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残月記/小田雅久仁 ★★



 2つの短編「そして月がふりかえる」「月景石」と、表題作である中編から成る。
 タイトルからわかるようにどの作品にも月が絡んでいる。
「そして月がふりかえる」は、現実を悪夢へと暗転させる装置として月が効果的に使われている。
「月景石」は、一つの石の力によって、主人公の意識が地球と月という二つの世界を行き来するようになり、そこからスリリングな物語が展開してゆく。
 表題作「残月記」は独裁者が君臨する近未来を舞台に、月の満ち欠けに命を左右される奇病「月昂」に罹った主人公の運命を描く。
 どの作品も、闇夜を月が照らしているかのような、仄暗い雰囲気に満ちている。
 「そして月がふりかえる」は、不条理な絶望の中に読者を置き去りにするような終わり方で、ホラー小説の色合いが強い。そしてこの作品と、次の「月景石」との間には繋がりがある。はっきりそうとは書かれていないが、「そして〜」の中の登場人物が、「月景石」の中に登場し、そしてある種の救いを得ている、と読めるのだ。
「月景石」「残月記」はサスペンスフルな展開を経て、救いを予感させる地点へ辿り着く。両作品とも緊迫感に満ち、運命に立ち向かってゆく若い主人公は生命感溢れて存在感がある。劇的な場面転換も多く、漫画やアニメの画が浮かんでくるようだ。実際、これらは漫画化、アニメ化するとよいのではないだろうか。
 帯のキャッチコピーは、まあ、宣伝だからそれでもいいのだろうけれど、「これから千年輝き続ける現代小説の最高峰」というのはちょっとオーバー。期待を煽られ過ぎてしまったので★2つにしたけど、でもとても読みやすいし、読んで損はない。

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