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「フランケンシュタインの恋」…私が人生で唯一ハマった地上波ドラマを語りたい

私はディズニー映画が大好きだ。
それはストーリーやキャラクターが面白いだけでなく、一世紀近くに渡り時代の最先端を走り続け、それでいていつまで経っても色褪せることのない美術や音楽の美しさを、心ゆくまで味わうことができるからだ。

そんな見方をしているものだから、日々世の中で目にするありふれたテレビドラマなどについても、同じように劇伴音楽やらセット美術やら衣装やらについ注目してしまう。もちろん素敵な役者さんが出演しているとか脚本が面白くて話題になっているとか、そういった視点もあるにはあるのだが、正直二の次だ。


そこでひとつ、私には忘れられないテレビドラマがある。
日テレ系で2017年に放送されていた、「フランケンシュタインの恋」。
綾野剛さんが森で孤独に生きてきた怪物・研を、二階堂ふみさんが彼に恋をする女子大生・継美を演じ、柳楽優弥さんや川栄李奈さんらがその周囲の人々を演じた、現代ファンタジーラブストーリーだ。


古びた絵本のような洒落たデザインが目を引く公式サイト。
ページの所々に、ドラマの放送に先駆けて公開された前章アニメ「かいぶつが、生まれた日。」の主人公である”怪物”がいる。
このアニメのイラストは公式グッズやサウンドトラックにも使用されており、ある意味もう一つのメインビジュアルとも言えるのかも知れない。
(公式サイトでの公開は終了していたが、アニメの監督である大川原亮さんが自身の作品として動画を公開してくださっている。嬉しい限りだ。)

可愛らしく美しくも、少し不気味で切ない雰囲気を醸し出す短編。
嵐の夜に生まれ、早すぎる時の流れに虚しく手を伸ばす怪物。最後に溢れる朝の光と、彼にそっと手を差し伸べる女性。
これだけで、ドラマの目指す”ファンタジーラブストーリー”の方向性が見えてくるように思える。


このアニメに使用されているフォーレの「パヴァーヌ Op.50」を編曲したのは、このドラマの劇伴音楽を担当した作曲家/ミュージカルソー奏者のサキタハヂメさん。このアニメでも途中から聞こえてくるピアノとは違う音は、彼が得意とするミュージカルソー(西洋のこぎりを基にした楽器)の音色だ。
ドラマ「妖怪人間ベム」や朝ドラ「おちょやん」などの劇伴音楽で知られる彼の音楽を、私は幼い頃からEテレ「シャキーン!」で聴いていた。その懐かしさと、聴けばすぐにそれと分かる透きとおったミュージカルソーの音が大好きで、今では私が一番好きな音楽家の一人となっている。

もちろんこのドラマのサントラも迷わず購入した。
今まさにそれを流しながらこの記事を書いているのだが、改めて聴くとやはりサキタさんらしさが存分に発揮された面白い曲ばかりだ、と感心してしまう。
(よく見ると、サントラのジャケットに「※作曲者が『大好きだ!』と申しておりますので、結構ノイズ残しております。」との一言を見つけた。そういうところ大好きです、サキタさん。)


さて、ここまで前章アニメの話ばかりしてきてしまったが、肝心のドラマ本編についても、もちろん好きな点が書ききれないほど無数にある。

例えば、衣装や特殊メイク。主人公である怪物の衣装はAUのCM「三太郎」シリーズ等の衣装を手掛ける澤田石和寛さんが手掛けている。
”フランケンシュタイン”と言って思い浮かぶツギハギや縫い目の恐ろしいイメージと、純粋無垢でチャーミングな彼の性格、人間だった頃の確かな名残。それらを融合し、絶妙な色合いと素材感を以って作り上げられた衣装とメイクがとても印象的だ。

また、継美のレトロガーリーな服装や、ドラマ終盤に綾野さんと二階堂さんが二役目として演じるキャラクターの服装も、それぞれが絶妙な雰囲気を醸し出している。


ストーリーも、いくつかの要素が絡み合いながら進行していく。
人間に生み出され、人間に忘れ去られた怪物が見た”人間”の姿。ありふれた日常に”怪物”という未知の存在が入り込んできたときの”人間”の振る舞い。
時にそれはとても醜く危なっかしくて、放送当時の私も何度も心を抉られていた記憶がある。
それでも、研と継美の恋心はいつでもまっすぐで、あたたかく、美しい。
そしてその先にある少しの切なさが、私の心を掴んで離さない。

このストーリーについては、人里離れた山に暮らす怪物と町の娘の恋物語、と言う点から、名作映画「シザーハンズ」がよく引き合いに出される。
加えて、個人的にはなんとなく映画「DESTINY 鎌倉物語」の主人公夫婦を思い出したりもする。二人の愛の根底と言える仕掛けが似通っているからとも言えるだろうし、現代・レトロ・怪物や妖怪、というビジュアル的な要素の取り合わせにも近いものを感じる。そしてこれらの要素は私の大好物でもある。


正直なところ、このドラマの人気は今ひとつだ。私が誰かにこのドラマが好きだと言ったところで、良くても「あ~そんなのあったっけ、観てなかったけど」程度だ。作中でカギとなるキノコの描写が苦手という人もいたようだし、ストーリーもハードな部分とおとぎ話的な部分が少し不釣り合いなようにも見えて、確かに万人受けするタイプではないように思える。
それでも、私にとっては今までの人生でたったひとつの、夢中になって追いかけた地上波ドラマなのだ。


放送当時、ドラマの公式Twitter主導で「#フラ恋絵」というファンアート応募企画が行われていた。その時の私はまだSNSを一切触っておらず、企画に応募するどころか感想をインターネット上で共有することすらできなかった。
それで、私は完全にひとりで、このドラマを楽しむことになった。
ドラマのはじめ、森の中でひとりラジオを聴く怪物のように、孤独。

でも、今はこうしてネットの海に自由に文章を投げることができる。
折角だから、数年越しの思いを吐き出してみたっていいじゃないか。
ドラマの終盤、自分の記憶を人々に伝えるためにラジオに声を乗せた怪物のように、確かな思いを。


(見出し画像は、放送当時の私が前章アニメのスクショをコラージュして作った画像。タブレットの壁紙にしていた。)

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