論文:「空気を読めない事態」の対処行動 ―バラエティ番組を支えるお笑い芸人に学ぶ―(2008年)

第1章.イントロダクション

 第1節.問題意識 ―「KY」について―

現在、「KY」という言葉を聞いて知らない人はいないだろう。アルファベットのKとYを並べて、「ケーワイ」と発音する。『現代用語の基礎知識』(自由国民社が一年に一回刊行する、その年の日本の政治・経済や文化などについて記述した書籍である)を参照してみると、堀内と山西(2008)が「若者用語の解説」ページに、「空気を読めないの略」と書いており、用例は「あいつKYだよね」などとある。KYは主に若者が使っている言葉だった。しかし今、指南役(2008)が指摘するには、このような言葉を一番使っているのは女子高生たちではなく、マスメディアや、メディアの動向に敏感な20代や30代の大人たちだという。たしかに、テレビや新聞などが、2007年半ば頃の安倍首相の言動に対してKYと使っていた。それに最近では、麻生首相に対しても頻繁に使われている。余談だが、そこには「漢字を読めない=KY」という意味も込められているようだ。

このように、今はKYという言葉が多用される世の中である。その背景には空気を読めない人が増えていたり、空気を読めない人を意識し過ぎたりする風潮があるのだろうか。何においても原因をつきとめるのは難しいものであるが、そんなあなたも空気を読めない人に困らされたことが一度はあるだろう。人の話の腰を折ってまで自分の話をする人。もう会議を終わりにしようという雰囲気なのに、突然新しい方向性で話し始める人。このような人が現れると、それまでの雰囲気が突如として悪くなる。その場の全員がどうしていいかわからなくなってしまうのだ。この状態をすぐさま打開して、良い空気にしたいと皆思っていることだろう。しかし、どう行動すれば良いかわからない。黙っているのも耐えられない。

誰かが空気を読めなかった場合、みんなどうすればいいのだろうか。どうすればうまく切り抜けられるだろうか。市販されている自己啓発本などは、この答えを出してはくれない。大抵が、「空気を読める」人になるための本であるからだ。空気を読めない行動の回避策として、少しは役に立つのかもしれない。だがそれでも、空気を読めない行動はどうしても発生する。他人が空気を読めない場合も往々にしてあるだろうし、自分だってそういう行動を偶然とってしまう可能性はある。「空気を読めない」事態に出くわしてしまったら、実際のところ何をすれば雰囲気を良くできるかについて、考えていこうと思う。


 第2節.調査疑問 ―空気を読めないことへの対処―

  第1項.空気を読めない行動

そもそも「空気を読めない行動」とはどういうことを指すのだろうか。もう一度、『現代用語の基礎知識』を見てみることにしよう。今年発刊された『現代用語の基礎知識2009』から年代を遡って見ていくと、「若者用語の解説」ページに、「空気読めよ」が初めて出てくるのが2003年度版である。「空気読めよ」の意味は、「その場の雰囲気を把握しろ。状況をよく考えろ。」と書いてあり、2009年度版までこの意味のまま記述され続けている。2003年度版ではほかに、「ビミョー」「フツーに」などの言葉が初出で、自分の気持ちを表現するときに、クッションを入れてマイルドにする風潮が若者の間で出てきたようだ。2003年度版には、過去一年、つまり2002年にあったことが掲載されているので、2002年の頃から、あまり自分を押し通し過ぎないようにする、空気を気にする若者が出てきたということだ。

さらに、翌年の2004年度版で、「イタい」が初登場した。「イタい」とは、「空気が読めない状態」を指し、場違いな人に向かって「あの人イタいね」などと使う言葉である。「若者用語の解説」ページの「解説のフォーカス」欄ではこの用例を解説している。

この場合、「痛い」のはその場に居合わせた人たちで、「場違いな人」が痛がっているわけではない。「あの人が同じ場所に居合わせて、こちらに精神的被害が及んでいる」ということである。

たしかに、場違いな人は空気を読めないので、周囲にいる人々に「不快感」や「気まずさ」を与える。そう考えると、空気を読めない行動とは、場の雰囲気をよく把握しないでする行動のことで、周囲に精神的被害が及ぶということと言えそうだ。

では、空気を読めない行動をもう少し厳密に定義することにしよう。ゲーム理論が専門の大浦(2007)は、20~30代の若者についてこう指摘する。

彼らは他人の感情に敏感で、相手に嫌われないように、相手を傷つけないように心を砕きながら日々の生活を送っている。(中略)反面、そういう配慮をしない人間に対しては他人指向者は冷淡で、場の盛り上がりについてこれなかったり、水を差したりする者は「空気読め」といわれていじめや排除の対象にされてしまう。

大浦は、若者には他人とうまくやっていこうとする「他人志向」の傾向が高いのだと言う。しかしそれは、自分の属するグループのメンバーに対してだけであって、自集団外の人に対してではない。自分の集団さえよければ、という「自集団勝手」であると言う。「自集団勝手」とは、大浦の使う言葉で、「自集団にプラスで外集団にマイナス」という行動のことだ。例として挙げているのは、若者のグループがうるさくはしゃいで、周りに迷惑になっている状況だ。この場合、「グループの中で盛り上がる」行動は、「ノリを維持する」ために自集団にプラスなことであると同時に、「周りに迷惑になる」ことが外集団にマイナスなことになっているのだ。典型的な自集団勝手である。

そして、集団で「自集団勝手する」と「自集団勝手しない」の二つの戦略のどちらをとった方が良いかを考察している。集団間で利得の計算をしてみると、この状況が囚人のジレンマ状態であることがわかった。

囚人のジレンマとは、二者間で起こる社会的ジレンマのことだ。個人が利益を追求すると、全体が不利益を被る事象のことを言う。二者間のゲーム実験におけるルールを説明しよう。AとBの二人は、それぞれ「協力」と「背信」の2つの選択肢を合わせて持っている。そのため、選択肢の選び方によって、双方の利益に違いが出るのだ。人間の場合で考えてみる。ともに「協力」の場合は、相互協力の報酬で、両者が300ドルを貰える。ともに「背信」の場合は、罰金として、10ドル徴収される。また、別々に「協力」と「背信」の場合、背信した方が500ドルを貰え、協力した方はだまされたものとして、100ドル徴収される。
このゲームは、自分自身が「背信」するほかにうまい策略がないのである。それが自分の利益を最大化する方法である。しかしそれだと、ともに背信してしまい、利益は小さくなってしまう。それよりも、二人が協力すれば、それぞれがある程度の利益が貰えるのである。その点がジレンマといわれる理由だ。

すなわち、自集団勝手な行動をし続けることで、社会全体の厚生が悪化するという悲惨な事態になることを示している。しかも、この状態はなかなか抜け出せない。自集団勝手をやめようとする成員がいたとしても、その行動は「自集団にマイナスで外集団にプラス」という自分勝手な行動になってしまう。そのため、周囲に精神的被害をもたらし、裏切り者として総攻撃を食らうことにまでなってしまう。

つまり、集団内の人間は、自集団勝手を強要されることとなるのだ。大浦の挙げた若者の例での「空気読め」と言うときの空気とは、「自集団内部に協力する規範は守って当然という空気」ということになる。

以上のことから、空気を読めない行動とは、「自集団勝手ではない自分勝手な行動=自集団内部の協力促進を優先する規範を逸脱する行動」と定義されそうだ。自集団内部の協力促進を優先する規範とは、「みんなが盛り上がっている時には盛り上がること」や、「みんなで助け合ってトラブルを乗り越えること」などの類のものである。

  第2項.周囲の反応

では、空気を読めない行動がわかったところで、この行動をしてしまうと、自集団の成員は実際どう反応するのだろうか。

内藤(2004)は、「場の空気を読めないケース」と題して様々な事例を挙げている。その中のいくつかを紹介する。まず一つ目は、会社の部内の飲み会でのことだ。強い結婚願望はあるが男運が悪い32歳の独身女性がいた。部内では有名な話なのだが、その事情をたまたま知らなかった28歳の男性社員が、「なぜ結婚しないのですか?」とその女性に質問してしまったというのである。その瞬間、「まわりの人たちが波のようにサーッと引いていった」そうだ。

二つ目は、41歳の上司が数人の若い部下を引き連れて食事に行ったときでのことだ。大皿のエビチリを頼んだ際、上司が一人あたりの個数を無視して、女性社員の分のエビまで食べてしまった。その時、「部下たちが一斉に上司を見つめている」状況になったという。

そしてもう一つ、広告の仕事の打ち合わせでのことだ。初対面のプロカメラマンだというのに、25歳の新入女性社員がタメ口で話をしてしまった。その時、「空気は、一瞬で凍りついた」という。

空気を読めない行動を誰かがしてしまったとき、周囲の反応が、ひどく冷淡なものであることがわかる。なぜこんなにも空気が悪くなるのだろうか。その理由は、前に考察したように、集団内の成員が自集団勝手を強制させられるため、自集団内部の協力促進を優先する規範から逸脱するものは、裏切り者として罰せられるからだ。

このような、人々に自集団勝手を促進する規範を守らせるためには、生物上、大きなシステムの進化があったのだと、大浦(前出書)は指摘している。そのシステムの大きなものに、仲間意識と権威主義というものがある。この二つが、自集団への協力を促進する大要因であり、空気を読めない人を仲間外れや裏切り者として認識させてしまうのだ。

仲間意識
集団成員間に仲間意識を持っている人が多い場合、成員のヨコのつながりが発達しているということだ。友人のグループやファンの集まりなどが典型的である。また、タジフェル(1970)の実験によると、人々をただ集団に分けるだけでも、仲間意識は生じるという。集団内のメンバーには、仲間うちでしかわからない言葉遣いや、共通の服装などを要求する。すなわち多くの規範が出来るのである。仲間を信頼すること、時には自分勝手を抑えて、相手のために尽くすことが大切なのだ。集団に仲間意識が存在していれば、仲間や規範と違うことをする空気を読めない人は、裏切り者とみなされ、自集団のメンバーは不快や怒りを感じてしまう。だから、空気を読めない人に対しては、どうしても冷淡な反応になってしまうのである。

権威主義
権威主義とは、自分より弱い相手を攻撃し、自分より上位の者や強い者には服従するという心理傾向のことだ。いわゆる「上下のケジメとか礼儀とかにうるさくなり、マイノリティや外集団に冷たい」集団である。会社の会議が典型的なもので、メンバーのタテのつながりが発達しているということだ。集団に権威主義的な人が増えれば、自集団の成員に規範への強制的な服従をもたらす。空気を読めない人があらわれると、権威主義者は、規則違反に過剰に反応して罰を与えようとする。そして他の成員も、当事者への怒りや不快感とともに、空気を読まなければいけないという強迫観念に襲われる。ひどく厳しい空気になってしまうのである。

  第3項.空気を復興する

空気を読めない行動により、集団の空気が悪くなったとき、どうやってこの空気を良くすればいいのだろうか。前項で述べた二つの要因が、成員の自集団への協力を促進していたことが重要な点である。そう考えると、空気を読めない人に対する「あいつは、仲間じゃない。」というような感情、すなわち仲間意識の崩壊が、空気の乱れを引き起こしたのだと思われる。あらゆる集団において仲間意識は存在するわけだから、この空気の乱れは必然だといえる。悪い空気を良い空気にするには、仲間意識の崩壊を修復するような対処が必要なわけだ。

それから、権威主義の存在する集団では、空気を読めない行動の後には、メンバーの権威主義的な傾向が強まるということだった。それが、悪い空気の源なのである。その悪い空気を良い空気にするには、強化された権威主義を抑制するような対処が必要になるのだ。

まとめると、空気を読めない行動が起きた集団において、悪くなった空気を良くする対処行動とは、「消えかかる仲間意識を復興させること」である。そして、集団に権威主義が存在したときは、「行き過ぎた権威主義を抑制すること」も合わせて必要になるのだ。

それでは、空気を良くするには具体的にどうすれば良いのだろうか。
まず、仲間意識の復興という視点で考えていきたい。空気を読めない行動に出くわしてしまったら、人々は実際にどう行動しているのだろうか。いくつかの文献を当たってみたが、そのような行動が考察されているものはなかった。空気を読めない行動ではないのだが、瀬沼(2007)は、若者が集団内で起きる失敗に対してどう行動をするかについて、論じている。瀬沼が国分寺で見かけた若者7人のグループは、メンバーの一人が水たまりに落ちたときに、「なんでだよー気付くだろ」、「おいしーじゃん」と笑い合い、盛り上がっていたという。これは、不幸な出来事に対して、若者は「笑い」のコミュニケーションに変えていってしまう傾向があるためだと指摘する。若者のグループでは、ノリを維持することが非常に大切なのである。

空気を読めない行動も、規範を逸脱してしまった「失敗」と捉えてみることにしよう。そう考えると、空気を読めない行動は、非意図的で、誰にも予想がつかないものである。本人に悪気はないところが、ある種の救いの方法・釈明の余地を与えてくれるかもしれない。すなわち、空気を読めない行動を「しょうがないなぁ」と丸く収めてしまうことだ。それは、失敗を笑い飛ばすことで可能である。空気を読めなかった事態を笑うことで、軽い出来事として済むのではないか。

そうして、笑いについての文献を当たることにした。すると、興味深いことを見つけることが出来た。井上(1984)が指摘する笑いの4つの効用である。それは、「親和作用」、「誘引作用」、「浄化作用」、「解放作用」というもので、その中で注目すべきものは、「親和作用」と「解放作用」である。「親和作用」とは、笑いが人と人とをつなぐ役割を果たせることだ。敵対的でないことや、協調的であろうとすることを示すことができるのだ。そして、「解放作用」は、笑いによって、絶対的な価値と目されているものを相対化して認識できることだ。そのため、タテ社会を支える規範や価値体系をゆるませることができるのだ。

これらの効用は、「親和作用」が「仲間意識の復興」、そして「解放作用」が「権威主義の抑制」と捉えることが出来る。つまり、空気を読めない行動が起きた集団において、悪くなった空気を良くする対処行動とは、「笑いを起こすこと」ではないだろうか。空気を読めなかった人も、周囲の人たちも、一緒に笑いあうことができれば、また仲間意識が復興し、良い雰囲気になるだろう。空気を読めない人への不快感や怒りもゆるむだろう。また、権威主義者の罰を与える気も失せることだろう。

第2章.研究方法

 第1節.研究対象

ここまでで、空気を読めない行動の後にする対処行動には、笑いを起こすことが適切であるとわかった。では、どうやって笑いを起こすのかだ。空気を読めない行動の後の雰囲気で笑いを起こすには、ある種うまく笑いを起こさないといけないと思われる。下手に笑えないことをしてしまうと、ますます空気が悪くなるだろう。

そこで、笑いを起こす対処行動を、お笑い芸人の行動を分析することで、調べることはできないかと考えた。お笑い芸人は、身の回りのすべてを笑いに変えようとするからだ。バラエティ番組などでは、どんな時でも笑いを巻き起こす役割を背負っているものであるし、そういう使命がある。だからこそ、空気が悪いときでも、人を笑わせることには慣れていると思われる。

また、増田(2008)はこう指摘する。

2008年に目立ったお笑い芸人たち-エド・はるみ、世界のナベアツ、FUJIWARA、千原ジュニア、ケンドーコバヤシ、TKO、髭男爵らを想起してほしい。ここ数年で“ひな壇芸人”という言葉を馴染ませた土田晃之や品川庄司の品川祐、次長課長もしかり。彼らはほとんどが長いキャリアを持っており、ライブやテレビの修羅場で充分に足腰を鍛えてきた。

このように、現在バラエティ番組に出演している多くのお笑い芸人たちは、芸人としてしっかりした腕前を持つ人たちだ。広瀬(2008)によると、FUJIWARA、千原ジュニア、ケンドーコバヤシ、土田晃之らは、15年以上の芸歴を積んでいるそうだ。テレビには、「場に笑いを起こせる」芸人が必要なのである。これから、お笑い芸人の対処行動について調べてみることにしたい。

 第2節.分析方法

分析対象は、お笑い芸人の出演する、テレビのバラエティ番組としたい。しかし、お笑い芸人が定型の「ネタ」を披露するのでは分析対象にはならない。バラエティ番組と言っても、いわゆる「トーク」のある番組である。彼らが自由に喋ることのできる状況でなければ、空気を読めない行動が起きた後の対処行動は見られないからだ。また、テレビ番組であれば、単なる空気を読めない場面は、編集の過程でカットされてしまうと思われる。空気を読めない場面を、笑いで対処できたときこそ、放送されるのではないだろうか。

放送される全てのバラエティ番組を見るわけにもいかないので、日本の地上波テレビ放送における在京キー局の番組の中から、分析する番組を選定することにする。各局のホームページの番組一覧で、バラエティ番組の該当する分類カテゴリーを見ると、日本テレビ放送網が「バラエティ・音楽」、東京放送が「バラエティ」、フジテレビジョンが「バラエティ」、テレビ朝日が「バラエティ」、テレビ東京が「情報・バラエティ」とあった。これらのカテゴリーに含まれる全271番組から選ぶことにした。

番組を選び出す条件は、まず、「お笑い芸人が出演していること」である。そしてもう一つは、「3人以上で喋っている状況が番組の大半を占めていること(集団でのコミュニケーションが時間を割いてなされていること)」である。ここ最近のバラエティ番組に多い構造は、スタジオで数人の出演者がVTRを見て、その感想についてのトークをほんの少しだけするものだ。このようなトーク部分が少ない番組を分析していては、とても時間が足りないので、この条件を重視することにした。

そして二つの条件に該当する番組を、番組ホームページから調べたり、番組を実際に視聴したりして、選定したのが全部で12番組である。簡単に、それらの番組の紹介をする。

・『ダウンタウンDX』(日本テレビ・毎週木曜22:00~22:54)
十数名のタレントや著名人のゲストを迎えて、私生活などのエピソードを紹介しながら話すトークバラエティ番組。司会は、お笑いコンビのダウンタウンの2人。(以下、お笑い芸人の名前が出てきても、その旨を記述しない。他の肩書きの場合は記述する。)
・『アメトーーク』(テレビ朝日・毎週木曜23:15~24:10)
ある共通点を持つゲストが集団で登場し、その共通点についてのトークをする番組。共通点のことを、「くくり」と呼ぶ。ゲストは主にお笑い芸人。司会は、雨上がり決死隊の2人。司会の2人が座るイスと、ゲスト集団の座るイスが向き合う形でトークをする。ゲスト集団の中に、司会的なふるまいをするリーダー役がいることもある。
・『やりすぎコージー』(テレビ東京・毎週月曜21:00~22:00)
お笑い芸人の仕事や私生活にスポットをあてた企画をおこなうバラエティ番組。スタジオでのトーク系企画が多い。レギュラー出演者は、今田耕司、東野幸治、千原兄弟の2人、テレビ東京アナウンサーの大橋未歩。レギュラー出演者の座る後方には、「やりすぎガール」と呼ばれる数十名の女性が座っていて、観客のような役割をする。
・『しゃべくり007』(日本テレビ・毎週月曜22:00~22:54)
レギュラー出演者と、ゲストがトークをする番組。ゲストの正体は、収録時までレギュラー出演者には明かされない。レギュラー出演者は、ネプチューンの3人、くりぃむしちゅーの2人、チュートリアルの2人。司会役は主に、ネプチューンの名倉潤やくりぃむしちゅーの上田晋也が担当する。
・『99プラス』(日本テレビ・毎週火曜23:58~24:29)
ゲストが体験してみたいことをスタジオで体験するというバラエティ番組。その体験したいことを、「コミュ」と呼ぶ。番組前半は、ゲストとのトークで構成されている。司会は、ナインティナインの2人。司会の2人の間に、ゲストが挟まれて座る形で、トークをする。
・『アメカフェ♪』(日本テレビ・毎週火曜24:29~24:59)
ゲスト一名を迎え、自身のブログ(アメーバブログ)の記事を紹介しながら、話をしていくトーク番組。司会は、ファッションモデル・タレントの押切もえ、アンタッチャブルの2人。
・『シルシルミシル』(テレビ朝日・毎週水曜23:15~24:10)
毎週2、3の事物についての情報を掘り下げて特集するバラエティ番組。ゲストを数名迎えて、VTRを交えながらトークをする。レギュラー出演者は、くりぃむしちゅーの2人、クリエーターのいとうせいこう。
・『未来創造堂』(日本テレビ・毎週金曜23:00~23:30)
番組前半の、ゲストがこだわっているものをテーマにトークをする「コダワリのトーク」部分だけを分析対象にする。実際にゲストが、こだわっているものの実物を持参することもある。全員で一つのテーブルを囲み、トークをする。司会は、とんねるずの木梨憲武、日本テレビアナウンサーの西尾由佳理。
・『爆笑問題の検索ちゃん(ぴおん)』(テレビ朝日・毎週金曜24:45~25:15)
最新のインターネット検索キーワードから出題されるクイズ番組。司会は、爆笑問題の太田光、小池栄子。解答者は毎回5名。主にお笑い芸人をゲストに迎える。レギュラー出演者は、爆笑問題の田中裕二、品川庄司の2人、次長課長の2人。毎回出演者が5名以上になるため、クイズに解答しないものは、応援席からトークに参加する形をとる。
・『恋のから騒ぎ』(日本テレビ・毎週土曜23:00~23:30)
オーディションで選出された素人の女性十数名と明石家さんまが、恋愛についてのトークをする番組。毎週著名人のゲストを一名迎える。明石家さんまは立っていて、ゲストと女性はイスに座りながらのトークスタイルとなる。
・『おしゃれイズム』(日本テレビ・毎週日曜22:00~22:30)
レギュラー出演者の3人とゲストがトークをする番組。レギュラー出演者は、くりぃむしちゅーの上田晋也、俳優・歌手の藤木直人、ファッションモデル・タレントの森泉。主に進行役を務めるのは、上田晋也である。
・『リンカーン』(東京放送・毎週火曜22:00~22:54)
毎週レギュラー出演者とお笑い芸人で企画をおこなうバラエティ番組。トーク系企画が多い。レギュラー出演者は、ダウンタウンの2人、さまぁ~ずの2人、雨上がり決死隊の2人、キャイ~ンの2人、DonDokoDonの山口智充。

これらの番組をテレビチューナー内蔵のパソコンで録画した。録画をした期間は、2008年11月6日から2008年12月12日までの約1か月である。そうして分析の対象となった動画ファイルの日付、番組名、特集名やゲストを表※省略 に示した。特別番組がある場合に通常の番組が放映されなかったり、各番組の録画開始時期のズレが影響したりと、全ての番組が毎週録画できたわけではない。そのためデータに偏りが出てしまった点は、反省しなければならないところだ。

そして、これらの映像の中から、空気を読めない行動とその対処行動を見つけることにした。そのために、空気を読めない場面の判別基準を設定する必要がある。空気を読めない行動とは、「自集団内部の協力促進を優先する規範を逸脱する行動」であった。しかし、この「規範の逸脱」だけを判断基準にするのは、少々問題がある。どの行動を規範の逸脱として、どの行動を規範の逸脱としないかを判断するのに、主観性が大いに関わってしまうことがあるからだ。だから、ここではより客観的な判別基準を別に設けたい。誰が判断しても空気が読めない場面であることが望ましいからだ。

以前挙げた、内藤(前出書)の打ち合わせの例では、空気を読めない行動の後、「空気は、一瞬で凍りついた」という表現があった。そう考えると、空気を読めない行動をした人の周囲の人々が、呆然としているところを見つけ出せればよいのだろうか。

また、冷泉(2006)の指摘する、アメリカと日本の教育現場の例も見てみよう。授業中、生徒が教師に対して「下克上」のような、挑戦的な質問をした場合、アメリカの教師は「いい質問ですね」と言って挑戦者をほめるそうだ。空気を読めない質問に対処するのは大変だが、何とかその場を取り繕うとするのである。しかし、日本ではその状況に「適切な言葉がない」のだ。教師と生徒のコミュニケーションが停滞し、気まずい沈黙が発生してしまう。その後にせいぜい教師は、「関係ない質問はするな」などと怒鳴るしかないのだという。この例を見ても、空気を読めない行動の後には皆呆然とし、沈黙が訪れるようだ。

このように考えていくと、客観的に空気を読めない場面を判別するには、「空気を読めない行動の後の沈黙」を基準にすることにしたい。ある種特有の「間」とも言えよう。通常のコミュニケーションは、会話が流れるようにスムーズにすすんでいくのだが、空気を読めない行動には、誰が反応していいかわからないから、不自然な間が空くのだ。誰かが自集団内部の協力促進を優先する規範から逸脱した後、特有の間が空いたときに、空気を読めない場面と判断しよう。

そして重要なことがもう一つ、その間の後に、お笑い芸人が対処をすることが必要である。対処の成功は、笑いを起こせたということである。成功の証として、場に笑いが起きたかどうかも基準とする。

まとめると、「誰かが自集団内部の協力促進を優先する規範から逸脱」した後、「特有の間が空いて」、「お笑い芸人がその対処」をし、「笑いが起きる」場面の映像を部分的に抽出していくということだ。


第3章.結果

 第1節.全体像の把握

空気を読めない行動とその対処行動は、全部で20例抽出することができた。以下、その場面を詳細に分析するため、「空気を読めない発言」、「逸脱した規範」、「対処行動をとった人」、「その対処行動」、「対処行動の分類」を各々簡単に記述した。その全てのデータは、付録として巻末に記載した。※データは省略

全体的に事例を把握してから、各状況を詳細に見ていくことにしよう。
まず、どんな規範を逸脱したかを見てみると、「ギャグやトークが笑えるものであること」、「返答をすぐすること」、「意味がわかることを話すこと」、「答えにくい質問をしないこと」、「共感ができる内容を話すこと」、「滞り無く話すこと」などといったものだった。バラエティ番組での空気を読めない行動とは、基本的な意思疎通における規範の逸脱が多い。大半の規範は小学校で教えられるようなものであろう。集団内のコミュニケーションが停滞することが、自集団においてのマイナスとなるのだ。ほとんど全ての場面が、喋っている人の話の内容が複雑だったり、突飛だったりして、周囲の人々は理解や判断が追い付かなくなり、すぐに返答できないで空気が凍りつくパターンである。会話は言葉と言葉が飛び交うものであるので、誰も返答できないと、ぎこちないものになるのだ。共感性に欠ける言動は、自集団内におけるコミュニケーションの断絶を招いてしまう。やはり、自集団に協力できない行動と言えるだろう。

次に、この空気を読めない場面をどう対処したかということを見ていく。空気を読めない行動をどのように扱ったら笑いになるかという視点を持って、対処行動を分析した。詳しくは、付録の「対処行動の分類」欄を見てもらいたい。はじめに、「対処行動をとった人」だが、空気を読めなかった本人(自分)と、その周囲の人(他人)の2つの場合が見られた。前者は、自分自身が空気を読めなかったことに素早く気付いて、自分で対処をしたということだ。後者は、周囲の成員が悪い空気を対処するパターンである。空気を読めない行動をした本人が、それ自体に気づいていない可能性もあるといえよう。そして、「その対処行動」の内容であるが、大きく分類すると、空気を読めない行動を2つの方向性で対処しようとしていることがわかった。空気を読めない行動を「強調」しようとするか、空気を読めない行動を「隠蔽」しようとするかである。ここからはその対処行動について、詳細に分析することにしよう。

 第2節.対処行動の分析

  第1項.空気を読めない行動を「強調」する

Ⅰ.KY自己認定
 まずは、空気を読めない行動をあえて取り上げることにより、笑いの題材にしようとする方法を挙げる。全ての例の中で、4回出てきたもので、空気が読めなかったことを認めてしまうという対処だ。これを「KY自己認定」と呼ぶことにする。主に空気を読めなかった本人が自供的に使う方法である。
特徴的な例は、11/6『アメトーーク』(ファイル名:1106-アメトーーク-2)の小島よしおが、先輩に食事に連れて行ってもらった際に、気に入られる後輩になる技術を話すところである。以下小島が話した内容を書き起こすことにする。

小島:お会計する時に、まずは「ありがとうございました」、で、店を出る時に、先に出て、先輩が出てきた時に「ごちそうさまでした」、で、次の日、メールもしくは電話で「昨日はごちそうさまでした」、これをだから我々の世界では三顧の礼って言ってるんすけども・・・

※「・・・」は、空気を読めない行動の後に発生する短い沈黙のこと(本論文以下トランスクリプトで使用する)。

この話をした後、少し間が空く。みんなこの話に対して反応がないのだ。そして、小島が恥ずかしそうな顔をして、「今のがトドメの一発だったんすけど」と言った。このように、この話はこれで終わりだということを明かしたら、どっと笑いが起こった。

小島の話を聞いて、オチがよくわからず、誰もどういう反応をしていいかわからなかったのではないか。そこで小島自身がこの空気を察知して、「今のがトドメの一発だったんすけど」(けどの後に、「笑いが起きないですね」という意味が込められている)とつぶやいた。これは、空気を読めなくてすみませんとあっさり認めることであった。この責任が自分にあることを認めることで、張りつめた空気が一瞬で消え、笑いが起きたのだ。また、許しを請う行動を他人に促す効果もある。実際にこの後、周囲の芸人から「大丈夫や」となぐさめられている。
さらに、この「KY自己認定」の強調されたものが、「謝罪」になる。空気を読めなかった責任を認め、わびることだ。4例中3例で見られた。

Ⅱ.キャラ化
 全ての例の中で7回出てきたもので、ある人が、空気を読めない行動をしてしまったら、その人のキャラクターとしてしまおう、失敗はそうして笑ってしまおう、という対処を「キャラ化」と名付けた。
 わかりやすいキャラ化の例は、12/4『ダウンタウンDX』(ファイル名:1204-ダウンタウンDX-2)での森三中の大島美幸の対処行動である。森三中は、女性3人のお笑いトリオである。

話す順番になった森三中の村上知子は、同じく森三中の黒沢かずこに結婚の祝福をされていないこと、「おめでとう」と言われていないことに文句を言う。大島も結婚して6年になるのに言われていないという。そこで、司会のダウンタウンの浜田雅功に、「黒沢言うたれよ、おめでとうくらい」と言われた黒沢は、「おめでとうって言ったらなんか遠く感じるじゃないですか」と弁明。空気が沈黙し、浜田も「は?」とよくわからない様子。この空気を読めない行動に、大島が放った言葉が、「頭がおかしいです、この人」である。

黒沢が言い表したかったのは、おめでとうという言葉が村上や大島に対して礼儀正しくなりすぎるので、彼女らはそういう遠い存在ではないから言いたくない、ということであろう。しかし、会話ではもっとかみ砕いて伝えなければ伝わらないのだ。だから一言だけで終わらせてしまっては、みんなぽかんとして困惑した空気になってしまう。その時に大島は、この理解しにくい会話をすぐに終わりにしないと、笑いは取れないと感じ取ったのであろう。黒沢に、「頭のおかしい人」というキャラのレッテルを貼るだけで、笑いにしたのである。

これは、相原(2007)が考察していたことだが、若者の間ではキャラを使ったコミュニケーションが発達していて、「コミュニケーションを常に想定内に収めるための技術」だと捉えられているそうだ。つまり大島は、黒沢の話をこれ以上広げないで、「この人はこういう人だから」とキャラに収めることで、強制的に話を終わりにしたのだ。

さらに、瀬沼(前出書)は実際に若者にインタビューをして、「ここにいる友人のキャラを教えてください」と質問し、キャラがどんなものかを調べている。
表※省略 にあるように、様々な欠点がキャラとして扱われている。これは、友人の嫌いな点をもキャラとすることで、人間関係を円滑にできるためだと瀬沼は考察する。非常に驚いたのは、空気を読めない人が、「空気読めないキャラ」としてキャラ化されることもあるのだ。何の言葉を入れても「○○キャラ」というように呼ぶことのできるこの対処は、非常に簡単である。しかし対処方法としては有効であるため、大島は「キャラ化」を使ったのだと思われる。

Ⅲ.ツッコミ
 空気を読めない行動に、ツッコミを入れるように指摘をするという、お笑いの常套手段を使ったような対処である。4例見られた。
最もわかりやすいのが、12/4『ダウンタウンDX』(ファイル名:1204-ダウンタウンDX-1)のダウンタウンの松本人志である。

番組のオープニングで、司会の浜田がゲストの紹介をしているときである。タレント・キャスターの河合俊一とタレント・俳優の高田延彦が同い年であるという情報を浜田が伝えると、もう一方の司会である松本が「そう言われても困るでしょうけどもね」と高田に話しかけた。しかし高田は無反応で、少し間が空いてから、「はい?」と困惑。また少し間が空いて、松本が「何も無いんですか」と強く言葉を放ち、笑いが起きた。
返答をしない高田に対し、松本がしたのはツッコミである。すなわち、高田の空気を読めない行動を、素早く指摘することにより、笑いを生みだしたのだ。このように、そのまま起こっていることのわかりやすい指摘は、漫才のボケとツッコミのように瞬間的であり、笑いになる。

 それから、ツッコミがストレートではない例もある。12/7『おしゃれイズム』(ファイル名:1207-おしゃれイズム)のくりぃむしちゅーの上田晋也の例だ。
ゲストの歌舞伎役者・俳優である十一代目市川海老蔵が、お寿司を1か月に50回も食べることや、スッポンを同じお店で2か月食べ続けることなど、極端なハマリ症の話をしたときである。みんな驚いて唖然としているのか、少しの沈黙が流れる。その後、上田が言ったのは「いやいや、バイトでもそこまで熱心に食わないでしょ、そこの」だ。
この指摘は、「食べすぎでしょ」と言うより、わかりにくい。スッポン料理のお店で働くアルバイトの人の話に例えられているからである。空気を読めない行動から距離を置き、対象を客観視した間接的なツッコミは、面白くなるのだ。

Ⅳ.優しい制裁
空気を読めなかった人の指摘が、制裁・攻撃の形をとるのは、ひどく空気が悪くなるのではないかと思ったのだが、11/18『99プラス』(ファイル名:1118-99プラス)でのナインティナインの矢部浩之の例で唯一、優しい制裁が見られた。
バッファロー吾朗の木村明浩が、ナポリタンを食べた感想を言う時に、「おいしゅうございます岸朝子です!」というギャグをしたところ、矢部しか笑わず、木村の頭を大袈裟に叩いたのだ。

岸朝子とは、かつてフジテレビ系列の番組『料理の鉄人』の審査員として出演していた人物である。試食の時の、「おいしゅうございます」という言葉遣いがブームになったため、それを木村がギャグにしたのだと思われる。
矢部は、そのような時代遅れの題材を使ったギャグですべる木村を見て、同業者たるもの、笑わずにはいられなかったのだろう。そこで矢部は、木村の頭を大きく叩いて見せたのだ。すべるという、芸人としてあってはいけない行為をした木村を、注意したかったのだろう。空気を読めなかった木村への制裁は、皆が理解できるものであったし、笑いながら行われることもあって、制裁の厳しさが軽減され、笑いを引き起こしたのだと思われる。
つまり、制裁を「仲間内でのじゃれあい」にしたのである。そこで、優しい制裁と呼ぶことにした。

Ⅴ.逆切れ
自分が空気を読めない行動をしてしまったことを、自分自身が感情的になって、ことを済ませようとする例が一つあった。12/11『アメトーーク』(ファイル名:1211-アメトーーク-2)に出演するバッファロー吾朗の木村明浩である。まず、木村がいなり寿司の魅力を語る場面を、以下文字に起こした。

宮迫:いなり寿司って何かおにぎりとかのカテゴリーに入らへん?
蛍原:お寿司っていう感じじゃないかもね
木村:それ、でも人生の半分損してますよ
蛍原:どういうこと?
宮迫:どういうこと?
木村:だってこれは完全にお寿司ですよ、あなたおにぎりにも失礼ですよ、それは
蛍原:だからどういうことって言うたやん
宮迫:半分損してるんでしょ、なぜ損してるかを言って
木村:だからあのね、二つをまとめてるから、損するんですよ、分ければね、2倍でしょ、おにぎりといなりも・・・なぜ僕をここに座らせたんだ

木村は共感がし難い話をずっとしたため、みんな反応できず、沈黙になる。そして、「なぜ僕をここに座らせたんだ」と言った後、一斉に笑いが起こった。これは、前述の「キャラ化」である。「なぜ僕をここに座らせたんだ。」とは、「僕がここに座っていてはいけない(空気を読めない人だから)。」という意味であろう。

その後も、木村は弁明を続ける。

木村:僕は、ここいは相方かケンコバかほっしゃんを座らせるべきではないかといりゅ・・・もういい!

話し続ける木村だが、言葉が詰まってしまって、「もういい!」と話すことをやめてしまう。そして再度、笑いが起きた。
空気を読めない不測の事態に、収拾がつかなくなって、自ら話を投げ出してしまう。この対処方法は、少々雑なものであるが、「逆切れ」と名付けることにする。

  第2項.空気を読めない行動を「隠蔽」する

Ⅰ.フォロー
空気を読めない行動を、フォローすることで、ある種空気が読めなくはなかった状態にしようとする例が一つあった。一つは、11/20『アメトーーク』(ファイル名:1120-アメトーーク-1)のオープニングである。
全員で立ちながら話をしていて、今回のテーマである「ガヤ芸人」に値する様々な芸人の名前を言っていくのだが、司会の雨上がり決死隊の蛍原徹がTIMのレッド吉田を挙げた時だ。FUJIWARAの藤本敏史が、「タイムイズマネーね、えー」と、TIMが何の略であるかをあえて説明すると、ほんの一瞬間が空き、品川庄司の品川祐が、「TIMだから、TIM」と補足説明を入れた。そして笑いは起こった。

この場面では、藤本が略したままでいいコンビ名を解説してしまったところに、空気を読めなかった原因がある。TIMというお笑いコンビがタイムイズマネー(Time Is Money.)の略称だということを、瞬時にわかる人はあまりいないからだ。だから藤本がいきなり何を口走ったのか把握できず、誰も反応できなかった。芸人である品川は、その空気を察知したのか、補足説明をしたわけだ。「フォロー」は、空気を読めない行動の理解の手助けとなる。しかし同時に、空気を読めなかった人が助けてもらっている図式が露わになってしまう。そのため、空気を読めなかった人の非常識さが笑いにつながるのである。

Ⅱ.同調
空気を読めない人に同調することで、さも普通の出来事のように扱う対処を、「同調」と呼ぶことにする。12/5『未来創造堂』(ファイル名:1205-未来創造堂)でのとんねるずの木梨憲武の例にあった。
フライドチキンをお茶漬けにするのが好きな有吉弘行は、実際に食べてみせた。周囲の人たちが唖然とする中、木梨は一言、「まあなんか、美味しそうに見えてきた」である。
有吉の共感できにくい行動に対し、木梨は本心かそうでないかはわからないが共感を示したのち、一斉に笑いは起きた。ある種異常である、空気を読めない人に対して、同調する人が現れるという、意外なことが笑いになったのだ。

Ⅲ.すり替え
空気を読めなかったことを、自分のせいではなく、違うことに責任をなすりつけようとする対処が2例あった。この対処を「すり替え」と呼ぶことにする。11/27『アメトーーク』(ファイル名:1127-アメトーーク)の山崎邦正の例だ。
この回は、サウナ好きの芸人が集まってトークをしたのだが、山崎はサウナがあまり好きではないのではないかという疑惑をかけられている場面である。

始めは、山崎の「(サウナ)好きですよ」という声が、「声ちっちゃ!」と宮迫にツッコミを入れられるほど小さいものであったところだ。山崎は、自分自身がサウナ好きであることがなぜ伝わらないかを嘆いている。それから、司会の蛍原にサウナへのこだわりがあるかと訊かれて、山崎は返答に詰まる。宮迫が「無いんやったら、無いでいいですよ」と言うと、山崎はやっと、「とりあえず無いですけど」と答えた。そこで短い沈黙が訪れる。この意味は、「やっぱりサウナに興味が無いんだ」という周囲の冷たいまなざしのせいであろうと思われる。その後、なぜか山崎は自分に付いているピンマイクを手で持って、再度「無いですよ」と答え、笑いがどっと起きた。これは、声が小さいと言われ、マイクに声が入っていなかったため、沈黙が訪れたのではないかと山崎が故意に判断したからだ。だからこそピンマイクを顔に近づけて再度喋ったのだ。沈黙の責任を、本来の山崎本人ではなく、自分の声の小ささになすりつけたのだ。
空気を読めない行動をした本人に責任があるのは明らかなのに、声が伝わらなかったことに責任を押しつけることが、見え見えの嘘であるため、笑いを生むのである。

Ⅳ.詭弁
空気を読めない行動であるのにも関わらず、空気が読めたと解釈をして、面白さを生む場合もある。それを「詭弁」と呼ぶことにする。以下は、11/6『アメトーーク』(ファイル名:1106-アメトーーク-1)の小島よしおの話す場面である。
先輩に気に入られる技術というテーマで話をしている時である。小島が、先輩の話に対して「それマジで言ってます?!」という相づちを打つことを心がけていると話すと、ほとんど笑いが起きず、場の空気が盛り下がってしまった。

そこで小島が、持っていた太鼓をポンと叩くと、一斉に笑いが起きた。これは、自分の調子ではなく、太鼓の調子が悪いのではないかとする「すり替え」の一種であることがわかる。
その後、周囲から「大丈夫や」「不安げに喋るからや」となぐさめが入り、小島も「あの、オレ何話してましたっけ?」と困惑する。
そして、後ろに座っていたアンバランスの山本栄治は言う。

山本:いや違うんですよ、小島という男は、この先輩ね、先輩方が面白い話になるように、ちょっと自分がわざとミスしてるんですよ、こりゃ大したもんだ!

小島が空気を読めずにすべった理由を、周囲の先輩芸人に対する配慮であると解釈することは、この場ではこじつけ以外のなにものでもない。小島は自分でも何を話していたか分からないほどだったからだ。だが、この見え透いた嘘は大きな笑いを引き起こした。空気が読めない行動を、空気が読める行動だと解釈する「詭弁」である。

Ⅴ.おとぼけ
空気を読めない行動をした当事者自身が、なぜ空気がおかしくなったかよく理解できないふりをして困惑する行動を、「おとぼけ」と呼ぶことにする。11/13『アメトーーク』(ファイル名:1113-アメトーーク)のドランクドラゴンの鈴木拓の例を記す。
今回は釣りがテーマで、魚がどんな場所にいるかという話をしている場面だ。以下文字に起こす。

木本:自分自身で考えてもらったらいいんですよ、魚は、釣りは、夏とかでも、夏暑いと、こんだけ炎天下やったら自分どこにいたいかって考えるんすよね、木陰いたいし、涼しいエアコンあたってるところいたいし
宮迫:そうね、図書館やな
木本:そういうことです、図書館、図書館、人それぞれですけど、で、エアコンやったらその川の流れこみとかでいろんな冷たい水流れこんでるところに魚がおるんちゃうかとか
宮迫:魚にとっての図書館やな
蛍原:オレ、ジャスコ  (※スーパーマーケットの名前)
宮迫:うわ、買い物できるしな、安いで、ジーパンとか安いで
木本:自分のその時の体調、その日の、あの、季節の体調で考えて投げるんですよ
宮迫:ジャスコに?
木本:ジャスコじゃなくて
鈴木:池がジャスコに変わるわけですよ
宮迫:変わんの?
鈴木:池がジャスコに変わるんですよ、はい、で、ジャスコのそこにいるっていう、はい・・・何か、変なこと言いました?

この場面のトークでは、司会の宮迫と蛍原の二人が、夏の暑い日に魚がいたいところと自分自身がいたいところを同じように考えて、少しでたらめな話が進んでいく。しかし鈴木も、そのでたらめな話に乗っかって、「池がジャスコに変わる」と、よく分からないことを言う。そこで皆ついていけなくなり、少し間が空く。そして鈴木がとぼけて、「何か、変なこと言いました?」と言い、笑いが起こった。

司会者の言ったおかしなことに、鈴木がまたおかしなことを重ねて言ってしまい、理解が難しくなってしまったのだ。鈴木はとぼけることで、空気を読めなくはなかったことをアピールしている。それがわざとらしく、面白いのだ。


第4章.結論

 第1節.お笑い芸人の対処行動

ここまで、空気を読めない行動に対処するお笑い芸人のふるまいを見てきた。彼らは、バラエティ番組という中で、良い空気を維持する役割をきちんとこなしていた。
空気を読めない行動をした本人に、その大いなる責任があるのは、場の成員が承知している周知の事実だ。責任が本人にあることは、どうしても払拭できないため、空気を読めない行動が起こったらきちんと対処するほかない。そうして、周囲の意識を遠ざけるのだ。空気を読めない行動を対処せずに、話題を変えようと、別の真新しい空気を作り出そうとするなどしても、決して場の雰囲気は良くならない。

場の空気を読めない状況を対処するためには、笑い飛ばすという手段が有効であると考察した。そこで、お笑い芸人が出演するバラエティ番組を視聴し、空気を読めない場面での笑いの起こし方を分析した。それには大きく二つの方法があることがわかった。一つは、空気を読めなかった当人の責任を露わにしてしまうことだ。それにより、空気を読めなかった事態を明確にネタとして、当人の失敗を笑っていいものにするのだ。もう一つは、空気を読めなかった当人の責任を隠しても無駄なのに、必死で隠そうとすることだ。隠そうとすれば隠そうとするほど、「当人が空気を読めなかったこと」を顕在化させるようなものである。このようにして空気を読めなかった事態を皆で笑い、済んだことにしてから次の話題に移れば、場の空気は復興するのだ。

 第2節.対処行動の実践

最後に、これらの対処方法を現実の状況に適用するシミュレーションをしてみよう。
まず、自分自身が空気を読めない行動をしてしまったときだ。
とある飲み会でのことである。そろそろ帰ろうと言う雰囲気を察することができず、自分はまだお酒を飲む気だった。そこで、「僕はビールにします。みなさんは何頼みます?」と大声でたずねると、周囲から厳しい視線が向けられ、「空気を読めなかった」ことに気付いた場合。あなたはどうするだろうか。

そのような時には「すいません」と、空気を読めなかったことを潔く認め、「謝罪」してしまうことが良い。やはり、いちばん基本的な対処行動であろう。また、「全員僕と同じものでいいですか?」と、大げさにとぼけることも笑いを生むだろう。それから、「いや、A君が飲みたそうだったからさ」と、空気を読めなかった責任を誰かに押し付ける「すり替え」も良い対処である。特に仲がいいグループに限れば、「じゃあ、もういい!」と、収拾がつかなくなって、自ら話を投げ出してしまう「逆切れ」という方法も良いかもしれない。

そして次は、他人が空気を読めなかった場合だ。
今度は、「僕はビールにします。みなさんは何頼みます?」と言ってしまったB君を、あなた自身はどう対処するだろうか。
まずは、「みなさんは“お会計”を頼みます」という乙な「フォロー」はいかがだろうか。「フォロー」は、空気を読めない言動を、空気が読めたように修正するものである。だから、B君の言い表したいこととズレが無いように、発言の型を合致させて、巧い返答をするのである。また、「さっきの綺麗な店員さんが来ると思って、また注文する気?」という少々無理のある「詭弁」。「こいつ、空気読めないキャラなんだ」という「キャラ化」。「オレもビール飲みたくなってきた」という「同調」。仲がいい人であれば、「いつまで飲むんだ!」と軽く頭を叩けば、「ツッコミ」となる。こうして笑いが起きた後に、「そろそろ帰るよ」と手短に注意をすれば、自然と場は丸くおさまるわけだ。

もちろん本論文で考察してきた対処方法が、全ての空気を読めない場面で使えるわけではない。笑いを起こしては不適当な状況もある。つまるところ、“空気を読んで”、対処をしていただきたい。


文献リスト
・相原博之.2007.『キャラ化するニッポン』講談社現代新書.
・広瀬小太郎構成.2008.「お笑い芸人芸歴表」『Quick Japan vol.79』太田出版.
・堀内克明・山西治男.2002.「若者用語の解説」『現代用語の基礎知識2003』自由国民社.
・堀内克明・山西治男.2003.「若者用語の解説」『現代用語の基礎知識2004』自由国民社.
・堀内克明・山西治男.2008.「若者用語の解説」『現代用語の基礎知識2009』自由国民社.
・井上宏.1984.『笑いの人間関係』講談社現代新書.
・増田晶文.2008.「お笑い用語の解説」『現代用語の基礎知識2009』自由国民社.
・内藤誼人.2004.『「場の空気」を読む技術』サンマーク出版.
・大浦宏邦.2007.『人間行動に潜むジレンマ:自分勝手はやめられない?』DOJIN選書.
・冷泉彰彦.2006.『「関係の空気」「場の空気」』講談社現代新書.
・瀬沼文彰.2007.『キャラ論』STUDIO CELLO.
・指南役.2008.『空気のトリセツ』ポプラ社.
・2008.『日本タレント名鑑2008年度版』VIPタイムズ社.