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「好き」

数人で雑談していた時、目の前の男性に「好き」、と言ってしまった。独り言のように、自然に勝手に、前頭葉の検閲を受ける間も無く「私、好きだなぁ、Aさん」と言っていた。Aさんの穏やかで飄々としていて、偉ぶった所の無い人柄は少なからず慕われている。私もその1人だ。

放たれた「好き」は、澱みなく流れる会話に埋もれ、聞き咎められもせず、からかわれもせず、ニヤニヤしているAさん位しか気付く人は居ないようだった。そりゃそうだ。シニアの雑談に、誰かの「好き」が混じろうが、「腰が痛い」だの「血圧が高い」だのと大差無いインパクトなのだ。

帰る道すがら、そう言えば今までの人生で、人にちゃんと「好き」って言った事も、言われた事もあんまり無かったよなぁ、と苦笑した。「ス」と「キ」の、たった二文字を言うのに、若い頃はドキドキしたり誤魔化したりしてたっけ。

トキメキは褪せる。それを知ってからの人生の方がずうっと長いが、峻烈な「好き」よりも穏やかで滋味深い、敬いや慕う気持ちの方が、すんなりと沿うようになった。そう言えばここnoteにも「スキ」があって、私は励まされるような気持ちになるのだっけ。やっぱり「スキ」は良いものなんだね。

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