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VR演出についてかんがえてみた|中編:音と演出の話

「VR演出」について、さまざまな方法でVR演出を手掛ける方々とざっくばらんにお話をしました。

メンバーは
サンリオバーチャルフェスのB4で去年に引き続き圧倒的なパフォーマンスを見せたキヌさんとそのエンジニアリングを担当したtanittaさん、
スケールの大きな“旅”のような体験を提供したBeyond a bitのEstyOctoberさん、AyanoTFTさん、Yuki Hataさん、
アーティスト・TORIENAさんのパーティクルライブ演出を担当した三日坊主さん、ちゅーたなさん、
サンリオバーチャルフェスのバーチャルパレード「Musical Treasure Hunt」のディレクション・演出を担当した0b4k3さん、fotflaさん、
VR演劇「Typeman」でVRサウンドエンジニアを担当したらくとあいすさん。

セコンドとして、VRChatワールド探索部のタカオミさん、phi16さんが参加します。

今回は、・中・後編に分けてお届けします。
前編では、サンリオバーチャルフェスB4を軸として没入をもたらすポイントや主体の取り扱いなどについて。
中編では、同じくサンリオバーチャルフェスB4を軸に「音と演出」の関係性についておはなししました。

なお、本記事は主に「ソーシャルVRでVR機器を使用して経験したこと」をもとに議論しています。故に、本記事で触れるVRも主にソーシャルVRでの体験を指しています。また、VR機器を使用した体験全般を「VR」と表記しています。(2023年1月28日収録)

左からfotfla、0b4k3、らくとあいす、AyanoTFT、三日坊主、phi16、ちゅーたな、キヌ、tanitta(キヌさんに抱きかかえられている)、EstyOctober、タカオミ、Yuki Hata(敬称略)

B4の2D・3Dの音の使い分けについて

らくとあいす
せっかくなので音の話をしようかなと思います。
B4の中でも音の使い方が結構違ったなと思っていて。

大きく分けると2Dと3Dがあって。さらに細かく分けていくと2Dと3Dを両方使いながらというのと、使い分けを替えて混ぜていたり、2Dに振っていたり、音の種類と音の立体感の使い分けがそれぞれ特色合って面白かったなと思いました。
特にBeyond a bitの2Dと3Dの音の使い分けがすごく好きで。

楽曲って単純に配置した場合は3Dにした方がむしろ空間感が狭くなるというか、2Dでがっつりミックスして、きれいなステレオで聞かせた方が空間に広がっている感じはすごい強くなるかなーと思っていて。なので、Beyond a bitでは2Dの楽曲で全体を包んだ上で、その中に3Dの音をオブジェクトに合わせて置いてあって、それによってあたかも全体が3D音源になっているように一瞬錯覚してしまう面白い使い方だなと思って聞いてました。

EstyOctober
wata23さんとYuki Hataさんの成果ですね。

らくとあいす
しかもオブジェクトから聞こえてくる音も効果音としては聞いてなくて、完全に曲として聞こえていて、それがすごく良かったなと思いました。

去年のサンリオバーチャルフェスのキヌさんの導入の3Dの音がすごい好きで。拍手するところは手が上にきて、上に視線誘導される感じとかが良かったですね。上下方向も使う音ってあんまり見たことなかったので。

また、今年のキヌさんの最初も3Dの音をめちゃくちゃ上手く使っている例だと思っていて。しかも、4曲目は2Dのステレオに戻して、逆に3Dだとできないような細かい演出をされているという話を聞いたりして、そういう2D・3Dの音の使い分けは結構演出に効いているなーと思いました。

キヌ
わかる。

らくとあいす
上下方向の音も使いたいですよね。
今回だとBeyond a bitは多少は上下の音があったのかもしれないですが、基本は水平ですよね。上下の音はなかなか使いづらい面はあると思いますけど。

AyanoTFT
天井の花を開く時に鳴らしているので、上からの音もありますね。

EstyOctober
そうですね。上をちゃんと見てほしかったから、音を出してたんですけど。

AyanoTFT
そこまでやっても上の花を見逃してたという感想はありましたね。

EstyOctober
結構いましたね。
ちゃんと妖精もゆっくり上に上がっていっているので、妖精を見ている人は上を見てくれるはずだし、根っこを辿ったら天井の花にたどり着けるはずなんですけど「たどり着けない人いたかー」みたいな感じでしたね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

phi16
移動がゆっくりだったから認識から外れてしまう感じは少しありました。

EstyOctober
確かに。ただ根っこは忍び寄るように生えてほしかったので、ゆっくりにしたかったんですよね。まあ、そのせいでってことですね。

phi16
根っこ自体は良いんですけど、例えば、他の生物たちも一気にふわっと上げちゃうとかすると、一気にみんな上を向いてくれるかも。

三日坊主
そこで音で向かせるのはめちゃめちゃいいですよね。

phi16
でも「音が出た瞬間に向かせる」のはもったいない気がしていて。
「見ているところから音が聞こえる」くらいに感じにしたい。
視線誘導としての音だったらぜんぜん良いんですけど、「花が咲く」とかは結構決めの場面じゃないですか。その時点で既に上を向いていて欲しいですよね。

EstyOctober
そうですね。
なので、その意味では妖精とかの誘導で伝えるのに失敗した人は結構いる感じになってましたね。妖精はもうちょっと早くても良かった気がしますね。

tanitta
上を使うのは思った以上に大変なんですね。

らくとあいす
音に関していうと、水平方向に比べると上下方向ってすごい曖昧で知覚が難しいので。上に音があるかどうか聞き分けるのって結構人によるところがあるので。

頭を振っているとある程度分かりやすくなるんですけど、頭が固定されていると結構分かりづらいんですよね。

三日坊主
頭を振らせないと。

らくとあいす
頭を動かさせると、じっと聴いてるよりも定位感も分かりやすくなるってのはありますね。

tanitta
KAWAIIムーブしている人は上下の定位感が分かりやすいというのはあるかも。
VRChat向けに進化したのかもしれない(笑)

らくとあいす
若干関連した話としてVRではないんですけど。phi16さんが制作したARの「NEWVIEW ULTRA XR LIVE」は音の定位が使えないのですごい難しそうだなと思っていました。

phi16
どうしようもないですよね。あれは2Dで流すしかなかった。

らくとあいす
ARってそれこそ音で誘導されないので、「どこで何が起こっているか」を認識するのが結構難しいというか探さないといけないので。立体音響があったらいいのにってすごい思ってました。

EstyOctober
ARの音の制約、面白いですね。
スマホを持つスタイルだと限界がありそうですね。

らくとあいす
スマホを頭の前に固定して聞いてください、って言わないとできないですからね。

phi16
ところで根本的に「真上」を使うのって結構難しくないですか。スマホならいいかなって気持ちもあって私がやったキズナちゃんのは真上を向かせてるところもあるけど。

EstyOctober
HMDの上の向きにくさは尋常じゃないですからね。

phi16
没入感も削がれる感じもあるし、もったいないですよね。でも、上を使いたいって気持ちもあります……

オブジェクトと音の関係性について

Yuki Hata
今回のB4で僕は曲をつくっていたので音周りについて思っていたことなんですけど、演出とそれに対応した音の関係性でオブジェクトの質量感がすごく左右されるなというのを感じていて。
キヌさんのライブの4曲目で壁が壊れて回転しながら真ん中に集まっていくみたいなところがとても音と合っていて、質量感を感じて、すごく良いなと思ったんですよね。

Beyond a bitで曲をつくった時に、光とキックの音を合わせてるとか演出に対応している音があって、そこですごく質量を意識していたので、キヌさんのライブで演出と音が合っててオブジェクトに質量を感じるというのがすごく印象に残りました。

パーティクルライブとかで、よく歌に合わせて歌詞が立体感を持って出現してきたり、歌ってるアイドルのアバターが巨大な姿で出てきたりという演出があると思うんですけど、それが個人的に若干苦手で……
かわいい音楽なのに相容れない謎の迫力が出ているように感じて、そのちぐはぐに感じる部分が苦手だったのかなって改めて思いました。

個人的には、ワールド内に置いてある机とか止まっている物ならいいんですけど、ライブで動いているオブジェクトは質量感が欲しいというか。質量がないように見せるのであれば「なぜ質量がないのか」を見せた方がより説得力があるなあと思いました。

また、今回やったのがBeyond a bitだったから、余計にそう思うのかもしれないですけど。
結構会場の温度・湿度とかそういうのも音によって耳から情報として無意識に得ていたりするのだな、という気付きがありました。

らくとあいす
見た目って、なんというかいくらでも偽装できると思うんですけど、音ってあんまり偽装できないんですよね。
重いものと重いものがぶつかったらでかい音が出るみたいな、そういう中身が詰まっている感というか。

Yuki Hata
オブジェクトが動く時も本当は空気を切る音がするだろうし、そこからも質量感みたいなのも感じているだろうし。今回Beyond a bitで楽曲を作って、そういう演出と楽曲の関係性の部分を、他の人はどうやっているのだろうと興味が出てきましたね。

キヌ
どの要素にフォーカスするかという気もしていて。
例えば約束さんのパーティクルライブで大きな文字やアバターがどんと出てくる場面があったけど、あのとき感じたのは物体としての迫力とか質量感というより、「かわいい存在がどんと出てきて嬉しい」という気持ちだったんですよね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

Yuki Hata
なるほど。

phi16
約束さんのは迫力があって良かったと思います。曲も強いから。

キヌ
約束さんはかわいいの暴力だから。

phi16
そう。良い意味で暴力的ですよね。

tanitta
「迫力のあるかわいい」ってあるんだみたいな気付きがありました。

phi16
フォントがでんって出る、あの強さですよね。
堂々と出すんだっていう強さを感じられましたね。

キヌ
「質量感のある」「迫力のある」を見せたい場面もあるし、そうじゃない場面もあるのかなと思います。

phi16
坊主さんは歌詞の立体化に関して一言ありますか。(TORIENAさんの演出で歌詞を立体化していたので)

三日坊主
最初にTORIENAさんからデコイでは歌詞を出す方向でいきたいとの話があったので、「演出の中で歌詞を出すというのはどういうことなんだ」「歌詞を出すのに何か意味を出したい」という思いがありました。デコイの一番と二番には対比構造があるので、手書きと明朝体のフォントを使い分けることで場面背景を意識してほしかったという狙いはありましたね。

©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.
©︎ 2023 SANRIO CO., LTD.

Yuki Hata
デコイはめちゃくちゃよかったです。
さっきの文字の立体化についてもっと詳しく言うと、浮き出てる文字の質量感が楽曲の世界観とちぐはぐだと違和感を感じるなって。デコイの文字って軽めの質量感で、曲の世界観と合っていると感じました。たまに文字自体が石板みたいになっていて、それが浮き出てくるみたいなパーティクル演出も見たりするんですけど、上手く言えないんですけど……

タカオミ
厚みがある?

Yuki Hata
そうそう。文字自体に厚みがあって、しかも、それがものすごい勢いで回転したりとかして。曲によっては歌詞ってすごい速さで切り替わっていくじゃないですか。だから、必然的に文字の動きも早くなっていって、結構な質量のあるものが高速で動いていて、その迫力と世界観のちぐはぐさに違和感を感じやすい。
意図を感じるちぐはぐだったらもちろん良いんですけど。

0b4k3
それでいうと、約束さんの作品は自信を感じさせてくれるから良いと思うんですよね。
文字を出すことによる効果がちゃんと分かっていて、出す意味を分かっているから出せる。故にポジティブな受け止められ方をする。

なので、要は自信があるかないかだと思うんですよ。自信満々にでんと出すんだったら、そういう表現なのかと自然と納得する。好きか嫌いかは置いておいて。そこにある種の自信のなさとか表現的な意味でのコスパとか、消極的な部分しか感じられないと、そういうネガティブな受け止められ方になってしまうという感じなんじゃないですかね。

Yuki Hata
なるほど。
音とそれに対応してるオブジェクトの話に戻すと、そのオブジェクトの質量感とか会場の空気感みたいなものは鳴っている音と関係あるなと思ったんですけど、だとすると逆のこともできるというか。どうみても鉄なのに軽い音がするとか、どう見ても乾燥しているような部屋なのにものすごく湿度があるような音がするとか。
楽曲の中で使えそうだと思っているんです。

phi16
でもそれだと必然的にギャップが存在するということそのものが表現として前に出てきてしまうと思っていて。何かのツールとしては使えない気がしている。目的次第では確かにそれはそれで使えると思います。

Yuki Hata
楽曲にはブレイクとかあるじゃないですか。ずっとキックが鳴っていたのにキックがいきなりなくなったりとか。
キヌさんのライブの時に4曲目の真ん中に溜まっていくオブジェクトには割と質量感を感じたんですけど、オブジェクトに急に質量感を感じなくなるブレイクもつくれますよね。

EstyOctober
おおざっぱには、そこでつくり出せる感情としては新しい種類の驚きがつくり出せるわけですよね。

Yuki Hata
そうですね。それでいうと、驚きではあるのかも。

phi16
キモさも同時に来ますよね、どうしてもギャップは発生するよなと思って…。
もしやるなら何も言わずにやるのはあんまり良くなくて、ちゃんとビジュアル側でも、なんかちがくない?感を出した方が良さそう。

EstyOctober
当然ながら、突然ものの重みがなくなったことの意味を全体でもふわりと感じられるようにしておきたいですよね。その演出を活用するなら。

オーディオリアクティブについて

AyanoTFT
今回Beyond a bitで取り入れたオーディオリアクティブな表現は場を持たせるのは難しいなと思いました。

phi16
Beyond a bitで悩んだことがふたつあって。キックの話。最初の波紋のタイプのキックは良いんだけど、みんながふよーんと動いている時に花の方から出ているオーディオリアクティブがちょこちょこあったじゃないですか。あれは、音に対して遠さを感じました。

AyanoTFT
連動してはいるけど「音と連動していて気持よい」というオーディオリアクティブの良さはあんまりないですよね。
ビジュアルとして綺麗なのはいいけど。オーディオリアクティブである意味が薄い表現になってたのはかなり自覚しています。
ただ弱いと思いつつも、特にEstyさんと話したわけではないですが、僕の中でEstyさんの表現を解釈して、すべてが連動していることによって楽曲と各オブジェクトの繋がりを示すことは考えていました。

phi16
同時発生は因果関係を示さないじゃないですか。

EstyOctober
何の因果関係が欲しいんですか?

phi16
音はものから出てほしくないですか。そこが私の中でのオーディオリアクトの基本にあって。
音には出しているものがあるからそれらが同時に動く。必然的に音とビジュアルに因果関係が存在するというのが私は嬉しいです。私は、ある意味ではビジュアルが音に従うことをよくやる傾向にあると思いますが。

らくとあいす
いわゆるオーディオリンクとかでやってるようなオーディオリアクティブ。つまり、音が鳴ってることを拾って光るのはphi16さんの言っていることの逆ですよね。
phi16さんの言いたいことはすごい分かって、オーディオリンク的なものを解釈すると音が鳴っていることによる振動や音波の伝搬とかそういうところの可視化なのかなと思っていたんですけど。空間が振動している感というか。

タカオミ
それが『CUE』ですよね。

CUE:0b4k3氏とphi16氏による渋谷PARCOで行われた(リアル・バーチャルの)パフォーマンスとVRChat上へアーカイブされたバーチャル空間、映像アーカイブを指す。

らくとあいす
『CUE』のように時間差とか物理量をしっかりやるとああなる。

phi16
本来は空気があって、それで布が揺れるじゃないですか。

らくとあいす
それがゼロ時間で行われて、同時になるとオーディオリンクになる。
音の到達する時間差とか音が出た後の干渉とかそのあたりを一回無視すると、そういう表現になるのかなと。

phi16
そもそもなんか、光るのが違くないですか。

EstyOctober
何が違うんですか?

phi16
つまり……光ったところで音は出ないんですよ。

EstyOctober
Beyond a bitはその辺の物理的整合性を考えると「なんで真空の宇宙で光の速度を超えたかのように音が届いているんだ」という話で終わりますからね。

phi16
それは認識的に大丈夫な域に入っていて……
「イメージとして音と光がくっついている」ことは良いと思っていて。
私は物理的現象として解釈したいというより、存在としての因果関係、関係性が欲しいんだと思います。音があってものが出る、つまり音からそれを受け取ってビジュアルに反映するというのも分からなくもないんですけど。

AyanoTFT
その辺は本当に分からない、難しいなと思いながらやっていたところですね。
明確な答えを持っていなくて、視覚的に繋がっていることの気持よさを感じるほどではないけど潜在的に繋がっているというレベルで今回は良いのかなと思ってやりましたね。

0b4k3
VJとか照明演出とかもそうだと思うんですけど、音が鳴っているから光が出てきているわけではなくて、音が鳴っていて、光や映像をコントロールする人間がそれに応じてコントロールした結果として、何らかが出ているわけじゃないですか。オーディオリンク的なものとの違いは、VJや照明演出の人が、「演じている」という点なのかなと。そういう意味では、因果関係があるのかも。
見ている人から見ると、因果関係というより、それが同時に発生することで相乗効果があって体験として良くなるよねみたいな、そういうイメージですよね。

オーディオリンクとかVJもそうだし、照明演出もそうだし、いわゆる世のオーディオリアクティブは因果関係よりも、そういうところが重視されているのかなと思っています。

phi16
分かります。同時進行で混ざっているんですよね。

0b4k3
そういう考え方が、多分大半なのかなと。音に合わせてなんらかの演出を組むっていうのは。
オーディオリアクティブって書くと、オーディオがなにかやって、それによってリアクションが出ているっていう風に見えてしまう。ので、phiちゃんが言っていることはすごくオーディオリアクティブだと思うんだけど、世の中のオーディオリアクティブっていわれているやつはそういう風に成り立っているのかはあんまり分かんない、みたいなイメージですね。

phi16
同時進行で混ざっているという感覚は分かります。

EstyOctober
オーディオのビジュアライゼーションに近いですよね。
Beyond a bitでは、音が鳴ったときにどんな演出であってほしいかみたいなリクエストを私の方からAyanoTFTさんに投げていました。その意図としては、Yuki Hataさんの綺麗な音楽を音でも感じた上でそれを視覚でも体感することで音に乗りやすい感覚で綺麗に過ごせたらいいだろうなと思ったんですよね。
音がビジュアライズされて、聴覚と視覚で体感することで、音楽をより深く感じやすくなるみたいな効果はあると思っていて、そこに意味的な因果関係とかはまったく求めていなかったですね。

実はつくっている最中にも突っ込みとして「なんで宇宙空間なのに即時反応しているの」とか「あいつ巨大なのに音の伝搬速度めちゃ早すぎない」とかあったりしたわけですけど「音に乗って綺麗に動いているから良いんじゃない」という感覚で演出綺麗でいいじゃん!で終わっている感覚はありますね。
なので、リアクティブというより単にオーディオのビジュアライゼーションで終わっているところはあるとは思いますね。

phi16
私が因果関係って言っているのは、物理法則に沿ってほしいとかそういうことではなくて、なんていうんですかね……
もっと単純な話で、ボールが「ぽよっ」て出てきたら「ぽよっ」て音がしてほしいじゃないですか。逆に。ぽよっと音がしている時には、なんかぽよっとした動きがあってほしいんですよ。ただそれだけなんです多分。
因果関係と言ってしまいましたが、さっき言った同時進行の方が近いかも。音と同じものが演出に存在している。

EstyOctober
その意味では、あの花は「音が鳴ることで綺麗な光の波が発生する存在なのだ」と思ってAyanoTFTさんにお願いしたら、思った感じのものが出てきて「かっこいい!」となってましたね。

phi16
その意味では、因果関係はオーディオリアクト的なような気がしますけど。
それはさておき、光の波が発生している様子自体は音を出さないですよね。

EstyOctober
音に反応しているという感じですね。リアクティブという感じではないと思うのですが。

phi16
いや、それがリアクティブってことなのかなと。

EstyOctober
あいつらは別に音楽の発生源でないような気がするんですよね。惑星が点滅しているやつとかはちょっと鼓動ぽくてかっこいいなと思っているんですが。

phi16
それはすごく感じました。

tanitta
別の解釈で、光が原因じゃなくて、何か原因があって光と音が出てるっていう解釈もあるよね。生き物の一種とかね。

タカオミ
もっと大きな枠組み。

phi16
結論としては、演出の筋書きがあって、それに対応した音と光の演出がある、そこのふたつが自然に繋がるのが良い形、ということなのかな。

「曲の音」と「空間の音」の使い分けについて

phi16
Beyond a bitには「空間から発生している音」と「曲そのものが持っている音」の二種類の音があるじゃないですか。私はその区別ができなかったんですよね。だからどっちなんだろうという悩みがあった。

その中で一番でかいのがカウベルですけど、どっちなのかを分かりたかったんですよね。
カウベルはめちゃくちゃ主張が強いじゃないですか。「主張が強い」ということは空間に存在していることを醸し出しているので、どこかに存在しているのかなと思いました。

tanitta
それは自分も思いました。

ちゅーたな
カウベルはなにか伝えようとしている感じで喋っているように聞こえました。

キヌ
曲に入れる音と空間にある音の使い分けはどういう基準、どういう意思で分けましたか?

EstyOctober
私が知っている流れを説明すると、私はYuki Hataさんが困ることは気にせず、音楽とは別でオブジェクトからも音が鳴ってほしいなと思って、wata23さんに効果音を頼んだんです。
組み合わせていくと、Yuki Hataさんもwata23さんも「これ音合わせるのは難しいんですけど」となって「そっか難しいんだなあ」って思いました(笑)
そこから、wata23さんが効果音の音の高さをYuki Hataさんからコードとかを聞いて調整し始めて、それでも難しいやつは、Yuki Hataさんが音を流す方に切り替えたりしてちょっとずつ調整していきましたね。

キヌ
鳴りうる音を決めた上で試行錯誤したんですね。
どのあたりで難しいとなったんだろう。

Yuki Hata
ストーリーが最初にできあがっていて、それに対して音をつけるのが最初だったので、まずEstyさんの世界観に対して、音はどういう雰囲気を醸し出す・ムードなのかでアイデアをつくっていきました。
でも、演出に対して合わせすぎてBGMみたいになるのもあまりよくないなと思って、ある程度、楽曲側にも主張が欲しいみたいなことを考え始めたんです。
なので、そこでバランスを取っていった感じだったんですよね。

難しいと思ったのは、楽曲にも主張があって、演出にも寄り添って、ってバランスを取ることでした。AyanoTFTさんが入れてくれた演出に対してMIDI信号で合わせやすいのが結局リズムだなと思って、リズムの中で一番目立つキックが一番合わせやすいかなと考えたんですよね。

phi16
キックはめちゃくちゃ「強い」ですよね。

Yuki Hata
割とつくりながら掴んでいったという側面が強いので、明確にこうしようという意図があったというより探り探りでやっていましたね。
探り探りでやっていくうちに着地点を掴んでいったという感じですね。カウベルは僕の趣味なところがあるんですけど。

らくとあいす
空間にあるというより、普通にあれは曲として聴いてました。
空間があるかどうかは完全に2Dか3Dで聞き分けていましたね。
2Dの音は基本的に空間に関わりない音として、キックに関して言うと低音はあんまり方向感が出ないので、あまり分けて聞いていなかったですね。高めの音に関しては2Dだったので、普通に曲として聴いてました。

ワールド自体が音楽になることについて

タカオミ
さっきは音と視覚オブジェクトの組み合わせの話でしたが、そもそもバーチャル空間だったら、何もないところから音を発生させることも可能じゃないですか。
そこで、らくとあいすさんに音だけで空間を感じられるものはつくれるのかということを聞いてみたいです。視覚に頼らない音の空間表現とかはあんまり見ないなと思って。

らくとあいす
立体音響の質が高ければ、音だけでも場所が分かるけど、VRChatの今の音環境だと、人によっては音の位置が分からないとか曖昧性が出るので、なにかしらのマーカーはないと難しいと思いますね。VRChatは視覚に引っ張られてそこで鳴っている気がすると思う部分がかなり強くて、そこが結構難しいところだなと思ったりしますね。

タカオミ
そこが解決されるとどういう表現が生まれるんでしょうか?

EstyOctober
らくとあいすさんが言っているのは、超具体的な「ここから音が鳴っている」とか「このくらいの空間の広さ」だとか、物理的にどういう空間か分かるという話ですよね?
演出という意味だと、memexさんのサンリオバーチャルフェスの演出の中で、水の中にがーっていって水の中の音がした、みたいなのをやってたじゃないですか。
同じように、洞窟の中だなとかトンネルの中っぽいなと感じられるのも割とつくれちゃいますよね。素朴には、空間の種類のテンプレは何種類かつくれて、空間が変わったって感じられる演出はつくれる気がしちゃいますよね。

phi16
リバーブのコンフィグがいっぱいあるみたいな感じですよね。

らくとあいす
映像なしで音だけの空間をつくるってどういう意図で聴いてますか?

タカオミ
音の発生する物質がそもそも存在しなくて無限に配置できるっていうところから考えているので...
ちょっと問いがふわっとしすぎてますね。

EstyOctober
手法から考えて、なんか良い使い方ないのか、みたいな話ですよね。

0b4k3
音を頼りに探すというのがゲームであったりするけどね。

phi16
方向程度だよね。

0b4k3
そうそう。あとはちょっと違うけどラジオドラマは音だけで演出のすべてをやっている。だからやりようはありそう。
どっちかというと、正確な定位みたいなものを使って音響的に面白いことをやるというよりも、どういう意図で聞かせるかの方が大きいのかなとは思いますね。

phi16
テクニカルに面白いことはできない気がしますね……

0b4k3
どっちかというと意図・演出の方ですよね。
なぜ音だけにするのかって話になって、ゲームだと視界が効かない状態で探すとかそういうアイデアがあったりする。ある種の演出意図で、そうせざるを得ない状況をつくる。

EstyOctober
必然性や意図が必要ですよね。

0b4k3
上手い使い方ないのってなったらそこから考えちゃうんですよね。
エクスペリメンタルな表現だったらいいんじゃないですか。
それこそ真っ暗闇で音だけですべてを表現しますというコンセプトだったら、そういうものとしてやるのは良いと思いますけど。

タカオミ
コンセプトだけの作品ということですね。手法がコンセプトになっている。

0b4k3
実験作品みたいな感じ。

キヌ
どこからでも音が出せるという点で言うと、去年私がやったみたいに色々なところから音がなる曲をつくってほしいな。

Yuki Hata
僕も思いました。
今回、Beyond a bitでオブジェクトから音を鳴らしていたじゃないですか。実現できるかどうかは分からないですけど、オブジェクトにそれぞれ楽曲の一部を仕込んで、オブジェクト全体で楽曲を奏でるみたいなことができないのかなとは思いました。

Beyond a bitはあくまでオブジェクトの存在感を出すために効果音を入れているみたいなところがありましたけども、そうではなくて楽曲自体を奏でるというか。

EstyOctober
オブジェクト自体から色々なところから色々なパートが流れてきて、どこかに立っているとそれっぽく音楽に聞こえるみたいなね。

タカオミ・キヌ
Amebientじゃん。

Amebient:phi16、Cap氏、らくとあいす氏によって制作され、VR空間コンテスト「VRAA02」で大賞を受賞したワールド。ワールドに置かれているさまざまなオブジェクトを雨に当てると音が鳴り、それらを組み合わせることで音楽が奏でられる。

Yuki Hata
Amebient、そうですよね。
Beyond a bitの曲の最初の方にも急にグリッチノイズが鳴ったり、脅かしの部分があるんですよ。あの部分だけ楽曲を完全に止めててグリッチノイズだけ鳴っている。そういうのは幅が広がりそうというか。例えば、ずっとオブジェクトが楽曲を奏でて、急にオブジェクトから鳴っている音が消えて2Dオーディオの曲に変わったりとか。

phi16
曲という単位から抜けてワールドそのものを媒体として表現する。

(続きは後編で)


後編では、これからのVR演出についてかんがえてみます。後編は下記リンクから。

座談会参加者(あいうえお順)
AyanoTFT
EstyOctober
0b4k3
キヌ
タカオミ
tanitta
ちゅーたな
phi16
fotfla
三日坊主
Yuki Hata
らくとあいす

企画:タカオミphi16fotfla三日坊主FUKUKOZY
進行管理:タカオミ
執筆・編集:FUKUKOZY
写真:rocksuch(ロックサーチ)FUKUKOZY

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