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裁判傍聴 京王線ジョーカー事件第二回公判


 開廷の少し前に立川地裁に着いた。

 傍聴券は持っていなかったが、当日券をもらうことができた。身体チェックを受けて101号法廷に入室。

 被告席についているH氏の横顔が見えた。スーツに坊主頭。眼鏡をかけて視線を下に落としている。感情は読み取れないが、心なしかもの悲しそうに見えた。
 彼と俺と、柵を隔てているが、5メートル位しか離れていない。
 被告席と傍聴席、証人との間に衝立が置かれた。被告と顔を合わせたくない事件関係者への配慮だ。
 全員起立して開廷。

 今日は証人尋問。
 衝立に遮られて姿は見えなかったが、証人は若い男性だった。
 証言台に立つ証人に、検察、弁護、そして裁判員からの質問がなされ、証人がそれに答えるという形で、証言が進められた。

 自分が座っていた車両に、後ろの車両から人がなだれ込んできたこと、その只事でない様子をみて、自分も立ち上がり、人の流れに従って前方の車両に向かって移動したこと。

 後ろの車両から姿を現したH氏の右手には、刃渡り30センチ位のナイフが握られていたこと。

 車両の中ほどで立ち止まったH氏が、2本のペットボトルに入れたライターオイルを床にまき、その後、ペットボトルを前方に向かって投げたこと。オイルが飛び散り、自分の足にもかかったこと。

 自分の前にはパニックになった数10人の人たちが、車両連結部の細い通路に詰まっていたこと。

 倒れている人がいて、自分もつまづいたこと。スマホを落とし、靴も片方脱げたが、そのまま、前方の車両に向かったこと。

 H氏が銀色の何かを取り出し、ジッポのライターだと思ったとこ。

 前方の車両に移動してから後ろを見ると、炎が見えたこと。

 証人は淡々と答えていたが、内容は緊迫していて、まるで自分がそこにいて全てを体験しているかのような気がした。その光景がありありと眼前に浮かんだ。
 裁判員の一人の質問で、ナイフと火をつけられることのどちらにより脅威を感じたか、というものがあり、証人は、火をつけられることだったと答えた。ナイフで襲ってくるようには感じられなかった、という趣旨のことを答えていたように思う。

 印象的だったのは、年若いその証人男性が、被告に対する感情について尋ねられた時、あくまでも自分の思いとして、と前置きをした上で「被告に対する怒りはありません、ただ被告が適正な処罰を受けるべきだとは思っています」と答えたことだ。

 罪は憎むが、人は憎みたくない。
 事件後心療内科に通院したという、この証人の想いは、そういうことなのではないか、と思った。


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