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パワハラで取締役全員クビ!? ~役員にとってのハラスメントリスクとは~

社内研修としてパワーハラスメントの講義をご依頼いただく場合、その多くのが対象は管理職の皆さまです。
他方で最近では、役員向けハラスメント研修を、とのご依頼が増えています。
もともと役員向けの役員責任や会社法の基本の講義などのご要望は、CGコード策定以降に増えていましたが、新たな兆候かと思います。
ひとえにハラスメント研修といっても、役員が対象となる場合は、管理職に対する研修とは視点が違います。つまり、役員は経営に責任を持つ立場であるため、個々の違法行為にフォーカスするというよりは、全体の認識としての内部統制の視点が重要になって参ります。つまり、平時から仕組みとして「そもそもハラスメントが起こらないようにどのように組織を作っていくか」ということが重要になるのです。
有事対応についても、管理職の場合は「個別に相談を受けたときのNGワード」などをご教示します。これに対し役員の場合は、個人ではなく企業としての対応の視点が必要ですので、内部統制のPDCAに関する話がメインとなります。
つまり役員に対しては「自分がハラスメントをしないように」という事はもはや当然の前提、としてお話をするわけです。
しかしながら、当たり前なのですが「役員自身もまたハラスメントをしない」ということは、やはり重要です。
特にパワハラは連鎖して増えていきますので、役員によるハラスメントは組織全体を腐らせます(この件だけで30分くらいお話したいくらいですが、いったんこれは置いておきます)。
そして、ハラスメントの認定にあたっては、ハラスメントをした人の立場が重要になります。同じことを非管理職がするのと、管理職がするのと、役員がするのとで、それぞれ違法性や制裁の重さは変わってきます。
さらに、やっとここからタイトルの話になるのですが、去年、取締役のパワハラが原因で、取締役全員が総とっかえになるという衝撃の事件が起きました。
某E社の担当者が頻繁に変わることを不審に思った大株主が確認をしたところ、取締役のパワハラが浮かび上がり、ガバナンスに問題ありとして、体制改善のために当時の取締役を全員取り替えさせた、というものです。

「全役員クビ」突きつけられた駅探 大株主が独自候補:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60489930Y0A610C2000000/

パワハラをした取締役だけではなく、他の取締役も、いわば「クビ」になったというなかなかの事態でした。
パワハラ自体には関与していない取締役が、取締役の善管注意義務の一環として、他の取締役のパワハラについて監視義務があるか、などの議論はなかなか面白いのですが、それ以前の問題として株主に「ノー」と言われてしまう…。従業員だろうと役員だろうと、いや役員だからこそハラスメントのリスクが大きい、そんな時代になったことを痛感する話です。

弁護士 野村彩(のむらあや)

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