の考えに難色を示していた経産省を、学者の意見を取り付けるなどして説き伏せたという事実経過】を、正確に報告されていたら起訴の判断に影響を与えていたと思われますか?
→抽象的で曖昧な質問ですのでお答えできません。
 
経産省と警視庁公安部のやり取りについて捜査メモがありますが、あなたはその内容を見ていないのですか。
→捜査メモの詳しい内容は知りません。見ていないです。

(3)湿度の補充捜査について

<被告国主尋問>
湿度の補充捜査を警察に依頼したことはありましたか。
→ある。
 
なぜ依頼したのですか。
→どれくらいの温度になればどういう湿度になるか把握するため。
 
その目的は何ですか。
→洗浄しないまま空焚きをして温度を上げる場合、粉体が残っているため殺菌ができるかを考える際、中に粉体が残っていても、時間をかければ湿度自体でも死ぬし、最終的には熱が上がって死ぬという研究者の意見があった。原告従業員からは、液体を噴霧しながらであれば水蒸気量が上がり、温度が上がるかどうかわからないので実験する必要があるという指摘があり、水分量が温度上昇に与える影響を知るために実験を行った。最終的に湿度が下がるのであれば死滅するという研究者の意見は、合理的で問題ないと思った。

<被告国再主尋問>
湿度の補充捜査において、水分が枯渇したら死滅するというのは誰の意見ですか。
→千葉大の清水准教授。

原告の温度が上がりにくいからという指摘を受けての補充捜査ではないということですか。
→はい。

<原告主尋問>
1件目の起訴後、週明けの4月3日に、警視庁公安部の方に、起訴の報告をしましたね?
→はい。この事件に限らず、どの事件でもしています。
 
その際にあなたが「装置内部で温度が上がらないところがあると言っているが、湿度が一部だけ高いというのはあり得ないので、問題ない」という趣旨のことを言ったことが警視庁の捜査メモに残っているようなのですが、ご記憶ありますか?
→ない
 
丙39を示します。指示をした理由は?
→証拠として、粉体が重なっていても熱を加え続けたら焦げて粉体自体が死滅する、熱を加えつづけたら湿度が枯渇して死ぬという意見があったので、どのくらいの温度でどのくらいの湿度になるか、客観的なデータがあればいいと考えました。また、粉体状態の菌を乾燥状態に置き、水分が枯渇するということであれば、温度と湿度の対比のデータがあったほうが良いと考えました。
 
湿度が低いと乾燥して死ぬということですか。
→専門家の意見としてそう聞いていた。
 
専門家は別に何度の湿度になれば死ぬとかは述べてないですよね。
→はい。
 
甲8を示します。3枚目の5段落目。「乾燥した熱(乾熱)では160°C以上の高温でなければ殺菌効呆は期待できないが,いわゆる湿った熱(湿熱)では,80°C •10分問の処理で芽胞以外の一般細菌を殺滅できる。」と書いてありますね。
→その資料は見ていないです。

<左陪席裁判官補充尋問>
湿度補充捜査ですが、起訴後に行っているのはなぜですか。警察に伝えればすぐに確認できたのではないですか。
→実際は、湿度と温度の関係は原告会社の製品を開発する資料のパンフレットの中にあったので、把握はできていたが、被疑会社の資料なので客観性にかけるため、測定の仕方が問題になるので、念のため、客観的な資料を作ろうと思ったから起訴後になりました。

 (4)実機を使用した検証を行わなったことについて

L8I、RL5について、1回目の逮捕から2回目の起訴まで温度が上がりにくい箇所があると警察からの指摘がありましたか。
→ない。

2回目の起訴後、弁護人から測定口温度の実験結果の請求があったことは知っていますか。
→はい。
 
それまでに警察から口頭で測定口について報告を受けていましたか。
→受けていない。
 
2回目の起訴前に、実際に実機を使用して乾熱殺菌をする実験を行いましたか。
→行っていない。
 
それはなぜですか。
→別々に行った結果を総合して、必要性を感じなかった。実機を使って実験するなら実機を取得しなければならないが、同種の機器を入手して実験を行った場合に、失敗した時の被害が大きいので行わないと判断した。
 
実験機を見たことはありますか。
→ない。
 
見なかった理由はなぜですか。
→実機を見なければわからないものがないと判断したから。パンフレットで確認はしており、それ以上に実機を見る必要はないと考えた。
 
2回目の起訴前に粉体化した細菌を殺菌できるかの実験はしなかった理由はなぜですか。
→事実は把握しているし、細菌を乾燥させて熱耐性を付けた実験は行っていたのでそれで十分だと思った。更に菌の入手が困難だと判断した。

<原告主尋問>
あなたの陳述書7頁に、本件で輸出された噴霧乾燥器の同型機を使用して殺菌実験を行うと、細菌が内部に残ってしまった場合には原状回復が困難となると判断したと書いてあります。しかし警視庁の実験で、内部の菌を完全に死滅させることができるという結論が出ていたのですよね?
→はい。
 
だったら原状回復が困難という心配はいらないのではないですか?
→正確にいうと、必要がないのにあえて同種の機械を入手して実験をやる必要まで感じなかった。
 
設定条件によって色々やって実験する必要はないですか?
→原告の従業員が言っていたが、パンフレット上の温度に比べて制限を解除して入り口の設定温度を変えるともっと温度が上がるので、死滅できると考えていた。そして、設定温度を高温にしたり、粉体を入れて殺菌するという過程で、できた粉体をどう回収するかが問題になり、できた粉体を消毒する必要がある点も問題になります。

<被告国再主尋問>
再現実験をやらなかった理由はなんですか。
→実際の機器を使って実験をすると危ない菌の粉体を作れるし、菌自体は残って焦げ付くとしても最後に安全に回収することができないのではないかと判断しました。

<左陪席裁判官補充尋問>
粉体の実験をすること自体は考えましたか。
→考えましたが、必要ないと思いました。
 
必要ない理由はなんですか。
→別々の実験の読み合わせで合理的に説明できると思いました。
 
乳酸菌で実験しようと思いましたか。
→乳酸菌の実験については関与していないのでわかりません。


 (5)L8iの回収容器は内部かの検証を行っていないことについて
<原告主尋問>
L8iの実験に際して、公安部が、捜査幹部の指示のもと、回収容器下部の温度を計測していたことは公安部から聞かされていましたか。
→知らないです。
 
あなたの逮捕ないし起訴決定の時点の認識として、回収容器の下部は、滅菌又は殺菌を要する機械の「内部」に含まれていましたか。
→含まれていない。機械から回収のときに外すから内部ではありません。それ以外の理由はありません。

<被告東京都反対尋問>
L8i回収容器の中が取り外しができるから内部じゃないという話ですが、丙10を示します。資料9でダンパーが付いているからですか。
→はい。

<被告国再主尋問>
L8iの回収容器に蓋があるかないかについてはどう認識していましたか。
→ダンパーはオプションで付けられ、付ければ回収できるので問題ないと思っていました。

<原告再主尋問>
ダンパーがついていると(製品回収時に)曝露しないから大丈夫ということですか?
→はい。

回収容器から粉体が曝露しないですか?
→ポットの方は・・・記憶はない。
 
ダンパーが付いていたとして、製造後に回収容器を外した際、回収容器の上の部分は、穴は開いている、開いていない、どっちですか。
→どちらでも製品を回収できるから問題ないと考えた。

<左陪席裁判官補充尋問>
ダンパーについて何か聴取したことはありますか。
→ないです。捜査段階で議論されていませんでした。また、当時パンフレットを見ているので、すべて把握しており、ダンパーを含め部品については全て情報がありました。
 
ダンパーの設置方法はエンジニアに聞きましたか。
→聞いていません。
 
ダンパーについて警察から報告を受けたことはありますか。
→報告書はあったと思います。
 
そこすらはっきり覚えていないということですか。
→はい

7. 冤罪の原因

<原告主尋問>
公安部では各捜査員の行った聴取、実験等の捜査結果は原則捜査メモに残され、このうち捜査幹部が立件に必要と判断したものについて報告書等の正式な書類にし、報告書等とならなかった捜査メモは検察官の求めがない限り送致しないのだそうです。このことは貴方も知っていましたね?
→一般的な捜査では大前提だと思います。
 
検察官としては、公安部から送致されなかった書類の中に不利な証拠がないかを、積極的に確認することが求められるのではないですか?
→疑いを持てば確認はするが、今回は疑いを持たなかったです。任意取調で供述も得ていたし、検事調べの供述とも比較をしていますので。
 
では、逮捕状請求の判断にかかわり、起訴を行ったあなたの側にも、違法の問題はさておき、もっとこうするべきであったとか、今後の事件処理に活かすべきと考える点はありますか?
→検事調べで検察官が当時の被疑者本人に確認しているので、また、同じ状況になったとしても同じ判断をします。ただ、起訴後、公訴取り消しがされていることはわかっていますので、起訴後にどういう事情で公訴取消しになったのか分からなかったですが、検察官として真摯に受け止めたいと考えています。
 
違法の問題はさておき、長期間の身柄拘束を受けた大川原さん、島田さん、なくなった相嶋さんやそのご遺族に対して、謝罪の気持ちがあれば、言葉にしていただけますか。
→勾留・起訴をするという判断に間違いはないので、謝罪の気持ちはありません。

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