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Oasis “Talk Tonight”ロックスターの傷跡

UKのならず者兄弟で構成されたロックバンドOasisの歌がこんなに身に沁みるのはこの兄弟の歌に常に深い傷跡の痛みを感じるからに違いない。
 
ひとり座って思い詰めてる
家から千万マイルも離れた場所で
眉間を何かで殴られたような気がしたんだ
 
Talk Tonight の冒頭のこの箇所はまさにトラウマに襲われた瞬間を歌っているのではないか。

この歌はバンドが1994年全米ツアーを巡っている最中に兄ノエルが書いた曲だ。
いつものように弟リアムが薬でラリってロサンジェルスでのギグをめちゃくちゃにしてしまった時に兄ノエルは突然ツアーの途中で行方をくらました。
 
このならず者兄弟はマンチェスターの低所得者用集合住宅で父親のDVから逃れ母親と身を寄せ合って育った。
不思議なことに小さい頃から父親は兄のノエルにしか暴力を振るわなかったのだそうだ。
ひとり父親の暴力に耐え成長してからは弟の破天荒な振る舞いに耐えてきたノエルが世界的なロックバンドのリーダーとして全米を回っている時に突然「眉間を殴られたような気がして」行方をくらませたのだ。
 
お前の夢は全部ストロベリーレモネードで出来ていて
俺が今日何を食べたかを気にしてくれる
それからお前が子供の時に遊んだ場所に
連れてってくれるんだ
 
今夜お前と話したい
朝の光が差すまで
お前が俺の命を救ってくれたこと
俺とお前 二人のこと
 
ツアー中に偶然出逢った女性の部屋を訪ねてビートルズファンだった彼女と音楽を聴いたり散歩したりして気持ちを落ち着けてからやっとツアーに戻ったというノエル。

幸福な子供時代を経験したことのないノエルの癒えない乾き、どうしようもない孤独感がこの歌の底に流れる。
世界中どこへ行っても熱狂的なファンが出迎えてくれるにもかかわらず、だ。
 
昔、私が心底惚れた男は児童虐待の被害者だった。

ユーモアとあふれる才能と深い細やかな愛情に満ち溢れた人間であったにもかかわらず彼は感情が高ぶるとコントロールができなかった。

アホで若かった私はそんな彼の乾きを癒したい、癒してあげられるなら自分の身なんてどうなっても良いとすら本気で願った。
もちろん私の身を引き換えにすればその傷が癒されるなんて単純な事ではないことすら知らなかった。
 
癒すどころか私との病んだ関係のせいでもっと深い淵に落ち込んで私の人生から彼は姿を消した。
 
30年前の事なのに私は今でもこの歌を聴くと涙を流す。

彼が今頃ストロベリーレモネードの夢で出来た女性と美味しいものを食べたりお散歩したりしてることを祈りながら。
 
I wanna talk tonight
Until the morning light
‘bout how you saved my life
You and me see how we are


 

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