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Sweet Seventeen 1985


 
1
 
3月になります
白いノオトを開きます
 
れんげが咲いたら押し花にして
まだ冷たい風の吹く東京へ送りましょう
 
春は淡い淡い水彩画です
グレイだった海にすこおしブルーの絵の具を溶かします
憂鬱だった朝にすこおし素敵なオレンジをにじませます
 
学年末の試験が終わったら
れんげを摘みに行きましょう
海を見に行きましょう
 
ほんとうに春は嬉しい
 
2
 
ブライダルヴェールを一枝
グラスにさして
南を向いた窓に置きました
 
私が机に向かって
勉強しているうしろで
この濃い緑の草は
太陽を小さい葉いっぱいに吸い込んで
ぐんぐん伸びていくことでしょう
 
大切なのは伸びていくこと
植物のように
水と太陽さえあれば
誰に知られることなくとも
伸びていけるブライダルヴェールのようにたえず光合成すること
 
 3
 
試験勉強の真夜中
外の雨音に耳をすましてみます
 
雨水があとからあとから
あのむんとするような匂いの草に降り
茎をつたって
黒い土にしみこんでいくのが見えるようです
 
春の不思議は私の心をかきたてます
まるで生き物のように
私のカラダの中で動き始めます
 
4
 
まだ夜明け方は少し寒いから
ブライダルヴェールの鉢と
すみれの芽の鉢とにハンカチをかぶせます
すみれの芽はあれからかなり伸びました
 
しゅんしゅんと沸かしてお湯でコーヒーを淹れたり
りんごを剥いたり
日記を付けたり
インド文明の本を読んだりします
 
寝る前には
髪をきれいにといて
くちびるにリップクリームを多めに塗って
ベッドにもぐり込みます
 
下宿生活は毎日一人です
でもたくさんの友達といる時よりも
こうやってあなたと一緒にいる時の方が好き
明日もそばにいてください
おやすみなさい

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