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(YouTube配信感謝!ロングレポ)Fujii Kaze stadium live 'Feelin’ good'2024.08.24.〜光が溢れるシームレスなステージへ


芝生のフラットなステージには柵も何もない


1.be free~フラットな芝生のステージ

 夏の終わりの雷を遠くに聞きながら、急いで帰ってきてテレビでYouTubeをつけた。何かを観るために急いで帰るなんて久しぶりのことだった。そこには横浜の日産スタジアムの様子が映っていた。
 あれから3年、予定されていた無料のスタジアムライブがコロナの状況により無観客での開催となり、広いスタジアムの真ん中にグランドピアノを置いてたった1人で行われた藤井風のあの日産スタジアムライブから。
 コロナ禍を象徴するようなこのライブはYouTubeでライブ配信され、約18万人が同時視聴することとなり話題となった。

 これまでに私は3回藤井風のライブに参加したが、今回は事情により申し込むのを諦めていた。ライブ全編がスマートフォンなら撮影OKになったと聞いたので、SNSにアップされたものでライブの様子を観ることができるかなと淡い期待を抱いていた。
 実際、今年の6月に行われた藤井風のアメリカツアーでは観客が撮った動画がSNSに次々にアップされて全曲視聴することができた。コンサートの撮影を禁止されていることが一般的な日本にいると驚くが、これはむしろ海外では普通のようだ。
 そして、直前になって生配信があるとのサプライズ発表!ライブの最初から最後まで観れると思うと嬉しくてたまらなかった。

 ランドリンのCMが終わると客席が映し出された。真ん中にはなんと風さんが普通のTシャツ姿で客席に座り、お気楽にまつりを踊ったり、スマホで撮影したりしている。えっ?と思った瞬間、別の衣装を着て風さんがアリーナに登場してきた。
 プラチナブロンドの髪にアイボリーのトップス、水色のパンツにベージュのスポーツサンダル姿の風さんは Tiny desk concert に出演した時のように明るく軽い雰囲気。このサンダルはプライベートでよく風さんが履いているTevaのサンダルにビジューがついたものでとてもリラックスした服装だ。姿勢の良いきれいな歩き方は紅白の初登場の時を思い出す。
 向かったのはスタジアムのど真ん中に置かれた1台のピアノのところ。その周りだけが芝生になっていてステージではなくフラットな場所に置いてある。3年前のあのライブの続きをするように風さんがピアノを弾く。その周りを取り囲むようにお客さんが立ってじっと聞き入ったりスマホで撮影をしたりしている。
 そして今、私が見ている画面でもライブの全てをリアルタイムで生配信している。3年前のあの日のように。

 ピアノの前に座ると、さわさわと草原に吹く風のように涼しげな音色を奏で始めた。2022年のパナソニックスタジアムライブの前にリリースしたgraceをアレンジした「summer grace」。遮るロープも何もなく観客が少し歩けばすぐそこに風さんがいる。柔らかい芝生の上に素足にサンダルを履いてピアノを弾く姿は、そこだけ見るとどこかの中庭で行われているライブのよう。
 観客と演者をシームレスにしたいと以前語っていたことがあった。2日で14万人を動員しながらもそんな風さんの思いがたくさん散りばめられた今回のライブだった。

2.Feelin' good~光溢れるビーチへ


 弾き終わり立ち上がって堂々と腰に手を当てたかと思うと、髭を剃った爽やかな顔を上げてステージに向かっていく。キーボードでバンマスのyaffleさんらしい幻想的な音楽がスタジアムに流れ、ステージの真ん中のスクリーンにはFeelin’ go(o)dのMVで見たティム・バートンの映画に出てきそうな風さんが登場。MVの中ではguideと表記されていた。客席のみんなを見下ろしながらトリックスターのような笑みを浮かべ、英語で何か喋っている。アトラクションの導入部分みたい。最後の言葉である 「Is Love」が何度もリピートしている。愛しか感じたくない人だもんね。
 こういう映像の時も、歌っている時も風さんは表情を作るのが本当に上手い。顔立ちが整っているだけでなく色んな表情ができるからこんな映像も作り甲斐があるだろうなと思う。
 guideは何ものにもとらわれない愚者のようでその実、全てを悟った最高の賢者であるかのようだ。帽子を被ったguideが頭を下げると同時にリアル風さんが舞台に上がってくる、そしてguideが両手で開けるような仕草をすると巨大スクリーンには晴天の空が現れ一気に明るく楽しい世界へ。最新曲の「Feelin’ Go(o)d」が軽やかに始まった。上手にあるガレージからシンゴさん達ダンサーが飛び出してきて踊りだす。今回初参加のパーカッショニスト福岡さんのコンガのリズムも心地良い。風さんはとってもリラックスした様子で踊りながら歌っている。バックの映像は、虹がかかったり、シャボン玉が飛んだり、MCの時にはキービジュアルのフラッグをつけた飛行機が空を横切ったりといった懲りようだ。

guideが扉を開くと光溢れる世界へ

 この時ガレージの上にはハイブリッドピアノが置かれているのが見えた。「え、いつの間にアリーナの中央から運んだの?」と思ったがそんな訳はない。どうやら、3年前のライブへのオマージュである最初の一曲のためだけにアリーナの真ん中にはピアノが置かれていたのだ。
 ガレージの上部へは桟橋のような部分がつながっており、歩けるようになっている。この上に上がれる舞台セットは2022年にあったピアノ弾き語りのホールツアーalone at home tour(以下aaht)を思い出す。よく見ると桟橋の奥に標識があり、一つは「PAST」一つは「FUTURE」とあり、その横にはaahtにあったような野菜の描かれた看板が見えた!
 周りには南国にありそうな植物が植えられて、大きなスクリーンの上には椰子の木も見える。舞台セットは風さんが行った海外のビーチをモチーフにされていたと後から分かった。そういえば今年の春頃にInstagramの投稿でアメリカ西海岸のオレンジカウンティかと思われる投稿が上がっていた。アメリカツアーの前にあの辺りでしばらく過ごしていたのかな。
 ネット検索して見たオレンジカウンティには桟橋があって、サーファーの聖地でもあるらしい。やっぱり舞台上のガレージにはちゃんとサーフボードが置かれていた。

 歌う風さんには風が当たっているのか、顔や衣装が時々風になびいている。それが一層爽やかさを増している。
 一曲目が終わるとマイクを持って正面を指さしたまま、瞬きもせずに1分以上静止した。これはマイケルジャクソンへのオマージュではないかとのこと。その後始まった「」の曲ではすばやく衣装を着替えたダンサー達がマイケルを思わせる白シャツに黒パンツ、白手袋を着けて現れた。風さんの憧れのミュージシャンはマイケルジャクソンだと時々話しているし、音楽だけでなくエンターテイメントで人を楽しませるという面や愛にあふれるメッセージソングなどから影響を受けているのかもしれない。

「あちいのにほんまにありがとう」から始まった最初のMCは地元の岡山にいた頃と何も変わっていない飾らない人柄を窺わせる。
「大丈夫?どこにおっても見てますから」と言って客席を指差す。これはみんな嬉しいだろうなー。「みんなもライブに来とるつもりじゃろうけどわしもみんなのライブに来てます。」こういう言い方が彼らしくて面白い。
 日本語MCの後で英語MCを挟むのももうお馴染み。世界で活躍するシンガーを目指して独学で勉強してきたのだ。

「こんな風に歌って欲しいんです。」でハミングを始める「ガーデン」だ。
 ナチュラルな舞台セットと「ガーデン」の曲がよく似合う。福岡さんのツリーチャイムも効いている。風さんのフェイクに男女のコーラスとTAIKINGさんのギターソロが重なるところはおお!っと思った。温かく包まれるようなEmoh Lesさんの声とハイトーンだけどきれいなだけじゃないARIWAさんの歌声。ライブにコーラスが入るのは今回が初めてだが、ゴスペルっぽく盛り上げる感じはやはり生のコーラスならでは。パーカッションと生の声が入ることでサウンドが以前よりもオーガニックな感じになった気がする。
 終わった後、風さんは敬意を込めたようにマイクを客席に向ける、細かい気遣いも忘れない。

 静かになって舞台の真ん中に座ってMC。座ることでまたリラックスした感じが伝わってくる。帰り道に友達と一緒になって話し混んでいるうちに夕方になってしまったみたいな雰囲気だ。バックには鳥が飛んでいる。クラップか指パッチンを観客に求めながらの「特にない」。
「ネガティブな事を全部この日産ステディアムの空に投げて」と風さんのMCが終わると、TAIKINGのガットギターの優しいイントロが始まる。人気バンドSuchmosのギタリストなのでエレキのイメージが強いTAIKINGだが、指弾きはとても新鮮だ。
 風さんがゴロゴロ寝転がりながら「あーーー」と歌うところもとても脱力感があって、日常生活での不満や不安に思っていることなんか、もうどうでもいいかと思えてくる。これは何気なく見ているけど、転がりながら歌うなんてなかなか出来るものではない。

 「ちょっと会いに行きます」と言って、ガレージでインカムマイクを装着して自転車に乗る。2022年~23年のLove all arena tour(LAAT)でもオープニングでレトロな自転車に乗って客席を回ってくれたが、今回はビーチのイメージからか西海岸のサーファーが乗りそうなクルーザーっぽい太いタイヤの電動自転車。時々グラグラしながらも特にステージから遠いスタンド席に手を振りながら、インカムで「さよならべいべ」を歌う。電波が悪くて聴こえずらかったのか、バンドの音とずれてしまいサビは歌えなかったが全ての人とコミュニケーションを取りたいかのように手を振っている。
 このガレージの中、カレンダーはちゃんと8月24日に合わされていて(もしかして時計も?)本当に使われている部屋のようにセットされている。ここまで細かく作り込んでいるのは配信を意識してのことだろう。

 真っ暗な中、ドラムの音と共に青い光が点滅しだした。海外の夜景をバックにクールな音楽と架空のドラマのような映像、車に乗ったり、上着を回したり、どういうシーンなのか、ちょっと謎なんだがかっこいい。「Castings  call 」という風さんのセリフの連呼。この部分は後でアーカイブではInterlude と表記され、風さんが舞台裏で急いで衣装替えをしている時間だと思う。

歌い終わって1分以上静止した


3.シアーシャツと"dance and sexy"

 「きらり」で現れたのはネイビーのシアー(シースルー)シャツの風さん。おお!さすがトレンドを取り入れた衣装だ。女性がシースルー素材を着ているのは最近良く見かけるが男性が着るのは新鮮だし、ちょっとSexy。画面越しにも麻なのかな?と思ったが、とても柔らかそうなヘリンボーンの麻のよう。この素材感とネイビーの色味でSexyな中にも清潔感と上品さがプラスされている。
 きらりの後半はパイプ椅子を持ったダンサー達が出てきて、みんなで座って運転するようなダンスをする。この曲が車のCMソングだった事だからかな。ワイドパンツを履いた脚を広げてダンスする風さん、途中の部分で「ああーーー」がだんだん上がって行く。常々思うけど、この人にあーを歌わせたらあかん!あーだけで何千人何万人の心が奪われてしまうのだから。最後ののけぞりながら歌うところはもはや、直視できないかっこよさだ。

 舞台が暗くなり大画面にアンドロイドが映し出される「キリがないから」だ。この曲ではMVの時やHelp ever arena tourの時にアンドロイドに扮したダンサーとの演出が印象に残っている。
 1コーラス目には微動だにしなかったアンドロイドが、2コーラス目と同時に動き出す。その時にいきなり動きだすのではなく、電源が入って通電したような動きをしてから動き出す。そんな細かいところにまで映像のリアリティが追求されていて、通電するところが嬉しくて何度か戻してみてしまう。(ちょっと、マニアックだろうか?)TAIKINGさんが機械が壊れたようなギターを弾いた後、アンドロイドの動きと風さんやダンサーの動きがリンクしてくる。この時のダンスもとてもクールだ。途中からライトが点滅し風さんは狂気じみた笑顔を浮かべて歌い、独特の世界を表現していた。

 プリミティブな儀式を思わせる歌唱から始まった「燃えよ」ではスクリーンにエスニックな服装の風さんが現れた。途中急にブレイクがあり舞台が暗転し、焦らすように何回か光がフラッシュした後、風さんとダンサー達の激しいダンスが始まった。この部分は本当にかっこよかった。全員で同じような動きが続くのだが、ダンスをちゃんとやっていないとできなさそうなしなやかな身のこなし、シルエットが浮かび上がるようなブルーのライトに髪がファサファサ揺れながらの男性たちの群舞。歌が再開すると何本も火柱が上がってきて最後にはショルダーキーボードでのソロ。生きるエネルギーを燃やし尽くすような迫力に圧倒された。
 それぞれInterludeで区切られた部分にテーマがあるとすれば、このネイビーのシアーシャツのブロックは 勝手に「dance and sexy」と名付けたい。
 この頃気になって視聴者数を見ると25万人だった。

 「燃えよ」で最高に盛り上がった後は、ちょっと座っていいよのMC。舞台上のガレージの上に上がり、「デビューしてからバンドでやるのは初めての曲。ということはデビュー前にはやったことあるんですけど。でもあの頃と何も変わらない気持ちでやりたいなと思います。」と始まったのは「風よ」しばらくライブでやらないなと思っていたが、今回はピアノの弾き語りからスタートし、途中からバンドが入ってくるような演奏になった。昔を懐かしむように歌う風さん、「ふと思うここはどこ」で満員の客席を見つめる。TAIKING のアコギや福岡さんのパーカッション、佐治さんのドラムも優しくて良い感じ。
 バックには夕暮れの空と家のシルエット。ライブが始まった頃はこの家が海辺のコテージに見えていたのが、この曲の時は風さんのご実家の喫茶店ミッチャム(今は閉店)のように見えてくるから不思議だ。
 このピアノがある部分は階上に上がることで変化がつけられる上、遠くの客席から見えやすく、またスタンド席上部の座席と高さが近くなる良さがあったのではないだろうか。
 何より弾き語りから出発した彼がピアノを弾く姿を見たいというお客さんは多いと思うので、ピアノを階上に上げて普通では考えられない高さに持ってきたのは、ナイスアイディアだと思った。グランドピアノほどではないハイブリッドピアノとはいえ、かなりの重量があるはずのピアノを載せられるというのは、とてもしっかりした構造になっているのだろう。周りのセットも植物が多めでナチュラルな雰囲気だが、岩や錆びた階段、手すりがわりの風化したロープで甘い雰囲気にならないところもさすがだ。

 「次の曲も地味にバンドでやるのは初めてなんじゃが。」と言って始まったのは「ロンリーラプソディ」音源で聴き慣れたイントロをyaffleさんが奏でる。
「みんなで息をしましょう。いいことだけ吸って、いらんもん全部吐き出して」とお馴染みのMC。現地で観ていた人は右と左で大型スクリーンの映像がわざと違えてあって面白かったようだ。これは配信ではあまりわからないようになっていた。
 最後にミルフィーユのように何層にもなったような風さんの声に二人のコーラスが重なってとてもきれいだった。

 次は聴いたことのないピアノのメロディを弾き始め、これは新曲発表かと思ったが、湘南乃風の「恋時雨」という曲をだった。それから「死ぬのがいいわ」へとうつっていく。彼は時々この部分にライブ開催地へのリスペクトでご当地ソングを織り交ぜることがあるので、神奈川のご当地ソングということだろうか?

 世界的なヒット曲となった「死ぬのがいいわ」はピアノを弾きながら始まったが、途中赤いライトに照らされて、ピアノの上に上半身だけ仰向けになり、上からのカメラがそれを捉えるという場面があった。この演出は私は映画「ファビュラスベイカーボーイズ(邦題:恋のゆくえ)」でジャズシンガーのミッシェル・ファイファーが歌いながらピアノの上に横たわる色っぽいシーンを思い出してしまった。ネイビーのシアーシャツを着てピアノに横たわる風さん。やはりこのブロックのテーマはSexyに違いない。
 大きな満月の映像をバックにライトも美しく、以前のギターのTAIKINGさんと掛け合いをしていた部分ではコーラスとの掛け合いになっていた。女性の声と絡むのもとても新鮮だった。

大きな満月をバックに「死ぬのがいいわ」

4.Loving memory~青春のネクタイ

 この後のInterludeはyaffleさんのアップテンポな曲に合わせてガレージの中でダンスするダンサー達。思い思いにそこにある帽子を被ったり、ほうきを持ったりしてダンスをしている。みんな本当に楽しそうでこちらまで楽しくなってしまう。こういうダンサーさん達の時間があるのも良かった。この時のダンサーさんの服は白いシャツに黒いパンツに緑のネクタイ。このネクタイの色は風さんの高校時代の制服に由来しているとかいないとか。

 バンドがジャズっぽい演奏を始めたかと思うとガレージから出てきたのは漫画「blue giant 」よろしくサックスを吹く風さん。彼は15歳の時にジャズのスタンダード「donna lee」を吹きこなしている動画を自身のyoutubeチャンネルに上げていることからも分かるようにSAXも堪能だ。ネイビーのスーツに細身のネクタイを締めてNYのジャズクラブのような洗練されたジャズの演奏。SAXを持つ影までも様になっている。yaffleさんのピアノもいい。
 このスーツ、遠目にはデニムのように見えるが、アップになると金糸の入った凝った生地であることがわかる。抜け感を出すために芯地を後から抜かれたというジャケットで大人っぽいながらも文字通り肩の力を抜いた雰囲気がある。後で横になった時にわかるのだが、靴はコンバースのネイビーのハイカットを合わせてある。アメリカでのライブの時は、スーツにクロックス、アジアツアーの時はつなぎに現地のプラスティックっぽいサンダル。ベジタリアンの彼だからか革靴以外でスタイリングされている。

 音源ではピアノの音が印象的な「workin’ hard」だが、TAIKINGの重ためのギターと地を這うような風さんの低い声から始まった。色々な声が出せる彼ならではの声だ。
 この曲は昨年リリースされた曲なので、日本のライブでは初披露となる。またバンドで生演奏は初めての曲。
 後ろの画面には赤いツナギ姿の風さんが、ベルトコンベアに乗ってくるwindyというFeelin’ go(o)d のMVに出てきた雲のキャラクターのぬいぐるみを1つ1つ検品するというもの。この曲は働く人への賛歌ということでその発想も面白いが、映像は超シュール。途中で検品しているwindyを落としてしまったりする。その滑稽さとは裏腹に舞台では超クールな風さんとネクタイ姿のダンサー達が踊っている。
 中盤ではまたベースとジャジーなピアノが聞こえる場面があったり、風さんの歌とコーラスで盛り上げるところがあったりと、とてもカッコよかった。時折映るTAIKINGのヘドバンも激しくてgood!

 ところで、このYouTube配信、ライブだったので当然未編集なのだが、Blu-rayで売っていそうな物凄い完成度だ。舞台演出とYouTube配信を同じ山田健人(ダッチ)さんが監督されているので、どこでどう撮ったら一番魅力的かはわかるだろうけど、風さんがイメージしたアメリカの海岸へ行ってみて舞台装飾の案を作ったり、巨大スクリーンに映る動画の撮影などなど、この方の仕事量を考えただけでも気が遠くなる。このライブの成功は音楽は勿論なのだが、生配信を通して観ても世界中の人を惹きつけるような演出をしようと考えたこの方の貢献も大きいと思う。

 こんな曲あった?というかっこいいギターのカッティングから始まったのは「damn」だ。「何もかも捨ててくなんてどした」のところは、音源では帰って来たヨッパライ的な声がコーラスしているが、今回のEmoe lesさんとARIWAさんのコーラスも良かった。最後の変顔も健在だし、1日目と2日目で変顔も変えてあるらしい!

 このライブで一番度肝を抜かれたアレンジはこれまで何度かライブの最後に歌われていたゆったりした曲の「旅路」だ。なんとタテノリのパンクロックになって歌い方もそれに合わせてあった。ジャケットを半脱ぎしたり、エアギターしたりして歌う風さん、ノリノリでいいかんじ。TAIKINGさんは元々ロックの方だし、小林さんのサビの辺りのベースも印象的。最後の方の佐治さんのドラムの連打もすごかった。
 2年前のパナスタでは「帰ろう」がレゲエにアレンジされていてファンをあっと驚かせたことがあったが、今回も思い入れのある人が多い「旅路」に意表を突いたアレンジをしてくるところが生粋のトリックスターだ。元の音源のアレンジにこだわらないで自由に楽しもうというメッセージにも取れる。何よりこういう面白い演奏が聴けることがライブの醍醐味なんだよね。

「青春病」はマイクスタンドを上手く使って

 びっくりな「旅路」の後は舞台の縁にゆったりと座って今年の春に公開された映画の主題歌「満ちてゆく」を語りかけるように歌いだす。スーツ姿がMVのイメージと重なる。気付けばライブ開始時には明るかった空がとっぷりと暮れて、バックのスクリーンには時々流れ星が流れとてもロマンチックだ。
 真っ暗になった客席から一つまた一つとスマホのライトがつき始めた。なんの申し合わせもなく最後には7万人の客席いっぱいにライトが灯り、曲に合わせて揺れるという、予期せずお客さん達が演者にサプライズする形になった。まさに「わしもみんなのライブに来てる」という言葉通りのことが起こったのだ。風さんもこれには目がうるうるしていた。
 曲の最後に階段を登って桟橋の上に上がると海外にあるような平たい墓石が。その墓石を愛おしそうに見つめてそっと側に横たわった。表面に刻印されているのは「In loving memory FUJII KAZE 1996-20xx(xxの年号は削れていて読めない)「花」のMVでも棺桶の中に入っていて驚かされた藤井風。歌詞にも時々「死」という言葉が入るし、自らの死を意識するというのも何か彼なりのメッセージがあるに違いない。

客席の光と金糸入りパンツがリンクする奇跡

 横になった彼を起こしたのは「青春病」の聴き慣れたイントロ。印象的な音をたくさん使ったyaffleさんらしいアレンジがそのまま再現されている。風さんはシャツのボタンを外して、ネクタイを緩めると放課後の制服姿に見えてくるから面白い。
 ボールを投げたり、セルフィーを撮ったり、みんなとトランプをしたりしながら歌い続ける。階段に並んで歌うところも青春ぽくてかわいい。シンゴさん達ダンサーが踊りながらマイクスタンドを持ってきて、いつものダンス(このダンスはその部分の歌詞から野晒しダンスと呼ばれている)のところで風さんがちょうどマイクをセットして歌い始めるまでの流れはミュージカルのような滑らかさだ。

「青春もあとちょっとで終わります。このライブもあとちょっとで終わります。仲間を紹介させてください。」とバンメン紹介。みんなほんとにいい顔してるー。そして「ハレハレハレ〜」と「何なんw」のイントロが始まった。つい2年前はコロナ禍でコールアンドレスポンスもできなくてもどかしかった。日本でのライブは1年半ぶりだったので今回は大手を振って「何なん!」と歌えるようになったのだ。
「目を閉じてみて心の耳すまして」のところで、ちょうど映る角度のダンサーが瞑想ポーズになっているのも上手く計算されている。
 最後のピアノソロはガレージの上にあるピアノの場所へ。ドタバタと駆けつけて立ってソロを弾くというのがいつものスタイルで、歓声が上がっている。

「どうせ何とかなります。何があっても。どうせうまくいくんで最後には。みんながポジティブなパワーを持ち続けてそれをこの世の中に一緒にシェアしていくってことが一番大事なんで。まじでうちら仲間としてそこんとこよろしくお願いします」とMC。

「最後言うたんじゃけど、苦しむことは一切ない、悲しむことは一切ない。次の曲やらんと俺らの夏おわらんくねぇ?まつり」と言った後で照れ笑いをする。
 これぞ日本の夏という鐘と太鼓の祭囃子から始まった「まつり」。この曲のイントロが流れると、みんな心の中にある夏祭りにタイムスリップする。老いも若きも日常を忘れて楽しんだ懐かしい夜に。こういう曲を海外の人も好んで聴いてくれるのはとても嬉しい。
 盆踊りをイメージしているのかダンサーが丸くなって踊っている。途中でダンサー達も風さんも青い扇子を取り出して、それを効果的に使って踊り出す。バックには華やかな花火の映像。ギターソロも冴えて、yaffleさんが出しているのであろう笛なども絡み合ってネオジャパネスクの世界だ。本物の花火も上がってきて、まつりが最高潮に盛り上がる。
 そもそも祭りとは、神や自然への畏敬の念とは切っては切れないもの。2枚目のアルバム「 Love all serve all 」をぎゅっと凝縮すると「まつり」の曲になると言っていたことがある。それくらいこの曲には彼が伝えたいことが凝縮されているとも言える。大いなるものに感謝し、みんなで一つになって歌い踊る。個々の抱える感情は花火のようにポンポン空へと打ち上げ7万人、いやこの配信を観ている人達も一体となって音楽を楽しみながら踊るというラストがとてもFujii Kazeらしさを感じた。

 歌いおわると口から何か出す手品のような投げキッス(また独特やなあ)をすると電動自転車に乗ってアリーナ周辺をまわる。いつものようにアンコールはなく、退場して行った。その後しばらくバンドの演奏。ここで素晴らしいコーラス二人のソロも聴けた。この時視聴者数を見ると28万人と書いてあった。

全てを空に打ち上げよう

5.windyは常に ここに




 このライブ配信は当初2日間程度の公開予定だったが、公開延長となり、今も観ることができる。これまでの私の拙レポは、記憶を頼りに書いていたので、書くことも限られていたが、今回は何度でも見返して書けるため、書きたいことが増えてしまって嬉しい悲鳴だった。しかし、こんなライブがずっと無料で観れるなんてすごい事だ。改めてありがとうと言いたい。
 今回のライブは、私が前に観た風さんのライブと比べてリラックスした雰囲気が印象に残った。
確かなピアノと歌の技術と表現力、それにダンスは格段にレベルアップされているのが分かるが、それを見せつけるのではなく全体として調和しているイメージだ。力が抜けたことで余裕が感じられ、観客もリラックスできたに違いない。メンバーや携わる方、観に来ていた人までもが「等しく光ってる」ような印象も受けた。

 まだまだ書きたいこともあるが、この辺でデバイスを置こう。
 このライブのYouTubeのコメント欄にはもらい泣きするような書き込みが溢れている。風さんの歌がこんなにもたくさんの人々の心に寄り添っていることに驚く。日常は色々あるけど、このライブで得たポジティブなパワーを持ち続けたいし、いつでもこの動画を観てFeelin' goodをチャージできたらこんなに嬉しいことはない。
 それからライブ後に気が付いたのだが、それは世界中どこにいても雲のないところはないということ。たまに雲ひとつない日もあるけれど、だいたい探せばすぐに雲を見つけることができる。雨の日も夜も雲はある。
 ずっとwindyは私たちを見守っているのだ。あの標識にあったようにPASTからFUTUREまでずっとずっと☁️🌈


セットリスト

Summer Grace (ピアノソロ)
Feelin’ Go(o)d

ガーデン
特にない
さよならべいべ
きらり
キリがないから
燃えよ
風よ
ロンリーラプソディ
湘南乃風「恋時雨」ピアノ弾き語り〜
死ぬのがいいわ
Workin’ Hard
damn
旅路
満ちてゆく
青春病
何なんw
まつり


この記事に書いた藤井風さんのライブ動画はこちら↓

他にも藤井風さんライブのロングレポを書いていますので、よかったら読んでください。




















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