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国内人権機関を実現した韓国の取り組み

国際人種差別撤廃デーの3月21日、国内人権機関の設置の必要性を考える集会が衆議院議員会館で開かれた(人種差別撤廃NGOネットワーク主催)。韓国国家人権委員会の国際人権部副部長のさんが、日本に先行する韓国の国内人権機関について語った。

▼国内人権機関って何?

1面で伊藤和子弁護士が指摘した通り、国連加盟国139カ国のうち120カ国に作られている国内人権機関。東北アジアでは韓国とモンゴルにはあるが、ないのは日本・中国・北朝鮮(下表)。アジア・太平洋地域で人権機関を持たないのは太枠の国々だが、「ここに日本があるのは驚く」とベクさんは話す。

韓国に国内人権委員会が発足したのは、2002年のことだ。設立の経緯をベクさんは語った。

まず、1993年、ウィーンの世界人権会議に韓国の活動家が参加し、国連人権機関について学んだという。「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」が示されたのがこの時だ。

1997年、氏が立候補した時「大統領になったら国内人権機関を作る」と公約を掲げた。彼はノーベル平和賞を受賞しているものの、国内人権機関を作るのには3年かかっている。政府にも国にも「国内人権機関」そのものが初めてであり、何をすべきなのかもわからなかったからだ。

そもそも韓国政府が出した最初の人権委員会設立法案は、法務省の下に置くものだったという。明らかに、「政府から独立した機関」ではない。

韓国の活動家たちは、ハンガーストライキ、国会議員へのロビー活動、大聖堂前の占拠などで抗議し、政府から独立した人権機関を求めたという。こういった経緯があり、ようやく2001年11月に国内人権機関、「韓国人権委員会」が設立された。

▼韓国人権委員会の持つ力

驚くことに、初日だけで122件も申し立てがあった。これは、韓国の人々が設立に希望を抱いていた証左だ。

例えば、スリランカからの移住者は、韓国のクレヨンの「肌色」が薄桃色であることを「肌色が一定の色なのは差別だ」と申し立てた。韓国人権委員会はそれを認め、現在、クレヨンに「肌色」はない。

韓国人権委員会は250人のスタッフを抱え、国内6カ所に事務所がある。「パリ原則」の中に「アクセス可能性」への言及があり、誰にでも行きやすいことが大切だからだ。

人権委員会は、政府・議会が法案や政策を出した時、人権にどう影響を与えるかを調べ、意見を述べる。裁判所に意見書を出すこともある。勧告には法的拘束力がなく政府は拒否できるため、力がないように思われるが、「パリ原則」の理念では、人権委員会の目的はビジョンと文化を作ることで、従わせる役割は司法が担うと考えられている。ただし韓国ではこれまで1042件の勧告・意見が出され、政府は約90%を受け入れている。

▼人権レベル=国のレベル?

イラク派兵反対についても、委員会で大きな議論になったそうだ。権限内か否か議論が紛糾した。その際、大統領が発したのが以下の言葉だ。

「イラク戦争について意見を表明するという行為こそ国家人権委員会の本来の任務であると認識しなければならない。(人権委員会は)そのために作られた」。

2002年以降、申し立て件数は増え続け、2022年の受理件数は、累計で17万1千件強になっている。

しかし現場は人手不足だ。カウンセラーが年間3万件ほど相談を受け、そのうち約1万件が実際に申し立てている。90人しか調査官がいないため、3カ月以内に申し立てるルールだが、実際には約5カ月かかっているそうだ。

2010年に韓国人権委員会の人員・予算を政府が20%カットした時には、人権委員会のビルに「人権委員会のレベルは国のレベルを表している」と抵抗する垂れ幕が掲げられた。「人権機関の設立は必要だが、続けていくことも闘い」とベクさんは語った。

翻って日本。国内人権機関の設立を目指し、まずは「パリ原則」とそれに基づく世界の対応、いかに日本が遅れているのかを周知することからだろう。

(吉田 千亜)

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