【短編】無題
今日は思うがままに綴った言葉を。
中身はそんなに濃くはないです。笑
タイトルはまだつけてません~どうしよう~。
いったん無題で出しておくことにします。
無題ってタイトルもいいのかも。無題。問題無い?
モーマンタイ?笑
――とは言いつつ、書き始めて少ししてタイトル先行にしようと思って無題のまま放置したので、このままでいいんじゃないかな。
……うん、いろいろ言い訳がましくなるのでやめよう。笑
配信アプリ等での使用・改変等はご自由に。
転載・自作発言・再配布はご遠慮ください。
クレジット(瀬尾時雨)は任意です。
――――――――――
窓を開け放った俺は、酒の入った体で夜の風に触れた。
ぐっと背伸びをして夜空を仰げば、また昨日からかけ始めた月がじっとこちらを見ている気がして、少し身震いし、目を反らす。そして昼間よりだいぶ減った車の往来をぼんやり眺め始めた。
実際はまだこの時期の夜の気温と湿度が十分ではないせいなのだろうが、こういう一人の、少し寂しさに浸っている瞬間はどうにもファンタジックな恥ずかしい思考になる。
太陽や月、星といった、昔から空から降ってくる輝きは苦手だ。自分の罪深いところを丸ごと見透かされているような気がするからだ。もしも彼らと相見えることがあれば、きっと俺は論破されてばかりで敵うことはないだろう。
流れ星もそれに倣って苦手。たまに見かけるたびに思わず願い事を考えてしまうのだが、その欲が全ていつか仇となって返ってきそうだ。
別に何か悪いことをしたのかと問われれば全力でNoを唱える。唱えていたい。実際法律を犯したことはないし、車の免許ももうすぐ金色になる。
だけど苦手だ。夜中に街中で警察官とすれ違った瞬間に身が引き締まる感じというか、誰かが怒られているときに自分まで心臓が委縮してしまう感じというか。
きっと自信がないのだ。誰にも迷惑をかけずに過ごしてきた自信が。いつかどこかで誰かを傷つけ、迷惑をかけ、尻拭いをさせているんじゃないか、と思い続けているのだ。
図太くなんてなれない。俺にできる技術は少なく限られているし、かといって全くと言っていいほどその場を沸かせるだけの弁は立たない。
以前には「大人っぽいよね」なんて幾度か言われたが、寡黙で陰気で、つまらないやつだと思われているではないかなと、ここしばらくは考えている。
それに重ねて現状、仕事はテレワークのみ。会社にはもう一月近く足を運んでいない。ますます同僚や上司、本当に数少ない後輩などからの存在は薄くなっていそうで。この世情がまた平穏に転じた瞬間どうなるのかの想像が全くつかない。
手にしたグラスの液体をあおる。もう氷はかなり酒に溶け込んでしまって、アルコールの片鱗は薄まっていた。
頓にそうなったかと思いきや、随分と長針は進んでいた。
こういう風に俺もなってしまうのだろうか。今はまだこうして何とか自我を保ってこの街に存在していられるが、いつのまにかこのまま世間を照らす夜景の一個所として景色に溶け込んで。やがて近いうちにこの部屋の明かりをともす人物さえ俺じゃなくなっているのかもしれない。
無理にグラスの中身を飲み干した。もうすっかり酔いなんて醒めていて、体も少し冷えてきた頃だった。
パッと窓のみ閉める。そのままグラスは机に音を立てておき、ベッドに横になる。
カーテンは開けたままだがそちらには完全に背を向けて、ベッドサイドに充電していたスマホを手に取った。ついでに部屋の電気も消す。
「――ん?」
ふとメールボックスを確認すると、新規のメールが一通。
送り主の名前はとある部下のものだった。
―― 突然メールしてすみません。会社で使っているアプリは上で管理されているようだったのと、メッセージアプリは先輩とは交換していなかったので、以前頂いた名刺を拝見して送らせていただきました。 ――
そこでようやく新入生歓迎宴会の時に名刺を渡していたことを思い出す。あまり親交はないが仕事の担当は同じなので、仕事のわからないことだろうかと画面をスクロールする。
―― 今日、リモート会議でかばってくれてありがとうございました。
実は少し前から、課長に強く当たられるようになっていて。課長とはメッセージアプリも交換してしまっていたのでずっと「ここができていない」「ここはもっとこうしろ」といった理不尽なダメ出しを受けていたんです……。
あまり相談できる人も周りにいなくて、今日の会議がすごく不安だったんですが、先輩が「その仕事は此方で引き受けます」「その件はまだやり方を伝達していないのでもう少し様子見しませんか」等々、沢山守ってくれたことが本当に心強かったです。先輩の作業の手際が丁寧で、ずっと尊敬していたので嬉しかったです。
本当にありがとうございました。私も先輩のようになりたいです。これからも頑張ります。遅くに、メールで失礼いたしました。今後とも宜しくお願い致します。 ――
「え」
なんだか予想外な文章が書かれていた。
全く意図していないことだったが、この後輩は俺に救われたという。
一瞬夢かと思ったが、文の端々が自分の引き出しにはない文脈で戸惑う。
そっと、窓の方を仰ぎ見た。そこにある月は先ほどよりも爛々として見えたが、なんだか不思議と、先ほどよりは怖くはない。
今なら少し勝てそう。などど変にてんぱった考えでその灯りを睨んでいたが、長針のカコッという音にハッとし、画面に視線を戻す。
「い、い、え、こちら、こそ」
慣れない作業だ。
拙く、文章を何度も消したり足したりしながら文面を何とか綴っていく。
長針と短針が完全に重なる頃、俺は漸くスマホをベッドサイドに戻し、そのまま布団の中に沈んだ。
その日、夢は見なかった。
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2020.05.09
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