触媒雑記帳~かたりすとの日常(その6)
九
メルカリで古本を購入した相手から一週間以上も連絡がなく、今日キャンセル申請をした。最近、使わないガジェット類や機械類をメルカリで売り、その収入で古本を買うことが多いのだが、まったく連絡がないのは初めてのことだ。
色々な思いが巡る。相手のプロフィールを見るとつい二ヶ月ほど前までは取引しているし、いまだに出品中の商品が他にもある。しかしまったく動きがない。仕事が多忙なのか。いや、いまどきスマホなしで仕事をしているとは思えないからそれはない。スマホを落としたのかもしれない。あるいは
不慮の事故や病気で亡くなったのかもしれない。
あり得ないことではない。人はふとしたことで小さな小石につまずいて、気がついたら断崖絶壁に立っていることがある。つい数分前までいつもと変わらない日常なのに一瞬にして景色も空気の色も音も匂いもすべてが変わることがある。ただ歩道を歩いていただけなのに、頭上から鉄骨が降ってきたりするし、突然意識を失ったりする。自分の力ではどうしようもない不条理な災難に襲われることがあるのだ。
メルカリで連絡がとれない相手にはきっと何かそのような事件が起きたのだろう。何が起きたか、匿名のわたしには知るよしもない。つながっているようでつながっていない。これが対面取引ならば、声のかけようもあるがネット社会ではそれすら叶わない。メルカリを通してネット社会の本質を見た気がする。
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