『日月時男のひきこもり日記』の推理6 ——時男の目的2——

『日月時男のひきこもり日記』の推理考察記事です。

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時男の目的2

前回は物語層の時男の目的について考えてみました。今回は中間層の時男の目的について考えてみます。

一応、用語確認をしておきます。

物語層の時男=『日月時男』を小説としたときの登場人物としての時男

中間層の時男=『日月時男』を小説としたとき、その作者としての時男

です。で、日月時男は推理小説によく見る、「登場人物兼作者(の名前)」になっていますよという話でした。

そんな推理小説のなかで『日月時男』が少々特異な点がひとつあります。中間層の時男は、自身が物語層の時男と同一であるように振る舞っている点です。

(メタ作者=渡辺浩弐さん的には、完全に同一人物として扱ってほしいのではとも思っています。その方が物語構造的にも強いことは間違いないです。しかし、我々読者があのメールをなぜ読めたか、あるいは我々読者にも入れ替われた可能性があったのかが解決できないなら同一人物とするのは難しいと私は考えています)

まあ、正直同一人物として考えていいと思います! とりあえず今回は、物語層ではなく中間層の時男が行っている「時男は誰だ?」キャンペーンについて考えます。

今回はその、犯人当てならぬ時男当て企画の目的を考えることとなります。

以前の記事で時男の正体は「記憶喪失となった時士郎(の脳)」と書きました。

「DNAが一致している日月家の肉体」に「記憶喪失ながら時士郎本人の脳」が揃っています。それに加えて「彼女」から時士郎との思い出を聞かされ続け、「時士郎の記憶の全て」がインストールされているのではないかとも書きました。

しかし、そこまで条件が揃っても時男は時士郎として目覚めません。目覚めたなら、「彼女」との子作りに励み、日月家を盛り返そうとしているはずです。

時男自身も「彼女」が嘘をついているとは思っていないでしょう。日月家には写真もありますし、鏡もありますから自分自身と日月家男子の姿を比べてそっくりであることも確認したはずです。

客観的に考えたら、自分は時士郎なのだろうと時男は認識しています。

でも、肉体も記憶も揃っているのに自分である実感が持てない。

……という状況から思い浮かべる渡辺作品がひとつありますよね。『死ぬのがこわくなくなる話』です。

この記事の第1回で『死ぬこわ』に言及することは予告しておいたので、ひとつひとつの再確認は、なしでいきます。

関連性が高いツイートを拾ってくると、このあたりのツイートですね。オバマ仮説のあたり。

そしてこれらのツイートのあとに読者へと投げ掛けられる問いはこれです。

「あなたは、誰ですか」。

そして、我々がいまだに『日月時男』に囚われ続けている理由はこんな質問が読者へ投げ掛けられたまま解決していないからです。

「時男は誰だ?」

この二つに相似性を見てしまうのは考えすぎなどではなく、同じテーマを取り扱っていた作品だったからなのではないでしょうか。

「時男さん。あなたは○○です」の、のちに「私は○○です」と回答をする流れはできすぎていると感じます。

記憶喪失の人を第一問としておいて、第二問で「肉体も記憶もその人であることを保証しない」というステップアップがされているのは親切な構造になってるんですよね。

(もちろん『日月時男』が無事に完結までいたっていたら、あのかたちそのままで『死ぬこわ』が発表されていたとは思いませんが)

ブログの「時男は誰だ?」キャンペーンの記事自体は時男が作ったものではないと読み取れます。少年アルケミスト編集部が作ったものと読むのが妥当でしょう。

しかしながら、そのブログ記事に時男自身はコメントで参加していました。そこにはなんらかの利が存在していたはずです。言い換えると時男は読者に対してキャンペーンに参加してもらいたかったということになります。

ではその理由とは。と考えるとものすごい直球になるのですが「時男は自分とは誰なのかを読者に教えてほしかった」んじゃないかなーと考えています。ずーっと時士郎である実感がないのに時士郎であることを求められてきた時男さんの叫び。それが「時男は誰だ?」キャンペーンの目的であり、中間層の時男の目的。

って認識したあとだと「時男は誰だ?」とか、「時男の正体とは」の質問の意味が変わってきちゃわない? というところで今回はおしまい。

次回、作者渡辺さんの目的、あるいは狙い編に続く予定。次回最終回。

余談

渡辺浩弐さんは今月末に「ミステリカーニバル」に参加するとのことです。せっかくミステリに関わる流れなら『日月時男』も再開してほしい! けど、その場合こういう考察記事って書かない方がいいのかな。いや、まあ書いてるし公開しちゃってるんですけど。

ゲーム開発の現場に「こういう機能をいれてほしい」ってメールされると、そのメールがくる前から実際にその機能をいれようと思っていたのに、メールを送ってきた人が権利や独自性を主張する可能性があるからめんどくさくなるって聞いたことあるぞ。

という取らぬ狸の皮算用でした。

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