『日月時男のひきこもり日記』の推理2 ——日月家の家族構成——

前回の記事に続く、『日月時男のひきこもり日記』の推理考察記事です。

前回の記事↓

日月家の家族構成

今回の記事では日月家の家族構成について考えてみたいと思います。

物語のなかで生身の人間として現れた登場人物として挙げられるのは、以下の5人です。

  • 時男

  • 偽時男

  • 伊智子

このうち杏と伊智子と花は同一人物疑惑があったりなかったり。時男の発言もどこまで信じていいのか分かりません。

なので現実的に納得できそうなラインで家族構成を考えてみたいと思います。

(前回書き忘れていました。この一連の記事は作者が想定した解を求めているというよりは、17年間悩み続けてきた『日月時男』からの呪縛を自分で解く=自分が納得できればいいというスタンスです)

まず、日月家は「能力」を持ち続けるために近親相姦+交合機械で次代を作り続けているという記述は真であるとします。

その上で子作りについての具体的な言及を探してみると、時男がこう書いています。

少なくとも男女一組が揃うまで、作り続ける

1月29日 『”交合機械”とは』

「少なくとも」の解釈次第ですが、一組で子作り終了となるならば、それはどう考えてもおかしいですよね。

いくら家庭内で育てられるとはいえ、次代の男子女子の一人しかいない方が事故や病気で亡くなったときに日月家の血統が途絶えてしまいます。事実、時士郎は死んでしまったと思わせる記述があります(ただしこれは子作り終了後だったので問題にはならなかった可能性も)。

もっと予備は潤沢にいた方がよいでしょう。と考えながらそれっぽい言及を探してみると以下の時男の書き込みがあります。

医学的には、近親配合には危険がともなう。しかしこの場合、十分の一の成功があれば、能力は次代に伝わるのだ

1月21日 『この家のこと』

揚げ足をとるような読み方ではありますが「十分の一の成功」を成功率10%と読むならば、「少なくとも男女一組が揃うまで」ではやはり終わらせることはできません。

成功をさらにその次の世代を産み出すことと考えるならば、精通や生理の開始がそのスタートラインになります。10才かそこらでしょうか。

かといって10歳になるかならないかの頃に「男児が死んじゃったのでもう一回産むわ」いうのは合理的ではありません。とりあえず出産は大量にしておいて、そのうちに何人かが無事に生き残ればいいよねというスタンスになるはずです。

子供が無事に育ってくれる+妊娠~出産には1年程度かかることを考えると、(私の感覚ですが)男女各10人以上いてもよいのではないでしょうか。もっといてもいいかも。

その20人超でガンガン子作りしてもらいましょう。

日月家の人物は脳を移植できるレベルでDNAが一致しています。そのため「彼女」が直接産んだ子供じゃなくても脳移植ができるはずです。なんなら妊娠出産の母体の危険を考えると「彼女」自身は子作りしない方がよいはずです。

現代では、自分の子孫に自分を引き継ぐ行為をフィクションのなかに少なくない数を見つけられます。そんな時代には姪の体に脳移植をしている方がグロテスクで物語的でもあるかもしれません。

「彼女」自身は子供を産んでいない傍証としては、伊智子から(偽)時男に対しての「あなたは乳母の乳で育った」というものもあります。もちろん実在した華族の特異性を表したものとも読めますが、どっちとも読み取れるなら物語として面白い方で解釈したいと思います。

あとは、「通いのメイド」であった花さんについてですが、花さんってほぼ間違いなく日月家の血統の人間ですよね。杏や伊智子と同一人物かどうかはさておき。

そう推測する理由として、当代の男子(時男くん)が「僕はメイドさんでしか興奮しないんだ」と開眼してしまったときに花さんが外部の人間だと困ります。だったら最初から日月家の人間に通いとしてメイド姿をさせておけばよいのです。

家族のうち誰と誰が子作りしても「彼女」としては一切問題ありません。ってなると杏、伊智子、花が本当に同一人物かどうかは実は些事であるのではと考えています。

日月家は20人を越える大所帯だった、と仮定すると次に問題になるのはそいつらは館のどこにいるんだという点です。

これは他の渡辺作品に類例を見つけることができます。例を挙げれば『令和元年』の「ケブン症」です。ミニマムだけど、なにも不自由しない住居空間。これが子供世代にあてがわれていると考えます。

(時男の学校に行っていたという発言は疑わしいのですが)小学校中学校くらいまでは、子供世代も外に出てもよいかもしれません。

ここでは男子を想定しますが、10代の半ばで不登校になるように仕向けましょう。不登校になった彼に家の中でも特に自分の部屋にこもるように仕向けます。しかし日月家は裕福な家族であるため衣食住や趣味娯楽には不自由させません。

そうして10年が経ち、家族の顔もどんな家に住んでいたかも忘れてしまったひきこもりが完成します。……というのが本編の偽時男の正体であると考えています。

ただしそうなると偽時男が日月姓に反応しなかったのが疑問として残ります。さすがに自分の名前は忘れないよね。

これは男子女子のどちらにも「第一候補」みたいな存在がいるのかなと考えています。男子で言えば時男だし、女子で言えば杏。

それ以外の「予備」は日月を名乗ることが許されていないとか、そもそも別の名字で育てられているとかで疑問点を抜けられると思います。

それぞれ別の名字で育てることによって、きょうだいを他人だと認識することもあるかも。その方が子作りの心理的抵抗も薄れますね。顔はみんなほとんど一緒でしょうけど。

ということで、前回の記事でも問題点として挙がった「時男と偽時男の入れ替わりはいかにして行われたのか」がこれで解決できそうです。

そもそも同じ館にいるし、作中には催眠ガスも出てきていました。このガスで眠らせて部屋を移し変えれば入れ替わり完成です。偽時男が時男のブログを見ていたことにも、時男の策略があったのでしょう。

思っていた以上に長くなったので、この記事で確認したいことを簡単にまとめます。

  • システムを考えると「少なくとも男女一組」では子作りを終わらせられない

  • となると「予備」的な存在も館の中にいることになる

  • その予備の存在のうち一人が偽時男でした。なので入れ替わりも容易でした

  • 全員DNAが同じなので伊智子、杏、花が同一人物かどうかは実はどうでもいい問題。

これ以外の行間の部分は皆さんで補完していただいて結構です。

次回、ようやく、時男の正体編に続く予定。

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