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A警部補による違法な取調べの数々【大川原化工機国賠訴訟8】

大川原化工機及び同社社長他幹部が外為法違反(不正輸出)として起訴された事件で、2021年7月30日、第一回公判期日を目前に控え、検察官は異例の起訴取り消しを行った。これを受け、東京地裁は8月2日に公訴棄却を決定。事件は突然に終了した。2021年9月8日、大川原化工機らは、警視庁公安部による大川原氏らの逮捕、及び検察官による起訴等が違法であるとして、東京都及び国に対し、総額約5億6500万円の損賠賠償請求訴訟を提起した。

 A警部補は,本件の捜査の中心にいた一人でした。そして,島田順司氏の取調官として,平成30年12月から令和2年3月まで合計35回の任意取調べを行い,令和2年3月11日の逮捕直後,島田氏に対する弁解録取*を行いました。本件において,警視庁公安部は立件ありきの強引な捜査を続け,その姿勢が冤罪を生むこととなりました。その中でも,A警部補の捜査方法は特に目にあまるものがありましたので,訴状では島田氏に対する取調べの違法を特に取り上げています。以下は,訴状から事実の部分を一部抜粋したものです。

*弁解録取とは、被疑者の逮捕直後に警察が行う取調べである。被疑者の言い分を聞き取り、弁解録取書という書面が作成される。

供述調書はあらかじめ作成されていた

 逮捕前の任意取調べにおける島田氏の供述調書は,公判前整理手続の中で開示されたものだけで合計14通存在する。
 しかし,これらは全て,A警部補が各取調べ開始前にあらかじめ作成したものであった。

供述調書の誤りを確認し指摘する機会を不当に妨害した

 島田氏の調書はA警部補があらかじめ作成していたものであり,その内容は恣意的であって捜査機関に有利な虚偽の事実の記載が随所に散りばめられていたところ,A警部補は,島田氏が調書の内容を十分に確認し誤りを指摘する機会を不当に妨害した。
 具体的には,①供述調書を読むことを一度しか許さない,②誤りを一箇所指摘する度に供述調書を取り上げる,③島田氏が修正箇所をチェックするためにペンを借りようとしてもこれを認めない,といったことが頻繁にあった。これらのA警部補の不当な妨害により,島田氏は,調書全体を網羅的に確認することができず,調書の誤りを見落としてしまうことが幾度となくあった

調書の修正依頼等に不当に応じなかった

 調書の修正機会を不当に制限された中,島田氏は,A警部補に対して,調書の誤りの修正を依頼し,また自身の正しい認識を記載するよう求めたが,A警部補は,次のとおり,これら島田氏の求めに不当に応じなかった。

① 島田氏が調書の記載の修正を依頼した際,「じゃあそこは消すけど,代わりに他の箇所に同じ文言を入れるからね」,「じゃあその内容は入れてあげるけど,代わりにこの内容(島田氏が発言していない内容)も入れるからね」などと修正にあたり交換条件を提示し,これを島田氏が受け入れない限り,島田氏の修正依頼に応じなかった。
② 島田氏が,本件要件ハに該当する噴霧乾燥器について,内部の粉体が外部に飛散しない構造で,かつCIP機能を備えた薬液消毒可能なものであると考えていたことを何度も説明し,その旨を供述調書に記載するよう幾度も要求したにもかかわらず,これに一切応じなかった
③ 島田氏がA調書上の「無許可で輸出した」旨の記載を,「ガイダンスに従って非該当と判断し許可が必要でないと思い,無許可で輸出した」との記載に変更するよう何度も依頼したが,A警部補はこれに一切応じなかった
④ 島田氏が,空焚き(噴霧乾燥後の乾熱運転)による殺菌は業界において非常識であり,島田氏自身も一切発想したことがなかったことを何度も説明し,これをそのとおりに調書に記載するよう何度も求めたにもかかわらず,これに一切応じなかった

殺菌解釈に関する不当な誘導

 A警部補は,島田氏に対する取調べにおいて,本件要件ハの解釈について,菌が少しでも死ねば「殺菌」に該当するなどと,公安部解釈とも異なる独自の解釈を断定的に述べ,島田氏を不当に誘導した。
 さらに,島田氏が,仮にそのような意味であれば殺菌できるかもしれないが,そのような解釈だとは認識していない旨を述べると,これを恣意的に歪め,単に「殺菌できると認識していた」旨を調書に記載した。

島田氏に対する不当な発言

 A警部補は,取調べにおいて,島田氏に対しては次のような不当な発言を行い,不当な心理的影響を与えた。

① 大川原化工機を捜査する理由として,同社製の噴霧乾燥器が中華人民共和国の「あってはならない場所」に納入されていたことが発覚したためなどと虚偽の事実を告げ,不当な心理的影響を与えた。
② 島田氏が,発言した内容を調書にしてもらえないなら協力したくないと伝えたところ,A警部補は,供述調書は供述書ではなく調書なので,被疑者が言う内容をそのまま書類にする必要はない等と述べ,不当な心理的影響を与えた。
③ 「そんなこと言っていたらセイシン企業のUさん(注:過去に無許可輸出による外為法違反事件で有罪判決を受けた企業の代表取締役)のようになるぞ」,「過去の不正輸出の事例では殆ど逮捕されている。今回もそのようになる。該当と知っていたと認めないと不利になる」などと恫喝し,不当な心理的影響を与えた。
④島田氏が,殺菌概念に関する見解を説明した際,「そんなことを言っているのはあなただけだ。社長と相嶋さんは該当すると認めている」,「そのようなことを言い続けているとあなただけが逮捕されることになるぞ」など虚偽の事実を述べ,不当な心理的影響を与えた。

弁解録取の手続きの違法性

 A警部補は,令和2年3月11日の弁解録取に先立ち,大川原氏らと共謀して各噴霧乾燥器を無許可で輸出した旨を自白する内容を記載した島田氏の弁解録取書①を事前に作成していた。
 そして,弁解録取手続の開始早々,島田氏から被疑事実に対する弁解を聞くことなく,事前作成していた上記弁解録取書①を島田氏に手渡し,署名指印を求めた。
 島田氏がその内容を読んで確認したところ,大川原氏らと共謀して無許可輸出した事実などないにもかかわらず,「私は,弊社の噴霧乾燥器『スプレードライヤーRL-5』が輸出規制に該当する不安を抱えながら,社長の大川原氏と現顧問の相嶋氏から指示された『非該当で輸出する』との方針に基づき,経済産業省に該否の判定基準を確認せず,無許可で中国に輸出した」旨の記載がなされていた。
 そのため,島田氏は,A警部補に対して,事実と異なる箇所を削除するよう求めたが,A警部補は,島田氏の指摘箇所を修正しないまま,これを修正したかのように振る舞い,再度,無修正の弁解録取書①を島田氏に手渡し,署名指印するよう求めた。そのため,島田氏は指摘箇所が修正されていると信じ込み,上記弁解録取書①に署名指印を行った。
 その後,島田氏は,実際には指摘箇所が修正されていないことに気づき,A警部補に対して,「訂正してくれているものと思っていた。警察がまさかこんなことをするとは信じられない」などと強く抗議した。
 かかる抗議を受け,A警部補は,指摘箇所を削除した弁解録取書②を新たに作成し,島田氏に手渡した。そして,島田氏は,弁解録取書②において指摘箇所が確かに削除されていることを確認し,弁解録取書②に署名指印を行い,弁解録取手続は終了した。

弁解録取書の破棄

 上記のとおり,島田氏の弁解録取書は,あらかじめA警部補が作成しておき,詐術を用いて島田氏の署名指印を得た「弁解録取書①」と、島田氏からの再度の指摘を受け新たに作成された「弁解録取書②」の2通が作成された。これらはいずれも公用文書である。ところが,弁解録取手続終了後,A警部補は,弁解録取書①を裁断機にて裁断して廃棄した(公用文書毀損)。

 その後,A警部補は,令和2年3月25日に,弁解録取の状況について,被疑者取調状況報告書を作成した。しかし,当該報告書には,実際の弁解録取の状況とは全く異なる虚偽の事実が数多く記載された上,弁解録取書①の裁断については,取調べ終了後の同日,弁解録取書①を不要文書用の茶箱に入れていることを失念し,”過失”により裁断機で裁断してしまった旨が記載されていた。


大川原化工機冤罪事件に関する連載記事は、今回で終了です。最後までお読みいただきありがとうございました。


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