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小さな町の中にも沢山の色がある

南田中はぶどうの産地、そう聞いてピンと来る人はどれだけいるのだろうか。五泉にぶどうの産地があるなんて聞いたことがなかった。しかし、南田中にはぶどう畑が広がっている。五泉市民があまり知らない五泉が、そこにはあるのだ。

 五泉市の南東に位置する南田中によくタクシーを使ってくれるお客様がいる。お迎えに行く度に見えるぶどう畑の景色は、さながら南フランスだ(もちろん南フランスには行ったことはない)。初めて見たときも「これはぶどうを作っているのかな?」とは思ったが、そこまで気にしなかった。しかし何度か来るうちに、周囲に広く広がっている事に気づいた。
 お客様に聞いてみると「南田中はぶどうの産地なんだよ」と教えてくれた。その表情はなんだか誇らしく、新潟県民が米どころを自慢するそれに似ていた。地域性を自分の特性の一部として感じているようだった。

 話は変わって、お隣の大蒲原には集落の近くに池が点在している。最初はため池かと思ったが、水面の上には鳥害対策の糸が張り巡らされていて、管理されているか、又はされていた事が分かる。
 これもまたお客様に聞いてみると、昔は養鯉をする家が多くあったそうで、その名残であるとのこと。いつからか水が濁り出して、養鯉をする人が減っていったそうだ。それが無ければ五泉も、小千谷や山古志村のように養鯉が主要産業の未来があったのかもしれない。勝手ながら一人残念に思う。

 寺町にはお寺が沢山あり、馬場町は飲屋街、大蔵では畑から土器の破片が出てきて、馬下の河岸では戊辰戦争の銃弾が見つかるらしい。どうしたことか、この町は興味深い特色で溢れているではないか。それを土地の風土というのだろうか。
 タクシードライバーの仕事には、そんな土地の特徴を見つける楽しみがある。しかしそれは走っているだけでは見つからない。そこに住むお客様と会話するから掘り出されるのだ。
 そう考えると、まだまだ見つかっていないお宝の歴史がこの町には眠っているように感じる。自然発生した人間の営みが、生まれては消え、その跡だけがひっそりと身近に佇んでいる。それらはきっとこれからも私の歴史好奇心を刺激するだろう。

 冬の寒空の下で、誰かに気付かれるのを待ち侘びている風土がある。あなたもそんな目線でいつもの通勤路を走ってみてはどうか。



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