落語「和菓子の満家」

登場人物 ひろし おかみ 大将 ダニエル

お話の舞台は、とある和菓子屋さんです。
そんな有名な店ではなくて、皆さんの町にもあるような、こじんまりとしたお店。
主人公はヒロシくんと言いまして、はつらつとした青年でしてね。
和菓子屋さんに住み込みで修業をしているわけですね。

ひろし「おかみさん、段ボール、2階に置いてきました」
おかみ「ありがとう、ひろしくん。悪いわねえ。いつも。これも修業だと思ってあきらめて」
ひろし「いいんですよ。あの箱、結構、重かったですね。何が入ってたんですか」
おかみ「加湿器よ。これからの時期、乾燥するでしょう。奮発して買っちゃった。あれがついてるのよ、ハイパーメディアクリエーター?」
ひろし「プラズマイオンクラスター、ですか?」
おかみ「たぶん、それ」
ひろし「おかみさんは、カタカナに弱いですねえ」
おかみ「ひろしくん知らなかった?和菓子屋ではカタカナを、全く使わないの」
ひろし「それは言いすぎでしょう」
おかみ「ほんとよ!和菓子屋にはカタカナが、1パーセントもないの」
ひろし「すぐ出てきた!パーセントって言ってるじゃないですかあ!」
大将「どうしたぁ」
ひろし「あ、大将、おはようございます!」
大将「おお」
ひろし「すみません。騒がしくして」
大将「おお」
ひろし「お店の掃除は、終わりましたんで」
大将「おお」
ひろし「……おかみさん、笑いすぎですよ」
おかみ「だってえ、無口すぎるんだもん」
ひろし「何十年連れ添ってるんですか」
おかみ「ちょっと。何十年は余計よ。あなた、加湿器が届いたわよ」
大将「おお」
おかみ「冬場だから、乾燥に気をつけないとね」
大将「おお」
おかみ「あなた、血液型は?」
大将「お、A。仕込み、いくぞ」
おかみ「はーい。怒られちゃった」
ひろし「大将で遊ばないでください!」
おかみ「ノリが悪いわねえ。O、って言えばいいのに。血液型間違えたって、輸血の時しか困らないわよ」
ひろし「一番困っちゃだめでしょう、輸血は」
おかみ「でも、あんなに無口だと、修業も大変でしょう」
ひろし「いえ、かっこいいっす。職人、って感じで……大学出てふらふらしてた俺を、弟子に取ってくれた恩人ですから。心の底からあこがれてるし、感謝してます。あ、もちろんおかみさんにも!」
おかみ「うれしいこと言ってくれるじゃない。あ、ひろしくん、店番をお願いできる?」
ひろし「わかりました!優しいおかみさん、かっこいい大将。この和菓子屋で働けて、おれは幸せだなあ。よし、今日もがんばるぞ。あれ?」
ダニエル「(困っている)」
ひろし「外国の方だ。どうしたのかな。えーと、エクスキューズミー?」
ダニエル:I'm in the way. I am not suspicious.
I'm heading to my accommodation, but I've lost my way
In addition, my phone has run out of charge.
Is there a guest house around here?
ひろし「どうしよう。あ、そうだ、ウェイト プリーズ……」

おかみ「あら、ひろし君。店番はどうしたの」
ひろし「おかみさん、表にお客様が」
おかみ「えっ?あらあら、どうされたの」
ひろし「それが、よくわからなくて。携帯のアプリで聞いてみようかなと」
おかみ「待ちなさい!ひろしくん、錠剤を取りに行く前に。いつも言っているでしょう。接客にいちばん大切なのは何かしら」
ひろし「まごころ、です」
おかみ「そう、まごころ。どんなお客さんでも、たとえ外国の方でも一緒。変な錠剤を服用する必要なんかないのよ。私の接客を見ていなさい」
ひろし「大丈夫ですかおかみさん。カタカナに弱いのに。さっきからずっと、アプリとサプリを間違えているくらい、カタカナに弱いのに」
おかみ「大丈夫よ。私は錠剤に頼らないわ」
ひろし「だからそれはサプリで……」
おかみ「まごころの大切さを教えてあげるわ。しっかり、見てなさい」

おかみ:はーい
ダニエル:Hi
おかみ:Welcome!What did you do.
ダニエル:I want to go to this inn but I‘m wondering.
おかみ:Okay.Show your map please.
At this ryokan, go straight on this road and turn right at the end
Oh, please wait,you will be staying tomorrow?
ダニエル:What?
おかみ:Look. In this memo, you are supposed to stay from Tuesday. But today is Monday.
ダニエル:What a hell! I,I made wrong schedule?
おかみ:Why not contact the hotel?
ダニエル:I've never booked a phone since I booked online
おかみ:All right I will contact you instead. Please your name
ダニエル:Daniel Vandam
おかみ:Okay(電話をかける)Excuse me. Let me check availability……
ああ、ごめんなさい、その、空き室があるか、確認したいんですけど

おかみ:Hey I have Good news and bad news.Where do you want to listen?
ダニエル:From bad news
おかみ:Well,you are brave. Unfortunately but the hotel is full today
I contacted other hotels, but they are all full. This is bad news.
ダニエル:There is no choice. I'll stay home tonight.
おかみ:Wait. You don`t hear the good news yet.
Actually, there is a vacant room on the second floor of our house.
If you do not mind, would you like to stay our home?
ダニエル:Wow is it really OK?
おかみ:Of course. Have you ever slept on a futon?
ダニエル:It's the first time.
おかみ:It will be a valuable experience. I'll guide you immediately.

おかみ「どう?言葉が通じなくても、まごころは、伝わるの」
ひろし「言葉が通じてましたよ!ばっちりと!おかみさん、英語、できるんですか」
おかみ「そんな大したもんじゃないのよ。相手の言ってることがなんとなくわかって、こちらの言いたいことがなんとなく伝わるだけ」
ひろし「十分!え、じゃあ、なんでカタカナに弱いんですか」
おかみ「だって、分かりにくいじゃない。アプリ、とか、サプリとか、なんでも略すでしょう?application とか supplement っていってくれれば、すぐわかるのに」
ひろし「発音が……強い……!」
おかみ「加湿器だってそう。ハイパープラズマなんとかかんとかってねえ。加湿器だったら一言で “Humidifier” って言えばいいじゃない」
ひろし「ヒュミディファイア?加湿器なのにファイア?」
おかみ「そうだ、うちの人にも紹介しなきゃ。ひろしくん、呼んできてもらえる?」
ひろし「大将をですか、はい、わかりました」

大将「なんだ」
おかみ「この方、きょう、うちに泊まってもらうことになったから」
大将「おお」
おかみ:This is my husband Daijiro.
Daniel, introduce yourself.You can use English.
ダニエル:Thank you for your help
大将:あー、Where are you from?
ダニエル:Belgium
大将:Chocolate is famous. I am a confectioner and respect Belgian culture
Unfortunately Godiva is just running out, but please relax slowly.
ダニエル: I eat delicious waffles without fire.
大将:Wow! I won't be so rude!

おかみ「まあ、ダンったら。よかったわ。うちの人とも打ち解け…」
ひろし「大将も喋れるんですか!英語、喋れるんですか」
おかみ「だってあの人、帰国子女だもの」
ひろし「そうなんですか??」
おかみ「お父さんのお仕事で海外を転々としてたの。日本に戻ってきたとき、発音が変だってずいぶんからかわれたんだって。それからずっと、無口なのよ」
ひろし「そういう理由で無口なの?職人気質じゃなくて?え_」

大将:Nice camera
ダニエル:Thank you Camera is my hobby.
大将:Wagashi has beautiful colors and shapes, so it’s popular as subjects all of the world. Please shoot at our showcase.
However, please take only the store and Japanese sweets, because I have no makeup today (laughs)

ひろし「英語だとスゲエしゃべる!」
おかみ「あのひと、日本で和菓子と出会って、一念発起して職人になったの。だから、ダニエル君とか、ひろし君みたいな、頑張る若者を見過ごせないのよ」
ひろし「すみません、感動する余裕がないです」

大将:Okay Dan, why don't you look at the kitchen.
ダニエル:Are you sure?
大将:It's a good opportunity. However, please do only the disinfection.
Hey Mitsuko! Prepare an apron.
おかみ: Well done, my dear wonderful boss.

おかみ「ダニエルに厨房を案内してあげるって。一緒についていきましょう」
ひろし「僕は入るのに、1年かかったのに!」

大将:Welcome to my secret base.
ダニエル:It is wonderfully organized.
大将:You can take pictures, but don't touch them.
ダニエル:Understood. What's in this pot?
大将:This is "anko". Also called "an". There are many, but an.
It is made by boiling beans sweetly and is a raw material for Japanese sweets.
Steamed buns, yokan, nakanaka.
ダニエル:Monaco?
大将:No, it's Monaka. ancestor of macaroons. You don't know milkboy?
ダニエル:Fashion brand?
大将:No, it ’s a Japanese comedian. Muscle guy is Komaba, Square head is Utsumi. Komaba says “Oh, my mother said……”, Utsumi says “Oh, Monaka! It’s just Monaka!” Komaba says “I think so , but my mother says……”, Utsumi says “Oh, Not Monaka! It’s not Monaka!”. Endless return. Milkboy.
ダニエル:Are they…funny?
大将:Extreme funny. You must remember.
ダニエル:OK, remember them
大将:Hey, don't touch it!
ダニエル:I'm sorry, I just touched it
大将:You must have promised! What do you do at food poisoning!
ダニエル:You probably put me here
大将:Noisy! Shut up! Shut!Up!
……Hey Dan,This is my house, battlefield, and treasure. You know?
ダニエル:OK, I Know.
大将:I'm sorry to say too much
ダニエル:Yeah I'm sorry too. You just fulfilled your responsibilities
大将:Why are you taking photos?
ダニエル:You were looking very cool .Master.
大将:……I'm going to serve sake for dinner tonight
Can you drink alcohol?
ダニエル:Yes. Let's do disinfection together.
大将:Oh Dan…(hug)


おかみ「Wao、its wonderful bromance!男の友情、って感じね。ひろし君もそう思わない?」
ひろし「何かが始まって、終わったことだけわかりました」
おかみ「ねえ、ひろしくん、もう英語でしゃべりましょうよ。ダニエルもいることだし」
ひろし「いや、それは……」
おかみ「恥ずかしいのはわかるけど、こんな日があってもいいでしょう?」
ひろし「その……しゃべれないんです」
おかみ「またまたあ」
ひろし「いや、本当に。本当にしゃべれないんです」
おかみ「……え?大学、出てるのに?」
ひろし「なんで、そんな目で見るんですか」
おかみ「学べる環境が、学べる機会が、学べる時間がたーくさんあったのに、ひろしくん、英語、喋れないの?」
ひろし「なんでそんな目で見るんですか!」
おかみ「あ、うん、ごめんね。私たち、ちょっとひろし君に期待しすぎてたのかも」
大将「Hey Hiroshi, Enough of excuse. You are fuckin’ slacker. Half-assed underdog!」
おかみ「ちょっとあなた!言い過ぎよ!ひろしくん、気にしちゃだめよ!」
ひろし「待ってください二人とも!ぼくは何を言われたんですか!うわーっ!こういうのが嫌だから、学歴を捨てたのに!」
ダニエル「(写真をとる)」
ひろし「写真撮るな!ああ、どういえばいいんだ。どんとていくぴくちゃー」
ダニエル「なんか、ごめんな?俺のせいで」
ひろし「……え?」
ダニエル「いや、わかるよ。一人だけ言葉が通じないって結構キツいもんな。でもさ、始めるのに遅いってことはないから、いまからでも英語を学べば」
ひろし「てめえ日本語喋れるのか!日本語喋れるのかぁ!」
ダニエル「うわ、なにするんだ。はなせ!首を放せ!」
ひろし「はなせ!日本語を話せ!お前が日本語で話してれば、こんな悲劇は生まれなかったんだ!」
ダニエル「お前が最初に英語で来たんだろ。こっちが話しかける前にどっか行っちゃうし。そこからはずっと英語で意思疎通できるし。日本語で話しかけるの、勇気がいるんだよ」
ひろし「うるせえ!外国人が人見知りすんな!」
ダニエル「無茶苦茶な偏見だな。英語でいけると思ったんだよ。だってさ、“満家”だろ?」
ひろし「そうだよ満腹、満足の、お菓子の満家だよ。満家」
ダニエル「だからさ、Full Houseだろ」
ひろし「あああフルハウスだ!お、おれは、フルハウスで働いていたのか!ああー!笑われている気がする!観覧の客に笑われている気がする!」
ダニエル「パニくってるとこ悪いけどさ、部屋にあった加湿器、使っていいのかな。
新品の加湿器。なあ。加湿器。Humidifier」
ひろし「やめろ!お前が英語を話すたび変な空気になるんだよ」
ダニエル「英語の空気じゃない?だったらさ、置く機械を変えればいい」
ひろし「どういうことだ」
ダニエル「英語の空気なら、加湿器じゃなくて、セイジョウキ(清浄機/星条旗)だ」
【終】

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