東京

社会人になってからというもの転勤つづきだった。
東京に戻ってきたのは28のとき。

学生時代に過ごしていた
場所で働けることが嬉しかった。

しかし18:00に仕事が終わったら
先輩に上野の雀荘に連れていかれ、
そこでペヤングソースやきそばをすすりながら
深夜まで麻雀をする。
そんな毎日に疲弊していた。

ある夏の金曜日。
麻雀を終えて家に着いたのが
深夜0:00ちょうどだったような気がする。
なぜかその瞬間、大学時代に住んでいた街まで走ろうと決めた。
衝動的に。
スーツを脱ぎ、着替えて外に飛び出した。
金曜日という解放感もあり、妙にウキウキしていた。

しかし道のりは15,6kmある。
自転車でさえ2~3時間はかかる距離だ。

当時住んでいた白山通り沿いの部屋を飛び出したのも束の間、長い道のりなのだからと歩きに切り替え、
東京ドームを横目に九段下まで、そして皇居のお堀に出た。
皇居ランをしている人がいたので、
俺も人生で一度は皇居ランやっとくかと
皇居の周りを走ったような気がする。ちょっとだけ。

そこから新橋、三田、品川と進むが
東京の東側にずれていっていることに気づき、軌道修正。
迷いながら五反田の方へ。
キャッチのおっさんの間をすり抜け、途中吉野家の牛丼を食べ、
そこからは目黒通りをとにかく歩くことにした。
と、いかにも歩き慣れた感じで書いているが初めて通る道である。
寄生虫博物館と外車のディーラーが同一直線上にある不思議な通りを進むと大きな道路にぶつかった。
環八の感じに似ていたがまだそこまでは行っていないだろうと思い、環七かと思うとそうだった。
そしてその辺から自由通りに入り、駒沢オリンピック公園を目指す。
良い名前じゃないか。自由通り。何時頃だったろう。
夜から朝になっていくゆるやかなグラデーションの中で
「ブロロロ」と音がしたと思ったら新聞配達のバイクの兄ちゃんだった。

そして駒沢通りへ。
すっかり明るくなってきて空気が急にもわもわし始めた。
日が出てきた瞬間はこんなに湿気っぽいのかと参った。
そして用賀に出て北上し、ようやく学生時代に住んでいた街へ。
着いた頃にはもう朝の6:00頃だったと思う。
駅前のベンチで休み、マックへ入ったような気がするが
そこからの行動は本当に覚えていない。
大学4年間住んでいたアパートの周辺をふらふらして
電車で帰ったのだとは思うが、かなり脚が疲れたのは覚えている。
なんで人は前に住んでいたところに行きたくなるんだろう。まったく分からない。
正直、あの頃の101号室をチラ見したところで何の感情も湧かなかった。

行き先はどこでも良かったのかもしれない。
ただ俺が東京の道とか街が好きな理由は一つで、
24時間いつだって自分を受け入れてくれるからだと思う。
歩こうと思ったらすぐ歩かせてくれるわけで。道は。
いろんな景色を見せてくれるわけで。街は。
景色と言っても、
五反田でキャッチしてるおっさんとか、
吉野家で働く気怠そうなフリーターとか。
そんなものを横目に歩くのが心地良いんだよな。